ケイの読書日記

個人が書く書評

西村京太郎 「天使の傷痕」 講談社文庫

2020-03-25 13:08:59 | その他
 西村京太郎といえば十津川警部シリーズ。テレビの2時間枠ドラマでおなじみだが、私としては全く読みたいとは思わない作家さんだったが、この西村京太郎の出世作「天使の傷痕」は第11回江戸川乱歩賞受賞作で素晴らしく面白いというレビューを見て、読んでみることにした。
 第11回江戸川乱歩賞と言えば、昭和40年の作品なのだ。古いなぁ。私が7歳の時じゃないか!
 小説内では、電話などは、個人の家にはあまり引いてなくて、会社に電話しても交換手に繋いでもらうというアナログさ。
 新聞記者が、正義の味方のようなブランド力のある魅力的な職業だった時代。
 沖縄に行くのにパスポートが必要だった。沖縄がまだ日本に復帰していなかった時代。
 でも、戦後20年。国内ではほとんど戦争の傷跡が感じられない時代。やっぱり昭和40年ごろの話だよ。

 新聞記者の田島は、武蔵野の雑木林で、デート中に殺人事件に遭遇。被害者は「てん」と呟いて息を引き取った。「てん」とは何をさすのか? 田島は新聞記者として、警察とは別に事件を追うが…。

 かなり初めの方で、誰が犯人なのか推測できるので「これが江戸川乱歩賞? ずいぶん大味だなぁ?」と怪訝に思うが、この小説の良さは犯人探しではなく、細かい手がかりのネタばらしでもなく、動機にある。
 この時期の江戸川乱歩賞選考委員長が松本清張だからか、すごく社会派の本格推理小説だ。
 昭和40年。まだまだ日本は貧しく、東北の中学卒業生たちが集団就職のために、東京方面に出てきていた時代なのだ。

 一読すると、西村京太郎も初期には良い作品を書いていたなと、評価を改めることになる作品です。
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米澤穂信 「氷菓」 角川文庫

2020-03-18 09:22:28 | 米澤穂信
 諸事情がありまして、ブログの更新が遅れています。もし、楽しみにしている方がいらっしゃいましたら申し訳ないです。

 この『氷菓』は、米澤穂信のデビュー作であり出世作で有名なので、読みたいと前から思っていたが、期待を裏切らない秀作。古典部シリーズと銘打っているが、古典部って何する所? 日本の古典を読む会なの? その疑問に、この本は最後まで答えていない。

 何事にも積極的にかかわろうとしない省エネ少年・折木奉太郎(おりきほうたろう)は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常の謎を次々と解決していく。本当に些細な事件とも言えない事件がほとんどだが、33年前に古典部で起きた事件の推理はなかなか見事なもの。1967年だったら、こういう事もあっただろうよ。

 ただ、この小説の魅力って推理部分以上に、青春ミステリって所にあると思う。古典部の面々は、主人公の折木奉太郎、部長の千反田える、奉太郎の友人の福部里志、そして里志に言い寄っている伊原麻耶花の4人。全部1年生。男女比2対2。青春しちゃってるんだ。
 こういった爽やかでちょっぴりほろ苦い青春小説を読むと、私はどうにも落ち着かなくなる。自分のあまりにも灰色の高校生活を思い出して。過去は美化されるというが…私の場合、ならないね。ああ、恥の多い高校生活だった。身もだえするほど。

 『氷菓』というのは、古典部の文集の名称。文集の名前にしては変わってるでしょ? 氷菓って、アイスキャンディみたいな氷のお菓子の事だよね。これにも、ちゃんと意味があるんだ。33年前に古典部の部長が名付けた。
 その第2号の表紙を開くと序文が記されている。その最後に…
 「いつの日か、現在の私たちも、未来の誰かの古典になるのだろう」  いい言葉だ。
 遠い未来、今、私の住んでいる町が廃墟になって砂の下に埋もれてしまっても、誰か探検家がやって来て、わたしが付けている家計簿を掘り出し、西暦2020年にこの極東の島国で卵1パック188円だったのかと、調べる人がいるかもしれないね。
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北森鴻 「凶笑面」 新潮文庫

2020-03-08 17:30:54 | 北森鴻
 蓮丈那智フィールドファイル①。 このシリーズは前から読みたいと思っていた。前回UPした『ミステリ国の人々』 にも取り上げられていたので買ってみる。5つの短編が収められていて、表題作は『凶笑面』だけど、『不帰屋(かえらずのや)』が、一番出来がいいと思う。この『不帰屋』は、実は以前、なにかのアンソロジーで読んだことがあって、印象に残っていた。
 戦前、こういった伝承は日本のあちこちに残っていたんだろうなと思う。

 東北のある雪深い村に、東敬大学助教授の那智と、助手の内藤三國が招かれた。彼らの専門は民俗学。依頼主は、生家にある建物の調査を頼んできた。母屋から少し離れた江戸時代からある離屋(はなれ)が、いったい何に使われていたものか、民俗学的に調べてほしいというのだ。
 どうも昔は神事を行っていたらしいが、資料はない。依頼主は、ここで神事を行っていたのではなく、「不浄の間」として使っていたのではないか? それを証明してほしいと言う。(不浄の間とは、女性が生理の期間中、家族と隔離されて暮らす離屋)
 依頼主はフェミニストの論客で、女性蔑視の考えを毛嫌いしている。が、彼女の家族は、そんな依頼主に批判的である。

 那智や三國が家族の冷たい視線にさらされながらも、調査を進めていくと、驚くべき事態が展開する。依頼主が、離屋で殺されたのだ。しかも、離れ屋の周りには雪が積もっていて、そこに足跡は残っていない。完全な密室の中で。

 なかなか読み応えのある作品。とても悲しい神事だが、日本だけでなく世界中で似たような事が行われていたんだろう。大昔から。

 他にも、民俗学者である那智が述べる蘊蓄が興味深い。特に、フランシスコ・ザビエルが日本に初めてキリスト教を持ち込んだのではない、もっと前に、キリスト教は日本に入って来ていたという話。
へぇぇえ、そうなの? ただ、キリスト教が景教という名前で中国に広まっていたという話は、世界史の教科書で読んだことあるから、日本にも中国の景教が入って来ていたんだろう。ただ、さほど広がりを見せなかっただけで。
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有栖川有栖 「ミステリ国の人々」 日本経済新聞出版社

2020-03-02 17:02:17 | 有栖川有栖
 日本経済新聞に毎週日曜日に連載したエッセイをまとめたもの。推理小説に登場するキャラクター(主役・脇役を問わず)から作品を紹介している。
 一番笑ったのは、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』の門外不出の弦楽四重奏団。
 この作品は、私も読んだことある。推理小説とかミステリというより、壮大なハッタリ小説。そのハッタリを好む人と嫌いな人がいて、私は好む人だね。通称・黒死館といわれる豪壮な屋敷のハッタリもすごいし、そこの住人達、例えば当主の血統をたどると、天正訪欧使節団の千々石ミゲルがメディチ家の血を引くといわれるフランチェスコ大公妃に生ませた私生児の娘に行きつくという。ね?!すごいでしょ?

 この黒死館で殺人事件が起き、そこに乗り込むのは名探偵・法水麟太郎。この法水が、ファイロ・ヴァンスを100倍くらい面倒くさくした男で、紋章学、神学、神秘思想、西洋史、物理学、犯罪学、心理学などなど蘊蓄をひけらかし、ウザイったらありゃしない!

 筆者の有栖川有栖は「しゃべるたびに謎を増殖させる彼は、迷宮を作るために降臨したかのようだ」と書いてるが、激しく同意。
 最後まで何が何だか分からない。黒死館の住人は、殺されなくてもペストで死んでいくだろうなと思うような読後感。でも、私こういう雰囲気、好きだな。

 『黒死館殺人事件』は日本3大奇書の一つらしいが、他の『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』も紹介されている。この2作品も理解しようとするより、雰囲気を味わうことしか出来ない。私の場合。

 他に私が書名を知っていて、読んでみたいと思っているが、なかなかその機会が得られない作品が多数紹介されている。
 例えばエリス・ピーターズ『修道士カドフェルシリーズ』 仁木悦子『猫は知っていた』 都筑道夫『なめくじ長屋捕物さわぎシリーズ』 P・Gウッドハウス『ジーヴィスの事件簿』などなど。
 特に、仁木悦子の『猫は知っていた』は絶対読まなきゃ!今度予約しよう。でも、図書館は新型コロナウイルス防止のため、休館になっちゃったよ。残念。
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