ケイの読書日記

個人が書く書評

後半の方が面白い!! 岸本葉子「江戸の人になってみる②お江戸の1日」

2014-10-29 09:37:20 | Weblog


 前半の①「お江戸の1年」では、文章が堅かったので、なかなか読めず苦労したが、後半の②「お江戸の1日」は、筆者の筆も滑らかで、わたしもサクサク読める。

 筆者・岸本葉子が空想の中で、江戸の裏長屋に住む独身の寺子屋女師匠になり、江戸の1日を過ごす、という設定。寺子屋の先生というと、浪人しているお侍を思い浮かべるが、幕末だと1割弱くらいが、女性のお師匠さんだったという。今でいうキャリアウーマン。

 江戸時代の基本的な長屋の間取りは、四畳半に流しと土間が付いただけだから、とっても狭い。だいたい荷物など、ほとんどない。着物は着たきり雀の1枚きりで、それを秋になると裏地を付け、冬になると綿入れにした。
 トイレ、井戸は共用。お風呂は銭湯で。この時代、よっぽどの上級武士の家しか、家に内湯はなく、大店の娘も、中級下級武士も、みな庶民と一緒に銭湯に入った。
 大勢の人が入るから、湯は汚れていて、風呂おけの底など、砂でじゃりじゃりしたらしい。

 洗髪禁止。ええっ?!と驚くけど、そうだろう。大量の湯を使うし、あちこちに汚れが飛び散る。だいたい、洗髪の習慣があまりないみたい。それでも、江戸の女は、1か月に1度くらい、晴れている日をみつくろって自宅で髪を洗ったようだ。


 一番気になるのが化粧法。鉛が原料の白粉は、やはり庶民には高嶺の花で、すっぴんの人がほとんど。しかし、既婚女性はお歯黒だけは欠かせない。(出産すると眉を剃り落す風習もあった)
 TVの時代劇は、この辺を全く再現していないので、奥方様が笑うと真っ白い歯がこぼれるが、江戸時代ではありえない。これって、かなり不気味なメークだよね。
 でも当時では、いい年をして歯が白いと、かえって恥ずかしく世間体もあるので、未婚でも歯を黒く染めたとか。

 この本では「お歯黒には歯や歯茎を守る効果があった」と書かれているけど、私が以前読んだ別の本には、きちんとした歯ブラシも歯磨き粉もない江戸時代、女性は出産のために歯が悪くなることが早く、それを隠すため、お歯黒が有効だったのだろう、と書いてあった。 どっちが本当なんだろうね。どちらにしても、奇習です。

 なんにせよ、江戸の平均年齢は、乳幼児で死ぬ子を除いても、推定で男性45歳くらい、女性40歳くらいだそうです。女は出産で死ぬ人が多かったから、男より低くなる。
 なんだよ、信長が「人生50年」と謡って舞ったというけど、それよりも低いの?
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岸本葉子「江戸の人になってみる ①お江戸の1年」

2014-10-23 16:11:43 | Weblog
 タイトル通り、エッセイストの岸本葉子さんが、『絵本江戸風俗往来』という江戸末期の古本を片手に、東京に残る江戸の風情を探しに、浅草寺の花祭り、駒込の富士塚、向島百花園のお月見、鷲神社の酉の市などを訪ね、江戸の暮らしに思いをはせた一冊。

 正直、中部の地方都市に暮らしている私にはピンとこない話題もあるが、首都圏在住の人だったら「ああ、アレが…」と思い当たる事も多いのでは…。

 例えば『富士塚』。これは前にTV番組の『世界ふしぎ発見!』で取り上げていたから、私も興味があった。

 江戸時代、富士山信仰はさかんだったが、今とは違って、簡単には登れない。お金もかかるし、日数もかかる。江戸から静岡や山梨に行くだけでも大変だった。だから、多くの人は、富士講というものを作り、お金を集めて代表で数人が富士山へ登った。その他の人は、寺や神社の境内に人工的に作った箱庭式の富士山に登ったという。
 その箱庭式の富士山が『富士塚』。ちゃんと富士浅間社の神様の分身を移して祀ったらしい。
 そうやって、富士登山の疑似体験をした。

 その『富士塚』が東京には、まだあちこちに残っているそうな!
 いいなぁ、私も富士塚に行ってみたい!!!


 それに酉の市の熊手。商売繁盛にご利益があるとかで、大変な混雑がよくニュースで紹介されている。この熊手って、値札がないんだって!初めて知った。交渉により決まるんだって。それじゃ、初心者では買いにくい。
 バブルの頃は、百万円の熊手が飛ぶように売れたとか。今は、そんな事はないだろうけど。



 京都とか東京に賃貸アパートを借りて、1年くらい暮らしてみたいなぁ。日本って、一種の大きなアミューズメント・パークだよね。海外へ行ってロマンチックなお城を見るのもいいけど、日本の事、もっとよく知りたいと思うようになった。せっかく、この国に生まれたんだもの。
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サックス・ローマー「骨董屋探偵の事件簿」

2014-10-18 17:07:51 | Weblog
 たかさんのブログで紹介されていて、面白そうだったので読んでみた。
 ちょっと前に「サイコメトラー・エイジ」というマンガがあったでしょう?(TVドラマ化も)あの主人公は、犯行現場の遺留物から手掛かりを知るけど、この骨董屋探偵モリス・クロウは犯行現場の大気から手掛かりを知る。
 犯行現場の大気には、被害者の恐怖や驚き、加害者の悪意や怒りの感情の刻印が残されていて、モリス・クロウは、それを自分の頭の中に写し取り、捜査に利用するのだ。
 たかさんの書かれているように、探偵小説としては、かなり変則的だが、犯人がバッチリ頭の中に映し出されるんじゃなく、あくまでも手がかりなので、ちゃんと推理部分はある。トリックも悪くないと思う。

 探偵役のモリス・クロウが骨董屋なので、全体的にオカルト風。でも、作者がカーほどの名手じゃないので、すごくライトなオカルトで、あまり怖くない。同じ題材でカーが書いたら、おどろおどろしくて眠れなくなるほど怖い作品になるだろうに。

 だから、読んでる最中に飽きが来て、関心があっちこっちに飛ぶ。例えば、クロウは年寄りで身なりは貧しく、ケープの付いた黒い外套に黒の絹スカーフを巻いて、古めかしい茶色の山高帽をかぶっているのだが、その帽子からバーベナの香水を出し、額に吹きかけるのだ。これで清めるらしい。
 だけど、いくら小さなスプレー瓶でも、どうやって出すの?山高帽の内側にポケットでも付いているんだろうか? それとも頭の上に載せている? まさか。ずーっと気になっている。

 それに、この薄汚れた姿のクロウには、素晴らしく美しい娘イシスがいて、彼の助手的役割を果たしている。ブルネットの髪と大きく煌めく黒い瞳を持ち、しなやかなボディをパリ仕立ての美しいドレスで包んで登場。毎回、周囲の男たちをざわつかせている。
 金髪で青い眼のクールビューティが、悩殺美女の定番だと思っていたが、ブルネット美人も負けてはいない。そういえば、クリスティのミステリにもブルネット美人が、よく登場する。黒い髪、黒い瞳というのは、異国情緒があって、魅力的なんだろう。
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桐野夏生「ナニカアル」

2014-10-13 10:28:36 | Weblog
 戦前・戦中・戦後と活躍した女流小説家・林芙美子をモデルとした桐野夏生の小説。
 林芙美子の代表作『放浪記』は、森光子主演の舞台で有名だが、原作の小説も素晴らしい。
 以前、群ようこのエッセイを読んでいたら、何度も引っ越しするたびに本を処分していたが、林芙美子の『放浪記』だけは手放せなかった、という意味の事が書かれてあった。その気持ち、わかるなぁ。
 ほとんどの日本人が、土地に縛られる農民であった明治・大正・昭和初期、定住する土地を持たず、根無し草のようにあちこちを行商して歩く、貧しい母娘の日常を書いた『放浪記』は、本当に読みごたえあった。

 
 この『ナニカアル』は、昭和17年、流行作家・林芙美子が軍の要請でインドネシアへ渡り、現地の生活や兵士たちの様子を書いて、日本の新聞に載せていた頃の話。軍が日本国民の戦意を高揚させようとしたらしい。
 昭和16年の真珠湾攻撃以来、日本はどんどん南方に攻め入っていたので、その時、インドネシアは日本が占領していたのだ。
 芙美子は、そのインドネシアで新聞記者の愛人と逢瀬を重ねる。もちろん、これはフィクションで、実際どうだったかわからない。ただ、林芙美子という人は、とても「恋多き女」だったので、これと似た事があっても、誰も驚かないだろう。


 逢瀬を重ねると書くとロマンチックだが、もちろん戦時中なので、人々の言動は監視され、少しでも反戦・厭戦思想ありと判断されると、憲兵に引っ張られた。
 芙美子の愛人・謙太郎も、とても苦しい立場にいたのだろう。
 彼は、英語が堪能で、英語圏で生活することを好み、新聞駐在員としてロンドンやニューヨークに赴任するが、日米開戦のために日本に送り返される。アメリカやイギリスがどれだけ強大か、日本に勝ち目がない事を知っている彼は、本当なら亡命したかったかもしれない。
 しかし、白人による有色人種差別も経験している彼は、どこにも逃げられないことを知っている。
 こういう人って、かわいそう。どこにも居場所がない。
 「カミカゼが吹く」「鬼畜米英」とか言って、日本の勝利を疑わない人の方が、よっぽど精神的に楽だろう。



 この本を読んで驚いたのは、その当時、毎日新聞と朝日新聞が発行部数1、2を争っていたという事実。今はもう毎日新聞 見る影もないが…。そして、うーんと水をあけられ読売新聞が追っていたらしい。
 そして、どの新聞も、先を争って軍に協力し、軍とともに占領地に赴いて、関連新聞社を展開していった。
 もちろん、新聞社だけじゃない。大勢の兵隊さんたちがいる場所には、外地で一旗揚げようとする商売人たちも乗り込んでくる。料理屋かカフェでも開くつもりなんだろう。お女郎さんたちもたくさん行く。


 戦争で、日本の旗色が良かった初期には特に、日本国民の熱狂ぶりはすごかっただろう。
 「花子とアン」のモデルの村岡花子を「戦争中、積極的に軍部に協力した」と非難する人がいるけど、じゃあ、どうすれば良かった?
 今、この平和な時代に暮らしていて、過去の大変な時代に生きてきた人たちを、なぜ非難できる?あんた、戦時中に同じことを言えますか?
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益田ミリ 「キュンとしちゃ だめですか?」

2014-10-07 14:44:50 | Weblog
 益田ミリのコミックエッセイ。初出が『別冊文藝春秋』だっていうんだから、立派なもんです。
 この益田ミリさんを初めて知ったのは、当時私が読んでいた夕刊で、彼女の連載があったから。もう10年以上前だと思う。へぇ、新しい人が出てきたな、コミックエッセイ業界も競争が激しいだろうから、この人、残れるのかなぁ、なんて思っていたら、『すーちゃん』が大ヒットで大化けした。

 この本は、タイトルの通り、益田ミリさんが日常生活の中で、異性にキュンとした話が数多く詰め込まれている。
 サラリーマンにキュン、町中でキュン、あのセリフにキュン、そのリアクションにキュン…ありとあらゆる場面で、ミリさんはキュンとしている。そんなにキュンとすると疲れない?と心配になってくるほど。


 「エレベーターで、とっさにドアを押さえてくれるとキュン」これ、大部分の女がそうだと思う。
 「病院の待合室で『量子力学』の本を読んでいるお爺さんにキュン」 私もそう。理系男子に弱い。会話力なんて、なくてもOK。
 「薄くなりそうな頭髪にキュン」 ミリさん、その優しい心を、いつまでも持ち続けていてね。

 そうです。世の中はキュンで一杯。でも、どうしても理解できないキュンも。
 
 「ひとくちどうですか?にキュン」…本当に? 私、異性だけでなく、同性とでもイヤだな。いくら美味しそうでも、したくないし、されたくない。我が子とでも、小学校低学年までだよね。口をつけた料理を、食べたり食べさせたりするのは。相手も、嫌がってると思う。

 仕事がらみで、年下の男性と打ち合わせするためCAFEに入ったミリさんはホットコーヒー、彼はショコラフローズンドリンクを注文。そしたら彼は「これ、めちゃめちゃうまいですよ!ひとくち飲んでみてください」とストローを差し出したそうである。
 これって無邪気なの? いやぁ、私には、そうは思えない。お腹の中で、この男が「ほーら、赤くなってモタモタしてる。ひょっとして異性として見られてる? ダイジョーブ! こっちは何とも思ってないから。ねっ、オバハン」ってペロッと舌を出してる図を想像するなぁ。
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