ケイの読書日記

個人が書く書評

「密室殺人事件」角川文庫

2010-10-28 21:13:54 | Weblog
 阿刀田高 「天国に一番近いプール」
 折原 一 「不透明な密室」
 栗本 薫 「袋小路の死神」
 黒崎 緑 「洋書騒動」
 清水義範 「モルグ街の殺人」
 法月綸太郎「緑の扉は危険」
 羽場博行 「虚像の殺意」
 連城三紀彦「ある東京の扉」   8編が収められている。
 
 こういったミステリーアンソロジーには、一つ二つ全くバカバカしい作品が含まれているものだが、これにはそういった駄作が無く、なかなか粒揃いのアンソロジーだと思う。

 特に、法月綸太郎の「緑の扉は危険」は以前にも読んで感心したが、やはり本当にいい密室モノだと思う。
 机上の空論でなく、偶然に頼りすぎている訳でもなく、現実的でこれだったらできそう。

 清水義範「モルグ街の殺人」も、ポーのあまりにも有名な話を下敷きにしているが、ちょっと変わっていて面白い。

 黒崎緑は初めて読んだ。この「洋書騒動」は、密室殺人とは関係なくて、なんでこのアンソロジーに入っているのか不思議だが、コミカルで読みやすい。

 連城三紀彦のミステリは初めて読んだ。トリックはともかく、別の仕掛けで面白く読ませるんだよね。
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有栖川有栖「朱色の研究」

2010-10-23 20:23:12 | Weblog
 「2年前の未解決殺人事件を再調査して欲しい。これが、先生のゼミに入った本当の目的です。」臨床犯罪学者・火村は、教え子の貴島朱美から、突然、調査を依頼される。
 さっそく火村は、友人で推理作家の有栖川とともに、当時の関係者から事情を聞こうとするが、その矢先、火村あてに新たな殺人を示唆する電話が入って…。


 こういった魅力的な始まりだったが、展開は…うーん、無駄にややこやしく、無意味に複雑。
 以前から感じていたが、有栖川有栖って、短篇に比べると長編はあまり良くないね。彼の持ち味の論理性が薄まってしまうような気がする。
 長編でいいなと思えるのは、「46番目の密室」くらいかな。


 本筋とは関係ないが「補陀落(ふだらく)渡海」という仏教信仰の話が作品の中に出てくる。

 海の彼方に補陀落(ふだらく)浄土という極楽浄土があり、そこにたどり着こうと、南無阿弥陀仏と染め抜いた帆を張った小舟で船出するらしい。

 どう考えてもたどり着けるわけは無い。
 信仰心が揺るがない人が船出するならいいが、少しでも疑問に思っている人だったらできないだろう。
 でも、周りの弟子達が盛り上がってしまって、止めるに止められない状況になってしまったら…。
 先日読んだ「湯殿山麓呪い村」の即身仏と重なるものがある。
 宗教って憧れる気持ちもあるが、恐ろしいね。
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香山リカ「就職がこわい」

2010-10-18 11:43:18 | Weblog
 この本の初版は2004年なので、就職状況は今よりだいぶマシだっただろうと思う。
だから「一生懸命に就職活動しても就職できない」という学生ではなく「就職そのものをしたくない」という学生さんに向けたメッセージがこめられている。

 香山リカは、帝塚山学院大学人間文化学部人間学科教授。その大学で、就職委員というものをやっているらしい。

 それにしても、彼女のゼミ生6人全員が卒業時に就職が決まってなかったって本当だろうか? 就職活動するよう奨めたら「今は卒業制作で手一杯だから、卒業してから探します」と返事をしたらしい。
 どう考えても、それじゃ遅いでしょうが!!!

 それとも、香山リカの勤務先のこの帝塚山学院大学というのは、そんな働く必要が無いほど裕福な家庭のお子さんばかりなんだろうか?


 私がこの本『就職がこわい』をブックオフで手に取ったのには訳がある。
 実は、我が家の次男坊(大学4年生)が、早々に就職を諦め、自分で商売を始めるらしい。
 それもカッコよくITで起業という訳ではなく、中古オートバイの塗装。

 知人・友人・ネットオークションで安く仕入れ、ちょっと整備しキレイに塗装して、友人・知人・ネットオークションで売ろうというもの。
 そんなんで商売になるのかよ!というのが、親の正直な気持ち。

 3月の段階で内定はもらえないと見切りをつけ、4月から少しずつ商売している。お小遣いにはなるだろうけど、それで生活していくのは至難の業だと思うよ。

 ああ心配…。次男の行く末が心配。
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山村正夫「湯殿山麓呪い村」

2010-10-13 11:19:35 | Weblog
 ミニ横溝正史作品というカンジですね。本家に比べると禍々しさ、おどろおどろしさが圧倒的にたりないですが、昭和54年という時代設定なので仕方ないね。

 否定的なことを書いたが、きちんとまとまっていて面白い伝奇探偵小説。オススメです。


 180年前、東北出羽三霊山の近くで人を殺して追われていた男が、即身仏(ミイラ)になる事を条件に寺に匿われる。
 男は約束を守り、厳しい断食の修行に励んでいたが、村の娘と恋仲になり駆け落ちしようとして、寺の僧たちに捕まる。
 男は教義にそむいた背教者として謀殺され、即身仏に仕立て上げられる。
 しかし、その怨念が現代によみがえり…。

 その他、江戸時代、東北の大飢饉のすざまじさなども書かれている。人肉喰い、幼児喰い、本当にあったんだろうなぁ。
 ただ、飢餓が何日も続き、胃がぺったんこの状態では、人肉のようなタンパク質は胃腸が受け付けないんじゃないだろうか?

 何日も何日も全く食べていないと、頭がボーとして、苦もなく衰弱死するような気がするが、その中でも生に執着して人肉を喰らっても生き残る人もいるんだろうね。


 小説の最初の方で、名探偵としてホームズの次にドルリー・レーンが出てきたときあれっと思った。普通だったらポアロかマープルかエラリー・クイーンでしょう?
 ここら辺りが、作者がとっても親切なところです。
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高村薫「地を這う虫」

2010-10-08 11:24:11 | Weblog
 高村薫らしい、渋い中・短篇4作品。主人公は皆、定年退職だったり、事情があり退職した刑事。

 やっぱり表題作が一番いいかなぁ。

 義理の弟が交通死亡事故を起こしたため、職場にいづらくなって退職し、今は倉庫の守衛をやっている元刑事。
 仕事が嫌で辞めたわけではない、どちらかといえば性に合っていたので、退職しても刑事だったときのクセが抜けない。
 職場の行き帰りに通りかかる住宅街を、丹念に歩き回りパトロール。克明な観察メモをつけている。

 イヤがられるよね。こういう人って。近くの交番に苦情が来たらしい。しかし心強い気もするな。
 実家の付近で、冬になると「火の用心」カチカチとボランティアの人が廻るのと同じ。少しは犯罪の抑止力になっていると思うよ。

 その彼の縄張りで、空き巣が4件続けて発生する。不思議な事に金目当てではないらしい。いったい何のために?
 元刑事の守衛が、被害にあった家を地図の上でチェックすると、奇妙な事実が浮かび上がる…。


 「日陰にありながら、矜持を保ち続ける男たちの敗れざる物語」と後表紙に紹介されている。
 なかなか、読み応えある作品集です。
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