ケイの読書日記

個人が書く書評

伊藤たかみ 「はやく老人になりたいと彼女はいう」 文藝春秋社

2018-02-25 17:32:18 | その他
 若い頃つきあっていた男女と、それぞれの子ども、そしてまったく関係ない認知症のおばあさんが、山で遭難しそうになる話。
 この男女が、本当に魅力に乏しくつまらない話なので、もう読むのやめようかなと思いつつ、最後まで読んでしまう。

 若い頃、同棲していたが別れ、それぞれ別の相手と結婚していた男女だが、女は離婚し、男は妻と別居中。昔の恋人が忘れられなかったという訳ではない。なんとなく、経年劣化のように結婚生活が上手くいかなくなったのだ。一種の中年の危機?!

 「愛とか恋とか、そういった生臭いものから卒業して、早く枯れたお婆さんになりたい」と男女とも思っている。特に女の方は強く。

 こういう気持ちになる人って案外多いんじゃないかと思う。そういえば、酒井順子さんも同じような事をエッセイに書いていた。彼女の場合、恋愛というよりも、お化粧やファッションの方面で。「ナチュラルに見せるほど手間がかかるメイクや、さりげないようでお金のうんとかかるファッションから卒業したい。早くお婆さんになって、思い切りダラダラしたい」みたいな事を書いていた。
 でも、今はファッション誌では、60になっても70になってもキラキラ輝いていなくちゃならない。大変だね。
 それに、年を取れば枯れるとは一概にいえない。瀬戸内寂聴さんを見てると…。生臭い尼さんです。

 作中にでてくる認知症のおばあさんが、私の実家の母と、あまりにも行動パターンが似てるので、笑ってしまった。朝起きて、台所を見ると、生米が炊きかけでほかってある。うわぁ、泥棒が入って来て勝手に調理しようとしたかと警戒したが、鍵はそのまま、不審者が侵入した形跡はなく、どうも自分でやりかけて忘れてしまったらしい。ホントに実家の母と同じ。でも、このお婆さんと違うのは、母はあくまで泥棒がやったんだと言い張る事。困るよぉ…。

 そうそう、スガキヤが作中に出てきて、とっても驚いた。スガキヤって中部地方以外の人は分からないかも。ラーメン屋+甘未屋で、安くておいしいのだ。普通のラーメンが1杯320円。ここらの大型ショッピングセンターには、かならず入っている。
 筆者の伊藤たかみは、三重県出身で、この小説の舞台も三重県だから書いたんだろう。皆さんも、見かけたら是非食べてみてね。
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三浦展「下流社会第2章 なぜ男は女に負けたのか」 光文社新書

2018-02-19 10:46:07 | その他
 以前読んだ第2章ではない、最初の『下流社会』が面白かった印象があるので、図書館でこの『第2章』を見つけた時、すぐさま借りたけど…。やっぱり、こういったデータを解析する社会科学系の本って、タイムリーに読まなきゃダメだね。すぐに古くなってしまう。

 なんといっても、リーマンショック前の2007年に出版された本なので、「正社員にあまりなりたくないという人が多い」という意味の記述があり、ビックリ!!
 思い出してみるに、リーマンショックの直前って、景気が良くて、例えば派遣会社が社宅としてアパートを借り上げ、派遣社員を住まわせて、そこから自動車製造工場に通わせていた。残業もあったので、皆さんのフトコロは暖かで、飲みにも行けた。
 
 それがリーマンショックで状況が一変。仕事は蒸発したみたいに無くなり、契約は打ち切られ、にっちもさっちもいかなくなった人たちは、東京の派遣村に流れていく…。

 そういう行く末を知らず、浮かれていた2007年に出版された本なので、今読むとピンとこない事も多いが、それでも面白い記事はある。
 「男性仕事・生活調査」という2006年に行った調査の中の一つに、好きな作家・評論家を選択肢で尋ねる調査がある。①小林よしのり ②村上龍 ③村上春樹 ④重松清 ⑤宮藤官九郎 ⑥落合信彦 ⑦西部遭 ⑧宮台真司 ⑨森永卓郎 ⑩大前研一 ⑪田原総一郎 ⑫金子勝 ⑬宮崎哲弥

 自分の階層が「下」だと思っている人が好きな知識人は、森永卓郎と小林よしのり、これは納得できる。森永卓郎は年収300万円でも幸せになれるよ!という本を出したし、小林よしのりはナショナリズムを煽って、手っ取り早く愛国心を満足させてくれるから。
 村上龍の読者は、年収が高くなるほど増える。「自己責任」「新自由主義」の考えが支持されるのだろう。
 毎年ノーベル文学賞候補になる村上春樹は、低年収でも高年収でも支持はあまり変わらない。これにはビックリ! なぜって、高収入の知的エリートが読む本と思い込んでいたから。厭世的な雰囲気が低収入の人に好まれるのかな?
 よくTVに出てくる田原総一郎は、支持層に特徴が無い。当たり障りない事、言ってるもんね。

 ところで⑫金子勝って、初めて知った。こういう名前の評論家がいるんだね。不勉強でスミマセン。
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酒井順子 「ギャルに小判」 

2018-02-15 17:10:30 | 酒井順子
 前回、前々回のブログは、なかなかシリアスな本を取り上げてたので、今回はちょっと軽めのものを…と読んだのが、このエッセイ。「ギャル」という普通名詞が古めかしい。時代を感じる。これ、初出は1994年だってね。
 酒井さんは1966年生まれだから、彼女28歳の時に出版されたもの。

 酒井さんって、高校生の時に、『オリーブ』という雑誌にコラムを載せていたらしい。すごい!!! 現役高校生コラムニスト! こういうのって、どういうツテで依頼が来るんだろうか? 知り合いが編集部にいた? それとも自分で売り込みに行くんだろうか? そこら辺のところを、もっと書いてもらいたいのにね。
 とにかく、彼女の所へ、その原稿料10万円が現金書留で送られてきたらしい。
 図書券とかじゃなくて、お金で払ってもらえるんだ。すごいなーーーー!

 そのあと酒井さんは、付属の大学に行って大手広告代理店に就職。3年で辞め文筆業へ。とんとん拍子で売れっ子エッセイストになり現在に至る。

 あーーーこの人って、お金で苦労した事、ないだろうね。酒井さんの小学校時代はサンリオのキティちゃんが大流行で、いろんなものが欲しかったけど、月額500円のお小遣いでは買えるものは限られていて、お金持ちの友達が羨ましかった、とか、高校生の時はDCブランドブームで、洋服をバンバン買ってくれるお金持ちの親を持つ子に、憎しみに近い感情を持つようになった…とか書いてるけど、自分の家も十分お金持ちじゃん! そうじゃなきゃ、私立小学校の学費なんて払えないよ。

 そして、酒井さんの会社員時代は、バブルという事もあり本当に華やか。お友達と連れだってハワイに出掛け、あるいは現地で友達と合流して、涼しい時間帯はビーチ、暑くなるとショッピングセンターをぶらついて、疲れたらお茶を飲みながら買い物三昧。ああ、いいなぁ。
 ただ、この時代は酒井さんたちだけじゃない、多くの日本の若い女性が、買い物フリークになってたんだよね。


 そして、この本が出版された1994年、世の中は不況です。ただ、酒井さんの仕事は相変わらず順調らしく「私も、バブルの崩壊まで会社に勤め続けていれば、ちょっとは不況な気分を味わう事ができたかもしれない」なんて、ノーテンキな事を書いている。
 「フリーの立場って、バブルとか景気とかは関係ない真空地帯にいるようなもの」って書いてもいらっしゃるが、そんなことはない!!! フリーの人が一番、景気の動向に左右される。それを感じないってことは、実力があるって事なんでしょう。
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永田洋子 「十六の墓標(下)」 彩流社

2018-02-09 10:45:00 | その他
 敗北死…なんて都合のいい呼び方なんだろう。
 上巻では、1971年8月に山岳ベースから脱走した2人を殺害したところまで書いていた。下巻では、いよいよ12人の同志リンチ殺人について書いてある。もちろん筆者は、リンチ殺人とは書かない。同志の発言や行動に問題があり、それを反省させたり自己批判させようと、つまり総括させようとして、結果的に死んだというスタンス。

 柱に縛り付けたり、食事を与えなかったり、皆で繰り返し殴ったりするのは、すべて彼ら彼女らが自分で総括するのに集中するようやった事であり(総括援助)殺すつもりはない。彼ら彼女らが死んだのは、立派な革命戦士になれなかったためであり、敗北死したのだ。つまり本人が悪いのだ。本当に革命戦士になるつもりなら、どんな過酷な状況下におかれても生きているはずだ、ということらしい。


 連合赤軍のトップの森恒夫は、大阪市立大学の学生で演説が巧みだった。永田洋子は、慶応大学病院薬局研究生で、薬剤師としての勤務経験もある。二人とも当時としてはエリート。特に永田は、医学的知識も豊富なはずなのに、旧日本軍のような精神至上主義におちいってバカじゃないの?

 リンチ死した人たちの死に方は皆、悲惨だが、とりわけ妊婦の金子さんの死が凄惨だった。
 連合赤軍幹部の吉野の内縁の妻で、山岳ベースで出産するつもりでやってきた。山岳ベースがユートピア・地上の楽園だと思ったのだろう。(もう1組、山本夫妻も乳児を連れて山岳ベースにやってきた。後にダンナは総括で殺され、赤ちゃんは母親から離され、組織の子どもとして育てられるはずだった。奥さんは後に赤ちゃんを置いて脱走)

 金子みちよさんは「お腹の子どもを私物化している」との理由で総括にかけられる。理由はなんでもいいんだ。「金子はオレをにらんでいる」でも。そして、出産近い金子さんを皆でなぐる。それも素手だけではなく、もっと痛めつけてやろうと針金を手に巻き付けて。結局、金子さんは死ぬ。汗と涙と血と大小便の混じった悪臭の中で。

 以前、フランス革命の本を読んだ時、ギロチンで死刑になるはずだった女性が、妊娠しているので一時的に刑の執行を停止され、その間に革命が終息し、その女性は命拾いしたという記事があった。1789年のフランス革命の時代にはもう、妊娠中の女性の死刑は一時停止という考え方が一般的だったことに感心したが、この森や永田の頭の中は、1789年以前なんだろうか? エリートなのに? 総括と死刑は違うって? 同じじゃない。総括要求されて助かった人っているの?
 だいたい、何をもって総括できたと判断するのか、全く分からない。

 こういった人たちが、何かの拍子に権力を握ったりすると、ポルポト政権みたいなことになるのかな?
 森は1972年2月に逮捕され、73年1月1日に東京拘置所で首吊り自殺している。1年たってない。何という情けない男だろう。2か月で12人も殺しておきながら。

 とにかく、この本は永田洋子の視点から書いているので、今度はもっと別の人が描いた手記を読もうと思う。
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「黙って行かせて」 ヘルガ・シュナイダー著 高島市子・足立ラーベ加代訳 新潮社

2018-02-04 15:20:38 | 翻訳もの
 ラブロマンスのタイトルみたいだが、悲惨な実話。
 筆者のヘルガさんの母親は、ヒトラーに心酔しナチス親衛隊に入隊。1941年に、4歳のヘルガさんと1歳の弟さんを置いて家を出て、アウシュヴィッツ強制収容所の看守になる。次にヘルガさんがお母さんと再会したのは、なんと30年後。その時、母親が自分の過去を自慢げに話すのに衝撃をうけたヘルガさんは、その後27年間、母親と会わなかった。
 しかし「お母さんはもう長くないから、最後にあった方が良い」と周囲に説得され、27年ぶりに対面する。もちろん、作家としての職業的好奇心はあったのだろう。アウシュヴィッツで何をやっていたのか、当事者の言葉で聴きたかったと思う。

 アウシュヴィッツで母親はユダヤ人を殺しまくっていたが、ドイツは敗れソ連兵がやってきて、母親はソ連の強制収容所に連れていかれる。下っ端看守という事で、死刑にはならなかった。


 私がこの本を読んで、一番衝撃を受けたのは、戦争が終わり57年たっても、お母さんが自分のやった事を全く悔いておらず「戦後、あたしは犯罪者みたいに扱われたわ。けれど拘留されていた期間でさえ、偉大な総統のドイツに所属していた事が、あたしの誇りだった」という言葉ではない。そんなこと最初からわかっている。鋼のメンタルを持っていなければ、アウシュヴィッツで何百万人ものユダヤ人をガス室には送れないよ。その中には、彼女の個人的な知り合いもいた。

 そうじゃなくて、この母親が、結構裕福な生活をしている事に驚く。元親衛隊員は、以前自分のやった悪行が周囲にバレるのを怖れ、びくびくしながら暮らしているのかと思ったが、とんでもない。
 ヘルガさんのお母さんは、良いマンションに住み、絵画に投資し、仲の良い友人と楽しく暮らしていた。ボーイフレンドだっている。年を取って一人暮らしが難しくなると、親切な職員がたくさんいるキレイな施設に入所する。

 おい!!! 日本の高齢者より、よっぽど恵まれてるじゃん! もともと金持ちの一族出身だから遺産だろうか? 誰からか、定期的に入金があるみたい。ボーイフレンドは、アウシュヴィッツで同僚だった人。さぞ話が合うだろう。
 近所の友人も、彼女が元親衛隊員という事を知っているが、気にしない。友人は言う「私だって、オーストリア併合に賛成したし、ヒトラーがメルセデスベンツのオープンカーでウィーンを回った時には、小さな花束を投げたりもしたんですよ」

 だから、手のひらを返したように非難できないという事か? でも、いくら反ユダヤ主義が蔓延していたからといっても、一般市民とアウシュヴィッツの看守を同列にはできないよ。

 ところで「ヒトラー ユダヤ人説」って、昔から囁かれているが、私は信憑性は高いと思う。そりゃ、長年混在して住んでるんだもの。混じって当たり前だよね。
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