ケイの読書日記

個人が書く書評

益田ミリ 「沢村さんちは もう犬を飼わない」 文藝春秋社

2017-09-25 10:18:21 | 益田ミリ
 初出は『週刊文春』2013年8月15日号~2014年11月20日号の連載。歯医者さんに行くと、この雑誌が置いてあるので、私にはお馴染みのマンガ。

 沢村さんちは三人家族。父・沢村四朗 70歳。定年退職して定年ライフを満喫中。趣味は読書と映画鑑賞。  母・沢村典子 69歳。料理上手で手先が器用。社交的で近所に友達も多い。   娘・沢村ヒトミ 40歳。実家暮らしの独身。入社18年目のベテランOL。仲良し3人組で、よく女子会を開いている。

 この高齢の両親と未婚の娘一人というのが、週刊文春の主な購読者層か? この家族構成が平凡になってしまったんだもの。日本の少子化が進むワケです。

 沢村さんちは本当に仲の良い家族で、ケンカなどめったにしない。たまの夫婦げんかの原因と言えば、肉じゃがに入っているジャガイモの面取りをするかどうか。脱力するほど平和。親子ゲンカは、ほぼ無し。たまに母親が娘に「一人で生きて行くんだから」と言って、娘がムクれるくらい。それどころが異常に仲がいい。
 町内会の盆踊りに家族3人で出かけ、屋台をひやかしたり、母親の夏服を買いに娘と2人でデパートに出掛けたり、その帰りに喫茶店でお茶したり…。
 別居している娘が、たまに親を旅行やレストランやデパートに連れて行く話はよく聞くが、同居している娘が、これほど親を気遣ってくれるケースってあまりないよ。素晴らしい一家。

 沢村さんちは、お父さんが脳梗塞で倒れたり、お母さんに認知症の初期症状が現れたり、娘さんの会社が業績不振で40歳以上の希望退職を募り肩たたきされたり…なんて事は、ありえないんだ。マンガだから。サザエさん一家と同じ。現実を忘れメルヘンワールドに遊ぶ。

 
 でも現実はそうではない。1年たてば1歳トシを取り、5年たてば5歳トシを取る。そして恐ろしい事に、年々月日が経つのが早くなるんだ。
 今までは親を頼っていた。給料の一部を家に入れてはいるけど、帰宅すればちゃんとご飯は準備されており、お風呂も入れるようになっている。お弁当を作ってもらってる人すらいる。
 でも、ある日を境に、その立場は逆転する。親から頼られるようになる。「医者に連れて行ってくれ」「入院に付き添って」「柔らかい食事が食べたい」「粗相をしたから下着を洗って」etc
…そして介護が始まる。特に娘だったら介護して当然!という無言の圧力が、親本人、親せき、近所の人たちからかかるから、ヒトミさん、大変ですよ。 
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宮部みゆき 「ペテロの葬列」 集英社

2017-09-20 09:55:34 | 宮部みゆき
 本当は、これを前回の『火車』の前に読んでいたのだが、探偵役の杉村三郎の身に、最後の方であまりにも悲しい出来事があって最後まで読み通せず、しばらくほかっておいて他の本を読んでいた。
 杉村は、ずいぶん前に読んだ『名もなき毒』にも探偵役をやっていた。今多コンツェルンG広報室に勤務しており、妻の菜穂子は今多コンツェルン会長の妾腹の娘。つまり杉村は、会長の娘婿という事になる。小学校1年生の娘がいる。

 物語の本筋には関係ないが、杉村の奥さん・菜穂子や、彼女の実父にムカついてしょうがない。もちろん杉村にも。
 杉村の生家は、長野県で果樹園をやっていて、あまりにも不釣り合いな縁談だと思ったのだろう。律儀な人たちなんだろう。絶縁を申し渡された。それを良い事にして、杉村も妻も彼女の親も、杉村の両親を無視。まったく連絡を取らない。かえって気楽でいいと、妻も娘も顔を見せる事が無い。それって、人としてどうなの?
 なにが「お父様」だ、なにが「おじいさま」だ。父方にも、祖父母がいるのを無視して、よく平気でいられますね。


 そういった所がムカムカするが、本筋のストーリーは、とても面白い。杉村の乗ったバスが、バスジャックにあい人質に取られるが、犯人が要求してきたのは金銭ではなく、3人の男女を連れてくることだった。3人の男女は関わり合いを拒否、警察は人質救出を強行する。犯人の爺さんは拳銃で自殺。一件落着かと思われたこの事件には、意外な裏があって…。

 ストックホルム症候群という症例がある。人質たちが犯人に協力的な態度を取るようになることを指すけど、これは数日後からで、数時間後に起こることはないだろう。つまり犯人である爺さんは、他人の心をコントロールする能力を持っているのだ。正しいから従う、悪いから従わないといった単純な話でなく、相手を従わせるスキルがあるのだ。怖いね。スキルの無い人間は、立ち向かっちゃいけない。逃げ出さなくては。
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宮部みゆき 「火車」 新潮文庫

2017-09-15 13:12:00 | 宮部みゆき
 私は見てないが、TVドラマ化されてるのは知っていた。宮部みゆきの作品は、当たりハズレが少なく、どれを読んでも面白い。その中でも、この『火車』は傑作と聞いていたので、期待が高まる。

 
 休職中の刑事・本間は、遠縁の男性から、彼のフィアンセ・関根彰子を探してくれと頼まれる。彰子は、銀行員の彼と結婚するにあたり銀行系カードを作ろうと申し込んだが、できなかった。彼女は数年前に自己破産してブラックリストに載っていたのだ。
 驚いた男性が彰子に説明を求めると、彼女は翌日、姿を消した。徹底的に痕跡を消して。

 どうしても信じられない。何かの間違いだ。絶対に会って一度話し合いたい。そう強く願う男性の依頼を受け、本間は、彰子の勤め先に残されている履歴書から手がかりを得て調べ始めるが、驚くべきことが判明する。その経歴は一切でたらめ、それどころか、関根彰子は、関根彰子ではなかった。誰かが身寄りのいない関根彰子を勝手に名乗っていたのだ。
 一体彼女は何者なのか? そして、本物の関根彰子はいったいどこに消えたのか?


 こういった『別人に成りすます』は、生活に困窮した人がわずかなお金と交換に、自分の戸籍を売り飛ばすことで起こると思っていた。だから、世捨て人みたいにひっそりと生活している年配の男性、というイメージがあった。
 こういった若いキレイな女性が別人になりすます、というのは非常に難しいんじゃないだろうか?

 もちろん、相手を調べ、失踪しても誰も探さないような人に狙いをさだめ、巧妙に罠を仕掛けるのだろうが、もし別人になりすます事に成功しても、この狭い日本、どっかで思いもがけない人に出会うんじゃないだろうか?「あら、〇〇さん、おひさしぶり。ほら、私よ私。中学の時、卓球部で一緒だった」なんて声を掛けられる事もあるかも…。
 今回は、身元がばれそうになったら、結婚の約束をした男をほっぽり出して逃げ出すだけでよかったが、もし、別人の名で結婚し、家庭を持ち、子どももいたら? 子どもを置いて逃げるの?

 偽の関根彰子が、どんな手段を使っても、他人の戸籍を乗っ取らなくては自分の未来はないという苦境は理解できる。しかし、あまりにもリスキー。
 だったら…別の手段。警察や弁護士が当てにならないならば…。
 DV夫から身を隠してくれるNPOとか、どっかの宗教団体に駆け込むとか。

 こう書いた後、佐高信の解説を読んでいたら、なるほどと納得の文章があった。あの、山梨県上九一色村のオウム真理教のサティアンにいる信者たちの中に、多重債務者が多かったらしい。なるほど、取り立てヤクザたちも、あそこには近づきたくなかったのか。だから、借金でにっちもさっちもいかず、取り立て屋から追いかけられていた人たちが、オウム信者となってあそこに逃げ込んでいたのだ。
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石神賢介 「婚活したら すごかった」 新潮新書

2017-09-10 19:38:14 | その他
 石神賢介という名前は仮名だそうです。この新書を出版した時には、まだ本気の婚活をしており、さすがに本名だとマズいだろうとの事で。

 石神さんは1962年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てフリーライターへ。本を何冊か出しているが、印税で生活できるほど売れている訳ではない。30歳代で一度結婚し、1年ほどで離婚している。身長160センチ強、体重70キロ弱。つまり小太り。外見は、次長課長の河本タイプらしい。
 そんな石神さんが、40歳を少し過ぎた頃、突然結婚したくなったそうだ。「もし、自分にもチャンスが残っているならば、人生を誰かと手を携えていきたい」らしい。
 
 で、ネット婚活、お見合いパーティ、結婚相談所、外国人専門のネット婚活etc。 もちろん、取材という下心もあるが、本当に良い相手がいたら結婚したいという意欲満々で体当たりする。

 この体当たりが常に玉砕するわけだ。石神さんが好意を持った女性からは無反応で、どうでもいい女性から好意を持たれる。でも、誰でもそうだと思うよ。人気のある人は集中するからね。

 しかし、何といっても、フリーの著述業という仕事柄、初対面の人との会話は得意だろうと思う。こういった場では、容姿より話しやすいのがポイント高い。ただ…フリーランスというのは安定志向の女性には、そっぽを向かれるだろうね。
 フリーになる前の、出版社勤務時代だったら、引手あまただったろうに。でもその時は1年で離婚しているからなぁ…。


 ずいぶん前に、阿川佐和子の『お見合い放浪記』を読んだときに強く感じたが、出会いがありすぎるのよね。
 初めて紹介してもらった人が素敵でも、最初で決めるのはもったいない! 次はもっとカッコいい人が来るかも、なんて期待してしまって、気に入った相手を断る。しかし、次に紹介してもらった人は、先回より見劣りし断るが、前の人に戻れるわけじゃない。で、次の人をまた紹介してもらい…。こんな事を延々と続け、若い頃に何十回も見合いしたそうだ。何といっても阿川弘之の娘。良縁が降るようにあっただろうね。
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たかぎなおこ 「ひとりぐらしも何年め?」 メディアファクトリー

2017-09-05 10:41:18 | たかぎなおこ
 なんと! たかぎさんは、一人暮らしも18年めだそうです。(このコミックエッセイが出た2015年の時には)
 コミックエッセイって、絵の専門教育を受けてなくても描いてる人いるけど、たかぎさんは、美術短大に行って、その後美術の専門学校に行ってるので、上手です。

 上京してからの5年半、狭いワンルームに住んでいたたかぎさんですが、その辺の事は、以前読んだ『浮草ディズ』に書いてあって、苦労した事を知っているので、勝手に親近感を持っています。
 イラストレーターとして勤めていた広告代理店を辞め、東京で一旗揚げようと上京してきたのに、なかなか芽が出ず、バイトで生活費を稼ぐのが精一杯の日々。(絵で生活しようとしてる人は本当に多いのです)
 家族は地元に帰って来いというし、今日も参加したコンペでは不採用だし、くじけそうな時、大手出版社の人から電話が…。たかぎさんが書いているブログをコミックエッセイとして本にしないかと言われ…。それからは、とんとん拍子。恋愛要素は全くないが、一種の東京サクセスストーリーです。

 本書の中に『預かりネコ暮らし』が2編入っています。担当さんが、出張や旅行に行く時、飼い猫をたかぎさんに預けるのです。1回目のネコはココにゃん。10歳のスコティッシュの女の子。2回目はモモタ。2歳のミックスの男の子。たかぎさんのマンガもかわいいが、フォトメモが付いていて、それが本当に可愛いのなんのって!! モモタはまだ2歳だから、スレンダーだけど、ココにゃんは立派な中年なので貫禄あります。
 太ったネコは皆そうなのかなぁ?我が家のネコ、みぃ太郎(11歳)も仰向けで寝るのが好き。おなかのフワフワな腹毛の気持ちよさそうな事! ココにゃんは、お腹がすくと頭突きで知らせるそうですが、うちのみぃ太郎は、私の顔を引っかいてきます。大変です。

 もう一つ印象に残ったのが、たかぎさん、仕事場としてシェアオフィスを借りた事。ほとんどの物書きが(経済的に余裕があれば)自宅と別に仕事場を借りてるんじゃないかな?やっぱり自宅だと、いろんな雑事があって、仕事に集中できないよね。
 オフとオンの切り替えは大事。
 私は、シェアオフィスというと、一つの特定の部屋か机を借りると思っていましたが、そうではない所も多いらしい。
 たかぎさんが借りたのは、固定席ではなく、空いてる席に自由に座っていいというシステムの所。料金は月に15000円で使い放題。飲食コーナーもあり、軽食が買えるし、お弁当を持ってきてもいい。
 しかし、それなら客が少ない時間を狙って、ファミレスで仕事しても良いような…。ファミレスで仕事している物書きもどっさりいると思う。
 ちなみに、たかぎさんは週3回ほどのペースで通ったそうですが、そうすると月に12回。15000円を12で割ると1250円。1回1250円をシェアオフィスに払うんだったら、ファミレスでご飯とドリンクバーを注文して、ゆったり仕事した方が、お得な気がする。
 ああ、こんなチマチマした事、考えながら読んでました。

 たかぎさんは、その後、知人が借りた事務所を一緒に使う事になり、仕事場がうんと広くなり、新しいカレもできてゴキゲンだそうです。めでたしめでたし。
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