ケイの読書日記

個人が書く書評

折原一「偽りの館 叔母殺人事件」

2007-09-26 14:53:45 | Weblog
 折原一は、よくミステリ小説の解説などを書いているから名前だけは知っているが、作品は初めて読んだ。うーん、ビミョウ…。

 売れないノンフィクション作家が、殺人事件が起こった家を借りて住んでみて、殺人者の内面からノンフィクションを書いてみようと思いつく所から、この話は始まる。

 それなりに読めるが、話の展開が分かってしまって、全く意外性が無い。それよりも暗い雰囲気をかもし出しているのが、全編を流れるゆがんだ家族観。
 三組の「親一人、子一人」が登場するが、子どもにすがりつこうとする母親・疎ましく思う子ども、ばかりで読んでいてうんざりする。
 気が滅入るね。あー、ヤダヤダ!!


 この一作品だけで、折原一を評価してはいけないだろうけど、しばらく折原作品を読みたくないです。
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ポール・アルテ「狂人の部屋」

2007-09-21 14:45:39 | Weblog
 ハットン荘のその部屋には、忌まわしい過去があった。100年ほど前、部屋へ引きこもっていた文学青年が怪死したのだ。死因は不明。奇怪な事に、部屋のじゅうたんは水でぐっしょり濡れていた。

 以来、開かずの間になっていた部屋を現在の当主ハリスが開いた途端、怪事件が屋敷に襲いかかった。
 ハリスが不可解な状況の下で部屋の窓から墜落死し、その直後に部屋の中を見た彼の妻が卒倒した。しかも、じゅうたんは100年前と同じように濡れていた。
 はたして部屋で何が起きたのか?


 やっぱりポール・アルテはいいなあ。派手さは少ないが、色んな謎をきちんと説明できている。(彼の尊敬するカーは、道具立てはすごく派手で怪奇ムード満点。さあ、どんなすごいトリックが隠されているんだろうと期待して読むと、ガッカリする事が少なくない)

 そうです!暖炉の前のじゅうたんが濡れている理由は1つじゃなくてもいいんだ。Aの場合はAの理由が、Bの場合はBの理由があって当然なんだ。

 また、死者が甦るなんて本当に簡単なトリックじゃないか?何でこんな事に気が付かないんだろう、と自分を恥じる。


 小説の舞台はイギリスだが、作者のポール・アルテはフランス人なので、不倫がらみのロマンスも推理の邪魔にならない程度に、あちこちにちりばめてあり出来がいい。
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二階堂黎人「悪霊の館」

2007-09-15 10:57:27 | Weblog
 サナダさんがブログで、二階堂黎人の「私が捜した少年」が面白い、と書いていらしたので、図書館の二階堂黎人の書架を見る。しかし無い。でもせっかくだから、と借りてきたのがこの本。


 面白い事は面白いが、まとまりがないなぁ。名探偵・二階堂蘭子が登場してくる所は新本格派テイストだが、彼女がいないと松本清張風になる。WHY?


 お話としては、昭和43年東京国分寺市にある古い西洋館で起こった連続殺人事件。なんと因縁話として、ルイ14世やマリー・アントワネットまで出てきて、いやはや大風呂敷の広げすぎ。
 親族間のもめごとは「犬神家の一族」そっくりだが、やはりベースになっているのは「黒死館殺人事件」。
 「虚無への供物」の時も感じたが「黒死館殺人事件」が日本のミステリ作家に与えた影響というのは、計り知れないものがありますね。


 ただ、私は日本にある洋館というものがどうもピンと来ない。住んだ事はないし、近所にもないし、西洋建築に興味があるわけでもない。
 それに比べ、田舎の旧家の豪邸というのは、なんとなくイメージできるので物語に入り込みやすい。

 この「悪霊の館」の中でも登場人物の口を借りて、他の推理小説が色々紹介されているが、その中で『鯉沼家の悲劇』のことにも触れている。
 これはたかさんがブログで取り上げていたので、題名だけは知っていたが、二階堂黎人氏いわく”埋もれさせておくには惜しい作品”のようなので、今度ぜひ読んでみたい。
 これも舞台が洋館ではなくて、和風建築だといいのですが。
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上野千鶴子「おひとりさまの老後」

2007-09-10 10:36:10 | Weblog
 「結婚していようがいまいが、だれでも最後は一人」という帯につられて買った。確かに、女は特にそう覚悟しておいた方がいい。

 少子高齢化社会の今、家族と一緒にいる期間は短縮している。配偶者がいても、平均寿命から考えれば、ほとんどの場合夫の方が先に死ぬ。
 子どももいつか家を出て行く。

 だったら”ひとりで暮らす”ノウハウを早めに準備しておいてもいい。
 そのための「おひとりさまの老後」のスキルとインフラを考えようという本。


 上野先生はフェミニズムの権威だが、たいして特別な事が書いてあるわけでもなく、ちょっと拍子抜け。でもこの本の中で、吉田太一著「遺品整理屋は見た!」という本が紹介されてあって、これは私も図書館で借りて読んだが、めっけものだった。
 おひとりさま必読の書!!!

 おひとりさまは急変の際、早期発見されるよう万全を尽くせ!!


 しょせん、死ぬ時は一人。周りに人がいようと自分だけだろうと、死出の旅路は一人なのだ。だけど、その後速やかに発見されるようにしておくこと。
 そうでないと、とんでもない迷惑を周りにかけるから。

 その迷惑の実例が46例載っている。著者は誠実にユーモラスに書いてはいるが、やはり夏場のほかっておかれた遺体の痛みは凄まじく…ちょっと文章を引用できない。あまりにも気持ち悪くて。


 驚いたのは飛び降り自殺の時。もちろん警察は駆けつけるが、血や肉片が飛び散った道路の掃除は遺族が(または遺族の依頼をうけた専門業者が)やらなければならないんだってね。
 自殺する時は、後のこともよく考えなくては。
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中井英夫「虚無への供物」

2007-09-05 10:17:26 | Weblog
 「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」と並んで三大奇書の一つという事なので心して読んだが…意外にも文章は読みやすい。
 そりゃそうだ。前の2作品は戦前の作品で、カタカナ・旧仮名遣い・旧漢字が多用してあり、この「虚無への供物」は1964年の発表だもの。


 ただ内容は…一言で言って「混沌(カオス)」
 作者の興味ある色々な事を、この1作品にぎゅんぎゅんに詰め込んだという感じ。
 その興味というのが多岐に渡っており、薔薇、歌舞伎、ポゥ、不動明王、ゲイバー、鏡の国のアリス、放火、シャンソン、経文、ワンダーランド、etc

 これらが、全く系統だっておらず1つの作品内にごちゃ混ぜに放り込んである。
だいたいワトソン役の亜利夫(ありお)も、どうしてこんな変な名前なんだろうと思っていたら、どうも『不思議の国のアリス』のアリスを男の名前にして『亜利夫』としたらしい。ふざけている。


 密室殺人が4回連続おこるのだが(4回目は空想)期待を持たせ、どんなすごいトリックなんだろうと、伏線らしきものをたどって自分なりに考える。
 小説の最後では、一応解決するのだが、あまりにもちゃちなトリックでガッカリ。

 辻褄のあわない部分がどっさり出てくるが、こういう作品で論理的なトリックや動機を期待してはいけないのかもしれない。

 殺人が起こる氷沼家の見取り図も、どうして2階だけで1階は載ってないの?
なにか秘められた意味があるかも、と真剣に考えて損した。



 綾辻行人の「フェラーリは見ていた」という作品中に、この「虚無への供物」を読んで感銘を受け、こんな作品を書く人と一緒に仕事をしたいと言って編集者になった人が出てくる。
 好きな人には、たまらない魅力を持った作品なんだろう。

 スケールをうんと小さくした「黒死館殺人事件」という所でしょうか。


PS.主要登場人物の藤木田老は、なかなかチャーミングなご老人だ。外国暮らしが長いという話だが、自分のことをミィ、相手のことをユウ、なんて呼んでいる。でも他の英単語は会話に出てこない。
 「おそ末くん」のイヤミを思い出しちゃったよ。古い話でごめんなさい。
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