ケイの読書日記

個人が書く書評

酒井順子 「そんなに変わった?」

2015-06-29 16:49:14 | Weblog
 週刊現代に連載中のエッセイをまとめたもの。

 カバーイラストがすごく素敵! 網中いづるさんというイラストレーターの作品らしい。手に取って、見惚れてしまった。
 栗色の髪をカールし、胸の大きく開いたパーティドレスを着た美しい女性が、鏡に向かって、小首を傾げ、問う「そんなに変わった?」

 このタイトルって、バブル世代の女性だったら、ドキッとするんじゃないかな? 酒井さんは1966年生まれ。どんぴしゃ・バブル世代。

 酒井さんのエッセイを読んでいつも感じるのは、その圧倒的な豊かさ。経済的な事だけじゃなく、育ちの良さ、というのかなぁ。
 ずいぶん前読んだ、酒井さんのエッセイで、酒井さんのご母堂が、自分の息子(酒井さんの兄)と娘(酒井さん)に、自分の事を『お母様』と呼ばせようとしたが、さすがに息子(酒井さんの兄)は抵抗して言わなかった、というエピソードが載っていた。
 これを読んだ時、私は驚いた。「えええ!? 東京の良いうちの子って、自分の母親をお母様って呼ぶの?」日常的に?それともお受験対策なんだろうか?
 そうやって、上品に大切に育てられた酒井順子さんが、下ネタ大好き、エロ話に目がないよう育つとは…不思議です。


 酒井さんと、酒井さんのお母様のエピソードを読んでいると、『ブリジット・ジョーンズの日記』を思い出す。
 ブリジットも裕福な家庭に生まれ育ち、ちゃんとした職業を持ち、恋愛を楽しもうとするが、うまくいかない。いいなと思った男性からは相手にされず、ブリジットの母親の方がモテたりするのだ。

 酒井さんのお母様も(もう亡くなっていらっしゃるが)普通のサラリーマンの妻だったが、社交好き、おしゃべり好き、贅沢大好き!どんなパーティでも、物おじせず出掛け、楽しんでいらしたとか。

 やっぱり、その人の持って生まれた性分って、あるんだろうね。
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岸田るり子「出口のない部屋」

2015-06-25 11:32:33 | Weblog
 「出口のない部屋」っていうタイトルは、哲学的な響きがあると感じるが、それもそのはず、フランスの哲学者サルトルに「出口なし」という戯曲があるらしい。その戯曲を読んで、舞台を見て、作者はこのミステリの構想を練ったようだ。

 3人の見知らぬ男女が、1つの部屋に入ってきて向き合う…互いに全く面識がない彼らは、自分たちが監禁された理由の手掛かりを探すため、自己紹介をするのだが、自分に都合の良い事しか言わない。そういった作中作品がある。
 それを、別の角度から見て、3人の男女のエゴイストぶりを暴き出す。プロローグとエピローグには、作家と編集者も登場し、出口のない部屋に監禁された男女3人との関係が、最後に明かされる。


 この岸田るり子さんは、鮎川哲也賞作家なので、すごく緻密で論理的な作品かと思ったが、結構、情緒的で読みやすい。
 この人は、ちょっと変わった経歴の持ち主で、1961年京都生まれ。大学は、パリ第7大学理学部卒のリケジョなのだ。
 作品中にも、祇園の芸妓さんの話が出てくるし、また、大学の研究室で研究している、免疫学の話も出てくる。
 この免疫学の話が、描写が細かくて、ちょっと気持ち悪い。鶏の胚(受精後、1日目か2日目の、細胞分裂が始まったばかりの物)に、ウズラの胚を移植し、2つの生き物を合体させたキメラを誕生させる。
 マンガでお馴染みのキメラだが、想像するだけでも、気分が悪くなるなぁ。

 そのキメラを解剖し、内部の組織を調べるために、パラホルムアルデヒドという薬剤を注入するのだが、それは激しい痛みを引き起こし、ものすごい形相になるらしい。
 うげぇ! 人間に有益な研究材料になっているのに、最後の最後に、こんな激痛を与えられるとは…本当にかわいそうです。

 そして、一番恐ろしいのは、どっかの変質者が、この薬剤を手に入れて人間に使わないだろうかという恐れ。
 タリウムをクラスメートや母親に飲ませ、その症状を観察するっていう犯罪者がいたけど、毒を盛る人って、だいたい女だよね。どうして?
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東川篤哉 「放課後はミステリーとともに」

2015-06-20 11:40:35 | Weblog
 「謎解きはディナーのあとで」で大ブレイクした東川篤哉の学園ユーモアミステリ。
 「謎解きは~」が大ヒットしたので、その後の依頼で書いたのかと思ったら、どうも違うようだ。初出は2003年。この人、2002年にデビューしたので、そのころから書いてるんだ。デビュー前から、ずっと心に温めてきたキャラクター・霧ヶ峰涼と、トリックなんだろう。

 霧ヶ峰涼は、エアコンではない。鯉ヶ窪学園高等部2年で、探偵部の副部長である。探偵部というのは、探偵小説を研究する部ではなく、そのままズバリ!学園周辺で起こった難事件を解決しようと、活動する部である。
 事件は8件。犯人消失、毒入りコーヒー、屋上密室、変形密室、凶器消失etc…あらゆる正統的本格的トリックが使われている。
 ちなみに、ここでは殺人は起こらない。殺されかけるが、命は助かる。
 そうだよ、学園ミステリで、特に名探偵・霧ケ峰涼が仕切っている学園で、殺人事件が起こる訳ない!!と書きたいところだが、霧ヶ峰涼は、事件が起こるのを阻止している訳じゃない。むしろ、事件を待っているのだ。不謹慎だが。


 探偵部の顧問の先生や、他の先生方、友達の力を借りて、事件は解決する。が、解決しない最大の謎が一つ。
 探偵部の部長は誰? どこにいるの?
 副部長は霧ヶ峰だけど、部長の名前は全く出てこない。部員は3~8人いるらしい。(なんではっきりしないんだよ。もしかして、妄想で勝手に入部させちゃってる?)
 私は、話を読み進めていくうちに、出てくるだろうと期待していたが、最後まで読んでも出てこない。
 ひょっとして…作者は、東川篤哉という名前の男子高校生を部長にするつもりだったんじゃ…?! でも、あまりにも恥ずかしいから、できなかったんじゃあ…。私の妄想は膨らむばかりです。


 この作品のユーモアには、レトロ感が漂う。そこが、私などには好ましいが、若い読者には敬遠されるかも。
 どうしてレトロに感じるかなと考えてみるに、サッカーより野球の固有名詞がいたる所に出てくるのだ。作者は、広島生まれのカープファン。
 しかしなぁ…、安仁屋や外木場は分かるが、広島に長谷川なんて名投手いたっけ?
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岸本葉子 「続・ちょっと早めの老い支度」

2015-06-15 09:49:14 | Weblog
 私が敬愛する岸本さんの最新エッセイ! 岸本さんは1961年生まれで、私より3歳年下だが、私の人生の師匠です。ことあるごとに、彼女の日常生活エッセイに元気づけられてきました。

 この本は、介護・住まい・お金の困り事を解決といった、一般的な老後の指南書ではなく、老化によって表面化する、様々な小さい変化、それに対する岸本さんの工夫や受け止め方、心の持ち方などが書かれています。

 第6章に、こうあります。「この世にこれまでいた時間より、これからいる時間の方が少ない。シビアな話だが、このさびしさや焦燥感が老いに向けての、いちばん本質的な心の課題だと思う。(中略)より大きくなるだろうさびしさや焦燥感を克服するすべを、私は持てるだろうか」
 本当に岸本さんはすごい!物事の本質をキチンととらえています。

 ところで、この本は電子書籍で買って読みました。ケチなので、私は今まで図書館を利用することが多かったけど、今後は少し変えようと思っています。
 事の発端は、先日、柳美里のインタビュー記事を読んだ事でした。そこで柳さんは、今、日本で物を書くだけで生計を立てることができる人は30人ほどじゃないかと言っているのです。これにはびっくり!!
 いくら出版不況だって、30人というのは少なすぎるんじゃない?
 でも、有名作家でも、今、初版が1万部くらいらしい。だから、講演会とかトークショー、カルチャースクールの「小説の書き方」教室講師などをやって、収入を得ているようです。


 私は心を入れ替えました。好きな作家さんが生活苦で作家を廃業したら、私は困ります。だから、読む本すべてを買う事は出来ないけど、半分くらいは買おうと思ってます。5日で1冊のペースで読んでいるから、1か月6冊。¥1500X6=¥9000 まあ、5,000円くらいは毎月本を買おうと思います。

 皆さんももっと本を買ってください。そして、作家さんたちの生活を安定させ、素晴らしい作品を書いてもらいましょう。
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森博嗣「恋恋蓮歩の演習」

2015-06-10 10:14:30 | Weblog
 森博嗣にしては珍しく、華やかで爽やかな作品。ロマンチックコメディ?海洋冒険小説? 保呂草へのムカつき度も若干、低下。


 豪華客船の中で起こった不可解な死体消失事件。殺人?それとも事故死?通報を受けて警備員たちが駆けつけると、死体はきれいさっぱり消えていた。
 それと同時刻に、世界的名画が盗まれる。この2つの事件の関連は?
 豪華客船に乗り合わせていた紅子、れんちゃん、しこさん、保呂草が、事件の謎に迫る。


 ミステリ仕立てになっているが、Vシリーズを読んでいる人なら、最初からカラクリはわかる。でも、面白い。謎がどうの、というより、豪華客船に乗船したという華やかな雰囲気、ワクワク感が、こちらにも伝わってくる。
 そういえば『名探偵コナン』や『謎解きはディナーのあとで』にも、こういったシチュエーションってあったなぁ。
 それにスウィートルーム! なにせ、フランスの大富豪がずーっと乗り込んでいて世界中を回るっていう豪華客船のスウィートなんだから、内装はどんなに素晴らしいんでしょう!
 そこよりも、ワンランク下のスウィートに、うら若い女子大学院生が宿泊しているのを、なぜ誰も不思議に思わない? 1泊100万円くらいするんじゃない? 警備員が、乗客の身元に興味を抱かないのも不可解!


 話は大幅に変わるが、れんちゃんの友人で、阿漕荘の住人に森川素直君という男の子がいる。この子がよく登場するのに、驚くほど事件の本筋に絡まないんだ。この『恋恋蓮歩の演習』でも、紅子やれんちゃん、しこさんを港まで車で送っていくだけで、終了。
 しかし…しかしですね。彼には「聞き間違えギャグ」という必殺技があるのだ。
 「お年頃」→「落としどころ」 「覇気ない」→「厭きない」etc
 これ、すごく面白い! いつもぼーっとして眠たい様な顔をしている森川君がボソッというと格別。
 もっと、森川君をあちこちに登場させてほしいね。

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