ケイの読書日記

個人が書く書評

伊坂幸太郎 「アヒルと鴨のコインロッカー」

2017-01-30 10:27:54 | 伊坂幸太郎
 タイトルが変わっているけど、伊坂幸太郎だからハズレはないだろう、創元推理文庫なのでミステリのつもりで読んだが…これって純愛小説?!


 大学に入学するため、仙台にやってきたばかりの椎名は、アパートの隣人・河崎の口車に乗せられ、書店を襲う羽目になる。モデルガンを手に、書店の裏口に立ち、店員が逃げ出さないようにするのだ。

 次に、いきなり2年前の話になる。
 琴美という若い女の子は、ブータン人の留学生・ドルジと一緒に暮らし始め、ペットショップに勤めている。二人は偶然にも、犬猫殺しの犯人を目撃してしまい、琴美はつけ狙われる。そこに、琴美の元カレ・河崎がからんでくる。

 
 この椎名の視点から書かれた現在と、琴美の視点で書かれた2年前の出来事が、交互に登場し、どういうふうに結びつくんだろうと、私もビクビクしながら読み進める。

 なんせ、このペット殺しが本当に気持ち悪いんだ。最初は、野良猫を捕まえてはバラバラにし、それだけでは飽き足らず、ペットショップの大型犬までも盗み出し切り刻み、次に人間も殺したいという願望をもっているキモイ男女の3人組。
 彼らは、犬猫を殺しても、キャンキャンと鳴くだけで「助けてくれ!」と命乞いしないので、つまらない。人間に命乞いさせたいらしい。そこで、琴美が彼らのターゲットになる。

 琴美も、危機感が薄いというのか…。読んでいてイライラする。
 定期を落として、住所が犯人たちに分かってしまい電話もかかってくるのに、その音声の録音を消すなんて、うっかりにもほどがある。
 狙われているのが分かっているのに、自宅がどこかも知られてしまったのに、夜道をぼんやり歩くだろうか? 私だったら、いや、ほとんどの人が怖くて自宅に帰れないよ。実家に戻るか、友人知人の家にしばらく泊めてもらうかするね。

 この犯人たちも、知能犯という訳でもないのに、なかなか警察に捕まらないのは、どういう訳? それもイライラするなぁ。

 最後に、本屋襲撃事件と、2年前のペット殺し事件は結びつく。
 ブータンの宗教観では「死んでも、生まれ変わるだけだから悲しくない」はずだが、悲しい結末。でも、3人は来世でまた出会うんだろう。
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細川貂々 「タカラヅカが好きすぎて」

2017-01-25 09:54:23 | その他


 タカラヅカと言えば思い出すなぁ。
 小学校高学年から文通していたペンフレンドが大阪にいて、遊びに行った時、友達から「どこか行きたい所、ある?」と聞かれ、「タカラヅカを観たい!」と答えた。そしたら友達が「えーーー!タカラヅカって、そんなに有名なの?」って驚いていたことを覚えている。45年くらい前。
 彼女は、タカラヅカって、関西に知られているだけで、他の地域では全くの無名だと思っていたらしい。結局、宝塚市への行き方を彼女は知らなかったので行かず、かわりに吉本新喜劇を観た記憶がある。
 その後、再び彼女の家に遊びに行った時、タカラヅカに連れて行ってくれた。たぶん、宝塚大劇場で観たんじゃないかな?
 私は大感激、彼女は「日本人って西洋の物まねが上手いなぁ」と妙なところに感心していた。

 私の高校時代になると、『ベルサイユのばら』の大ヒットで、タカラヅカの人気は沸騰! チケットも取れないし、宝塚音楽学校の入試がべらぼうな倍率になって、ニュースでもたびたび取り上げられた。
 そうそう、若い方たちは知らないかもしれないが、『ベルサイユのばら』って映画化されたんだよ。もちろんオール外国人キャストで。

 その頃と比べると、今は人気は落ち着いているね。でも、やっぱり好きな人は好きみたい。先日、昔の同僚が、和央ようかさんの追っかけをやっていたのが判明! 今は退団して結婚したので寂しいと言っていた。


 私は…好きは好きだが、適度な距離を取ってるなぁ。贔屓さんもできなかったし、お芝居に感情移入もできない。ただ、レビューは本当に華やかで夢の世界にいるみたいだった。

 タカラヅカにハマって破産するだけじゃなく、犯罪に手を染める人もいるらしい。全国ツアーにくっついて追っかけするのも、お金がたくさん必要だし、自分の好きなスターに高価なプレゼントをせっせと贈り、お金が無くなって、勤め先のお金に手をつけたという犯罪も過去にはあったようです。


 細川さんは、子供の頃からファンだったという訳ではなく、ファン歴は10年ほど。でも、春野寿美礼さんが大好きになり、退団までの残された日々を思い切り全力で追っかけした日々を描いています。
 タカラヅカが好きすぎて、東日本大震災の後、宝塚市に引っ越したそうです。宝塚市かぁ…いいかも。ゆったりした子育てができそう。
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益田ミリ 「OLはえらい」

2017-01-20 14:56:59 | 益田ミリ
 またまた益田ミリ。やっぱり売れてる人の作品は面白い!!

 益田さんは、上京するまでの6年間、地元の大阪でOLさんをしていた。その時の経験をベースに描き下ろした、32歳の時の4コママンガ作品集。

 女主人公ロバ山ロバ子は、大阪の老舗の会社の営業3課で一般事務をしている。ものすごくやりがいがある訳ではないが、どうでもいい仕事でもない。何といっても古い会社なので、管理職はみな男性。長年勤務している女性もいるが、出世には全く関係ない。
 でもね、社員食堂があるので、結構な大手だと思う。転勤はもちろん男子社員だけ、そして一番いいなと思うのが、女子社員は定時で帰れること!残業はまず無いらしい。お給料は少ないらしいが、これ、大事なポイント。電通に教えてあげたい。
 まあ、言い換えれば、大事な仕事を任されていないという事なんだろうが。

 でも、古き良き時代だよね。今は、一般事務で正社員という求人は、ほとんど無いんじゃないだろうか? どんどん派遣さんにそういう仕事は移っている。

 そして、一番ビックリしたのが、生理休暇を女子社員の皆さんが、堂々と取っている事!!! 1990年代の事なのに?! 驚かない?

 私が結婚前に働いていた所も、生理休暇は制度としてはありました。でも…使ってる人なんか、いなかったよ。先輩が使わないと下っ端は使えない。このロバ山ロバ子さんは、先輩がきっちり生理休暇を取っている素晴らしい人だったので、心強かったようだ。

 ロバ山さんの人柄が良いってこともあるが、上司も同僚も、とても良い人で、会社の慰安旅行や忘年会・新年会・歓送迎会などなど、しっかりあります。それは楽しみでもあるが、上司には気を遣うし、会費は徴収されるので、お金はどんどん飛んでいく。痛しかゆしです。

 この作品だけでなく、益田さんのコミックエッセイ全般の特徴なんだけど、ドロドロが無い! こういったOL物って、給湯室内でのイケメンを巡っての女同士のいさかいとか、不倫の噂で盛り上がるとかがメインの物が多いのに、このロバ山ロバ子さんとその友人たちの清く正しい事!! 素晴らしい。尼寺にいるみたい。
 ロバ山さんも実はそれを気にしていて「家族に彼氏いないんだろうな、と思われてるだろうな」と少し落ち込んでいる。
 でも、こんなアットホームな会社に勤めているんだったら、そのうち上司が誰か紹介してくれるよ。
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益田ミリ 「僕の姉ちゃん」

2017-01-16 09:56:08 | 益田ミリ
 すっごく面白い!! 益田ミリさんは『すーちゃん』シリーズで有名だが、この『僕の姉ちゃん』も、それ以上に面白いと思う。

 新社会人らしい僕と姉ちゃん(30歳)の二人暮らしなので、先に就職して東京に出てきていた姉ちゃんのアパートに、新しく社会人となった弟が、次の住居を見つけるまで居候しているという設定かな?と思っていたが、どうやら二人は自宅住まい。両親は海外赴任していたようです。マンガの最後に戻ってきます。

 つかの間の二人暮らしの間、2人は会社や仕事、上司や同僚、恋愛や結婚や友情、ファッションなどなどについて、おしゃべりします。それが掛け合い漫才みたいで面白い!!
 なんとなく、群ようこさんと弟さんの事を思い出しちゃったなぁ。群さんが家を出たのは24歳の時(弟さんは4歳年下)それからずっと離れて暮らしているけど、もし同居していたら…こんなおしゃべりしていたのかも。

 それにしても益田さんは売れっ子だけあって、本当に女の心情を掬い取るのが上手。例えば…姉ちゃんのセリフ「女って、かわいいが正解みたいな中で大きくなっていくでしょ」「けど、正解なんて誰もが出せるわけじゃない」「だからせめて持っていたいんじゃない?」「簡単に手に入るかわいいいを」と、きれいにネイルした爪を見て言う。
 結構、シビアな事も言ってる。「人に見下されたことって」「あとからジワジワくるのよねーーー」「自分の心の中だけでやってりゃいいのに」「わざわざ、今、見下しているぞって光線送ってくるヤツっているよね」「手に取って捨てたいよ、こういう気持ち」「捨てたところを確認できないから」「人は苦悩するわけよ」

 同じように見下された人にも2種類いる。反撃した人は、恨みを後にさほど残さない。でも、見下されたと感じても、穏便に済まそうとへらへらして反撃できなかった人は、何年たっても悔しさがぶり返す。フラッシュバックのように。嫌な思い出が蘇り、ムカムカする。周囲の人が何年前の話なの?ってあきれるくらい。
 自分自身、その負の感情を持てあましている。捨てられるものなら捨てたいよ。
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多和田葉子 「雲をつかむ話」

2017-01-10 17:23:33 | その他
 「雲をつかむような」ではなく「雲をつかむ」話。年代や場所がくるくる変わって、戸惑う。純文学の作家さんなので、文章が格調高すぎて、軽く読み飛ばすことができない。

 
 日本人だがドイツ在住の小説家が、獄中の人から面会を求められたり文通を依頼されたりファンレターが来たりすることは、一般の人よりも多いだろう。しかし、後に犯人として逮捕された人と、それとは知らず言葉を交わす機会が、そんなに多いとは思わないけどなぁ。
 この本に登場する、罪を犯した(とされる)人々には、何かしらのモデルがいると思うんだけど、それにしては数が多すぎる。何人かは、多和田さんの完全なフィクションなのかなぁ。そんな事を考えながら読んでいた。

 人を殺して逃げ回っていた男が、『本を売ります』という看板を見て、作家の家に一時的に逃げ込む話。
 思想的な問題で、警官を撃ってしまい、ジャマイカで暮らすドイツ人作家。
 詩の朗読会に招かれ、紹介された牧師夫人は、夫に殺されてしまった。
 何度も無賃乗車して、その請求書を無視していたら、逮捕されてしまった若い男。
 クリスマスに招かれた家の家政婦さんは、旦那を殺して服役し、最近出所したばかりのイタリア女性。
 かつてのルームメートだったベニータとマヤの間の確執。マヤはベニータの胸を刺す。


 もちろん自分も、いつ何時、罪を犯して塀の中の住人になるか分からないから、大きな事はいえない。しかし、ドイツは死刑がないし、複数の人を殺しても15年くらいで出て来るらしいし、刑務所改善運動というのが盛んで、刑務所の中より娑婆で更生させようという考えらしく、日本よりはうんと世の中の犯罪者率が高いのかもしれない。
 でも…幼女レイプ犯が近所にいるかもしれないと思うと、穏やかな気分ではいられないね。


 話は大きく変わる。ドイツ(というかヨーロッパ)では、文学祭(文化祭じゃないよ)や詩の朗読会が人気あるんだね。日本では映画祭はよく聞くけど、文学祭は聞いた事ない。それとも私が知らないだけで、あちこちで開催されているんだろうか?
 そして、詩人が、文学関係者の中で一番のステイタス。小説家より数段上らしい。「自分の職業は詩人」という人がいたら、私は絶対その人の顔を見る。どんな人が詩人なんだろうって。まだ歌人とか俳人という方が、受け入れやすい。自分の中では。
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