ケイの読書日記

個人が書く書評

雨穴 「変な家」 飛鳥新社

2022-04-26 14:23:04 | その他
 新聞に大きく広告が打ってあり、面白そうなので読んでみた。

 帯に「あなたは この間取りの謎が解けますか?」「この家、何かがおかしい」とある。その不可解な間取り図が表紙になっていて、ふんふん、ここの玄関から入ってすぐにリビング、ダイニングテーブル、イス、ソファが置いてあり、階段を上がって2階に行くと、すぐに脱衣所お風呂があって(そうか、最近の家ってお風呂を2階にする事が多いんだ。リビングを広くしようとすると、そうなるのかな)廊下をつきあたると右手にドアがあり、そこを開けるとベッドルームや洋室や子供部屋があって…あれ?中央にある大きな部屋は子供部屋らしいけど、この部屋は全く外に面していないし窓もない。明かりをどうやってとるんだろう?真っ暗じゃないか、天窓でもあるのかな?まさか昼間でも電灯をつける設計?
 それにこの部屋、1階から上がって来て1、2、3 3つのドアを開けなきゃ入れないよ。なんでこんなめんどくさい事をしたんだろ?

 確かに、気味の悪い間取り。

 主人公の知人が、この中古住宅を買おうとして主人公に相談する所から、この話が始まる。後半は、ちょっと荒唐無稽な箇所が多く、いくらなんでもストーリ展開が強引すぎると思うが、この間取りから始まるストーリー導入部には、すごく惹きつけられます。

 「この間取りの謎を解け!」とかいう懸賞小説でも募集したら、いろんな解答の小説が読めそう。
 私だったら…そうだなぁ、精神的に不安定な我が子のために作った部屋とかね。その子が極端に人の視線を気にし、人に見られる事を怖れる子だった。また親の方も、近所の目を気にして人目に触れさせないようにした。窓がない部屋の方が、その子にとって落ち着く。でも、全くお日様に当たらないと、精神がますます病むだろうけど。

PS. マウリポリの地下壕に逃げ込んでいる人たち、お日様を浴びたいだろうにね。早く戦争が終わりますように。
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垣谷美雨「うちの子が結婚しないので」新潮文庫

2022-04-21 15:09:18 | その他
 少し前に話題になった本。うちの子が結婚しないので困ってる親って、いっぱいいると思う。

 主人公の福田千賀子は50歳代後半で、同い年の夫と28歳の娘がいる。この人、この年齢の女性としては職業がすごいんだ。SEで派遣社員として、あちこちの企業に出向いている。派遣会社の正社員で、能力が高いので仕事が途切れず、なかなかのお給料をもらっている。
 公務員とか大企業勤務ならともかく、民間企業でこの年齢で正社員って、立派な事だと思うよ。
 夫は大学の同級生。2人とも地方出身者で、共働きで頑張って都内にマンションを購入。一人娘は中学から私学に入れた。夫婦仲もよく、娘は素直な子で、学力や容姿はパッとしないが、就職が難しいなかアパレル企業に勤めている。
 その娘がなかなか結婚しそうもないので、親の方が焦って親婚活を始めることになった。こういう場合、母親が先走って父親が引きずられて行くのが普通だろうが、福田夫妻は逆なのだ。夫の方がさっさと決めていく。
 で、娘は最初いやがっていたが、職場が婦人服の店舗で周りはみな女性、出会いが無いのは分かっているので、しぶしぶ承知。親婚活と同時に婚活パーティにも参加し始める。

 親婚活って、娘や息子は出てこないんだ。子どもの身上書を持って会場に行き、良さそうと思われる親御さんと身上書を交換。家に持ち帰って子どもに見せ、会ってみたいと言われたら連絡し、お見合いする日時・場所を決めるらしい。
 もちろん誰とも身上書を交換できないこともあるし、その逆に沢山の身上書を交換できることもある。当たり前か。

 どうかなぁ。普通の婚活パーティだと、既婚者なのに独身のフリをして会場に来る人もいるらしいが、親婚活だと、さすがにその可能性はないだろう。そういった意味では安全だけど、あまりに相手の親が前面に出てくると、家と家の結婚になってしまうような気がするな。ほとんどの女が「妻にはなれるが嫁にはなれない」のにね。

 千賀子の一人娘は、親の頑張りもあって結婚が決まった。「不幸な結婚をしないためにも、親の目は重要な役割を果たすはずだ」と千賀子は言う。でもね、躓いてみなければ、何に躓くか分からないものよ。
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太宰治「おさん」「家庭の幸福」「桜桃」

2022-04-10 14:42:30 | 太宰治
 これら3編は太宰の最晩年の短編。3編とも、愛人のいる夫・その妻・彼らの子どもたちといった家庭を題材にしている。もちろん小説であって創作だが、太宰の私生活が色濃く反映されている…と思われる。

 この夫は出掛けたら何日も帰って来ず、金遣いが荒く、大酒のみだが、暴力はふるわない。妻も、お金は夫が遣ってしまうので貧乏に苦しんでいるが、ヒステリーを起こすわけでもなく淑やかな良妻賢母だ。子どもたちも両親に懐いている。お金は無いが絵に描いたような素敵な家庭だが、夫婦の間には、目に見えない神経戦が始まっている。それが彼らを疲弊させている。でも、ほとんどの夫婦はそうじゃない?
 「家庭の幸福は諸悪のもと」なんて書いてある。だったら結婚するなよ。自分の意志で結婚したんだろう。

 太宰の不幸は…女にモテすぎる事なのかなぁ。作中の人物にも「自殺の事ばかり考えている」「自殺したい」なんて言わせているが、そんなに死にたいなら、なぜ一人で死なない?女に引きずられなきゃ、死ぬことすらできなかったんだよね。
 自分一人で死ねないんだったら、やっぱり心の底では死にたくなかったんだよ。

 神奈川県座間市で、10人近くの死にたいと言ってる若い人を殺した男がいたけど、彼が言うには「本当に死にたい人は一人もいなかった」らしい。「死にたい」と外に向かって発言するという事は、誰かと繋がりたいという気持ちの表れ。結局「死にたいほど辛い」「死にたいほど苦しい」という事で、本当にこの世とバイバイしたい訳じゃないんだ。
 太宰も女性と情死する間際、くだらない事やってるなぁと後悔したんじゃないだろうか。太宰ファンには怒られるかもしれないが。
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太宰治 「ヴィヨンの妻」

2022-04-03 15:44:23 | 太宰治
 ヴィヨンって誰だろうと思ったが、どうも15世紀フランスの詩人フランシス・ヴィヨンという人のことらしい。この人は、フランス近代詩の祖といわれるほど高名な人らしいが、買春、詐欺、窃盗、強盗、殺人、なんでもござれの無頼の徒だったようだ。

 この「ヴィヨンの妻」の主人公・大谷も自称詩人で、さすがに殺人までは犯してないが正真正銘のろくでなし。あちこちの酒場に顔を出しては大酒を飲み代金を払わず、亭主の目をかすめては女将とねんごろになる。
 終戦後の昭和21年22年ごろの話で、食糧事情も悪く、酒類も出回っているはずないけど、質は悪くてもある所にはあって、大谷はそれを嗅ぎつけ浴びるほど飲むのだ。代金は情婦に払わせて。

 この自称詩人の大谷は、なんでも旧男爵家の次男坊で、学習院から一高帝大と進んだ秀才で、詩人としても有名。なので周りの女がみんなのぼせ上って貢ぐから、ますますロクデナシになっていく。そうだよねぇ、身を持ち崩した高貴な男って本当に魅力的。こういう男は遠くから眺めているに限る。近づいたら身の破滅。

 大谷の妻は、妻と言っても籍は入っておらず、3歳の坊やを抱え苦労している様子。彼女はもともと父親とおでん屋をやっていたので、接客業には向いていて、大谷が金を盗んだ店で働くことになった。そこに大谷が再び現れて、奥さんのツケでまたタダ酒を飲んで…。
 でもまあ、お互い、好きでやってるんだから、周囲がとやかくいう事じゃないか。

 太宰が疎開先の津軽から東京の家に帰ってきたのが昭和21年。彼が情死したのが昭和23年6月。その間にこの「ヴィヨンの妻」のような短編をどっさり書いて、その上代表作の長編「斜陽」「人間失格」を書いたんだから、凄いよね。神がかってる。小説家にはそういうときがあるんだね。
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