ケイの読書日記

個人が書く書評

「惑う アンソロジー」 アミの会(仮)著  新潮社

2018-09-26 13:31:14 | その他
 8人の作家のアンソロジー。法月綸太郎と今野敏がゲストで、あとの6人、大崎梢・加納朋子・永嶋恵美・松尾由美・光原百合・矢崎存美がアミの会(仮)というサークルを作っているようだ。
 私が勉強不足のせいか、ゲストの2人(大家です)の他は加納朋子しか名前を知らなかったなぁ。

 女性作家が多いので、恋愛要素が入った作品が多い。面白いと感じた作品は少なかった。失礼!!
 しいて言えば、永嶋恵美の『太陽と月が星になる』かなぁ。この永嶋恵美さんは、映島巡名義でマンガの原作もしているらしい。そう、そんな感じ。『太陽と月が…』もちょっと少女マンガっぽい。
 この作品を読んでいたら萩尾望都の名作マンガ『イグアナの娘』を思い出した。別に似た話でもないのだが。
 
 『太陽と月が…』では、姉と妹がいて、母親の愛情は妹に集中。姉は事故死した前妻の子どもで、妹は母親の実子。当たり前の感情だろう。本当は等しく愛情を注いでいたかもしれないが、姉にはそう感じられた。
 姉妹の仲は良く、妹にとってお姉ちゃんは何でもできる素晴らしい人だった。でも、実際は不器用で数字にも弱くて、運動も苦手。でもお姉ちゃんは妹を自分に頼らせようと(自分一人では何にも出来ない子にしようと)いろいろ宿題を手伝ったり、勉強を教えたりしたのだ。そのため、お姉ちゃんは努力した。そうしたら、お姉ちゃんの成績はめきめき上がって…。 
 母親の大切な宝である妹を支配することに姉は成功したが、そこには思ってもみなかった副作用があった。

 萩尾望都の『イグアナの娘』では、姉妹は両方とも母親の実子である。しかし母親には姉は「イグアナ」に見えてしまうらしい。お姉ちゃんは家族と距離を置き、自分の道を進んでいく。明るい未来に向かって。
 この『太陽と月が…』では、母親への反発心が、かえってお姉ちゃんを自滅に追い込んでいる。結局、人を呪わば穴二つ、という事か。


 他には光原百合の『赤い椀』がよかった。これは民話・遠野物語の『マヨイガ』をモチーフにした作品だが、座敷童が出てきたりして、さらりとした読後感。この人は、民話や童話をモチーフにした作品が得意なんだろうか?
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皆川博子 「冬の旅人」 講談社

2018-09-21 14:01:01 | 皆川博子
 以前、ネットでラスプーチンのことを調べていた時、皆川博子の『冬の旅人』はラスプーチンを題材にしていると書いてあった。皆川博子は大好きな作家さんなので、さっそく読んでみたが、最初に、1880年17歳でイコン画(ロシア正教の肖像画)の技術を学ぶため、ロシアに渡った日本人女性・川江環という人が出てきてガックリ。
 いったいこの女性が、ラスプーチンとどう関係するんだろかと、怪訝な気持ちだったが…これが、物語後半に結び付くんだ。さすが皆川博子。

 主人公・川江環(ロシア人からはタマーラと呼ばれる)は、実在した明治のイコン画家・山下りんをモデルとしているらしい。ただ、山下りんは、2年ほどでロシアから日本に戻って、各地でイコン画を描いている。だから、川江環(タマーラ)の話は、全くのフィクション。波乱万丈というか荒唐無稽な話というか…。でも素晴らしく面白い。


 タマーラは最初、女子修道院でイコン画を学ぶが、エルミタージュ美術館で観た洋画に感動し、イコン画に興味を失う。修道院の規律を破るので、タマーラは日本に送還されることになる。それを救ったのは、画学生のヴォロージャと下働きのソーニャ。彼らと同居し、絵に打ち込むが、ヴォロージャが無実の罪で西シベリアに流刑になり、一緒について行くことにする。
 日本人には、流刑地シベリアは、どこでも同じ過酷な土地と思うが、東シベリアは地の果てで生きて帰れる望みは薄いが、西シベリアなら見込みはある。その西シベリアでタマーラは、子供の頃のラスプーチンに出会う。

 5年の刑期を終え、タマーラたちは首都のペテルブルグに戻り、生活を再スタートさせるが、ロシアという国は大揺れに揺れていた。
 タマーラがロシアに来た時も、「去れ!専制政治よ!」と声高に叫ぶ人たちはいたが、ただの言葉だけだった。でも、それがいよいよ現実味を帯びてきた。

 ロマノフ王朝末期が題材だろうこの本を、私が読みたかったのは、この頃のロシアって、どういう暮らしぶりなんだろうと興味があったから。ドフトエフスキーの『白痴』は1868年の作品で、その中でも帝政の揺らぎは感じたが、いかんせん『白痴』は、あまりにも観念的で、上流階級、地主階級のことしか書いてないから。それに日露戦争時や第1次世界大戦時の一般民衆の生活がどうだったか、読みたいと思っていた。
 でも、この小説中では、日露戦争時(1904年)タマーラは日本のスパイかもしれないと牢屋にぶち込まれていたので、庶民の生活はあまり書かれていない。

 その後タマーラは、(ものすごく無理な設定だと思うが)皇帝の子どもたちの絵の教師となり、宮殿に出入りするようになる。

 1905年の「血の日曜日」事件後、皇帝は国民の支持を失い、治安が急激に悪化。デモやストライキは日常のものとなる。
 1914年、第1次世界大戦がはじまり、皇帝ニコライ2世が戦地に赴いている間、政治は皇后がおこなうが、彼女は、皇太子の血友病を治療できるラスプーチンを重用し、有力な政治家を次々と罷免。国内はますます混乱する。恨みを買ったラスプーチンは暗殺され、ボリシェヴィキが政権を取り、皇帝一家は幽閉され…。

 いままで皇帝一家を守っていた兵士たちが、今度はソヴィエトに忠誠を誓い、皇帝一家に銃を向ける。卑猥な言葉を皇女達に投げつける。元皇太子のアレクセイに「オレの足元にひざまづいて靴にキスしろ」などと強要する。
 ああ、人間ってこうも変わってしまうものなのか。嫌だね。
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べつやくれい 「ひとみしり道」 メディアファクトリー社

2018-09-16 10:44:23 | その他
 ひとみしりの著者によるコミックエッセイ。著者紹介の中に生年は書かれてないが、就職氷河期世代の人だろう。就職が決まらず焦って、生命保険会社の営業に就職したが、すぐ辞め派遣で事務をやったと、このコミックエッセイ本に描いてあった。
 いくらなんでも、人見知りを自認しているのに、生命保険の勧誘は無理でしょう。

 ただ筆者は…「ちびまる子ちゃん」に出てくる野口さんみたいな人なのかなぁ。外面はすごーーーくおとなしくて全然しゃべらないのに、中身は面白い事がいっぱい詰まっている人。
 彼女は、子どもの頃から男の子向けのテレビやマンガが大好きだったそう。特に戦隊ヒーローもの。それに野球も大好き。普通ならこういうタイプは、男の子と話が合う活発な女の子になるだろうけど、男子の話に入っていく度胸はない。
 当然、女の子と遊ぶことになるが話が合わない。周囲は『キャンディキャンディ』の話でもちきりなのに感情移入できず、少女マンガがあまり好きではなかったそうだ。画業を生業としている人にしては、すごく珍しい。

 そういった小学校時代を経て、中・高・大とエスカレーター式の女子校に進む。この学校は美術系だったこともあり、マイペースな女子も多数。さすがにのびのびできるようになった。めでたしめでたし!

 でも彼女は人見知りのメリットも描いています。「だまされにくい」確かに。
 セールスする人には、反応しないのが一番なんだよね。話を聞いてしまうと断りにくくなるし、相手も「あっ、これは脈がある」と思うだろうから。「振り込め詐欺」でも、自分は騙されないぞ!逆に相手をとっちめてやる!なんて自信満々の人は、かえって相手の術中に陥る。だって相手は、騙しのプロなんだから。反応しないのが一番。ガチャンと電話を切る。

 そういえば、このコミックエッセイ本の中で、興味深いセールスの手口が! 彼女がファミレスでバイトしていた時、知らないお客さんから話しかけられた。その人によれば、前にお店に来た時、彼女に親切にしてもらったので助かったと。そのお礼に、ファミレスのバイトより儲かる話を教えてあげると言い出した。(怪しさMAX!) 売ったり買ったりしなくて、人を集めるだけで儲かるんだそうだ。
 彼女はすごく怖くて、挙動不審になりながら断った。

 こんな怪しい勧誘ってあるんだね。ファミレスだと、いくらおかしな人でも相手はお客さん。ビシッと断れないのを利用している。
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「美術館で働くということ」 オノユウリ ㈱KADOKAWA

2018-09-10 08:44:17 | その他
 「東京都現代美術館学芸員ひみつ日記」というサブタイトルが付いている、学芸員のお仕事コミックエッセイ。
 学芸員って人気のある仕事。資格を取るのは難しくないけど、学芸員として就職するのは…超ムズカシイ! とにかく募集が少ないから。だから、本当に好きで優秀な人が、採用されているんだろうね。

 このコミックエッセイの主人公・清澄ユキさん(架空の人物ですよ!)は、絵が大好きで美大を受験するも不合格。女子大で美術史を選択し学芸員資格を取る。大学院に進み美術の研究を深めつつ、小さなギャラリーのインターンをしながら、数少ない募集に応募し、みごと就職!!(就職試験って論文と面談みたい)

 やっぱり、学芸員の資格があるからといって、大卒で就職できることはまれで、ほとんどの人がインターンとして美術関係の仕事をしながら、就職先を探すみたい。だから25歳くらいになっている。
 このコミックの主人公・ユキさんは、ちゃんと就職できたからいいけど、不安定なインターンをやりながら勤め先を探すのは、けっこう冒険だなと、いくじなしの私は思う。

 とにかく専門性が高い。ユキさんは先輩学芸員から「私たちって24時間学芸員なのよね」と言われたそうだが、お休みの日も美術館やギャラリー巡りして作家さんと会うようだし、海外旅行の時ですら、美術館を目的に巡る人がほとんどらしい。
 ギャラリーの経営者や作家さんも、有名な美術館の学芸員が来てると、緊張するだろうな。


 すごーーーく大変そうだが、でも自分の企画が通って、実際に展覧会が開かれたら…感激するだろうな。それに、新しく購入する収蔵作品の会議もあるみたいで、自分が押している作品が、自分の勤務先である美術館に購入されると嬉しいだろうね。
 本当に、選ばれた人たちの仕事だと思う。
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山崎ナオコーラ 「母ではなくて、親になる」 河出書房新社

2018-09-04 18:06:07 | その他
 山崎ナオコーラさんの作品は1冊も読んだことないけど、ペンネームが変わっているし、私の読んでいる新聞にエッセイを数回載せていたので、名前だけは知っていた。
 ジェンダーについて、自分なりのこだわりがあるようで、だからタイトルも『母ではなくて、親になる』なんだろう。

 一見、育児書だが、赤ちゃんの事ばかりでなく、純文学作家としての悩みとか書店員の夫との生活のあれこれも書いている。むしろ、その方が多いし読んでいて面白い。
 純文学作家=裕福でない というイメージがあるが、彼女の場合、デビュー作『人のセックスを笑うな』が売れて、映画化もされたので、比較的お金に余裕があるようだ。エッセイの中にも、さかんに「同年代のサラリーマンより、私の方が税金をうんと多く払っている」とか「書店員の夫より私の方が、給料が倍以上多い」とか書いている。

 だんなさんも「俺は男だ!」という意識が薄く、夫婦仲は良いようだ。
 でもね、ナオコーラさん。正社員のダンナさんは、これから少しずつ給料が上がっていくんだろうと思うよ。厚生年金や健康保険もバッチリついてるし、退職金だってあるだろう。なにも自分のエッセイ本で「低収入」「低収入」と連呼しなくてもいいと思うな。
 こういう事って、言われた本人に自覚が無くてもジワジワ効いてくるんだよね。後から。


 ナオコーラさんは面倒くさい人でもある。例えば『トイレ』。ボーイッシュな人が女子トイレに入る時、不審がられるからどうすればいいか?という相談に、もっと女性らしい格好をしたらどうか、という回答があった。
 それに対して、激しく憤っている。「周りの人が女性かどうか見た目で判断するのを止めればいい。そもそも性別でトイレを分ける必要はない」と主張する。うーーーん。
 私はもっと単純に「私、男に間違われること多いですが、女です」と言えばいいだけだと思うけど。それに男女一緒のトイレも、地方のスナックなんかにあるけど、やっぱり利用しづらい。ナオコーラさんは、公共施設などにある「多目的トイレ」といったバリアフリーのトイレを考えているかもしれないが、すべてそれに変えようとすると、本当にお金と場所が必要だよ。
 そんなに性差を敵対視しなくてもいいと思う。

 ナオコーラさんの小説を読んでみようとも思うが、彼女の小説ってほとんど恋愛小説なんだよね。うーーーん。

P.S.ヨシタケシンスケのイラストがかわいい。
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