ケイの読書日記

個人が書く書評

下重暁子「家族という病」

2015-05-28 09:42:36 | Weblog
 こういったタイトルだから、私は、下重さんは結婚してないと思っていたが、ずっと連れ添っているダンナさんがいるんだ。TV局に勤務していて退職後、大学の教官になっていた素敵なダンナさんが。ダンナだけでも家族だと、私は思うけど。
 下重さんのいう病の家族というのは、どうも血縁関係で構成されている家族の事らしい。


 下重さんは昭和11年生まれ。お父様は高級軍人で、下重さんが幼い頃、毎朝、馬が迎えに来たらしい。すごいなぁ。お父様がひらりとマントをひるがえして馬に乗って出かける姿を、憧れの目で見ていたという。
 敗戦になり、世の中の価値観が引っくり返り、お父様は職業軍人だったので、公職からも追放され、生活は困窮した。
 彼女自身も、敗戦直後から在日のグループから付け狙われ、攻撃された。
 そりゃ、確かに、朝鮮半島から強制的につれて来られた人から見れば、戦中、比較的優雅に暮らしていた高級軍人の家族は、敵に違いないだろう。


 そういう事もあって、娘の下重さんがお父様を見る目は冷ややか。性格的に似ている事もあって、よけいに反発したようだ。
 お父様は、高齢になってから肺結核が再発し、入院。その老いた父親の見舞いに行かないので、主治医から非難の手紙が来たこともあったそうだ。それでも、彼女は病院へ見舞いに行かなかった。
 そこまで、老父に対して屈折した思いがあるなら、他人がとやかく言えないよね。


 お母様に対しては、そそがれた愛情をありがたく思うが、疎ましくも感じた、と書いてある。これも、ほとんどの娘が感じる正直な気持ちでしょう。
 お兄様とは、子どもの頃は仲が良かったが、進学、就職、結婚して家族ができると、疎遠に。これもよくある話。大人になってからも、兄弟姉妹が仲良いと、配偶者やパートナーにとって負担になります。
 

 家族が不完全で不安定なのは当たり前。もともと不完全な個体が集まって家族を作るんだから、完全になる訳ない。そんな分かりきった事で、なぜグズグズ書いているのか不思議。
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東野圭吾「歪笑小説」

2015-05-23 10:08:00 | Weblog
 出版不況の中、大手出版社・灸英社の編集者と小説家の戦いを描く、ドタバタコメディ。
 売れっ子小説家の原稿を、いかにして他社を押しのけ手に入れるか、小説が映像化されるときの映像会社・出版社・原作者たちの駆け引き、文学賞を創設する時の他社との軋轢、などなど小説業界の内幕が面白い。

 ただ、これ、初出が2011年「小説すばる」らしいが、電子書籍の脅威について全く触れてないのは、不思議。それに、出版不況と言いながら、結構、編集者の皆さん、景気良さそう。なんといっても、きちんと身分保障されている大手企業の正社員だもね。
 それに比べ、小説家の方は…。


 先日「婦人公論」に柳美里さんのエッセイが載ったので読んだ。彼女、この10年、うつ病で、ほとんど書けず経済的に困窮しているらしい。芥川賞作家である柳美里さんが…だよ。ショックだなぁ!
 そういえば、彼女の新刊って、全然見ないもの。
 なんといってもネームバリューがある人だから、書けば、どこかの出版社が出してくれるだろうけど、書けないというのは困る。お子さんは今度、高校生になるらしい。


 この「歪笑小説」の最後に「職業 小説家」という短編が載っている。
 唐傘ザンゲという新人ミステリ作家が、婚約者の両親に挨拶に来て、自分の収入について話す場面がある。
 年に単行本2冊の印税と、雑誌の原稿料をあわせ、348万円ほどが予定年収。ここから税金と社会保険料(年金・健康保険)を払うと説明。
 うーん、こんなものかなぁ。この唐傘ザンゲという新人は、「虚無僧探偵ゾフィー」というデビュー作で、第1回灸英社新人賞を受賞。今、もっとも灸英社が力を入れて売り出そうとしているのに、7000部しか刷らないとは…。
 この先、唐傘ザンゲは大化けするかもしれないが、大変な職業だよね。小説家って。
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森博嗣 「月は幽咽のデバイス」

2015-05-18 15:17:43 | Weblog
 薔薇屋敷、あるいは月夜邸と呼ばれる、篠塚氏のお屋敷には、オオカミ男が出没するという奇妙な噂があった。
 瀬在丸紅子たちが出席したパーティーの最中、隣のオーディオルームから、衣服が引き裂かれ、身体中血まみれになった女性が発見された。隣のパーティー会場には大勢の人が談笑していて、不審な人物は出入りしていない。しかも、現場は内側から施錠された密室だった。
 いったい誰が、なぜ、どうやって…?!


 大胆なトリックだが、とてもいいと思う。(人によってはアンフェアと受け取るかもしれないが) トリックが優れているというより、謎の提示の仕方が優れている。
 惨殺死体の発見されたオーディオルームには、大きな水槽があり、そこから水が大量にこぼれていた。外の池と繋がっている水槽の水は、なぜこぼれたのか?誰かが水をまき散らした訳ではない。その謎を突き詰めていけば、この大掛かりなトリックが見えてくる…はず。


 しこさんは飲んだくれて、まったく役に立たないが、れんちゃんは、女装に立ち回りに大活躍。そうだ!! れんちゃんは拳法の使い手なんだ! 瀬在丸家の執事・根来機千瑛(ねごろきちえい)が、れんちゃんの師匠。


 話は変わるが、年少組のれんちゃん・しこさんを主人公にしたスピンオフ作品を読みたいよ。どうも、年長組の紅子・林・七夏・保呂草に、私は好意を持ちにくい。特に保呂草が嫌。
 林警部も、いなくてOK。事故死させ、遺影の前で、紅子と七夏をいがみあわせればいいよ。
 そのかわり、機千瑛をいっぱい登場させてほしい。出番が少ないので、フラストレーションがたまります。
 機千瑛と林警部は犬猿の仲だとか。紅子の離婚原因を考えれば納得!機千瑛が林を叩きのめす所なんか、読みたいですね。
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群ようこ 「衣もろもろ」

2015-05-14 10:54:22 | Weblog
 私は、群ようこを誤解していたようだ。この人、服装に無頓着だろうと勝手に思い込んでいたが、本当はなかなかおしゃれな人なんだ。
 しかし、考えてみれば当然。もともと日大の芸術学部卒なので、周囲にはファッションにうるさい人ばかり。新卒で代官山の広告代理店に、わずか半年とはいえ勤めたんだから、通勤着も大変だったろうね。
 売れっ子作家になってからは、経済的に余裕があるので、いくらでも服につぎ込めたらしい。
 40代になって「コム・デ・ギャルソン」が気に入り、ずっとコム・デ・ギャルソンで行くつもりだったが、50代になって、顔と服が合わなくなってきたと、群ようこは悩みだす。その、揺れる心情を書いたのがこのエッセイ。


 群さんは、たぶん私より4歳ほど年上だと思うので、子どもの頃の思い出話が、よく理解できる。
 例えば、群さんの中学生時代、ミニスカートが大流行し最悪だった、と書いてあったが、私も覚えてます!!! もう、猫も杓子もミニスカートだったな、若い女性は。慣れというものは怖ろしいもので、若い女性でミニスカートをはいてない、ひざ丈くらいのスカートだと、異星人のように目立った。
 当時の佐藤首相が、奥様同伴で訪米した時、その夫人がミニスカートをはいて、さっそうと登場したので話題になった。奥様は、たぶん60歳くらいだと思う。
 
 とにかく、ミニをはくべし!という無言の圧力がかかっていたよね。お店にもミニスカート以外のスカートが置いてないほど。
 私はまだ、制服があったのでよかったが、大学生になって私服になったらどうしよう…と内心ドキドキだった。でも、その頃には、すっかりミニもすたり、ほっとした。ラッキーだったね。


 ブティックというかショップの店員さんが怖くて、お店に入れないっていう人、多いんじゃないかな? 私もそう。
 だいたい、店員さんにバカにされないような服を、まず着なければならない。これが難しい。第一もっていない。
 えっ?! そんなにビビる必要ないって? でも、群さんが若い頃の話だけど、試着して丈を直してほしいと頼んだら、「デザインのコンセプトが変わるので、直せません」と拒否されたとか。ね、怖いでしょう?
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森博嗣 「人形式モナリザ」

2015-05-09 16:37:47 | Weblog
 実は、これ、電子書籍で読んだ。文庫の細かい文字が今のところは読めるが、この先読みづらくなってくるのは必至なので、kindleを買おうか迷ってたんだが、なんにせよ、文庫の大きさだから意味ないねと思ってた。
 でも、kindleってパソコンで読めるんだ!! で、早速購入。540円。本当に読みやすいです。嬉しい。


 この「人形式モナリザ」は瀬在丸紅子シリーズの第2作目。私、すごく前にこのVシリーズを3冊くらい読んだ事あるが、主人公の紅子さんの印象が、著しく薄いのだ。ほとんど覚えていない。女装趣味のれんちゃん(小鳥遊練無)と元気いっぱい関西弁のしこさん(香久山紫子)の2人の事は、すごくよく覚えているのに。
 作品も「黒猫の三角」は良い作品だと思ったが、後はイマイチ。このままVシリーズはスルーするつもりだったが、サナダさんから驚愕の情報を入手し、Vシリーズも読もうと思っている。
 驚愕の情報というのは、Vシリーズに出てくるへっくんが、実はS&Mシリーズの、あの人だったんだ!という情報。いやーーー、本当に驚きました。


 長野県のリゾート地に建つ、人形博物館。乙女文楽が上演されている最中、殺人事件がおこる。
 乙女文楽創始者の雅代が、何者かによって、背中をナイフで刺されたのだ。高齢の雅代は車いすに乗って舞台に立っていたが、その衆人環視の中、どうやって犯行は行われたのか?どう考えても不可能としか考えられないが…。

 森ミステリにしては珍しく、トリックは分かりやすい。ただ、動機がスッキリしない。スッキリしないというより、動機を軽視している。それが森ミステリの特徴と言えば言えなくもないが。
 この殺された雅代ばあさんは、夫との間に子どもがいて、愛人との間にも子どもがいる。つまり父親違いの異父兄弟。その子どもたちや孫たちが、仲よく文楽をやっているというのは、心情的に理解できないよ。
 だから、その異父兄弟姉妹や従兄弟たちの、どろどろした心情が、事件の遠因だと面白いんだが、ちょっとね。動機がさっぱりしすぎ。

 でも、もう一つのドロドロがすごいので、殺人事件の動機をサッパリしたかったのかもしれない。
 紅子と林(紅子の元夫)と七夏(林の現愛人)の三角関係が泥沼。紅子さん、別れた亭主がそんなに気になるなら、離婚なんかしない事!
コメント (4)
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