ケイの読書日記

個人が書く書評

群ようこ「いいわけ劇場」

2007-05-27 20:21:16 | Weblog
 書評エッセイならともかく、群ようこの小説はあまり面白くないと言いながらも、読みやすいのでついつい読んでしまう。

 この中に12の短篇が収められており、12人の困ったちゃんが描かれている。その中の《120分の女・マユミ》には、本当に身につまされるねぇ。

 このマユミは肌の乾燥が何より恐ろしい45歳。短大に入学してから27年間1日も欠かさず(今では120分かけて)お化粧をする。
 昼間スッピンでいることは1度もない。というかスッピンと化粧後の顔の落差が激しいので、スッピンになれない。

 友人達と温泉に行っても、皆が寝静まるのを待って、化粧を落とす。朝も皆が起きる前に目を覚まし、丁寧に化粧をする。素顔を見られるくらいなら睡眠不足などいくらでも我慢する。夫にも素顔を見せた事がない。
 離婚後付き合った恋人とホテルに行っても、寝化粧バッチリ。最初は喜んでいた彼も、さすがにあきれて別れることになった。



 以前、演出家の和田勉がテレビでしゃべっていた。浅丘ルリ子さんの素顔を見た事があるが、あまりの違いに驚いた。「浅丘さん、化粧している顔としていない顔と、どちらが本当のあなたの顔なんですか?」と尋ねたら、浅丘ルリ子は「化粧していない顔は死んだ顔なの、化粧している方が本当の私の顔なの」と答えたと言う。さすが大女優。
 彼女もメイクに2時間くらいかけるらしい。


 しかし、120分の女・マユミもさすがに45歳になった今、ぱっさぱさの素顔に悪戦苦闘しているようだ。分かります、その苦労!!!
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高木彬光「人形はなぜ殺される」

2007-05-22 13:57:46 | Weblog
 とても面白い。「刺青殺人事件」や「能面殺人事件」よりも出来が良いではないか?


 アマチュアマジシャン大会の楽屋で、大勢の目があったのにもかかわらず、マジックの小道具・人形の首が突如消えた。
 その後しばらくして成城のアトリエで無残な首なし死体が発見される。その血の池の中には、消えたはずの人形の首が転がっていた。


 いつもはパッパと事件を解決していく神津恭介が、珍しく金田一耕助状態になっている。
 次々と起こる殺人を防げないので、恭介は関係者から「神津さん、あんたもヤキがまわったね」とか「あんたの探偵のウデもたいしたことない」とか、色々言われ面目丸つぶれ。

 いつも感じる事だが、金田一耕助の依頼人ってどうしてあんなに寛容なんだろう。次々と人が殺され最後に残った人間を『君が犯人だ』と指摘しても当たり前じゃないか。
 それを「さすが金田一先生」とか「名探偵」とか持ち上げるのは不思議。怒ったりなじったりするのが普通なのに。


 とにかく、この物語のトリックを解こうと思ったら「人形はなぜ殺されるのか?」をじっくり考える事。ただの怪奇趣味で人形は殺されているのではない。それはトリックにとって絶対必要だから。
 特に第2幕のトリックは本当に見事なものだと思う。難易度高し!!

 私、トリックは分からなかったけど、珍しく犯人は当たりました。動機から考えるとこの人しかいないよ。
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フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」

2007-05-17 16:28:01 | Weblog
 かなりの傑作。1922年発表(作品の設定は1919年~1920年)
 高名な作家が、専門外の推理小説を書いている点や、小説の中に恋愛の描写が占める割合が大きいことなど、1ヶ月ほど前に読んだ「トレント最後の事件」とよく似ているが、こっちの方がうんと優れていると思う。


 「トレント~」の方は恋愛心理描写がじゃまでじゃまで、特にマドンナ役の女性があまりにも素晴らしいので、こんな女がいるかよ!! と毒づきながら読んでいたが、この「赤毛のレドメイン家」は、長々と続く恋愛心理の描写が事件解決の鍵を握るということもあり、最後まで飽きない。


 トリックとしては非常に古典的。遺体が見つからないとか、目立つ格好の人物があちらこちらで目撃されているとか、よくあるパターン。
 でも人間の心理描写も見事だし、イギリス・ダートムーア地方やイタリア・コモ湖地方の風景描写が素晴らしい!
 このフィルポッツという人はもともと田園小説の大家なんだってね。さすがだと思う。私もコモ湖を訪れてみたくなったよ。


 これはいい人を見つけた。彼の他の作品「闇からの声」「灰色の部屋」をぜひ読まなくては。
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岸本葉子編「シングルっていいかも」

2007-05-12 11:28:59 | Weblog
 ページを開いて初めて気が付いたが、岸本葉子編であって岸本葉子著ではないのだ。岸本さんを含め17人の著名人の文章をピックアップしてあり、その後ろに岸本さんの短いコメントが載っている。

 岸本さんのエッセイが丸々1冊読めると思っていたのに少しガッカリ。
 それと益田ミリの16コママンガが10編。これがまた結構楽しい。彼女は私がとっている新聞の夕刊に週1で連載しており、お馴染みさんなのだ。


 さて「シングルっていいかも」というタイトルだが、シングルでない人の文章も入っている。
 例えば角田光代は同業者のダンナがいたと思う。未入籍なのだろうか?
 思うに、清く正しく同棲もした事が無い岸本さんのようなシングルは非常に珍しいんではないか?


 この17人の中ですごいのは伊藤理佐さんというマンガ家。なんと!! 一戸建てを購入。もうかるんですね。マンガ家って。分譲マンションでも驚くのに一戸建て。
 すごいなぁ…。
 
 しかし、いくらお金を持っていても、若い女性が一戸建てを買うというのは大変な決心だと思う。さばけていると言うか、自分の将来に甘い夢を持っていないというか…。
 年老いた親と一緒に住むために、という訳ではない。彼女と猫2匹。広すぎて気が滅入らないかしら?


 他にも、ダスキンお掃除サービスを頼んだ事などが書かれてある。確かにお金はかかるけど、ピカピカになるとか。ああ、私も頼みたいなぁ。
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ポール・アルテ「赤い霧」

2007-05-07 12:04:09 | Weblog
 先日読んだ「死が招く」の中に、この「赤い霧」の事が触れてあったので、早速読んでみる。第1部と第2部に別れていて第1部が特に秀作。


 1887年イギリス、ブラックフィールド村に新聞記者と名乗る男が10年ぶりに帰郷する。昔この村で起こった密室殺人事件を正体を隠して調べなおそうというのだ。

 10年前、娘の誕生日に手品を披露する予定だった父親が、カーテンで仕切られた密室状態の部屋でなぜか背中を刺されて死んでいた。
 窓は内側から鍵がかかり、唯一開いていた窓のすぐ下では少年が3人遊んでいて誰も出入りしていないと証言。
 カーテンで仕切られていた部屋の半分には、大勢の少女達が手品が何時始まるのだろうとカーテンをじっと見つめていた。もちろん誰も出入りしていない。


 どう考えても不可能としか思えない状況を、ポール・アルテは特別な小道具も使わずに心理的盲点を利用してトリックを解いていく。見事です!!!
 ただ、紛失したトリックの本を大騒ぎで探すより、プロのマジシャンの意見を聞いたらすぐ解決しただろうに。


 第2部は"切り裂きジャック”を題材にしている。本格だと思って読むとガッカリするかも。犯人はすでに分かっているし犯罪小説とでも言うべきか。

 それにしてもヴィクトリア時代のロンドン貧民屈の貧困層の悲惨な事!!
 貴族がチャリティをせっせとやるのも政府がまったく貧困層対策をやらなかったせいなのだろう。この時代イギリスは世界一の大国「日の沈まない国」だったはずなのに。

 そうそう、この第2部の中にホームズとワトソンらしき人物が登場する。あまり好意的とはいえない描写で。ホームズフリークだったら怒るだろうね。
 ポール・アルテはドイルをあまり評価していなかったのかな。
コメント (4)
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