ケイの読書日記

個人が書く書評

村田沙耶香 「殺人出産」 講談社

2017-07-09 16:58:55 | 村田沙耶香
 芥川賞を取る前の村田沙耶香の話題作。
 近未来の日本。少子化で人口が減るのを食い止めようと、政府は「10人産めば、1人殺してもOK」という法律を作る。この時代、人工子宮があるので、男でも人工子宮を取り付け出産することもあるらしい。
 どうしても殺したい相手がいる場合、子どもを10人産んで役所に殺人届を提出する。翌日には、殺す相手に電報で通知がいく。殺される相手は拒否できない。自殺はできる。逃げても逃げ切った人はいない。1か月後、役人がやってきて連れていかれる。

 うーーーん、そんな時間がかかる方法を使わなくても、子どもがいる方がうんと経済的にお得な制度にすればいいんじゃない? 例えば、3人産めば3LDKの家賃がタダになるとか。
 だいたい、人工子宮があるなら、人工妊婦だってできて当然だし、人間は卵子と精子を提供するだけ、あとは人工子宮と保育器におまかせといった世の中になってると思う。
 
 政府は人口減に危機感を持っているという話だが、政府が欲しいのは、納税してくれる人間であって、税金をいっぱい消費してしまう人間が増えても困る訳よ。人工子宮と保育器で誕生した赤ちゃんは、成人するまで多額の税金を必要とするだろう。なにしろ親の無償の育児がないんだから。

 そういえば、タイで赤ちゃん牧場みたいな事をやってた若い日本人カップルがいたなぁ。貧しいタイ女性にお金を払って代理母になってもらい、十何人もの赤ちゃんをマンションで育てていた。カップルのうち女性は、性転換手術をして女性になった人らしく、出産能力が無い。男性の方は大金持ちのお坊ちゃんらしい。あの人たち、どうしてるんだろう?


 他にも『トリプル』『清潔な結婚』『余命』が同時収録されている。特に『トリプル』が刺激的。近未来の日本では、カップルでつきあうよりトリプル(つまり3P)でつきあう方が一般的になっているという話。
 そういえば、高校生の時、社会科の授業で、原始の世界では群婚が当り前と聞いたなぁ。男の群れと女の群れが結婚し、生まれた子供は父親が特定できないので、群れの子どもとして皆で育てたらしい。
 ということは…トリプルは先祖返りなのか?
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村田沙耶香 「コンビニ人間」

2017-06-30 09:59:46 | 村田沙耶香
 芥川賞受賞作で、とても話題になった小説だから、読む前から大体のあらすじは知っていた。

 小さい頃から人づきあいが苦手な女性が、コンビニのマニュアル化された仕事内容には上手に適応し、快適に勤務していた。さすがに30歳代後半になると、周囲の「なぜ結婚しないの?」「子どもは産まないの?」「どうして正社員にならないの?」という雑音が大きくなり、それを避けるために、35歳の無職男を自分のアパートに住まわせる事にする。この無職男が本当にクズなんだよなぁ。
 ネット起業するとか大きな事を言うばかりで、まったく努力しない。コンビニ店員なんか最底辺の仕事と言いながら、その仕事もクビになる。
 女が男に寄生するのは、社会的に容認されているのに、男が女に寄生するのを非難するのはおかしいと、女性客を追い回す。

 この無職男もコンビニ女性も、社会非適応者といえる。しかし無職男は他者から認められたい、でも能力がなく認められない、という苦しさがあるが、コンビニ女性にはそれがない。他者に期待する事がないかわり、怒りや失望もない。淡々としている。
 だったら、周囲の雑音はスルーすればいいのに。


 この女性が、昔のクラスメートたちや彼女の夫や子供とバーベキューをする場面がある。彼女らは、赤の他人のこの女性に「結婚してないのにバイト?」「誰でもいいから相手見つけたら?」「婚活サイトに登録したら?」「婚活用の写真撮ろうよ」とどんどん話しかける。
 田舎に住む親せきのおばちゃんじゃないのに、ここは首都圏なのに、今時こんな失礼なことをポンポン言うだろうか?
 だいたい、付き合わなきゃいいんだよね。こういう人たちと。この女性は、友人たちとつるんでいたい人じゃないんだから。

 この女性は、少し非社会的な部分はあるが、決して反社会的じゃない。ちゃんと働いて、納税して、家賃払って家事して暮らして、何の文句がある?

  
 妹さんが世間向けの言い訳を考えてくれる。「身体が弱いから、就職じゃなくてバイトしている」でも弱い。30歳代後半になると「親の具合が悪い。私は長女なので、介護しなくちゃならないので正社員では勤められないの」が一番ピッタリの言い訳じゃないかな?
 それとか、ゲイで男性恋人はいるが、世間的に妻が欲しいという人と、形式的なカップルになるとか。
 色々やり方はあると思う。
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村田沙耶香 「きれいなシワの作り方~淑女の思春期病」

2017-04-08 08:37:38 | 村田沙耶香
 村田沙耶香のエッセイなんて珍しいなぁと思って借りたら、やっぱり初エッセイだった。
 『コンビニ人間』で、一躍、時の人になった村田沙耶香だけど、このエッセイ集は芥川賞をとる前の物。『アンアン』に連載されていたものに加筆・修正したらしい。『アンアン』かぁ。驚くなぁ。だって、全くイメージに合わないもの。
 私には、村田沙耶香はかたくなな文学少女という勝手な思い込みがあって、子供の頃や大学時代、教室内でポツンと一人で文庫本を読んでいる、という想像をしていたのだ。でも、この人、結構キャピキャピとした女子大生時代があったんだね。斬新なデザインの洋服を好み、彼の家に毎日通って、白いエプロンを身に着け、朝食と夕食を作って、彼が寝ている間そばにいて、優しくぽっぺたにキスして起こすなんて事、やってたんだ! すごいなーーー! 新婚さんでも、今時やらない。忙しいから。

 それに、お酒が好きで強いから、一人でバーにも行くし、アダルトショップにも一人で行っちゃう。海外旅行も好き。
 友人が少ないと書いてあるが、そんな事ない。「さやかちゃん、さやかちゃん」と呼び掛けてくれる友達がいっぱい。30代後半女性が〇〇ちゃんと呼ばれるのは、けっこう恥ずかしいと思うけど、OKの人もいる。

 世代的には、津村記久子と同じ、就職氷河期世代だけど、違うのは仕事観かなぁ。
 もちろん村田さんだって、ちゃんと仕事をしている。文章を書きながらコンビニでアルバイトを何年も続けている。ただ、津村記久子のような「どうしても正社員になりたい」「会社に入って、契約社員でもいいから、フルタイムで働くんだ」といった強迫観念みたいな強い意志は感じられない。
 ちょっと会社員を見下しているような…そんな雰囲気がある。(ご本人は否定するだろうけど)

 私が、村田沙耶香って本当にすごいなぁと感じたのは『しろいろの街の、その骨の体温の』を読んでから。その女子間のイジメのあまりのリアルさに驚いた。ちょっといないよね。こんなに書ける人って。
 この人も、女の子同士の修羅場をくぐりぬけてきた人なんだ。
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