ケイの読書日記

個人が書く書評

バルドゥン・グロラー著 重野創一郎訳「探偵ダゴベルトの功績と冒険」

2013-10-31 09:06:57 | Weblog
 たかさんのブログで紹介されていて、とても面白そうだったので、私も読んでみた。

 音楽と犯罪学に打ち込む素人探偵ダゴベルトは、20世紀初頭のオーストリア=ハンガリー帝国(1867-1918)の首都ウィーン在住。ハプスブルグ朝末期の社交界で起こる様々な難事件を解決する。

 1910年~1912年に発表された短編集で、シャーロック・ホームズの晩年と重なっているが、雰囲気はかなり違っている。

 ウィーン在住のダゴベルトは、ロンドン在住のホームズと比べ、極めて貴族的、ものすごく優雅に事件を解決するのだ。
 犯人を捕まえ叩きのめす、というのでなく、社交界で起こった窃盗事件や恐喝・脅迫事件などを、新聞沙汰にせず(つまり表に出さず)手際よく解決する。時には、悪党自身が、何が自分の身に起きたか理解できないうちに、国外退去になったり、逮捕されたりする。
 その巧妙な手口は、エレガントと言っていいくらい。


 これは、19世紀末から20世紀初めの、国際都市ウィーンが舞台だからだろう。
 この時代、オーストリアは国際的な地位はどんどん低下し、帝国末期という状態だったが、文化芸術でみれば素晴らしい爛熟期を迎えていた。
 特にユダヤ人差別が少なかったので、お金持ちで才能のあるユダヤ人がどっとウィーンに押しかけ、音楽・美術の点では、ヨーロッパの中心だった。
 画家志望だった若きヒトラーが、ウィーンの帝立美術学校に入学しようとやって来たのもこの時期、2度入試に失敗し、傷心のまま故郷に帰った。この時、ウィーンでユダヤ人が活躍していたのを快く思っていなかったのが、後の民族浄化につながるんだろう。

 また、ウィーンの社交界の話なので、高級軍人がたくさん登場するが、どうしようもなく軟弱。肩書だけ立派で、中身は空洞。これじゃ、オーストリア=ハンガリー帝国が滅んだのも仕方ないね。
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井上荒野「だれかの木琴」

2013-10-26 10:10:26 | Weblog
 秋の夜長、就寝前に少しずつ読んでいくつもりだったが、一気に読んでしまった。面白いというか痛々しすぎて、ページをめくる手を止めることができなかった。

 
 41歳の専業主婦・小夜子は、初めて入った美容院でカットしてもらった若い男性美容師を気に入り、つきまとうようになる。
 最初は頻繁に美容院に通い、つぎに彼の住居を突き止めプレゼントし、彼の行きつけの居酒屋に押しかける。ストーカー行為はどんどんエスカレートし、彼の恋人の勤務先にも現れるようになる。
 ここまで来ると、最初は面白がっていた彼の恋人も、プチッときれて、彼を引きつれ、小夜子のダンナにぶちまける。「あなたの奥さんが何をしてるか知ってるんですか?ストーカーですよ」

 小夜子が、その若い男性美容師に好意を持っているのは事実だが、2人の間に何があった訳でもない。男性美容師は、だた髪をカットして、後で「またよろしく」の営業メールを送っただけだ。小夜子の彼に対する気持ちは、恋愛感情というより、執着といった方が正しい。うーん、しかし、ただ髪をカットしてもらい営業メールをもらっただけの男に、そんなに執着できるかな。
 できるんだろう。ある事件を思い出した。


 ずいぶん前の事件だが、運送会社の経理に勤める20代の女の子が、総額2億円ほどの会社のお金を横領し、男に貢いだ事件があった。(その女の子が名古屋在住だったので、よく覚えている)
 よくある横領事件だが、驚くべきことに、なんと、この2人、一度も会ったことが無いのだ。彼らが顔を合わせたのは、逮捕起訴され、裁判で顔をあわせたのが初めてだったという。信じられる? 一度も会った事ない男に、2億円貢ぐなんて。
 出会い系サイトで知り合って、男は、全く別人の男性モデルの写真を自分のだと言って、女の子に送ったという。
 お金も、最初は5万10万が、膨らんでいったのだろう。

 それにしても…。男の騙す手管が上手いというより、女の子の中にある執着気質が、どうしようもなく大きくなっていたんじゃないだろうか?
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有栖川有栖「江神二郎の洞察」

2013-10-21 15:21:36 | Weblog
 江神さんやアリス、望月、織田の、英都大学推理小説研究会EMCシリーズって、私、勝手に筆者・有栖川有栖の学生だったころを時代背景にしていると思い込んでいたが、違うんだ!!
 アリスは、筆者より10歳年下で、1988年4月に大学に入学したことになっている。
 望月や織田は、1つ年上の経済学部2年。長老・江神さんは27歳。入学したのが20歳で、その後、何年も留年しているという設定。大学って、トータルで8年ぐらいしか在籍できないんじゃないかな。じゃ、江神さんも、そろそろ…。

 この江神さんの複雑な家庭環境については、『女王国の城』という長編に少し書かれているが、それでもハッキリしない。
 とにかく、学費を出してくれる親じゃないから、江神さんは、せっせとバイトを掛け持ちしているが、私大の学費+生活費を稼ぐのは難しいんじゃないだろうか?
 それとも、大学入学前の2年間に、そうとうお金を貯めたとか。
 ああ、この江神さんについて、妄想しだすと、眠れなくなります。

 この『江神二郎の洞察』は、アリスの入学からマリアの入部までの1年間を、瑞々しく描いた短編集。
 デビュー作『月光ゲーム』もそうだけど、一種の青春小説ですね。でも、女の子は邪魔なような気が…。『月光ゲーム』では、どっさり女子大生が出てくるし、この短編集でも、最後の方はマリアが登場するけど、紅一点が無い方が、ピシッと作品が締まるような気がします。
 これは、私の同性に対する妬みでしょうか?

 もちろん、正統派の本格推理小説としても楽しめる。死体も密室もダイイングメッセージも出てこないけど。
 特に、望月がノートを盗んだ犯人と間違われた事件(瑠璃荘事件)の、真犯人を暴く、江神さんの推理は、本当に論理的でカッコよかったなぁ。事件そのものはショボイけど。
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Keiの浅知恵

2013-10-17 14:29:40 | Weblog


最近、不用品のリサイクルに凝ってます。特に、このコーヒーの空き瓶。瓶もしっかりしてるし、フタも使いやすいので、再利用している人も多いのではないでしょうか?
洗ってラベルを剥がして乾かして…だけでなく、MeuMeuと彫刻してみました。1階の作業場に、ほこりをかぶった彫刻機があったので。
Mew Mewって猫の鳴き声のことらしい。猫好きの人多いから、ちょっとしたプレゼントにいいよね。
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メフィスト編集部・編 「0番目の事件簿」

2013-10-16 09:26:25 | Weblog
 このアンソロジーは、ちょっと異色。
 11人のミステリ作家が、デビューする前に書いた自作品に、執筆当時の思い出を語るエッセイを添えている。だから0番目。その11人のミステリ作家がすごい。

 有栖川有栖、法月綸太郎、霧舎巧、我孫子武丸、霞流一、高田崇史、西澤保彦、初野晴、村崎友、汀こるもの、綾辻行人

 ね、すごいでしょう?
 デビュー前の作品だから、完成度は低い。でも、雰囲気とか特色はそのまま。有栖川や法月は論理的。綾辻はミスリードがうまい。
 それに、執筆当時の背景を書いたエッセイも興味深い。

 ほとんどの人が、大学のミステリ研究会みたいなサークルに所属していたんだ。特に、綾辻、法月、我孫子たちがいた、京都大学推理小説研究会は有名。正会員ではないが小野不由美が遊びに来ていたみたいだし、別の大学だが、京都には同世代に有栖川がいたしね。
 すごいなぁ。漫画家にとってのトキワ荘みたい。まさに青春グラフティ。誰か、当時の事を書いてくれないかな。

 それに、ちょっとした内輪話も面白い。
 名探偵・法月綸太郎は、最初は法月林太郎だったらしい。それを、島田荘司の勧めで、綸太郎にしたとか。
 そうそう、霧舎巧のペンネームも、島田荘司が命名したんだそうだ。


 作品としては、我孫子武丸の「フィギュア・フォー」がバカバカしいけど、一番好き。殺されて倒れこんだ男が、不可解なポーズをとっている、一種のダイイングメッセージなのだ。死にかけた男が薄れゆく意識の中で、犯人を示すために、これだったらやるかもしれないと思わせる。
 でも、私から上の年代の人じゃないと、理解できないかな。
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