ケイの読書日記

個人が書く書評

中島義道「ひとを<嫌う>ということ」

2007-04-27 15:05:39 | Weblog
 この本は、先日読んだ岸本葉子さんのエッセイの中で紹介されていて、面白そうだったので読んでみた。

 <はじめに>の中で、筆者はこの「嫌い」をテーマに本を書いた理由を赤裸々に語っている。

 ウィーンに在住している筆者はある事件をきっかけに、一緒にウィーンで暮らしていた妻子(日本人)から徹底的に嫌われ、家から追い出されホテル住まいを余儀なくされる。ウィーンでの研究の期間が切れて、一人だけ帰国。今でもまるで相手が存在しないかのように、お互い振舞っているとのこと。

 あまりの悲惨さに、この筆者はどういう経歴の持ち主だろう、とプロフィールを見る。
 1946年生まれ。東大法学部を卒業して東大人文科学大学院修士課程修了。ウィーン大学哲学科修了。哲学博士。電気通信大学教授。

 とても立派なものだが、そこには自己顕示欲の強そうなオヤジの写真が…。文章を読んでみてもなかなかアクの強そうな人だから、一緒に暮らす家族は大変かも…と少し同情したりする。


 筆者が伝えたい事はとても明快。「自分は確固とした理由により、消え入りそうな淡い理由により、とりたてて何の理由もなく嫌っている。だから自分が様々な人から、確固とした理由により、消え入りそうな淡い理由により、とりたてて何の理由もなく嫌われている事を覚悟せよ」


 私も若い頃「人に嫌われたくない症候群」で大変苦しんだが、今では人との距離のとり方が上手くなったせいか、それほと悩まなくなった。
 これは本を読んで理解するというより、様々な人間関係の中から体得していくものでしょう。


 PS.夏目漱石と鏡子夫人ってホントに仲が悪かったんですね。
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ポール・アルテ「死が招く」

2007-04-22 22:02:32 | Weblog
 久々に面白い本格を読んだ気がする。

  
 内側から錠ががかった密室状態の書斎で、ミステリ作家が煮えたぎる鍋に顔と両手を突っ込み、銃を握りしめて死んでいた。かたわらの料理は湯気が立っているのに、なぜか遺体は死後24時間以上が経過していた。

 しかもこの現場の状況は、作家が構想中の小説「死が招く」の設定とそっくり同じだった。こんな事がなぜ起こる…?!


 ポール・アルテは「フランスのディクスン・カー」という触れ込みだが、カーよりもうんと上質で論理的なミステリだと思う。
 確かに怪奇趣味的な雰囲気はカーの方が上だが、あやふやな説明に終始する怪奇現象をいくら並べ立てられても、優れた推理小説とはいえない。

 その点、ポール・アルテは、こんな謎めいた密室殺人現場をどうやって収拾するんだろうと最初は不思議だが、最後の謎解きでキチンと解決していくんである。
 それも単純明快に。
 (でも、『水の半分はいった小さなカップがどうして窓際に置かれていたのか』についての解答は、ちょっと反則気味)

 「あーあ、最近、本格を読んでないな」とお嘆きのアナタ!お勧めの1冊です。
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E・Cベントリー「トレント最後の事件」

2007-04-17 10:29:11 | Weblog
 1912年作品。アメリカの大富豪がイギリスで頭を撃たれて即死した。重要な容疑者は美しい未亡人。敏腕な新聞記者で優れた画家であるトレントは怪死事件の解決にのりだす。


 解説の中島河太郎は「犯罪ないし探偵と恋愛との有機的な結合に見事成功」と書いているが、私にはそうとは思えません。
 トリックも悪くないし、最後にドンデン返しがあるので、いい作品だとは思うが、推理小説としての盛り上がりに欠けます。
 小説の半ば過ぎ、恋愛部分で大いに盛り上がってしまうので、最後の一番面白いはずの謎解き部分が蛇足のように感じられる。

 名探偵役が容疑者に著しい恋愛感情をいだき、しかもハッピィエンドで終わると言うのは、推理小説を期待した読者への背信行為だと思う。
 これが、探偵役の胸の内にひっそりしまっておける恋だったり、相手の女が非常にしたたかな犯罪者で、探偵が煮え湯を飲まされる、というのなら分かるが、めでたく結婚にゴールインというのは、推理小説のお約束を無視していますね。


 この小説は、ブラウン神父で有名なチェスタトンへ捧げられています。作者のベントリーとチェスタトンは同じ学校の1年後輩先輩という間柄で、生涯親交があったようです。
 素晴らしい時代をお二人とも生きたんですね。
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岸本葉子「ぼんやり生きてはもったいない」

2007-04-12 22:24:27 | Weblog
 やっと平穏な日常が戻ってきました。

 実はこの2週間ほどべらぼうに忙しく、本をまったく読めなかったのです。土日も返上してせっせせっせと仕事をするのですが、ちっとも終わらず、永遠に続くかと思ったほど。
 昨日やっとメドが立って、今日は岸本さんのエッセイを読むことができました。

 読書が唯一の趣味である私にとって、本が読めないのは本当につらい。

 このブログも、あまりに間隔が開くとダメだろうと、ずっと以前に読んで書いた読書ノートから抜粋してUPしました。
 このブログを始める前から、一応読書ノートは付けていたのです。

 自営なので、仕事がないと死活問題ですが、こう集中豪雨的に仕事を持ってこられても…。 3月に納入しなければならない仕事が4月にずれこんで、担当者の人も必死だったのでしょう。


 さて「ぼんやり生きてはもったいない」は2006年春に出版された岸本さんのエッセイです。
 岸本さんは強いなぁ。40歳で癌と診断され、その後の的確で冷静な判断・行動には驚かされます。
 手術から5年たって、だいぶ精神的にラクになったんじゃないでしょうか? イキイキとした日常が描かれていて、嬉しいです。

 いつまでも私の師匠でいてください。
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カーター・ディクスン「赤後家の殺人」

2007-04-06 23:50:33 | Weblog
 すっごく忙しいので本が全然読めずフラストレーションたまります。ずいぶん前に読んだ本を紹介します。

 赤後家の部屋にまつわる恐ろしい伝説など、大変よく出来ていて舞台装置は十分なんだが、かんじんの推理の部分がパッとしない。

 150年の間、4人が謎の毒死をとげたその伝説を利用して邪魔な人間を殺す。「誰が一番得をするか」から考えれば犯人はすぐわかる。(私はわからなかったけど)結末からみれば、なーんだということ。

 しかし、フランス革命後、恐怖政治の時代は恐ろしいなぁ。ギロチンという名はギロチンという人が考えた処刑器具だと思っていたら、革命以前から、南フランスやイタリアで処刑に使われていたらしい。
 ギロチンという人は、それを死刑の公式な様式にしようと提案しただけで、それで彼の名前が付いたようだ。
 ということはフランスでは、ピエール・ギロチンとかジャン・ギロチンとかいう名前の人がいるんだろうか?

 見た目は凄く残酷な刑罰だが、あっという間に終わり苦痛も少ないんではないか? 少なくとも江戸時代の「市中引き回しの上はりつけ獄門」よりもずっとラクな気がする。
 しかし、かつての高貴な方々が膝をガクガク震わせギロチンの処刑台に並び、遣り損じがないよう、首切り役人に自分のドレスについている貴金属を差し出すところなど、鬼気迫るものがあるね。

 
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