ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子 「婚礼、葬礼、その他」

2015-04-30 14:11:20 | 津村記久子
 「婚礼、葬礼、その他」というタイトルだと、冠婚葬祭のハウツー本かなと思う人が多いだろうが、違います! れっきとした小説です。


 ヨシノは友人の結婚式に招待され、二次会の司会を依頼された。会場に出掛け、旧友たちとおしゃべりしていると、もうじき式が始まりそう。その時、上司の親が亡くなったと、ケータイに連絡が入る。
 電話をかけてきた人は、ヨシノが、今夜のお通夜に来ることを当たり前だと思っている。

 そうなの? 友人の結婚式(しかも二次会の司会も)より、葬式の方が優先順位は高いの? 自分の肉親という訳じゃない。顔も名前も知らない上司の父親なのに。
 結局、20人ちょっとという小規模な会社なので、行かないのはマズイだろうと、二次会の司会は他の人に押し付け、お通夜に出掛けるが…。


 昔は自宅で葬式をしたから人手が足りず、故人の息子の勤め先の人が来て、色んなお手伝いをするのが一般的だった。でも今は、ほとんどが葬儀会場で行うし、葬儀会社の人がテキパキ用事を片付けるので、手伝うといっても、大してやる事ないんだよね。
 「家族葬」で見送ったら? お勤めしている人は、そういう訳にはいかないだろうが、定年後20年もたってる人は「家族葬」が一番です。
 顔も知らない他人に、迷惑をかけるな。


 それから、この小説内では、以前ヨシノが招待された結婚式で、「隣に座った新婦の母親の親友という人が、披露宴の間中、化粧品の勧誘をしてきて辟易した」という箇所があるが、こういった経験をした人は、実は多いんじゃないかと思う。私もそう。
 本当に困ります。失礼な断り方はできないし、かといってニコニコして買う気ありと思われると困るし。

 勧誘目的で来ないでほしい。
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湯浅誠 「反貧困  すべり台社会からの脱出」

2015-04-25 09:34:35 | Weblog
 ブックオフに行ったら、この「反貧困」という古本が100円で平積みになっていた。岩波新書が、ブックオフで平積みって…ある意味、すごい! すごく売れたんだね。5~6年ほど前、話題になったけど、私は読んでなかったので、買ってみる。


 リーマンショックで派遣切りにあい、失業した人が街にあふれ、社会問題化。派遣村を作って一時的にせよ、なんとかしようとした、中心人物の一人が湯浅さん。TV番組の討論会にはよく出演し、「反貧困」を訴えていたので、お顔と名前は知っていた。その主張も。

 本当に立派な主張だと思うよ。特に、働いているのに生活が成り立たないワーキングプア問題は、本当になんとかしなくちゃ!と強く思う。
 ただ、最低生活水準のラインの感覚が、だいぶ異なる。

 先日「年収150万円で、親子3人が楽しく暮らす!」といったコミックエッセイを読んだが、本当に楽しそうだった。SF作家の父と、マンガ家の母、小学生の娘。健康だし、性格が前向きだから可能なんだろう。
 親子3人で、年収150万円だったら、完全に生活保護以下の所得水準だが、この家族に「生活保護をうけなさい」と勧めたら、かえって失礼ではないだろうか?
 本当に困っている人は受けるべきだが、「あんたらは貧困」「あんたたちは最低生活水準以下」と伝えるのが、はたしていい事か?
 それよりは、お金が無くても、さほど困らないスキルを身に着けた方が、将来、役に立つのでは?

 貧困家庭のお子さんたちが、高等教育を受けにくいのは事実。
 だからといって、塾に行かせてと、親にお金を渡すんじゃなく、低所得家庭向けの無料塾を開いた方が、効果が上がるんじゃないか? 食事やおやつも付けて。
 お金を親に渡すと、子どもの教育に使わず、自分のギャンブル代につかっちゃう親もいるから。
 塾の先生役は、福祉に関心のある大学生にやってもらう。


 湯浅さんの主張の最大のネックは、財源をどう確保するか、という事。
 収入の多い人に、今以上に税負担をしてもらう事になるが、その高額所得者が、海外に移住したら?

 共産党が「トヨタは2兆円も儲けがあるから、それを福祉に回せばいい」という意味の事を主張している。トヨタの社員や期間従業員、パートやアルバイトさんが「もっと待遇よくしろ!給料上げろ!」と要求するのは応援するが、なんで共産党が、2兆円の儲けの使い方に口出すの?
 ちゃんと、法人税、おさめてるのに。
 あ、私、まったくトヨタとは関係ない仕事してますので。

 税金って、みんなのお金。自分のお金ではない。だから、自分が福祉にお金をたくさん回したいと思っても、他の大勢の人が、そう思うとは限らない。

 だったら湯浅さん。ソフトバンクの孫社長とかユニクロの柳井社長のように、自分が大金持ちになって、自分の資産を福祉に回したら? 自分のお金なんだもの。誰からも文句言われないよ。冷やかしでなく、本心からそう思う。
コメント (2)
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望月昭 画・細川貂々「こんなツレでゴメンナサイ」

2015-04-20 14:38:33 | Weblog
 このツレというのは、「ツレがうつになりまして」のツレさんです。本名は、望月昭さんなんですね。
 その彼が書いた、初めてのエッセイ。画は奥さんの細川貂々。

 「ツレがうつになりまして」というコミックエッセイは、私も読んだし、ドラマ化され映画化もされ大ブレイクした。うつ病が市民権を獲得した頃の話だったので、多くの人の共感を呼んだと思う。でも、奥さん側からの見方であり、夫側(当事者側)からだったら、どういう風景に映っていたんだろうか、という興味はあった。

 それに、貂々さん、奥さんとしての自分を、少し美化しすぎじゃない?と思ったりもした。例えば、ツレが、うつ病になってヨロヨロしながら会社に向かう時「会社、辞めなきゃリコン!」と厳命した話。
 これのどこが美化?! と独身の人は思うかもしれないが、奥さんに収入がなく(貂々さんは売れない漫画家で、収入はゼロに近い)ダンナが仕事辞めたら経済的にひっ迫するのは分かりきっている。それでもダンナに「会社やめなきゃ離婚!」と言える女性は、本当にすごいと思う。キモがすわっている。
 ほとんどの女が、「会社、辞めたら離婚。皆、辛い思いをして勤めているんだ。あなただけじゃないよ」とか「とりあえず、休職してみたら?そのための社会保障でしょ?」とか言うだろう。


 だけど、休職できる会社ばかりじゃないし、休職しても復職することを考えると、精神的にキツいんじゃないだろうか?

 そういえば、以前スゴイ話を別の本で読んだ。うつ病で自宅療養していたダンナに「ご飯がまずい」と文句を言われ、カッとなった奥さんが、カップ麺をダンナに投げつけ「あんたなんか、これで十分」と捨てゼリフを残して外出したら、ダンナがマンションから飛び降り自殺したという話があった。実話です。

 奥さんの気持ちわかるなぁ。労わらなくちゃという気持ちはあるが、医者に行く以外自宅で寝ているダンナにイライラが募るだろうし、休職期間が終わったら、この先どうなるんだろう?という不安もあるだろう。こういう事を考えると、細川貂々・望月昭夫妻は、まさにベストカップル。

 この本の最後に、「結婚12年めにして子供ができました」という報告があった。おめでとう。おめでとう。おめでとう。
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二階堂黎人編「不可能犯罪コレクション」

2015-04-15 10:57:33 | Weblog
 二階堂黎人が編んだ6編のアンアソロジー。

大山誠一郎 「佳也子の屋根に雪ふりつむ」
岸田るり子 「父親はだれ?」
鏑木蓮   「花はこころ」
門前典之  「天空からの死者」
石持浅海  「ドロッピング・ゲーム」
加賀美雅之 「首吊り判事邸の奇妙な犯罪」


 不勉強なので、石持浅海しか知らなかった。でも、みな本格物として、しっかりした作品だと思う。
 特に、大山誠一郎の「佳也子の屋根に雪ふりつむ」は、オープニングにふさわしく、秀逸なトリック。<犯人の足跡なき殺人>の教科書のような作品。
 周囲が新雪で埋め尽くされている医院内で、女医が刺殺された。お正月なので、小さな医院には看護婦さんも、他の患者さんもいない。殺された女医と主人公しかいなかった。医院の周りの新設は、犯行前に降っており、そこには足跡はない。当然、主人公に疑いの目が向けられるが…。

 本格なので、少々のご都合主義には目をつぶろう。トリックがここらへんに隠されているぞ、というサインも親切だし、奇をてらってない所が好感が持てる。素直な本格推理ミステリ。

 ただ…もう少し話をふくらませて欲しい。骨組みだけなのは、短編という枚数の関係だろうか?トリックは優れているが、小説としての面白みに欠けるというか…。
 キャラの魅力が不足しているのも大きい。探偵役の『密室事件専門の精霊』のキャラが薄すぎ!! それとも、場数を踏むごとに、強烈なキャラになっていくんだろうか?

 
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森博嗣 「今はもうない」

2015-04-10 14:19:14 | Weblog
 「S&Mシリーズ№1に挙げる声も多い、清冽な森ミステリ」と帯に書いてあったので、期待して読んだ。どうやったら、こういう状況になるのか考えるのは楽しいが、しかし、これって、謎解きというより、恋愛小説だよね。


 避暑地にある別荘で、姉妹が、隣り合わせた部屋で、1人ずつ死体となって発見された。当初は自殺だと思われたが、それにしては不自然な事が…。警察には連絡したが、台風がこの地を襲い、電話すら通じなくなる。
 この若くて美しい姉と妹は、なぜ死ななくてはならなかったのか…?



 この小説の構成は少し凝っていて、最初と最後にプロローグとエピローグ、第1幕から第4幕までの本筋のお話の間に、幕間のショートショートが3話はさまっている。

 信州にある西之園家の別荘に向けて、愛車を走らせている萌絵が、助手席にいる犀川先生に、昔起こった事件について話しているのだ。その事件の本筋が、第1~4幕で、プロローグとエピローグ、幕間のショートショートが、ドライブ中の二人の会話。
 作家には申し訳ないが、こっちの犀川先生と萌絵さんのムダ話の方が、生き生きしていて面白い。
 時々、犀川&萌絵の掛け合い漫才は、初期の御手洗と石岡君のコンビに迫ってると思う事がある。(残念ながら、まだ追い越してはいないが)

 この幕間の掛け合い漫才だったら、10回読んでも10回同じところで笑えます。


S「女性って、どうして歳をごまかすんだろう?そんなちょっとのこと変わりないのに」
M「いいえ、大違いなんですよ。たとえばですね。21歳と23歳じゃあ、もう子供と大人の違いといっても良いくらいです」
S「最近、君、どこかで21歳って言ったんだね?」

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