ケイの読書日記

個人が書く書評

A・E・Wメースン「矢の家」

2007-01-31 13:08:29 | Weblog
 翻訳物の古典ミステリの解説を読んでいると、このメースンの「矢の家」が必ず紹介されているので、私も読むのがとても楽しみだった。

 
 ハーロウ夫人が亡くなり、その遺産は養女のベティに残された。ところが夫人の義弟ワベルスキーが恐喝に失敗すると、ベティが夫人を毒殺したのだと告発。
 はたして真実はいかに?


 読後の正直な感想。  うーーーん、ビミョウ。
 本格として期待して読むとガッカリするかも。トリックらしいトリックも使われないし、(犯人は最後まで伏せられてはいるが)主要な登場人物が少ないので、犯人が誰かすぐ分かってしまう。

 ただ心理サスペンスとしては素晴らしい。探偵アノーと犯人との息詰まるような駆け引き、そこにボケ弁護士がからんで、すざましい神経戦と言うか心理戦が展開する。舞台で見るとさぞ見ものだろう。
 そういえば、この作者メースンは本業は劇作家のようだ。容姿がとても良かったので、若い頃は自分も舞台に立っていたそうだ。


 この作品は舞台がフランスで登場人物もフランス人が多いが、作者はイギリス人、語り手になっている弁護士もイギリス人なので、多分にイギリス的なんだろう、アガザ・クリスティを思い出す。

 そういえば、クリスティの作品にもよく登場してくるが、この作品にも"コンパニオン"が登場し主要な役割をはたしている。
 日本の"コンパニオン”と違い、お金で雇われたお金持ちのお嬢さん相手のお友達。零落した良家の子女がなるようだ。イギリスもフランスも階級社会だから、家柄はしっかりしているだろうがお金に困っている女性が、同じ年恰好の同じ階級のお嬢さんに気に入られ、そこの家に寄宿する。
 お金でお友達を雇うなんて、日本ではちょっと考えられないなぁ。
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岸本葉子「本がなくても生きてはいける」

2007-01-26 11:59:20 | Weblog
 私が敬愛する岸本葉子さんの読書エッセイ。全部で106の本が紹介されている。しかしまあ正直な所、読書エッセイは群ようこさんの方がうんと良いと思う。

 群さんの読書エッセイは、天衣無縫にあちこちに話がとんでエピソード満載。自分の好きなように書いていて、対象となる本がどんな内容か分からないことが時々あるが、岸本さんの読書エッセイは対象となる本にとても忠実で、丁寧に内容を紹介している。
 どちらによって想像力を刺激され、本を読みたくなるかは読者の好みなんだろうが、私は群さんに軍配を上げます。


 やっぱり岸本さんのエッセイの真価は、日常生活にあると思うよ。
 特に女性ならではの、化粧品や化粧法に関するエッセイなど、思わず「そうそう」とか「あるよね、こういうこと」とか、本に向かって相槌を打ってしまうこともしばしば。


 最近、岸本さんの名前を思いがけない所で発見した。小谷野敦「帰ってきたもてない男」の中に、才色兼備、東大卒の美人エッセイストとして、かなりの紙面をさいて紹介されている。
 そうだよね。いかにも小谷野敦が好みそうな、すらりとした知的な美人だよね。しかし、岸本さんが小谷野敦に好意を抱くかは、はなはだ疑問。現実はキビシイのです。
 

 
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笠井潔「バイバイ、エンジェル」

2007-01-21 18:21:46 | Weblog
 アンドレとかジルベールとか、少女マンガでお馴染みの名前が沢山出てきて、最初は気恥ずかしかった。


 パリの高級アパルトマンの一室で、血の池の中央に外出用の服を着てうつぶせに横たわっていた女の死体にはあるべき場所に首がなかった。(また首無し死体かよ!! ちょっと飽きてきたね。)
 司法警察警視の娘ナディアは、奇妙な日本人矢吹駆(やぶきかける)とともに事件の謎を追う。


 推理小説としての構成はしっかりとしていると思うが、設定が…ねぇ。
 いくらなんでもフランス語が母語でない駆が、ナディアやその他大勢の生粋のフランス人たちとあんな抽象的な観念的な議論ができるんだろうか?

 この矢吹駆は、容姿も運動能力も頭脳も非常に高水準の人間として描かれているが、まるで銃を持たない華奢になったヂューク東郷(ゴルゴ13)って感じですね。
 特にこの語学力の高さは凄すぎます。
 サンスクリット語を話すんですよ。サンスクリット語って文字として存在するのは分かりますが、サンスクリット語で会話している人たちって存在するんでしょうか?

 ヒマラヤの寺院で一冬過ごしたり、駆君は若いのに本当に忙しそうです。


 それに、警察の高級幹部であるモガールが、いくら娘の友人だからと言って外国人(それも東洋人)を厚遇するのも不自然。フランスのエリート官僚というのは、すごくプライドが高いでしょうに。
 「ダ・ヴィンチ・コード」にもプライドの権化みたいな人が登場していました。


 駆の悪口ばかり書いてしまいましたが、彼のストイックさは私の好み。このシリーズを読んでみるつもりです。
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高木彬光「刺青殺人事件」

2007-01-16 14:45:25 | Weblog
 「最も完璧なアリバイを持っている者が最も犯人に近い」という推理小説のセオリーを当てはめれば犯人はすぐ見当がつくが、トリックが…ね、なかなか凝っていると思う。


 昭和21年、まだ敗戦の混乱から抜け出せない東京。
 女性のバラバラ死体が、密室となっている浴室から発見されるが、そこには見事な刺青が彫られているはずの胴体が無かった。一体誰が何のために持ち去ったのか?
 第一の事件の解決のメドも全くたっていない中、続いて第二第三の殺人が起こる。


 バラバラ殺人と言えば、外資系エリート証券マンの夫をバラバラにして捨てた、ブラント大好き美人妻のことが思い出される。

 「バラバラにする」と口でいうのは簡単だが、痩せ型といっても180cmの男をノコギリでバラバラにするのは大変な作業だろう。この奥さん、本当によくやったなぁ。共犯者はいないんだろうか?


 以前、歯科技工士の女が、同棲している男を殺し、バラバラにしようとしたが、首を途中まで切ったところであまりの大変さに断念し死体を残して逃げ出し、逃亡先でつかまった、という事件があった。
 そんなもんだろう。よっぽどの精神力がない限り、死体をバラバラなんかにできないよ。
 夥しい血や臓物はどうする?!

 この奥さんが、首と手首を切り落とし腰から上の腐臭がする血まみれの死体を、よいしょと抱きかかえ黒いポリ袋に入れるとこなんか想像するだけで、どんなホラー映画より怖い。
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日垣隆「偽善系 やつらはヘンだ!」

2007-01-11 17:38:54 | Weblog
 この人の本は、いままで一度も読んだ事はないのだが、新聞にちょこちょこ論評を書いているので、名前だけは覚えていた。

 タイトルが示すとおり「この国に蔓延する偽善系」をスパッと切捨て胸のつかえが取れてスカッとする、溜飲が下がる思いのする文章だが、この人が自分の親戚のおじさんだったり、隣の住人だったりすると、困るだろうなぁとも思う。
 ツッコミが激しすぎるのだ。

 特に第5章の「さらば20世紀の迷著たち」の章で同業者のノンフィクション作家 鎌田慧をボロクソにこきおろしているが、仕事に支障がでやしないか、こっちが心配になってくるほど。


 ところで第3章「少年にも死刑を」で中学生だった日垣氏自身に降りかかった痛ましい事件が述べられているが、あまりにも驚いたのでここに書き写しておく。


 同じ中学に通っていた仲のいい弟を何の意味もなく殺され、直接手を下した者が13歳だったため、少年院はおろか教護院(教護院に処遇するためには犯人である少年の親の同意が必要)にすら入ることなく、翌日から中学校に登校して来た。
 彼は周囲には何も知られず、いつもどおり笑っていた。顔がひきつったのは、兄である私と廊下ですれ違う時ぐらいだった。
 これが少年法にいう更生なのか。まるで犯罪そのものが存在しないかのようであり、教師たちはその事実を隠しとおし、あたかも弟は勝手に事故でも起こして消失したかのような扱いを受け続けた。


 こんなんアリ?
コメント (2)
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