ケイの読書日記

個人が書く書評

東野圭吾 「祈りの幕が下りる時」 講談社

2017-08-31 09:44:04 | 東野圭吾
 3月の末、葛飾区小菅の小さなアパートで、中年女性の他殺死体が発見された。部屋の住人ではない。身元を表すような物は、すべて持ち去られている。そして、部屋の住人は行方不明。
 その事件が発覚する十数日前、荒川河川敷でテント小屋が焼け、中からホームレスと思われる男性の死体が見つかった。最初はただの事故と思われたが…。

 この関連無さそうな2つの事件がつながり、思わぬ展開をみせる。

 加賀恭一郎、登場。長身で、精悍な顔つきをしている。彫りが深く目つきが鋭い。どうしても、ドラマで加賀役を演じた阿部寛を思い浮かべてしまう。本書では、恭一郎が小学校6年生の時、家族を捨て家を出た、恭一郎の母の、その後が書かれている。

 そうだよね。この加賀恭一郎シリーズでは、彼の父も母も、すでに亡くなっているが、家族のしがらみが隠れた一つのテーマ。
 母は家を出てから仙台に流れ着き、そこでスナックの雇われママとして働き、一人の男と出会う。この男もワケアリらしく自分の事はほとんど話さないが、東京の日本橋には何度も行くような話をする。
 そう、日本橋。加賀は現在、日本橋署の警部補。なぜ加賀が捜査一課から日本橋署に移動を申し出たかは、これが理由。病死した母の遺品の中から、日本橋とメモされたカレンダーを見つけたが、筆跡から考えて、どうも深い仲になった男が書いたらしい。

 恭一郎からしてみれば、家出後の母をよく知る、そのワケあり男を探して、母のその後を知りたかったのだろう。

 東京の下町で見つかった中年女の他殺事件の遠因は、ずーっと前から、加賀とかかわりがあったのだ。


 容疑者に元女優(現在は脚本家であり、演出家)が登場する。男性小説家って、本当に女優が好きだよね。特に舞台女優。心からリスペクトしているのを感じる。東野圭吾以上に貴志祐介もそういう所がある。
 加賀の相手として、登紀子が浮上。映画じゃ女医さんになってたけど、看護婦さんなんだ。素敵な女性。どうぞ、これから加賀と一緒に生きていってもらいたい。
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群ようこ 「うちのご近所さん」 角川書店

2017-08-25 13:43:34 | 群ようこ
 絶対、家を出よう!と何度も決意するマサミだったが、四十路になっても実家暮らし。同期入社組は次々結婚し、会社でも家でもビミョーな立ち位置だが、そんなことマサミは気にしない。元気いっぱい。
 お隣のヤマカワさんは地獄耳。今日もホウキであちこち掃いて回り、情報収集に余念がない。だから、近所の子供たちから『レレレのおばさん』と呼ばれている。分かります?天才バカボンに出てくる『レレレのおじさん』の女性ヴァージョン。
 そういった、一癖も二癖もあるご近所さんと、マサミ一家の30年を、ユーモラスに描いている。

 困るんだよね。こういった可もなく不可もなしの小説は。感想が浮かばなくて。
 あえて書くとすれば…「勧誘熱心なセトさん」の章かなあ。
 とてもフレンドリーなおばさんで、近所の子供たちにジュースを振舞ったりするが、やはりそれには下心がある。新興宗教・ひょろろん教の勧誘なのだ。ひょろろん教というのは、教祖様である白く長いあごひげのおじいさんを生き神様と敬い、毎日何回も白く長い布切れを振り回しながら、ひょろろろ~という笛の音に合わせて、祭壇の前で踊るのが決まりらしい。
 熱心な信者であるセトさんは、不幸が起こった家に真っ先に出掛けていき「ひょろろん教の神さまを拝まないと悪い事が起きて、亡くなった後は地獄に落ちる。でも拝めば、現世も来世も子々孫々安泰だから」と触れ回って迷惑がられている。
 いるんだよね。こういう人があちこちに。


 しかし、信仰というのは非常にデリケートな問題なので、オープンにしていない人も多く、思わぬ所で思いがけない人が、新興宗教の信者だと知り、ビックリすることがある。へたに宗教の悪口を言えない。言わない方が良い。大もめにもめるから。


 25歳の時、高校時代の友人と3人で、高校の恩師(国語の先生だった)の家に、結婚の報告をしに行ったことがある。久しぶりだったので話も弾んで、楽しい時を過ごしたが、途中で宗教の話になった。私と友人2人は、特定の宗教を信仰しておらず、否定的なことを言ったら、恩師は〇〇教の熱心な信者だという。〇〇教を信仰したら、どんどん仕事が来て軌道に乗り、小さいながらも地方の文学賞も受賞し、大学教員の職を得た。これもみな〇〇教のおかげだ。君たちも拝んでいかないか?と勧められ、慌てて逃げるように帰ってきた。あーーー、驚いた。ちょっと怖かったなぁ。

 人って、外から見ただけじゃ分からないね。宗教と政治の話は外では極力しないようにしよう、と肝に銘じた出来事だった。
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椰月美智子 「明日の食卓」 角川書店

2017-08-20 13:54:56 | その他
 イシバシユウという読み方で、漢字がそれぞれ違う9歳の男の子が登場する。

 元気いっぱい 石橋悠宇くん。お父さんお母さん1年生の弟の4人家族。弟とは寄ると触るとケンカだが、実は仲がいい。お父さんはカメラマン、お母さんはフリーライターで、もともと不安定な経済状況なのに、お父さんの仕事が激減。お母さんがライターの仕事を増やそうと頑張ると、夫婦仲はギクシャク。それが子供たちにも伝わって…。

 サッカーが大好きな 石橋勇くん。母一人子一人の家庭。旦那の浮気が原因で勇くんが赤ちゃんの時に離婚したお母さんは、勇くんに惨めな思いをさせたくないと、いくつかの仕事を掛け持ちして一生懸命に働く。
 このお母さんが本当に頑張り屋さん。朝6時から9時までコンビニ。9時半から17時半まで化粧品会社、19時から22時までコンビニ。1日13時間労働。小学校3年生の勇くんも、この母にしてこの子あり、しっかりしたお子さんなので応援したくなる。
 あまりにもちゃんとした母子なので、それを妬む人間もいて、窮地に立たされるが、なんとか乗り切る。

 そして…石橋優くん。すごく裕福なおうちの1人息子で、一流会社にお勤めのパパ、優しい専業主婦のママ、そして離れには上品なおばあちゃんが住んでいる。
 成績もよく、パパとママは中学受験させるつもり。一見おっとりとして優しそうな子だが、実はとんでもないサイコパス。発達障害のクラスメートに命令し、傍目には仲の良い子に対し暴力を振るわせ、王様気分になっている。
 認知症が始まったおばあちゃんを汚いと言って殴る蹴る。きつく叱った父親に復讐するため、玄関前で「虐待されてます。警察に通報してください」と叫び、実際にお巡りさんがやってくる。
 こういう事があると、父親は委縮し、9歳の優くんは、ますます増長。おまけにママが変な占い師に心酔し「前世では、優くんは父親の上官だったから仕方がない」なんて言い出すし…。本当にムカムカする家族。


 最後に出てくる、石橋祐くん。本当にかわいそう。実母に殴り殺されるなんて、無念だったと思う。ただ、祐くんのお母さんの「息をするのを忘れるほどの怒り」「正体不明の真っ黒な何かが覆いつくし、理由なんてどうでもいいものになっていた」といった激情は理解できるなぁ。
 怒りが怒りを呼び、怒鳴り声が怒鳴り声を増幅し、子どもに対して母親は喚き散らす。町内中、聞こえるような大声で。きっかけは、他人に話すのも恥ずかしいほど些細な事なのにね。
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安達正勝 「物語 フランス革命」 中公新書

2017-08-15 14:21:52 | 時代物
 「バスチーユ陥落からナポレオンの戴冠まで」というサブタイトルが付いている。
 私は昔から、フランス革命が起こって、国王や王妃が処刑された後、国がどうなったかが知りたかった。ロベスピエールの恐怖政治が始まったというように教科書には書いてあったが、あまり詳しく載ってない。もちろん紙面スペースの関係もあるだろうけど、フランス革命という世界史上の大偉業の暗黒面を、教科書の執筆者があまり書きたくなかったんじゃないか?と、子ども心に思ったものだ。

 ロベスピエールとかサン・ジェスト、物語の主人公としては素晴らしいが、生身の人間として自分の隣にいたら…本当に迷惑だろうなぁ。
 ロベスピエールは真に高潔な人物だったのだろうが、高潔すぎる人間が不公正な世の中を正していこうとすると、大きな軋轢を生む。だいたい、不完全な人間が、完全に正しい社会を作り出す事なんか出来るわけないじゃん!!


 王や貴族、高位の聖職者たちを追い払い、さて、今度は自分たちが為政者だ、いままで苦労してきたんだから、ちょっとくらい良い思いをしたってバチは当たるまいとジロンド派の人たちは考えた。
 人間としてすごくまっとうな心理だよね。でも、貧しい人達にとっては、王や貴族がブルジョワジーに変わっただけで、圧政はなくならない、生活は苦しいまま。何のための革命だ、という事になる。

 本書の中には、民衆と国民を分けて書いてある。民衆というのはパリの最下層の貧しい人たち。彼らは武器を持って生活のために戦う。パリ以外の地方では、まだまだ保守的で、王党派の人もたくさんいた。


 ロベスピエールの時代(ジャコバン政府の時代)は、ジロンド派追放からテルミドールのクーデターまでの1年間らしいが、その間、ギロチンはフル稼働。多い時には1日に50人ほど処刑したというが、そんな事可能なんだろうか?それとも、何台もギロチンがあったんだろうか?

 1789年バスチーユ監獄が陥落(フランス革命の幕開け)から、恐怖政治の時代を経て、1799年ブリュメールのクーデターでナポレオンが政権掌握(革命の終息)まで10年。フランス国民はジェットコースターに乗ってるような動乱の時代だった。
 この恐怖政治時代の革命家たちの内部抗争って、あさま山荘事件の内ゲバと似ている。理想を高く掲げすぎる人間が集まると、内ゲバが始まるんだ。
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湊かなえ 「少女」 早川書房

2017-08-09 10:03:04 | 湊かなえ
 高2の夏休み前、由紀と敦子は、転入生から、彼女の友人が自殺した話を聞く。その告白に魅せられた二人は「人が死ぬ瞬間を見たい」という思いにとらわれる。
 由紀は病院でボランティアをし、重病の少年の死を目の当たりにしたいと願い、敦子は老人ホームで手伝いをして、入居者の死を目撃しようとする。

 
 彼女たちは偉い!! 願いが「人が死ぬ瞬間を見たい」であって「人を殺してみたい」じゃないから。「人が死ぬ瞬間を見たい」と相談されたら…「看護師さんになったら?」とアドバイスするかなぁ。でも、そういう事じゃないんだよね。周囲は何も知らない子ども。私だけが『死』を知っている大人だ。だって私は「親友の死を目の前で経験したんだもの」といった特権意識にひたりたいんだろう。

 「人を殺してみたい」と相談されたら…困る。外人部隊に志願するか(給料、良いらしい)、テロリストの仲間になるか(自爆テロを起こせと言われ腹に爆弾まかれそう)、自殺志願の人と出会って委託されるか(それでも罪を問われるだろう)


 この小説では『因果応報』も大切なファクター。生徒の小説を盗作した国語教師は、成績表データが流出し退職に追い込まれ、電車に飛び込む。うそ痴漢をでっち上げ、気の弱いサラリーマンからお金を巻き上げた女子高生は、自分の親が犯罪にかかわったとして、クラスから迫害され自殺する。
 家庭内で居場所が無いおじさんは、職場のモデルハウスで、娘と同じ年頃の女子高生にセクハラし、ストレスを解消しようとするが、逆に訴えられる。
 自称小説家と援助交際していた女の子は、悲惨な最期を…。

 そういえば、由紀の認知症のおばあちゃんだけは、どんなに人に暴力をふるっても報いが来ないね。それとも、ボケながら生き永らえているのが『因果応報』なのかも。
 しかし由紀など、命に係わるほどの暴行を受けたのに、後遺症が残って、左手で物が持てないほどのケガを負わされたのに、両親は身内の恥は外に出さないと言って、由紀が自分でガラスを割ってケガをしたと医者に伝えている。こういう所が分からない。
 施設に入所しても、職員に暴力をふるい、その人が泣きながら辞めていったのに、何のお咎めもなし。これって傷害事件だよ。


 そうそう、青酸化合物を使った連続殺人事件で、男性4人への殺人罪に問われた筧千佐子被告も、弁護側は、被告は認知症なので無罪、と主張している。認知症って無敵なのね。驚くワ。


 まとまりのない事を書いたが、さすが湊かなえ、面白い。一気に読めます。
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