ケイの読書日記

個人が書く書評

F.W.クロフツ「樽」

2007-07-27 13:58:27 | Weblog
 もっと地味で退屈な話かと思っていたら、どうしてどうして、とても楽しめた。古典的名作と言われるだけはある。

 確かに鮎川哲也の「黒いトランク」に似ている。というより「黒いトランク」が「樽」に似ているというべきだろう。

 「黒いトランク」が敗戦間もない日本を舞台にしているので、刑事さんの出張描写も、わびしい旅館の貧しい食卓風景で、読んでいる方も気が滅入るが、こっちの「樽」は1912年ごろのパリやロンドンが舞台のせいか、明るく華やかなんである。

 捜査のためロンドンの刑事がパリに来ているが、パリの刑事が彼をその日の仕事が終わった後、ミュージックホールに招待しているのだ。すごいなぁ。ムーランルージュかしら…?

 アリバイの裏付け捜査のため、あちこちのカフェやホテルに出掛けるが、その時も地下鉄も使うがタクシーをバンバン使って、予算の方は大丈夫なんだろうか、と心配になるほど。この時代のタクシーってかなり高価だったのではないだろうか?


 そういえば、メグレ警部も結構楽しんで仕事をしていた。勤務中でもビールをよく飲んでいたし、洒落たレストランでゆったり食事していた。さすがフランス人、と思ったが、しかし、イギリスのH.メルビル卿も職務中、強いアルコールをグビグビやってたなぁ。
 でも、日本の探偵や刑事でそういったシーンはあまり無いような…。私が知らないだけ?


 とにかくアリバイトリックの古典的名作。時刻表が出てこないので、本当に読みやすい。地名も外国とはいえ、パリ、ロンドン、ドーヴァー、カレー、ブリュッセルといったメジャーな所ばかりなので、旅行気分も味わえる。
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劇団ひとり「陰日向に咲く」

2007-07-22 11:58:41 | Weblog
 待ちました。1年近く…?とにかく『ダ・ヴィンチ・コード』(7ヶ月半待ち)より待って、やっと手元に来ました。

 売れた本だけあって面白かったです。これ、ゴーストライターじゃなくて本当に劇団ひとりが書いたとしたら、才人ですね。


 「道草」「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」「Over run」「鳴き砂を歩く犬」の5編が収められています。それぞれ、登場人物が少しずつ重なっているが、それはさほど重要ではありません。
 普通の市井の人々、というより一段下の人々の日常が書かれています。

「Over run」のギャンブル中毒男もよかったが「拝啓、僕のアイドル様」のアイドルオタク青年が一番好きです。
 大好きなアイドルにプレゼントするためにバイト代を全部使ってしまい、水だけしか飲めない。
 コンビニのゴミ置き場で、賞味期限切れの弁当をめぐってホームレスと闘うシーンなど涙なくしては読めないなぁ。


 私自身、アイドルの追っかけはやったことがない。(芸能人はどうもなぁ。スポーツ選手の追っかけだったら出来ると思う)

 中学生の時、同じクラスに野口五郎(皆さんは知らないでしょう。お母さんに聞いてみてね。西城秀樹・郷ひろみと新御三家と騒がれていた)の追っかけをやってる子がいた。

 その子が、新幹線の中で数分間野口五郎とおしゃべりした、という話をクラス全員の女子が彼女のまわりに群がって聞いていたのだ。
 彼女、言ってたなぁ。「目がすごくキレイなの」

 彼女、どうしてるかなぁ。
コメント (2)
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綾辻行人「どんどん橋、落ちた」

2007-07-17 10:59:37 | Weblog
 「どんどん橋、落ちた」他4編が収められている。

 確かに「必要な手掛かりはすべて提出された」が、ここまでアンフェアとフェアの境界線をいくべきでしょうか?
 それほど人をあっと言わせたいのかなぁ。

 確かに、読者の大部分があっと驚き、騙されちゃったと悔しがるだろうけど、ただそれだけ。タネがわれてしまえばもう読み返したいなんて思わない。

 クリスティの『アクロイド殺し』もフェアとアンフェアの境界線で、いろんな人の批判があったようだけど、あれはトリックを除いてもミステリとして面白いからなぁ。小説として読む価値が十分あります。


 とにかく、綾辻行人の騙しのテクニックに挑戦したい人は『どんどん橋、落ちた』と『ぼうぼう森、燃えた』をどうぞ。
 でも解決編を読んで、「ふざけるなーっ!!」と怒り出さないでくださいね。
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岸本葉子「楽で元気な人になる」

2007-07-12 11:17:56 | Weblog
 私の心の清涼飲料水・岸本葉子さんのエッセイ。タイトルだけ見るとハウツー物の本のようだが、そうではない。
 岸本さんが40歳をはさんだ数年間に、いろんな雑誌に載せたエッセイをまとめ単行本に収めたもの。


 いやぁ、癒されますねぇ。別に特別な事が書いてあるわけでもない。日常生活の中でのささやかな様々な出来事が書かれてあるだけですが、元気をもらえます。

 40歳といえば、岸本さんは癌で大きな手術をした。詳しくは『がんから始まる』に述べられているので、このエッセイではサラリと流しているだけだが、やはり大変だったと思うよ。


 数日前、子どもの健康問題で夜中じゅう悶々としていたが、その時も「岸本さんは、一人で癌に立ち向かったんだ。しっかりしろ!! たいした病気でもないのに、親がうろたえてどうする!!」と自分自身を叱咤激励した。

 そうです。「病は気から」と言うけれど、精神が行動に大きな影響を与えるなら、岸本さんが主張するように行動が精神をひっぱることも可能なはず。

 カラ元気でもいい。たえず口角を上げ微笑んでいるふりをすれば、脳はバカだからだまされますよ。
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コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」

2007-07-06 14:00:38 | Weblog
 私は小学生の頃、子供向けのホームズ作品を読んだが、あまり面白くなかったことを覚えている。
 それに比べアルセーヌ・ルパンの素晴らしかった事!!
 兄が借りてきた『奇巌城』を皮切りに、シリーズを一気に読んでしまった。こちらの方は推理と言うより冒険小説というべきだろう。

 しかし、今、大人向けの小説としてホームズとルパンを読むとしたら、ホームズのほうがぐんと面白いのではないか?
 大人向けのルパンは、この創元文庫にもあるらしいが、読む気がしない。
 なぜ子どもの頃、ホームズよりルパンに夢中になったかというと、恋愛模様がたくさん書かれているので、それが少女マンガ大好きな私の心を掴んだのだろう。


 大人になった私が、大人向けのホームズをつくづく読みたいなと思ったのは、その時代背景にある。
 19世紀後半、ヴィクトリア女王時代の霧の街ロンドン、ベーカー街、スモッグ、街灯、浮浪者、貴婦人、アヘン、階級制度、スコットランドヤード、王族、etc。
 この時代の空気を私も吸ったような気分になりたいのだ。これは、ポアロを読む時もマープルを読むときも同じです。


 さすがに英国は、法的にきちんとしていて、遺産分配もしっかり遺言でまもられている。
 それに、特権階級や中産階級は額に汗して働く、という発想は無く、投資や年金や遺産で生活しているようだ。
 だから、娘が結婚し、年金や遺産を持って親と別会計を営む、という事になると親が(自身で働かず、遺産や年金を当てにしている人は特に)大変困ることになる。
 そこで、親が結婚前に娘を殺す、あるいは結婚を妨害する。それが動機になっている事件が、この短篇集中、3件もあった。
 恐ろしいねぇ。

 それに、落ちぶれた金に困っている貴族の多い事。19世紀後半でこうなんだから、21世紀の現在では、どうなっちゃってるか心配です。

 『赤毛連盟』にでてくる悪党は「おれの血管には王室の血が流れているのだ」と大いばりだったが、これに似た実話はあるんだろうか?
コメント (4)
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