ケイの読書日記

個人が書く書評

湊かなえ「豆の上で眠る」新潮社

2022-09-19 14:27:09 | 湊かなえ
 タイトルに惹かれ手に取って読んでみる。うーーーん、湊かなえらしからぬ駄作(失礼!)
 彼女は優れたストーリーテラーだから、最初からぐいぐい引き込まれるが、最後はいくらなんでも無理じゃない?!という展開。それとも、書き始めた時は、別の結末を考えていたのだろうか?

 小学1年生と3年生の仲のよい姉妹が、仕事熱心で真面目なお父さん、教育熱心で優しいお母さんと一緒に穏やかな生活を送っていたのに、ある夏の日、お姉ちゃんが行方不明になる…
 お姉ちゃんは、お話が大好きで童話を妹に読み聞かせするのも好きだった。その中の一つが「豆の上で眠ったお姫様」の話。さほどメジャーな話ではないけど、覚えている人も多いのでは?

 
 昔々、ある嵐の夜、1人の少女がお城にやって来る。少女の身なりはボロボロだったが、少女は自分をお姫様だという。お妃さまは、少女が本当のお姫様であるか確かめることにした。その方法とは、少女のベッドの上に一粒のエンドウ豆を置き、その上に羽根布団を何枚も敷くのだ。少女はその上に一晩眠る。
 翌朝、お妃さまは少女に、よく眠れましたか?と尋ねる。すると少女は、布団の下に何か固いものがあったので、よく眠れませんでしたと答えた。
 それを聞いたお妃さまは、それならば本当のお姫様に違いないと確信し、自分の息子の王子と結婚させた。めでたしめでたし。

 で、この仲良し姉妹は、いくら高貴なお姫様とはいえ、何枚も布団を敷いたのにエンドウ豆がある事が分かるだろうか?と疑問に思い、ビー玉で実験したのだ。
 私も、読んだのは小学校低学年だったと思うが、同じように本当に分かるかな?と疑問に思った。(実験はしなかった)
 でも、それ以上に、そんなあけすけな不満を、親切にしてもらった相手に伝えて良いんだろうか?と強く思った。
 こういう場合、いくら背中に異物を感じても「ありがとうございました。ぐっすり眠れました。ご親切、ありがとうございます」とお礼を言うべきではないの?それとも、このアンデルセンの時代のお姫様は、思った事、感じた事ストレートに口に出すべきというプリンセス教育を受けていたんだろうか?
 いやあ、この率直なお姫様と、姑に当たるお妃さまの今後が知りたいです。
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湊かなえ 「ホーリーマザー」

2021-07-17 10:51:48 | 湊かなえ
 この作品は、前回UPした「ポイズンドーター」と対になっている作品。前回の「ポイズンドーター」は娘側からの視点だけど、今回は母親側からの視点。「ホーリーマザー」直訳すれば「聖母」 そう、客観的にみれば、女優・藤吉弓香の母は、聖母と言っていい人だった。
 夫が交通事故で早くに亡くなったので、女手一つで懸命に働いて娘を育て、東京の女子大を卒業させた。欲しい洋服も買わず、行きたい旅行にも行かなかったと思うよ。全てを一人娘に捧げたと言ってもいい人生。

 でも、どんな善い人でも、その献身の見返りを求めずにはいられない。娘に父親と同じ教師になる事を要求。教師になりたくないという娘と激しく対立する。結局、採用試験不合格になったので、非正規で役所に勤めているところをスカウトされ、芸能界へ。いやぁ、人生って何が幸いするか分からないね。

 こういう事はよくある。母親と対立するって事は、娘が健全に育った証でもある。芸能界に入りたいっていうより、母親から離れたいんだ。今では、女優としての活躍を応援しているんだから、「母親とは有り難いものだ」と弓香も思えばいいのに、それができない。
 毒親をテーマにしたトーク番組で、自分の母親がいかに毒親だったかとぶちまける。
 もう一人くらい、兄か弟か、兄弟姉妹がいればよかったのにね。 そうすれば、母親の関心も分散される。これって、とても大事な事だと思う。

 今は、1人の子にお金と手間をかけて大切に育てよう、という風潮があるけど、逆効果なんじゃないかと思う。親の目が届きすぎると、子どもはダメになると思う。親はちょっと抜けていた方が良い。

 弓香のお母さんは残念なことになってしまったが、その原因が娘の弓香にあったとしても、お母さんは娘の幸せを願っているよ。母親ってそういうものです。
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湊かなえ 「ポイズンドーター」

2021-07-09 14:33:59 | 湊かなえ
 「ポイズンドーター」直訳すれば「毒娘」。「毒娘」という言葉が一般的か知らないが「毒親」という言葉に対して生まれた言葉だろう。

 女優の藤吉弓香は、故郷で開催される同窓会の誘いを断った。母親に会いたくないのだ。母親は早くに夫を亡くし、女手一つで娘を育ててきた立派な女性だ。客観的にみれば素晴らしい賢母だが、娘の目からは違って見えた。
 娘を常に自分の支配下に置き、コントロールしようとしてきた。小さな頃は、母親が常に正しく、母親の気に入らない言葉や行動をする自分が悪いと思っていた。でも、中学の頃に、自分の頭痛の原因が心因性のモノ、母親に原因がある頭痛だと気づいてしまったのだ。

 お母さんも、片親だからダメなんだと言われないように、娘をきちんと育てようと一生懸命なんだ。ただ、やっぱりやりすぎだと思う。鞄の中や机の中を探って、何を読んでいるか誰と仲が良いのか探ろうとするのは、嫌がられるだろうね。
 交通事故で亡くなったお父さんは、高校の国語教師だったので、娘にも教員になることを強く望んだ。娘は、本当は小説家になりたいという夢があるのに…。(結果として女優になったけど) 子どもの未来を勝手に決めるなよ。

 同窓会の参加を断った後で「毒親」をテーマにしたトーク番組への出演依頼が届く。さんざん迷ったが、弓香は出演することにした。そして…

 私も母親だから、この弓香のお母さんを「毒親」として切って捨てるのには抵抗がある。頑張って働き、自分の事は後回しにして娘に仕送りし、東京の女子大に通わせたんだから。
 でも、娘が「毒親」だと思うなら「毒親」なんだろう。私も子どもから「毒親」と思われてるかな? ただ、幸か不幸か、女の子ではなく男の子3人だったから、もう小学校高学年の頃からコントロールできなかったよ。
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湊かなえ 「優しい人」 

2021-07-02 15:17:42 | 湊かなえ
 こういう事ってある。ただ親切にしただけなのに必要以上に懐かれて迷惑している人。ただの親切を、特別な好意だと受け取ってまとわりついてしまう人。この組み合わせは最悪で事件を引き起こす。

 明日実は母親から「誰に対しても優しくするように」と言われ育ったせいか、子どもの頃から誰に対しても親切だ。子どもは残酷で周囲が「〇〇君ってキモいよね」と言えば、自分がキモイと思っていなくても、キモイと言ったり態度で表わさなければならない雰囲気なのに、明日実は親切に対応した。
 そのため担任の先生に頼りにされ、周囲が遠まきにする難がある子の係りのようになっていた。しかし明日実も好きでやっている訳ではなく、仕方なしにやっているだけなので、何かの拍子にそれが相手にバレると、相手の子は大変ショックを受け、事態は前よりももっと悪くなることがあった。

 ただ、明日実の名誉のため書いておくと、彼女は「男に媚を売りまくる女」「自分を優しい女だとアピールしたがる女」そういう訳ではないのだ。
 普通の、自分は「非モテ系男子」と自覚している人は、ああ「ただ誰にでも優しい人なんだ」「自分はワンオブゼムなんだ」と身の程を知って、そのまま通り過ぎるけど、中には好意を持たれているってカン違いする男も出てくるわけで…。

 この非モテ男子の気持ちって、すごく良く分かる。私もそうだけど、こういう人って恋愛アニメのキャラなんかが好きで、自分がサッパリ異性に対して魅力が無いのは自覚しているけど、心のどこかで、でもひょっとしたら自分にもチャンスが訪れるかも…なんて期待してるんだよね。これは男女を入れ替えても同じ。
 誰にでも優しい男の子はいるし、その優しさを自分に対する好意とカン違いする女は、世の中にいっぱいいると思うよ。

 とにかく事件は起こった。明日実は、付き合っている人がいると伝えたのに、友彦はぐんぐん距離を詰めてくる。周囲も悪いんだよ。明日実と友彦は会社の同僚で、他の人たちと一緒にいったバーベキューで周囲が「友彦さんと明日実さんってお似合いのカップルですね」みたいに囃し立てるから。無責任に煽るなよ。

 やっぱりねぇ。付き合っている人がいるなら、最初からビシッと拒絶した方が良かったんだよ。お互いに。
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湊かなえ 「罪深き女」 光文社

2021-06-25 14:03:07 | 湊かなえ
 こういう女っているんだよね。全く罪深い女じゃないのに、罪深き女になりたがる女が。通行人Aなのに、物語の主人公になりたがる女が。

 この小説の語り手・幸奈は、死傷者15名を出した通り魔事件の犯人、黒田正幸(20歳)を知っていた。子どもの頃、同じアパートに住んでいたのだ。幸奈も正幸くんも母子家庭で、決して裕福ではなかったが、それでも母親たちは懸命に我が子を育てようとしていた。
 しかし、しばらくして異変が起こる。正幸くんが、夕方から夜にかけ、たびたび一人でポツンと階段下にいるのだ。最初は気にも留めなかったが、どうやらお母さんが部屋で男の人と一緒にいるらしい。
 お母さんは、正幸くんにろくに食事もさせてないようで、小学校低学年なのに目が落ちくぼみガリガリにやせ細っている。でも、幸奈が出来ることと言ったらメロンパンを渡したり、おにぎりを持たせたり、宿題を見てやったり(正幸くんは幸奈の5歳下)するだけ。根本的な解決にならない。当たり前か。そんな時に事件は起こって…

 幸奈のお母さんも正幸くんのお母さんも、今風に言えば毒親なんだろうが、人間の業を背負っているっていうのか…。

 幸奈の母親はシングルマザーで娘を生んで、なんとか男で失敗しない人生を娘に歩ませたいと強く願ったので、娘の交友関係に神経質になってるんだろう。
 一方、正幸くんの母親も、どういう経緯で母子家庭になったのか、そのいきさつは書かれていないがキレイな人なんだろう。(正幸くんも可愛らしい子で、運動会でダンスを踊っている時、幸奈のクラスメートから、あの子可愛いねと言われたほど)再婚して幸せをつかみたいと願うのは当たり前だと思う。でも、それが周りの女の嫉妬心を煽って、不幸な事件を引き起こしたのだ。

 この小説を読み進めていくうち、読者は、幸奈の行為は幸薄い正幸くんの人生に、子どもの頃わずかに灯った明るい光と感じ、胸がいっぱいになる人もいると思うが、ラストはそんな光を叩き潰す正幸くんの証言。まあ、そんなもんだよ。
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