ケイの読書日記

個人が書く書評

志賀直哉 「赤西蠣太」(あかにしかきた)

2020-07-10 14:25:29 | 時代物
 江戸時代初期、仙台藩で起こったお家騒動(いわゆる伊達騒動)をベースにした時代小説短編。
 
 伊達家の実権を握る伊達宗勝派のところに、赤西蠣太(あかにしかきた)という風采の上がらない侍がいた。その将棋友だちに鱒次郎という美青年侍がいたが、実はこの二人、反宗勝派からのスパイ。目立たぬように、いろいろ嗅ぎまわっている。
 悪事の証拠はそろった!さあ、仲間の所に戻ろうと思っても、スパイとバレてしまっては後々のために困る。ここは、武士として面目を失う事をしでかして出奔したという形をとろう、さて不面目な事とは…と二人は頭を捻り、美人で有名な腰元に醜男の赤西が付け文(ラブレター)を送り、手ひどく振られて恥ずかしくて出奔するというストーリーを組み立てる。
 ところが、美人腰元は蠣太のことを憎からず思っていて…という少女マンガのような展開に…。

 この伊達騒動というのは歌舞伎や小説、映画になっていて、宗勝派の敗北で終わる。
 主人公の赤西蠣太にとっては、苦労が報われめでたしめでたしだが、戦国の風がまだ抜けていない江戸時代初期だからか、結構荒っぽいんだ。秘密を知った按摩さんを切って捨てるとかね。

 敵対する勢力にスパイを送り込むなんてことは、よくある話だけど、江戸幕府と外様大名(特に薩摩や長州)の情報戦は凄くて、幕府は薩摩藩に『草』と呼ばれる隠密を送り込んでいる。よそ者は信用されないけど、何代にもわたって住んでいれば信用されるでしょ? そのうち藩の重役になったりして。こういった『草』であるという秘密も、当人が自分はもう長くないと感じたら、次の当主に口頭で伝達されるらしい。
 しかし…次の当主も困惑するだろうね。聞かなかったことにするかもね。
 江戸幕府270年の泰平は、こういった陰険な方法で保たれていたんだなぁとちょとと感心していたら、『ゴルゴ13』で似たような内容の話を読んだのだ。東西冷戦真っ只中の時代、ソ連が衛星国家であったポーランド及び他の東欧諸国に、スリーパーと呼ばれる何代にもわたるスパイを滑り込ましていたストーリー。
 これって本当かな?
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安達正勝 「物語 フランス革命」 中公新書

2017-08-15 14:21:52 | 時代物
 「バスチーユ陥落からナポレオンの戴冠まで」というサブタイトルが付いている。
 私は昔から、フランス革命が起こって、国王や王妃が処刑された後、国がどうなったかが知りたかった。ロベスピエールの恐怖政治が始まったというように教科書には書いてあったが、あまり詳しく載ってない。もちろん紙面スペースの関係もあるだろうけど、フランス革命という世界史上の大偉業の暗黒面を、教科書の執筆者があまり書きたくなかったんじゃないか?と、子ども心に思ったものだ。

 ロベスピエールとかサン・ジェスト、物語の主人公としては素晴らしいが、生身の人間として自分の隣にいたら…本当に迷惑だろうなぁ。
 ロベスピエールは真に高潔な人物だったのだろうが、高潔すぎる人間が不公正な世の中を正していこうとすると、大きな軋轢を生む。だいたい、不完全な人間が、完全に正しい社会を作り出す事なんか出来るわけないじゃん!!


 王や貴族、高位の聖職者たちを追い払い、さて、今度は自分たちが為政者だ、いままで苦労してきたんだから、ちょっとくらい良い思いをしたってバチは当たるまいとジロンド派の人たちは考えた。
 人間としてすごくまっとうな心理だよね。でも、貧しい人達にとっては、王や貴族がブルジョワジーに変わっただけで、圧政はなくならない、生活は苦しいまま。何のための革命だ、という事になる。

 本書の中には、民衆と国民を分けて書いてある。民衆というのはパリの最下層の貧しい人たち。彼らは武器を持って生活のために戦う。パリ以外の地方では、まだまだ保守的で、王党派の人もたくさんいた。


 ロベスピエールの時代(ジャコバン政府の時代)は、ジロンド派追放からテルミドールのクーデターまでの1年間らしいが、その間、ギロチンはフル稼働。多い時には1日に50人ほど処刑したというが、そんな事可能なんだろうか?それとも、何台もギロチンがあったんだろうか?

 1789年バスチーユ監獄が陥落(フランス革命の幕開け)から、恐怖政治の時代を経て、1799年ブリュメールのクーデターでナポレオンが政権掌握(革命の終息)まで10年。フランス国民はジェットコースターに乗ってるような動乱の時代だった。
 この恐怖政治時代の革命家たちの内部抗争って、あさま山荘事件の内ゲバと似ている。理想を高く掲げすぎる人間が集まると、内ゲバが始まるんだ。
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山本周五郎 「赤ひげ診療譚」

2016-09-08 17:25:41 | 時代物
 長崎遊学から戻った保本登は、本当なら幕府の御番医という出世街道を歩むはずだったが、江戸を留守にしている間、婚約者は他の男と駆け落ちし、御番医という話もうやむやになって、くさっていた。
 やけになっている保本を、小石川養生所の医長・赤ひげが呼びつけ、医員見習い勤務を命じる。

 小石川養生所は幕府が運営していて、貧しい人々を無料で診察していた。最下層の人間の現実を目の当たりにして、保本はここから逃げ出す事ばかり考えていたが、赤ひげの強靭な精神に次第にひかれていく。


 ずいぶん前、NHKのドラマで、この『赤ひげ』をやっていて、何回か見た事があった。赤ひげは小林桂樹、保本はあおい輝彦が演じていたなぁ。評判は良かったと思う。
 勧善懲悪、悪人はあまり登場せず、最後はまるく収まる短編ばかりなので読みやすい。

 江戸時代に、無料で病人を診る小石川養生所という所が存在していた、という知識はあったが、これってスゴイ事だよね。こういう無償の病院というのは、世界的にみると宗教団体が運営することが多いのだが、日本の坊主は何をやってたんだろうね。この短編集に収録されている『おくめ殺し』という作品には、さびれた寺の坊主たちが、近郊の地主たちとグルになって長屋の住民を追い出し、岡場所を作ろうとする話があった。
 有名な寺と花街というのはセットになっている。精進落としに花街でぱあっとやろう、という事らしい。とにかくこの小説の中には、名僧と言われる人は一人も出てこない。

 江戸幕府も色々な問題や矛盾を抱えていたと思うけど、なんせ15代・270年続いたのだ。それなりに、しっかり政治をやろうという人たちが多かったんだろう。
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