ケイの読書日記

個人が書く書評

桐生操「本当は恐ろしいグリム童話」

2014-06-30 11:15:40 | Weblog
 15年ほど前のベストセラー。今更ながら読んでみる。

 グリム童話にしても、ペロー童話にしても、日本の昔話にしても、だいたい民話の原型は、すごく残酷で性的にみだらなのだ。

 この本の中には、「白雪姫」「シンデレラ」「カエルの王子様」「青髭」「眠り姫」「ネズの木」が取り上げられているが、近親相姦、実子殺し、実親殺し、継子殺し、不義密通(ごめん!表現が古くて)などが、満載。さすがに批判を受けて、本元のグリム童話は改定するごとに性的な表現は少なくなったが、残酷な表現はそのまま残った。
 
 「ネズの木」など、継母が継子を殺してスープにし、継子の実父に食べさせ、実父はうまいうまいと、そのスープを平らげるという話が出てくる。うわーーー!!!怖いなぁ。 
 しかし、日本の昔話にも、タヌキが婆さんを殺して汁にし、爺さんに食べさせるという話があったような…。(たしか、かちかち山だったっけ)
 だから、こういう話は、どこの国にもあったんだろう。

 だって、この時代、肉屋でスライスされたパック詰めの薄切り肉を買う事なんかできなかった。生きたアヒルやニワトリなど、主婦が自分でさばいたのだから、人間を解体することなんて、お手の物だったんだろう。


 近親相姦と不義密通は…、これも、そう珍しい事でも無かったんだろう。日本でも、平安の文学などを読めばわかる。高貴な方々は、恋愛が仕事だったのだ。そして、恋愛対象になる階級の女性(男性)は、少ないのだ。

 それはそうと、教会の力が、あまり浸透していないのは意外! 教会や神父・牧師が、さほど登場しない。そもそも、童話につきものの、仙女、妖精、まじない、願懸けなど、魔女狩りの対象になるのでは?

 昔から不思議に思ってたんだけど、トルコにハーレム、中国に後宮、日本に大奥、といった王様の妃に男を近づけないシステムが、どうしてヨーロッパになかったんだろうね。貞操帯なんか作るより確実だと思うけど。
コメント (2)
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貴志祐介「極悪鳥になる夢を見る」

2014-06-24 14:40:42 | Weblog
 図書館の書架の前をぶらぶらしていたら、「貴志祐介エッセイ集」という文字が目に飛び込んできた。珍しいと思い、借りる。

 筆者は1959年生まれ。(有栖川有栖と同年)だから、こういったエッセイで、子どもの頃の話が出てくると、ドンピシャ!私の思い出とかぶるのだ。

 例えば、「象が踏んでも壊れない」筆箱。小学校5、6年の頃だったと思う。つまり、1970年前後。TVのCMで、本当に象が出て来て筆箱をふんでいた。女の子はさほど欲しがらなかったが、男子たちの間で、人気が沸騰。持っているのが、一種のステイタスだった。机から飛び降りて、その筆箱を踏んで、喜んでいたなぁ。確かに、耐久性はすごかったと思う。

 また、1970年、大阪の万国博覧会。筆者は、会場そばの小学校に通っていたらしい。
 大勢の人が、アメリカ館に展示されている「月の石」を観ようと、炎天下の中、8時間くらい並んでいるというニュースが流れた。人気のあるパビリオンは、みな5~6時間くらい並ぶのが当たり前で、とてもじゃないが、小学生は見ることができず、歩き疲れてクタクタになった、なんて話が載っている。
 私も、小学校から日帰りバスに乗で出掛け、クラス単位で迷子になった事だけ、覚えているなぁ。

 あと、映画「エクソシスト」。筆者は、15歳の時、半年間、英国に留学していたらしい。(なんという金持ちで、教育熱心な家庭だ!!)そこで、留学中に見て、ホラーに目覚めたようだ。
 日本では、もう少し後で公開されたと思う。とにかく、前評判がすごく高くて、映画が公開される前から、その話で持ちきり。公開されたらされたで、「○○映画館で、恐怖のため女子高生が数人失神」なんていう新聞記事もあったくらいなのだ。一種の社会現象だったね。



 筆者の小説の創作裏話なども、少し書かれている。出世作「黒い家」を読みたいとずーっと思っているのだが…怖いだろうなぁ。後味悪そうだなぁ、と躊躇してる。
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三島由紀夫「金閣寺」

2014-06-19 14:14:20 | Weblog
 三島由紀夫の美意識が、全ページに流れていて、三島ファンだったら大喜びだろうが、私では…ちょっと難しい。荷が重いです。

 昭和25年に実際起きた、金閣寺放火焼失事件を題材にした、三島由紀夫の代表作。
 放火した僧の、内心の葛藤はさて置き、表面的には、こういったストーリーです。


 山陰の田舎寺の青年が、金閣寺で修行することになる。金閣寺の老師と、青年の父親が、若い頃一緒に修行した仲だという縁で、金閣寺に預けられることになったのだ。父親は、その後、結核で亡くなり、母親は、寺の権利を売って、親せき宅に身を寄せる。 
 老師には、子どもがおらず、ゆくゆくは息子が老師の跡を継いで、金閣寺の住職となる事を、母親は夢見ている。
 しかし、青年は、老師がどうしても尊敬できず、自分の立場が悪くなる事ばかりするようになる。
 とうとう老師から、跡継ぎにするつもりはないときっぱり言われ、出奔した青年は「金閣を焼かなければならぬ」という考えに取りつかれる。そして…。

 もちろん「金閣を焼かなければならぬ」という想念に囚われるまでには、単純ではない、様々な感情の起伏があった。特に、柏木という奇矯な友人と出会ってからは。
 この青年は「理解されないということが、私の存在理由だった」というほど、難しい人だからなぁ。


 実際の放火僧は、動機について「美への反感」と語ったそうだが、そんな観念的な理由ばかりではなかったのかも。(三島は怒るかもしれないけど)

 父親が死んで、相続するはずだった寺の権利を母親が売ったので、帰るべき場所が無くなった青年。親代わりになるはずの老師との不仲。「美への反感」もあるが、将来への経済的な不安が、どうしてもぬぐえない。
 老師にすべて握られているという苛立ち、それを破壊するために、自分を破滅させたのでは?
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小野不由美「鬼談百景」

2014-06-14 17:56:50 | Weblog
 装丁が不気味だったので、ためらいながらも、内心期待して借りたのだが…正直ハズレでした。

 小野不由美のところにきた、読者が体験した99の幽霊話を、淡々と紹介したもの。小野不由美の脚色がなされていないので、サッパリ面白くない。それでも、読み進めていけば、すごーーーく怖い話が載っているかもしれないと期待して読んだが、怖いと思ったのは一つか二つだね。

 だいたい、こういう話って、自分の体験談を送ってくる人は少ない。ほとんどが「私の友人のAさんが…」「私の従兄弟のB君が…」「中学の先輩が語った所によると…」など、伝聞なのだ。
 学校の怪談も多いね。でも「中学生が飛び降り自殺したその窓辺に、夕暮れになると、ぼぉっと白い影が現れ…」なんて話よりも、自殺しなければならなかった、その原因の方が怖いよ。すざましいイジメにあっていた、とか、飛び降りろと強要された、とか。


 インパクトがある幽霊よりも、なにげない日常の中の怪奇の方が、ずっと怖い。
 例えば、洗濯していたら、急に金縛りになってしまい、目だけを動かして隣を見ると、旧日本兵が3人立ってこちらを見ていた…という話なんか、怖いというより滑稽だよね。アンタ、どうして旧日本兵って分かるんだよ。旧ミャンマー兵かもしれないだろうが!!!

 それより、こっちの話の方が断然怖い。
 キチンと閉めたはずなのに、両開きのクローゼット扉が、いつもほんの少し開いている。気になるので、両方の取っ手をリボンできつく結んで、開かないようにした。
 ある日、姿見の前で、髪をドライヤーで乾かしていると、鏡にクローゼットが映っている。取っ手はリボンで結ばれているが、そのリボンの片方の先が、扉の間に挟まっているのが見えた。そると、挟まっているリボンが、するすると中に引きこまれ、リボンがほどけて…。

 もう、クローゼットに背など向けられないよ。怖くて。開ける時にもドキドキしちゃう。中に何かが潜んでいるような気がして…。
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恩田陸「私の家では何も起こらない」

2014-06-09 14:03:14 | Weblog
 装丁がとても美しかったので手に取ったが、なんと!この本も、先回のブログ『残穢』と同じく、家に関する因縁話を題材にしているお話なのだ。偶然にも。
 
 でも、小野不由美の『残穢』は、日本の土着信仰・風習が色濃いホラーだったし、背筋が寒くなるような所があったが、この恩田陸の「私の家では~」は、西洋の話だからか、血みどろの惨劇でも、どこかロマンチックで美しくさえある。
 ウサギの巣穴に足をとられ、転ぶシーンがよく出てくるが、ピーター・ラビットを思い出すなぁ。野ウサギって、茂みの中に巣を作るんじゃなくて、土を掘るんだね。知らなかった。
 読み進めていくと、最後の方など、コメディになっている。


 小さな丘の上に建つ二階建ての古い古い家。今、この家には、中年のあまり売れない女流作家が住んでいる。でも、過去には様々な惨劇の舞台となっていた…。

  アップルパイが焼けるキッチンで、殺しあった姉妹…。
  近所でさらってきた子どもたちを解体して、主人に食べさせていた料理女…。
  床下の動かない少女のかたわらで、自殺した、殺人鬼の少年…。


 この古い家は、近所でも評判の幽霊屋敷で、心霊スポット。だから、見る人が見れば、幽霊たちがギッシリ満杯なのだ。
 「幽霊屋敷マニア」が押し寄せ、写真を撮りたがり、中を見せろ、不思議な話がないか聞かせろ、と迫る。
 霊がいる、呪われていると騒いで、お祓いや、降霊会をさせろと、ごり押ししてくる人たち。


 考えてみれば、こういったマニアックな人たちの方が、大迷惑で、何もしない幽霊など、ありがたい同居人なのだ。本当に、こんな素敵で美しく優雅な幽霊屋敷だったら、私も住みたいです。
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