ケイの読書日記

個人が書く書評

池上正樹「ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護」

2014-02-24 13:03:42 | Weblog
 筆者の池上正樹は、ダイアモンドオンラインで、ずっと『ひきこもりする大人たち』という連載をやっているので、名前は知っていたし、記事も読んでいた。

 このM君、本当にダメダメなんだなぁ。コミュニケーションが極度に苦手で、中高ずっとイジメられてきたと主張するM君。彼の場合、イジメというより周囲から浮くんじゃないかなぁ。
 大学卒業後に就職した職場でも、バイト先でも、どこに行っても人間関係が上手くいかず、仕事が長続きしない。
 それでも、一発逆転を狙って株を始め、山一証券に投資するが、山一證券が経営破たんし、株券は紙くずに…。
 そして、最後の賭けに出る。母親に資金を出してもらって、イギリスに半年ほど語学留学に行くが、そこでもなじめない。彼は、とうとう家から出られなくなった。

 これを読んでも分かるが、M君の家は、貧しい訳ではない。夫婦仲は悪く、両親は別居していて、父親はほとんど家にお金を入れなかったそうだが、それでも、母親のパート収入、祖母の年金、母親の弟の仕送りがあり、M君は一浪一留しているが、東京の私大を、借金することなく卒業している。

 M君は、中学高校とイジメられたと訴えているが、何か事件があった訳でもなく、ただ、親しい人が出来なかったというだけじゃない? いっぱいいるよ、そんな人。
 私も、友達が少なかったなぁ。
 遠足の時に、一緒にお弁当を食べる人がクラスにいなくて、別のクラスの比較的よくしゃべる女の子と一緒に行動したっけ。
 多くの友人に囲まれている女の子が、キラキラして、うらやましくて仕方なかったけど、うらやんでもその人になれる訳じゃないし。それに、キラキラしている女の子だって、その子なりの悩みがあるんだ。でも、その時は、そうは思えないんだよね。


 M君は、自分は発達障害かもしれないと思い、発達障害の支援者たちに支えられ、生活保護を受給して親元を離れ、就労への一歩を踏み出していく。 
 ただし、この本の最後では、まだ就労していません。
 M君は45歳、なんとか一花咲かせてもらいたいです。
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東野圭吾「聖女の救済」

2014-02-19 10:36:30 | Weblog
 皆さん、驚かれるかもしれないが、私にとって、初ガリレオ・初湯川。TVドラマや映画のガリレオは全部見てるので、原作を読むと、かえってイメージが壊れるかもしれないと、いままで敬遠していたのだ。

 で、読んでびっくり! 女性刑事の内海薫って、原作にも出てくるんだね。以前、原作には出てこないが、ドラマ視聴者が感情移入しやすいように、脚本家が女性刑事を設定したと聞いていたので。
 それに、内海刑事と湯川の間の、微妙な心の揺れ(揺れてるのは内海の方だけ)も、原作小説には全くない。あくまでも、捜査上での問題点の相談だけ。それとも、他の原作小説には、書かれているんだろうか?
 うーん、これでは、せっかく女性を登場させた意味がないような…。


 ストーリーはこうだ。
 IT会社社長が、自宅で毒殺された。毒物混入方法は不明。男から一方的に離婚を迫られていた妻には、鉄壁のアリバイがある。
 北海道にいた妻が、どうやって男に毒を飲ませるかが、最大の謎。  トリックは秀逸。
 この犯罪の背景には、一人の男を巡る、二人の女の争いがあるのだが、こういったシチュエーションって、東野作品には本当に多い。自身、そういった経験をしたことあるのかな? 東野圭吾はカッコいいから、不思議はないけど。
 表面的には仲良くしていて、裏では、憎み合っている女たちの姿が、よく書けている。


 とても面白い作品だったが、ちょっと物足りないような気が…。なぜかしらと考えてみたら、そうだ!! 万年助手の栗林さんが登場しないのだ。作品の面白さという点では、内海刑事より、栗林さんの影響力の方が大きいよ。
 栗林さんがいない『ガリレオ』は、ねずみ男のいない『ゲゲゲの鬼太郎』みたいだ。芹沢所長がいない『鍵がかかった部屋』とも言える。さみしいよぉぉぉ。
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笠井潔「吸血鬼と精神分析」

2014-02-13 14:58:14 | Weblog
 あっ、笠井潔の矢吹駆(ヤブキカケル)シリーズだ!と喜んで手に取ったはいいが、なんと厚さ4cm!! あんたは京極夏彦かよ、と毒づく。

 中をパラパラめくると、なんとルーマニアのチャウシェスクの名前が! 若い皆さんは知らないだろうね。ルーマニアの独裁者。夫婦でルーマニアを牛耳っていた。ルーマニア革命によって最後は銃殺刑。(1918~1989) 処刑の様子がTVで公開されたよ。
 チャウシェスクの名前に興味をひかれ、借りるが、読み終えるのに3週間ぐらいかかった。
 ページ数が多いだけじゃなく、内容があっちこっちへ飛ぶ。詳しすぎるウンチクも大量だし、読みにくい事、この上なし。

 でも、雰囲気はいいんだなぁ。
 1970年代のパリ。父親がパリ警視庁警視だという女子大生のナディアと、謎の日本人青年・矢吹駆。この2人が、友人以上、恋人未満の関係…というか、ナディアが一方的に思いを寄せている。 
 彼らを取り巻く大人たちが、カケルに好意的なのは解せないねぇ。
 いくら外国人が多いパリといっても、東洋人に生粋のパリっ子が好意を持つというのは、一種のファンタジーでは?

 彼らがかかわる事件というのは、連続吸血鬼事件。
 睡眠薬で眠らせた被害者から、血を抜き取り死に至らしめる。処刑と血液確保の一石二鳥で、ソ連や東ヨーロッパでは、昔から行われていたとか。 
 うわー、ドラキュラ伝説より恐ろしいね。

 この被害者たちの共通項が、精神分析を受けていた事と、旧約聖書のヨブ記に出てくる動物のしるしが遺体に付けられていたという事。
 ここから、筆者の、宗教面、精神分析面での、果てしないウンチクが始まる。はぁ、ななめに読み飛ばさないと、終わらないよ。
 こういう所も、京極夏彦に似てるね。
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「七つの死者の囁き」

2014-02-08 13:39:48 | Weblog
 タイトルどおり、死者たちの物語7編のアンソロジー。

  有栖川有栖   「幻の娘」
  道尾秀介    「流れ星のつくり方」
  石田衣良    「話し石」
  鈴木光司    「熱帯夜」
  吉来駿作    「嘘をついた」
  小路幸也    「最後から2番目の恋」
  恒川光太郎   「夕闇地蔵」

 
 アンソロジーは、今まで読んだことのない作家の作品が読めるから嬉しいが、(例えば、私にとっては吉来駿作、小路幸也、恒川光太郎など)あまり秀作がないのが、残念。
 強いて良い作品をあげるとすれば…石田衣良の「話し石」かな。
 これは、ショートショートの神様・星新一を意識してるんだろうな。短編だけどホロッとくるお話です。

 あとは、道尾秀介「流れ星のつくり方」。ちょっとした推理小説仕立てになっていて、それも、そんなに難しいトリックではなく、さらっと解けるから嬉しい。
 それに、作品中に「サン=デグジュペリ作 星の王子様」が出てくる。懐かしいなぁと書きたいところだが私は読んでいない。アンタ、子どもが3人もいるのに読んでいないの?と非難されそう。
 ええ、読んでないんです。と、開き直る。
 読んでみたいが…今更読んでもなぁ。 子どもの時に読んでおかなきゃならない本って、あるのよね。
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有栖川有栖「菩提樹荘の殺人」

2014-02-03 11:19:08 | Weblog
 推理小説としての出来はイマイチだが、筆者の人生観が垣間見える中編4編。
 それに、火村とアリスの掛け合い漫才のような討論も、いつも以上にページ数をさいて、内容の濃い作品になっていると思う。
 そういう年齢になったのかな。筆者・有栖川有栖も…。

 印象深かったのが『探偵 青の時代』
 火村の、英都大学社会学部時代の、ちょっとした事件を、彼があっという間に推理してしまった事を、書いてある。コンパの席上で発覚したトラブルを、ものの見事に15分ぐらいで見破った、名探偵誕生前夜のエピソード。
 奇矯な言動はないのに、火村には当時から、どこか超然として浮世離れした所があった。それが、皆の心に引っ掛かるんだろうね。
 タイトルがすごくいい。『青の時代』

 表題作の『菩提樹荘の殺人』は、動機もトリックも???という出来だけど、筆者の老いに対する考え方がよく分かって、私としては魅力的な作品になっている。
 被害者は、53歳だが、どうみても30代にしか見えない売れっ子文化人で、探偵役の火村やアリスは34歳なのに、人生を達観している所がある。筆者の人生観を2人に語らせているんだろう。現実の34歳は、もっともがいていると思うなぁ。
 筆者は1959年生まれ。その人生観が、ドンピシャ、同世代の私の心の琴線に触れるんだなぁ。

「もしも無事に年齢を重ねることができるのなら、私は、赤や黄色に染まってから散ってみたい。見かけだけ青々としているより、その方が面白そうだから」作中の言葉。
 私も、そう思います。
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