ケイの読書日記

個人が書く書評

鮎川哲也「りら荘事件」

2008-06-27 11:17:58 | Weblog
 秩父の山荘に、夏休みを利用した7人の芸術大学の学生が遊びに来る。しかし、その初日から次々と殺人事件が起こる。
 そして、不思議な事に、死体の傍らにはトランプのスペードのカードが意味ありげに置かれていた…。
 
 最終的にこのカードはスペードの7まで使われる。すごい大量殺人。まるで金田一耕助状態。本当に殺したいのはほんの数人だが、自分がやった事を気付かれそうになると、つぎつぎ殺していく。


 私は、鮎川哲也の代表作「黒いトランク」よりも、こっちの「りら荘事件」の方が出来が良いんじゃないかと思う。
 「黒いトランク」は確かに本格物として、きっちりしているかもしれないが、時刻表や地図が出てきて読みにくい。

 この「りら荘事件」は大きなトリックは無いが、小さなトリックでもなかなか工夫されており、いたる所に伏線が張ってあって、アンフェアなところが無い。

 特に女流ヴァイオリニストの毒殺事件など、なかなか凝ったトリックだと思う。


 ただ名探偵”星影竜三”がどうも…ね。魅力に乏しい。全ての事件が起こってしまってから、その謎解きに登場するが、ぱっとしない。華が無い。
 名前からして、もう結構と思わせるような名前ですね。
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リチャード・ハル「伯母殺人事件」

2008-06-22 15:04:41 | Weblog
 倒叙推理小説の古典的名作なので、前から読みたいと思っていた。

 犯人が伯母を殺そうとして計画するその覚え書きという形式をとっているので、犯人探しもトリックも何もないが、それはそれで面白い。

 1930年代の英国ウェールズ地方。そこの地主階級のドラ息子が、自分の後見人になっている伯母を殺害して、自由と財産を手に入れようとするが、ことごとく失敗する。

 このエドワード・パウエルという放蕩息子は、表面的には大人しいのだが、性格破綻者というか境界性人格障害というか…アガサ・クリスティの小説にも、こういったタイプの青年はよく出てくる。
 自分はとても優秀だと思い込んでいるので、まわりが皆バカにみえる。

 医者とか弁護士ならともかく、普通の会社勤めを下等な職業として見下し、では自分の言う上等な職業に就こうと努力することは 全く無い。
 地主階級なので食うに困る事は無い。ぶらぶらしているが自分の育ったこのウェールズ地方を、ことごとく馬鹿にして、ロンドンやパリで独立して暮らしたいと思ってはいるが、そこまでの金は無い。
 (だけど、このバカ息子も伯母さんもそれぞれ専用の車を所有しているんですよ。1930年代の半ばなのに)


 いったい毎日、何をして時間をつぶしているのだろう?クリスティの小説に出てくる放蕩息子は、それでも英国の田園風景を賛美することもあり、散歩に行く事を楽しんでいたが、このエドワードは歩くの大嫌い。ずっと室内でフランスから取り寄せた卑猥な小説を読んでいる。

 ああ、私も殺されかけた伯母さんに心情的に似てきたね。
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島田荘司「切り裂きジャック 百年の孤独」

2008-06-17 13:12:07 | Weblog
 切り裂きジャックの事は、日本でもよく知られていて(劇場版・名探偵コナンにも出てきた)世界中では、研究書もどっさりあるらしい。
 以前読んだポール・アルテの『赤い霧』も、切り裂きジャックの事を題材にしていたし。

 1888年ロンドンで起きた事件だから、さすがに犠牲者の身元や、発見時前後の状況はしっかり記録されている。
 その年の8月から11月にかけて、街娼が5人、次々に殺害される。それだけだったらすぐ忘れ去られるが、特異なのはその手口。
 鋭利な刃物でノドを切り裂き、その後、腹部を切開、内臓をつかみだし、一部を切り取って持ち去る。

 特に5人目の被害者は室内で殺された事もあって(他の4人は皆、道端で殺されている)たっぷり時間をかけて解体し、内蔵をテーブルに並べ、一部は壁の釘に吊るしてあったそうだ。

 そして犯行は、この5人目を最後にピタッと止んだ。そして捕まっていない。
 一体犯人は誰なんだろう? 何処に行ってしまったんだろう? それを島田荘司は斬新に推理している。

 確かに、なぜ腹を切り裂いたか? なぜ犯人の行方が知れないのか? ある程度の説明にはなっている。でも…やっぱりその説は無理がある。


 成人女性を素人が、そんな手際よく切り裂けるだろうか? そんなことできるはずが無いと思っていたら、東京都江東区のマンションで、33歳の男が23歳の女性を殺して、細かく切り刻みトイレに流したという事件があった。
 驚くべきはそのスピード! そんなに簡単にミンチに出来るんだろうか?
 それとも専用の器具でも買ってあったんだろうか? トイレに流すって事はよほど細かくしたはずだ。
 詰まったら業者を呼ばなければならないからアウトだね。

 人間、追いつめられればどんな事でも出来るんだろうか。恐ろしいです。
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ディクスン・カー「緑のカプセルの謎」

2008-06-12 10:17:03 | Weblog
 カーにしてはめずらしく密室物ではない。毒殺物。
 作品の終わりの方にフェル博士の毒殺講義があり、これが結構有名らしい。固有名詞が沢山でてくるが、これって皆、実在した毒殺犯なんだろうか?

 毒殺というと女性が犯人、というイメージがあるが、どうしてどうして男もやってますなぁ。

 フェル博士は、毒殺こそ「見つかりやすい、バカバカしい犯罪」と述べている。発覚したらそうかもしれないが、自然死や病死というように判断され、見つからない毒殺というのは結構あるかもしれない。


 なんていったって、林真○美が犯人として捕まった毒カレー事件も、最初は町内会主催の夏祭りで出されたカレーで食中毒!! というニュースだったのだ。
 あれも、死者が出ず、入院くらいだったらそれほど調べなかっただろう。
 食中毒の原因菌も特定せず発表するなんて、保健所っていい加減なんだなぁ、と思った覚えがある。


 さて、話を本作品に戻そう。
 小さな村の菓子店で、毒入りチョコレートが売られ、子どもが犠牲になった。ところが、その地方の犯罪研究を趣味とする名家の主人が、毒殺事件のトリックを発見したと称して公開実験を行なう。
 しかし、その最中に当の本人が緑のカプセルを飲んで毒殺されてしまった。

 容疑者も少なく、動機もわかりやすいので、犯人の目星はつくが、さて、この強固なアリバイをどうやって崩そうか?
 なかなか考えさせられる。
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綾辻行人「黒猫館の殺人」

2008-06-02 09:18:19 | Weblog
 ホテル火災で記憶を失った老人が、自分が何者なのか調べて欲しい、と推理作家の鹿谷門実に依頼する。

 唯一の手掛かりは、彼が自分で書いたと思われる手記。そこには『黒猫館』で彼が遭遇した奇怪な事件が綴られていた。

 ミステリアスなストーリーで、どんどん話に引き込まれるが、なぜもっと調べないのか、まどろっこしい所も多い。
 例えば、手記の中で、フルネームや職業や大学名といった固有名詞がきちんと書かれているなら、老人は偽名でもその身元など、個人でも簡単に分かりそうなのに。
 バンド名が分かっているなら、そのボーカルを訪ね話を聞き、他のメンバーの大学名や住所など特定できるだろう。
 その人が亡くなっていたり、連絡が取れなくなっていても、その友人や知り合いを訪ねれば、去年の夏、彼らがどこら辺を旅行したか聞きだすのは難しくないだろう。

 だいたい、大きなホテル火災の被害者だったら、テレビ局が飛びついて老人を大写しにし、「火事で記憶を無くしてしまった。自分が誰か分からない。心当たりの人は連絡して欲しい」と大々的に放送するだろう。

 なんといっても記憶喪失はドラマチック。ピアノマンだってロマンチックにでっち上げられた事柄が、世界中を駆け巡ったではないか。
 実際のところ、仮病だったけど。
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