ケイの読書日記

個人が書く書評

北杜夫「どくとるマンボウ青春記」

2006-11-27 13:45:00 | Weblog
 ずいぶん前に木原敏江のマンガ「摩利と新吾」を読んで、その解説にこの本が紹介されていたので、ぜひ読まなくては、とずーっと覚えていたのだ。

 この北杜夫の自伝的小説の圧巻は、旧制松本高校に入学、パトス君やロゴス君たち先輩にあこがれた1年生時代。
 そして、自分が総務となり西寮を作り運営し、夜討ちストーム、説教ストーム、デカンショ、バッキャロー、寮歌、記念祭、試験、落第、ドッペリ、ドイツ語、インターハイ(ああ、ここには摩利と新吾の世界がある!!)その他もろもろのすべてがゴチャマゼになった2年生時代。
 それを作者は黄金期と呼んでいるが、そこだろう。
 寮にとっての最大の行事、記念祭に作者は全力投球する。


 ファイアーを囲んでデカンショを踊る。その後、数多くの寮歌を声のかれるまでがなる、するとこの半月、学校にはもとより行かず、読書もせず、記念祭のためのがさつで慌ただしい準備に全エネルギーを使い果たしてきた身に、なにはともあれ、いかなる愚行であったにせよ、自分たちは精一杯全力をふるったのだという満足感と感傷がこみ上げてきた。
 委員の大半は泣いた。
 その夜、私は長い事ブランクであった日記に、かなりキザにこう記している。
『記念祭に求めていたものはついにあった。やはりあったのだ。あれだけの感激がまだこの胸の中によみがえってこようとは想像できなかった。……窓の外に野分けを聞く。信濃は冬に入らんとしつつある。灯の下で落ち葉の上で、これからはモリモリ本を読むことを誓う。』(本書より抜粋)


 嗚呼、まるっきりこれは『摩利と新吾』の世界です。マンガとこの小説が、ぐるぐる頭の中をオーバーラッピングしています。
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ポール・アルテ「赤髯王の呪い」

2006-11-22 23:31:38 | Weblog
 1948年のロンドン。エチエンヌは故郷の兄から届いた手紙に驚く。
 ある晩、兄が物置小屋の中を窓からのぞいてみると、16年前「赤髯王ごっこ」をしたために呪い殺された少女エヴァの姿があったというのだ。 
 エチエンヌは犯罪学者ツイスト博士に当時の状況を物語り始めるが…。


 中篇の「赤髯王の呪い」と、あと3つの短篇が収められています。
 推理小説としては、皆、優れていると思うけど、中にロマンス部分が挿入されていて、それが邪魔だなぁ。ムダというよりジャマです。
 でも、フランス人作家だから、仕方ないか…。国民性なんでしょうか?


 私は最後に収められている、短篇の「コニャック殺人事件」が一番好きです。
 きちんと筋道のたったトリックを使っており、しかも短篇なので、ちょっとブラウン神父を思い出します。
 ただ、短かすぎる。もっと文章をふくらませて中篇ぐらいにすると、読みごたえあるかも。 
 これでは、あまりにもあっさりしすぎて、せっかくのトリックが勿体無い。
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高村薫「マークスの山」

2006-11-17 14:47:54 | Weblog
 評判は聞いていたが、すごく面白い。私は警察小説というジャンルは、あまり読まないので、すごくリアルで新鮮に感じる。

 
 昭和51年南アルプスで蒔かれた犯罪の種は、16年後、東京で連続殺人として開花した。
 精神に<暗い山>を抱える殺人者マークスが、謎の凶器で次々と惨殺。
 バラバラの被害者を結ぶ糸は何?
 マークスが握っている秘密とは?


 私には、山に登る人達には「純粋、素朴、謙虚、忍耐強いetc」といった良いイメージを持っていたが、そうでもないんだね。

 しかし、刑事さん達って、外には一枚岩になるのに、内では手柄を同僚にさらわれたくなくて足の引っ張り合いをしているって本当だろうか?

 それにこの激務。主人公の合田刑事がろくすっぽ家に帰らず(帰れず)公園のベンチで仮眠を取っているが、大丈夫?
 こんなことで、まともな捜査ができるんだろうか?

 警察や検察、公安の三者の関係もよくわからない。仲良く情報を公開しあい、犯人逮捕に結びつければいいのに、縄張り意識が強くて、それができないんだろうか?
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島田荘司「異邦の騎士」

2006-11-12 23:16:27 | Weblog
 石岡が出てこない。
 半分まで読んだのに石岡が出てこない。
 もう終わりかけなのに石岡が出てこないゾ!
そう思って読み進めていったら、最後の最後に登場しましたね。

 でも、御手洗と石岡のかけあい漫才が楽しみな私としては、ちょっと残念。


 作品の冒頭、男がベンチで目をさまして自分が誰だかわからずさまよう所から、どんどん話に引き込まれる。でも、アレレ…?!と思ったのが半ば頃に出てくる奥さんの日記。

     ここからはネタバレになるので未読の人は注意!!!


 この日記にはすごく違和感を感じた。
 だいたい、たかが追突事故を亭主に知られたくがないために、ここまで転落していく人っているの? 例えば、免停中で警察沙汰にしたくない、というならともかく事故証明をとり、保険会社が入るのに。

 それに、エレクトーンの講師の資格があるというなら、実家が比較的裕福なはず。亭主に相談できないというなら、絶対実家に相談すると思う。
 なぜ、その実家が葬式の時しか出てこないんだろう。1歳前のかわいい孫娘がいるのだ。ひんぱんに娘の家庭を訪れ「どうしたんだ?元気がないね」と声ぐらいかけるだろう。
 もっとおかしいのは、お嬢さん育ちらしいこの女性が、サエない居酒屋の2Fのアパートに親子3人で入居するだろうか?独身だったらともかく。

 次から次へと疑問点が出てきて、これはみんな罠なんだ、という事がわかる。
 
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エラリィ・クイン「チャイナオレンジの秘密」

2006-11-07 15:53:57 | Weblog
 エラリィの友人の事務室控室で1人の男が殺された。その室内では、死体の着衣や絨毯は裏返し、本棚は壁を向き、動かせるもの全てがあべこべになっていた。
 被害者の身元を示すものは何もない。わざわざ面倒な細工をした犯人の意図は?


 この作品最大の謎「なぜ犯人は時間がかかるという危険を犯してまで、室内のものすべてをあべこべにしたか?」に対する論理的な答えはキチンと示されていて納得できますが、キリスト教の色んな宗派のことに詳しくない日本人にとっては難問。
 それよりもっと原始的に『音』で考えてみれば、犯人は一発でわかります。


 中国の事を「あべこべの国」と言ってみたり、その当時の(1934年)白人系アメリカ人の正しいとは言い難い東洋感がいたるところににじみ出ていて、ちょっと居心地が悪いです。
 日本の事ももちろん出ています。(満州事変で中国へ侵略の手を伸ばしている、という記述があります。)


 私は9作目の「スペイン岬の秘密」を一番最初に読んで、それから第一作目にもどり順番に読んでいったので、コレで『国名シリーズ』を全部完了。

 年の始めの目標「国名シリーズを全て読む」を達成できました。
 さすがに、作中の登場人物に愛着がわきますね。特に父親のリチャード・クイン警視が私の好み。

 自慢の息子のエラリィとの親子喧嘩はトリックより面白いです。
 「クイーン警視自身の事件」とかいう作品があるそうですが、これもぜひ読まなくては。
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