ケイの読書日記

個人が書く書評

山田ルイ53世 「一発屋芸人列伝」 新潮文庫

2021-02-26 17:24:20 | その他
 実はちょっと前、車でラジオを聞いていたら、盛んにワインの話をしていて、MCがゲストに樋口君、樋口君と呼び掛けているじゃないですか。あの芸人コンビ「髭男爵」の樋口君だったので驚いた。そういえば、ワインソムリエの資格を取ったとか聞いたような…。
 しばらく感慨にふけっていたら、数日たってNHKの生活笑百科にゲスト出演している髭男爵本人を見かけた。二人ともピンでやってるんだ。いや、コンビ解消したわけじゃないだろうが、コンビで仕事はなかなか無いらしい。

 本書は、髭男爵・山田ルイ53世が、一発屋と呼ばれる12組の芸人に取材し、彼らの今に迫っている。

 「一発屋」をそんなに否定的にとらえる必要はないんじゃないかな?というのが、率直な感想。芸人でもアイドルでも俳優でも、一発屋で無い人ってほんの一握りだよね。ほとんどの人が、一発どころか不発で舞台を去っている。いや、そもそも舞台にすら上がれないまま去っている。
 ブームが終わり、後は闇が待っているかもしれないが、山、高ければ、谷、深し。打ち上がった花火があまりにも大きくてキレイだったので、その後を暗く感じるだけだよ。野菜でも果物でも人間でも、旬はある。ずーーーっと旬な人の方がおかしいよね。

 それにしても、レイザーラモン、コウメ太夫、テツ&トモ、ジョイマン、ムーディ勝山、天津木村、波田陽区、ハローケイスケ、とにかく明るい安村、キンタロー、スギちゃん、ああ、懐かしい面々だ。当時、子どもたちがお笑い番組が大好きで「エンタの神様」とか「爆笑レッドカーペット」をよく見ていたので、私にも顔なじみ。
 特に波田陽区の「ギター侍」は、メチャクチャ流行ったね。爆発的に流行った。「言うじゃなーい?」「残念!」「斬る!」 日本中の子どもたちが寄ると触るとギター侍の決め台詞を真似していた。すごかった。
 だから、これでいいんだよ。他の人が出来ない事をやったんだから。「終わった人」扱いしちゃうけど、あんなブームがまた来たら困ると思うよ。

 山田ルイ53世の同業者に向ける辛口コメントより、文庫解説を書いている尾崎世界観の文章の方に、ほろりときます。この人、ミュージシャンなんだってね。ごめんなさい、私、そっちの方に疎くて。「自分はいつだって選ばれる側だから、選ぶ側が放つ空気にはどうしても敏感になる」 そうだろうなぁ。
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川端康成 「ゆくひと」

2021-02-19 14:42:21 | 川端康成
 「ゆくひと」との題名なので、死んだ人の話なのかな?と思って読んだら、お嫁にゆくひとの話だった。1940年(昭和15年)発表の作品。
 15歳くらいの少年が、少し年上の親戚のお姉さん(たぶん従妹)にいだく淡い思慕の情を書いてある。

 場所は浅間山の見える軽井沢の、少年の家の別荘。日中戦争はすでに始まっていて、あと少しでアメリカと開戦という時期だが、裕福な家ではまだまだ別荘ライフが楽しめたんだろう。
 少年は別荘のベランダで、もうすぐお嫁に行く親戚のお姉さんと、浅間山の噴火の情景を眺めている。噴火はいつもの事で、緊迫した雰囲気ではない。少年にとって、お姉さんがよく知らない人の所へお嫁に行く方が緊迫した出来事。
 お姉さんは、どうやら小さい頃、お母さんを亡くして暮らしぶりはさほど裕福ではないようだ。だから結婚を断れなかった? それか、戦地に行く男性に是非にと望まれたのだろうか? 当時、赤紙が来た男性から結婚を申し込まれたら、断る事は難しかったようだ。日本国中、そういった結婚はいっぱいあったのだろう。

 実は、川端康成と軽井沢と別荘って、私の中で一本の線で繋がっている。
 私が20歳くらいの時、友人と軽井沢へ旅行に行った。友人のお父さんはNHKに勤めていて、NHKの保養所を従業員家族は安く利用できた。私もそれに便乗して、利用させてもらったのだ。(もちろん家族よりも少し割高な料金だけど)
 憧れで胸を膨らませて降り立った軽井沢の駅は、寂れていて驚いた。でも当たり前か。お金持ちは車で来るんだもの。鉄道なんか乗らないよね。気を取り直して宿泊先に向かって歩き出したが、歩いても歩いても辿り着かない。ひょっとして道を間違えた?と心配した。当時はスマホの道案内もなかったし。小1時間ほど歩いたんじゃないかな? 今では良い思い出です。
 有名な万平ホテルを外から眺め、別荘地をあれやこれや散策し、有名人の別荘を見つけて友人と2人で盛り上がった。その中に、川端康成の別荘もあったような…。

 その時、一緒に行った友人とは、今でも仲良くしています。
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宇佐見りん 「推し、燃ゆ」 河出書房新社

2021-02-12 15:15:36 | 宇佐見りん
 第164回芥川賞受賞作。受賞作だから読むのではない。受賞する前から、新聞の書評を見て読みたいと思っていた。「推し」という言葉に、どうしようもなくシンバシィを感じて。読んでみて、予想はしていたが、これは壮絶な物語ですなぁ。

 あかりは女子高生。小さい頃から家でも学校でもパッとしないボンヤリした子だった。それが、アイドルグループの一員、上野真幸と出会う事で(もちろんDVD上)強固な芯が体の中を一本貫いて、莫大なエネルギーが自分自身の奥から湧き上がるのを感じる。

 その推し・上野真幸くんが炎上した。ファンを殴ったらしい。SNSで大騒ぎ。TVのワイドショーで、推しはフラッシュに晒され疲れているように見える。コメント欄ではファンとアンチがせめぎあっている。「ライブも何度も行ったけど、金輪際見ません」という人もいるが、あかりの気持ちは揺るがない。
 CDやDVDや写真集は、保存用と観賞用と貸し出し用に常に3つ買う。放送された番組は、ダビングして何度も見返す。テレビ・ラジオであらゆる推しの発言を聴き取り書きつけたファイルは20冊を超えている。
 あかりは推し・真幸くんの見る世界をそのまま見たかった。

 結局、沈静化していき、しばらくして真幸君はアイドル活動を再開する。しかし離れて行ったファンも多い。所属しているアイドルグループの人気投票では以前は常にトップだったのに、今回は最下位。
 彼らの2000円の新曲CDには、投票券が付いている。あかりはバイト代をつぎ込んで15枚買って、すべて真幸くんに投票したが、最下位だ。ああ、もっとバイトしてもっとCD買ってもっと投票すればよかった、と激しく後悔する。
 でも買うのはCDだけじゃない。DVDもグッズも買うしライブにも行く。だからお金はいくらあっても足りないのだ。
 
 あかりのバイト先は、昼は定食屋、夜は居酒屋になる。あかりは要領も愛想も悪いので、いつも店長やオーナーに怒られてばかり。

 そんなあかりも、真幸くんの事を書いているブログは、ファン同士の交流の場になって頼りにされている。そのブログに、同じ真幸くんファンが暮れたコメント「真幸くん、最近人気落ち気味だけど、今こそファンの底力を見せないとだよね。がんばろまじで!」
 ああ、心に刺さる。私も感情移入しちゃって苦しいです。
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川端康成 「花のワルツ」

2021-02-05 16:46:52 | 川端康成
 一昔前の少女向けバレエマンガみたい。昭和11年に発表された。あと5年で真珠湾攻撃という時代でも、バレエを習っている女の子って結構いたんだ。

 鈴子と星枝という2人の若いバレエダンサーが出てくる。鈴子は、貧乏な家の娘だが踊る事が大好きで、先生の内弟子となってバレエ教室の手伝いをしながらバレエを続けている。一方、星枝は裕福な家の娘で、勝ち気でムラッ気があり周囲を振り回すが、才能がある。ただ才能が有りすぎて、踊りにのめり込むことができない。バレエにさほど情熱を燃やせない。

 彼らの所属する竹内バレエ団は、知名度も実力もあるのだが、経営状況は厳しい。なぜなら、弟子の南条という才能のある青年バレエダンサーに期待をかけて、5年間ヨーロッパに留学させたのだ。費用は全部竹内先生が出して。そのおかげで家も抵当に入るし、あちこちに借金もできたが、竹内先生は、南条が帰ってきたら華やかにお披露目し彼を中心に据えるので、経営も持ちなおすと信じている。
 その南条が帰ってくることになって…。

 努力の人と才能の人の戦いか…? とも思ったが争いにならない。才能のある人は全くヤル気が無くて。「私は平凡でいたいの。もう一生、二度と踊りませんから」と言って。

 南条を巡り二人の美女の戦いが始まれば、これはもうレディスコミックだが、そんな単純な話ではない。
 この南条の帰国は、洋行帰りといった華々しいものではなかった。日本で多少才能があったとしても、西洋で認められるのは至難の業で、実際、彼は5年間フランスでひどく惨めな生活をしていたらしい。(渡欧する前、バレエ学校への入校手続きをしなかったんだろうか?)
 ろくに食事もとれず、寒さと湿気でリュウマチに罹ってしまい歩けなくなって、松葉杖をついてバレエを断念する所まで追い詰められていた。
 そういった事って多かっただろうね。実家がすごく金持ちで、たっぷり仕送りがある人はともかく、お金をかき集めてなんとかヨーロッパに送り出しても、後が続かない。当時の日本とヨーロッパの為替相場を考えても、相当な資産家じゃないと無理だよ。

 竹内先生は期待をかけていた分、怒り心頭だろう。でも南条本人が一番苦しいんだろうが。
 そんな南条が、星枝の踊りを見て再びバレエへの情熱を取り戻したのだ。そして…。
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