ケイの読書日記

個人が書く書評

エリック・キース 森沢くみ子訳「ムーンズエンド荘の殺人」

2017-02-24 13:37:59 | 翻訳もの

 探偵学校の卒業生のもとに、校長の別荘・ムーンズエンド荘での同窓会の案内状が届いた。山の上にあるムーンズエンド荘に行くには、つり橋を渡るしか方法がなく、9人の招待客が別荘にたどり着いた後、つり橋は爆破され、彼らは孤立する。そして、密室など不可能状況下で、1人また1人と殺されていく招待客たち。
 アメリカ版・雪の山荘の『そして誰もいなくなった』。

 翻訳ミステリは最近読んでないので、とても楽しめた。犯人の手がかりが、登場人物たちの会話や描写の中にちりばめられていて、フェアな作品だと思う。

 こういった外部との接触を絶たれ、犯人が自分たちの中にいるだろうという状況下の中、私だったらどういう行動をとるか、クローズドサークル物を読むといつも考える。それぞれ個室になっている自分の部屋にこもるか、互いをけん制しあいながら、一塊になって行動するか。
 だいたいのミステリは前者だけど、私は絶対、後者だね。いくら鍵がかかる部屋と言っても、その中に一人でポツンといたら、命が助かっても気が狂いそう。
 でも、多くの推理小説では、それぞれ自分の部屋にこもって用心しているはずなのに、次々殺されていく。まあ、そうじゃなかったら、推理小説として成り立たないけど。

 私だったら、トイレなども戸口まで集団で移動してもらう。たえず人の目に触れる場所に自分を置いておきたい。寝るのも広間で2~3人ずつ交代で眠る。
 そして食事。こういった作品の中で一番違和感を覚えるのが飲食。殺人鬼が徘徊している屋敷の中で、皿に盛った料理をどうして食べる? 封が切ってない、注射針の跡がない缶詰を、缶からじかに食べる。

 この『ムーンズエンド荘の殺人』の中でも、最初の遺体が転がり出てきて、その後、すぐに厨房で夕食を用意している。そして一人が毒殺されている。いわんこっちゃない!アホか!あんたらは、それでも探偵か!!

 そうそう、探偵学校という存在も不思議な気がした。でもアメリカでは私立探偵はライセンス制だから、専門学校があってもおかしくない。だけど、卒業試験に本当の事件を扱わせるかなぁ。まあ、解決できなかった15年前の卒業試験の事件が、この『ムーンズエンド荘の殺人』の伏線となっているけど。
コメント (2)
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フカザワナオコ 「おひとりさまのはじめて料理」 角川書店

2017-02-19 10:10:26 | その他
 フカザワナオコさんのコミック「毎日がおひとりさま」「あいもかわらず毎日がおひとりさま」「いまだに毎日がおひとりさま」(主婦の友社)は、3冊とも、以前とっても面白く読んだ。
 なんといっても、この人は愛知県在住なので、私が勝手に親近感を抱いているのだ。ご近所さんかもしれないと。
 今度は角川書店か…。いやぁ、出世しましたね。フカザワさん。

 作者のフカザワさんは、1973年生まれのマンガ家&イラストレーター。実家を出て、一人暮らしをはじめて10年以上。でもお料理1年生。と書いてあるが、料理が上手でないというだけで、基本は自炊なのだ。ご飯はちゃんと炊いて、おかずはテキトーなものをササッと作る。そして、夜は晩酌が何よりも楽しみ。365日アルコールは欠かさない。といってもほとんど発泡酒だけど。
 独身だったら、誰でもそんなもんだって。凝ったものは作らないよ。ホームパーティが趣味の人なら別だけど。自分を責めないで。
 とにかく彼女は「一人暮らしだし今まで料理なんてしなくても別にいいやって思ってたけど、ここまで何もできずに年だけ取るのは、やばいような気がしてきた」「もしも、このままずーっと一人で生きるってなった時、80歳になった時点で、歯もまだあるし内臓も元気ですと、せめて健康面だけは死守したい」と一念発起して、料理に取り組むことになる。
 
 ハンバーグ、出汁、肉じゃが、野菜炒め、カフェ風ワンプレート、乙女スイーツ、唐揚げ、常備菜、そしてカルフォルニアロールとテリーヌを作って、友人宅の持ち寄りパーティに持って行き大好評。すごいなぁ、めきめき腕を上げたね。
 
 料理のレシピも描いてあるし、料理豆知識や簡単テクニックも書かれてあるし、彼女のペットの金魚2匹のツッコミも面白いし、何より読んでいて楽しい。


 話は大きく変わるが、ドラマはめったに見ない私だけど『東京タラレバ娘』だけは見ている。(東村アキコ原作)
 アラサーの独身3人娘の恋と仕事と友情の話なんだけど、この3人娘が、たえず居酒屋で女子会をやってるんだ。エンゲル係数、めっちゃ高そう!! お金は大丈夫?!って思っちゃうよね。特に主人公の倫子はフリーの脚本家で、現在、仕事もなく家賃の支払いにも困っているくらいなのに、スーパーでキャベツ半玉148円を高いと言ってカゴに戻すほどなのに、スナックや居酒屋でご飯食べてる。自炊すればいいのに。友人を自宅に招いて、家飲みにすれば、すごく安くすむけど。
 まぁ、脚本家という仕事柄、人気の飲食店で情報収集も必要なんだろうけど、お財布がもたないよ。
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伊坂幸太郎 「フィッシュストーリー」

2017-02-14 10:59:27 | 伊坂幸太郎
 『フィッシュストーリー』の内容紹介で、「最後のレコーディングに臨んだ売れないロックバンド。いい曲なんだよ、届けよ誰かに。テープに記録された言葉は未来に届いて、世界を救う。時空をまたいでリンクした出来事が胸のすくエンディングへと一閃に向かう」と書いてあったので、すごーーーく期待して読んだが、たいして胸はすかなかったなぁ。設定は面白いがリンクが足りないと思う。でも、これって映画化されたんだよね。確か。

 他に『サクリファイス』『ポテチ』に、伊坂ワールドの人気者・黒澤が大活躍と書いてあるが、この本業・空き巣で、たまに探偵をやる黒澤って、そんな人気あるの? ちょっと貴志祐介の防犯探偵・榎本を思い出した。あの人も、本業は泥棒だから。
 この黒澤は、容色が整っていて、性格もヒドくないが、とらえどころがない。ハッキリ言うと魅力に乏しいような気がするなぁ。
 考えてみれば、伊坂幸太郎の主要キャラって、美男美女が多いような…。(たいして読んでないが)書きにくくないかな。美男美女キャラって。

 『動物園のエンジン』は…叙述トリックが仕掛けられていて「彼」が自分の思い込んでいた人物とは全く違うのには驚いたが、それ以外は無理があると思う。


 以上、あれこれマイナスの面ばかり書いた。確かに、伊坂幸太郎にしてはイマイチというだけで、水準高い作品集。
 一番良かったのは『サクリファイス』。黒澤が、人を探すため宮城と山形の県境にある小さな村に出掛けるが、そこには「こもり様」という奇妙な習慣が残っていた。現在は洞窟にこもるだけだが、昔は生贄をそこに閉じ込め、岩でふたをして神にささげた。
 人柱などもそう。この生贄の風習は、全国各地にあったろうが、その選び方は…。そうとう恣意的な物だったろうね。だって、村の有力者の息子が生贄になったなんて話、聞いた事が無い。
 権力者からみて、邪魔もの、死んでほしい者をを生贄に祭り上げるのだ。「葉を隠すなら森の中」じゃないが、殺したい相手がいるから、生贄をでっち上げた、なんてことが起こっただろうと推測される。
 不都合な真実を、宗教がらみでカムフラージュするって、よくあるだろうね。
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泉鏡花 「高野聖」

2017-02-09 16:09:53 | その他
 「高野聖」は日本文学史に残る名作なので、大昔に読もうと試みたが、途中で挫折したことを覚えている。やっぱり、明治時代の小説は読みにくい。
 でも、それではいけないと再チャレンジ。最初の方は我慢しながら読んでいたが、結構、通俗的で面白かった。適度なユーモアもあるし。
 
 内容は有名なので知っていた。
 年若いお坊さんが、飛騨の山を越えて松本に行こうとする時、深山で、色っぽい中年増と、知的障害がある年下亭主が暮らす一軒家にたどり着く。あまりに疲れていたので、一夜の宿を乞い、泊めてもらえることになる。
 家の下を流れる小川で、お坊さんは汗を流すが、女が背中を流したりさすったり、いろいろもてなしてくれる。若い僧はよろめきそうになるが、なんとかふみとどまる。

 夜になると、この一軒家の周囲に、おびただしい数の猿・ヒキガエル・コウモリ・羊・馬・むささび・牛・鳥などが集まり、ぐらぐらと家を揺らすほど。まるで畜生道の地獄絵。その一夜の怪奇陰惨を書いてある。


 この獣たちの前世は、お察しの通り、色っぽい中年増の色香に迷った者たち。特に、市で売り飛ばされようとする馬は、このお坊さんをバカにした富山の薬売り。宿場の飯盛り女が大好きといったタイプの男だったので、すぐに中年美女の罠にはまり、馬にされてしまった。
 馬になっても、女への執着は消えず、テコでもここを動くか!売られてたまるか!と必死に踏ん張っていたが、女が馬の前で裸になると、ふらふらくらくらと身震いし、すぐさま馬子に引かれていった。情けない。それだけ女の魔力が凄いんだろう。


 考えるに、この泉鏡花という人は、年上の女性が好きなんだろうね。清らかな乙女ではなく、芸者さんやお女郎さんといった玄人好み。

 話は大きく変わるが、この若い僧が一軒家にたどり着く前、巨大な蛇に何度も遭遇し、それもかなりゾッとしたが、それ以上に気持ち悪かったのは、大きな森の中の出来事。上から何かポタポタ落ちてくる、何だろう?木の実かしら?と振ってみたが、くっついて取れない。掴もうとすると、ずるずるすべって指の先へ吸い付き、ぶらさがる。みるみるうちに縮みながらブクブク太っていくのは、生き血をすう山蛭。
 木の枝の至る所に蛭がぶら下がり、恐怖のあまり叫ぶと、蛭の雨がザーッと身体に降りかかってくる。うげーーーーっっ!!!

 本当に恐ろしい。こんな所が、昔は飛騨の山奥にあったんだろうか? 恐ろしや。
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桐野夏生 「錆びる心」

2017-02-04 08:58:58 | その他
 表題作を含め6編の中短編集。みな粒ぞろいで読み応えあるが、特に印象に残ったのが「月下の楽園」。

 荒廃した庭園に異常に惹かれる35歳の男を主人公にした作品。
 彼は、きちんと手入れされた名園には魅力を感じない。かつて栄華を誇ったであろう名家が没落し、昔は大勢の客が愛でたであろう庭が、荒れ果てているのが好きなのだ。そういった物件を探し出し、その離れを借りるのに成功したが、離れと母屋の屋敷との間に高いコンクリートの壁があるので、庭を散歩するどころか、眺めることもできない。しかし、どうしても壁の向こう側の庭に行きたい男は、壁の際をうろついていると、戦時中に作ったと思われる防空壕の跡を見つけ出した。そして…。

 悲劇的な結末で終わる。自業自得だという人も多いだろう。
 しかし、私がショックを受けたのは、その結末ではなくて、この短編の中に「廃墟が好きな人は、死体愛好家だ」という意味の記述があったのだ。がーーーーん! 
 うっそぉぉぉぉ!!!

 廃墟マニアって結構いると思うけどなぁ。誰でも、友達と一緒に夕暮れ時に、町はずれにある廃屋を探検したことってあるんじゃない?!
 「なつくさや つわものどものゆめのあと」だったっけ?かって素晴らしく壮麗だったものが、落剝した姿って風情があってグッとくるけどなぁ。

 以前、クリスティの「スリーピング・マーダー」を読んでいた時、その中に出てくる広大な敷地だが荒れ果てた庭園、特に朽ちた温室の描写が好きだったなぁ。特にイギリスは、ガーデニングが盛んな国だから、お金持ちは庭師を何人も雇って、素晴らしいお庭と温室を整え、お客さま達を招待したんだろう。

 この「月下の楽園」の寂れた庭の描写も素晴らしい。特に、雪の降った後、月が出て、雪景色の庭を青白く幻想的に見せている。そういえば、雪見酒っていう娯楽も昔はあったそうな。時代劇に出てくる。雪景色のお庭を眺めながら、熱燗をキュッと一杯。


 日本庭園って手入れを怠ると、すぐに荒れるだろうね。日本家屋もそう。なんといっても木と紙の家だから。そして、ちゃんと維持しようと思うと、べらぼうにお金がかかるのだ。
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