ケイの読書日記

個人が書く書評

内館牧子 「女の不作法」 幻冬舎新書

2023-01-27 15:34:19 | その他
 内館さんは、脚本家だけでなく公的な仕事、例えば横綱審議委員会の委員や、東日本大震災復興構想会議委員などもやっていて、幅広く活動しているので、なるほどと思う事も多い。
 例えば「紹介者を飛ばす」の章では、誰かに店なり人なりを紹介してもらった時の話。後に再びその店を使ったり、その人と会ったりする場合、紹介してくれた人に一報を入れておくのは作法だろうという。もちろん毎回ではない。紹介者抜きでその店を使う初回、初めてその人に会う時だけ。
 なるほどねぇ。確かに「この間、紹介していただいたお店、すごく素敵で友達も喜んでいたよ。ありがとね。来週、親せきを連れていきたいんだけど」と、一本電話を入れておくだけで、うんと人間関係は円滑になる。私も見習おうと、そう思う。
 でも、もう一方でこうも思うんだ。内館さんたちが使う、こういう高級店を私は一生使うことはないだろう。そしてこういう気の張る人間関係からもリタイヤしてるから。だから自分に置き換えて考えるのは烏滸がましいんじゃないか?

 内館さんは良家の子女なのだ。彼女の小説やエッセイを一時期せっせと読んでいたからわかる。1948年生まれだから私より10歳年上。武蔵野美術大学卒。昭和23年生まれの女の人が四年制美大に入学するって、彼女の実家がいかに裕福か分かる。卒業したら三菱重工へ入社。当時、大企業のほとんどが四大卒の女の人を採用してなかったと思う。縁故採用。おじさんが三菱重工の重役だったから。

 ただ当時の大企業は、四大卒の女性でも仕事はお茶くみとコピー取りだった。だから内館さんは脚本家を目指したんだろう。そうだよね。当時、男と同程度の仕事をしようと思うと公務員か教員になるしかなかった。でも、考えようによっては良い時代だったともいえる。お茶くみとコピー取りで、正社員としてちゃんとしたお給料が貰えるなんてすごいじゃん!!!
 内館さんの会社員時代のエピソードで、すごく印象に残ってるのがある。1970年ごろの話だという。内館さんが出勤すると、毎朝廊下にみそ汁の匂いが流れていた。女子社員の一人が早めに出社し、給湯室でみそ汁を作っていたのだ。それを容器に詰めて、目当てのエリート彼のもとに届ける。独身寮住まいの彼はほだされ、二人はめでたく結婚。女の子は満面の笑みで寿退社していった。
 このエピソードは、内館さんのエッセイにたびたび登場するから、彼女にも感じるものがあったんだろう。
 いやぁ、こういう時代だったのだ。ものすごくわかりやすい昭和の価値観。
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「三千円の使いかた」原田ひ香 中公文庫

2023-01-19 14:50:40 | その他
 「三千円の使い方」TV化されてるんだ。TVの方は見ていないが、どんなものだろうと原作を読んでみる。

 就職して念願の一人暮らしを始めた美帆。順風満帆に見える生活も、慕っていた会社の先輩がリストラされたり、学生時代から付き合っていた人と別れたりと波乱含み。結局、小さな安心を積み重ねるしかないと、美帆は節約してお金を貯めることにする。
 その美帆の姉や母、祖母、そして友人たち、皆、問題を抱えていて、何とか節約してお金を貯めようとする。
 この「節約してお金を貯めようとする」人たちの中に男の人がいないのは気になるが、一般的に家計の管理は女がやることが多いから…なのかな? 美帆の姉の家庭や実家も、ダンナさんたちは、家計に口を出さず、貯蓄がいくらあるのかも知らない。まあ、奥さんにとっては、ヘタにダンナに口を出されるより、やりやすいだろうけど。

 これら影の薄い男性たちの中で、美帆と結婚を考えている翔平は、少し違う。なんせ美帆とは節約講座で知り合ったのだ。ただ、やみくもに節約節約というのではなく、考えてお金を使う人だね。 
 この翔平が実は、大変な問題を抱えることになった。奨学金(というか教育ローン)550万円が未返済で返さなくてはならないのだ。親が手続して、在学中に親が多少返済したらしいけど、返しきれず、就職したんだから翔平が払うべきと言われたらしい。翔平は、親が奨学金を借りていることを知らなかった、と言っている。
 うーーーーん、そこらへんが理解できない。私立の美大だからべらぼうに授業料が高いだろうに、そのお金がどこから出てくるのか、親に尋ねなかったんだろうか? 親も在学中に翔平に、奨学金(実質は教育ローン)があるからちゃんとしなよ!と伝えなかったんだろうか?

 しかしイマドキ、大学卒業時に550万円くらいの奨学金の借金を背負っている人は珍しくないと思う。3万円ずつ20年間返済することになるらしい。就職していれば、払えない金額ではない。まして夫婦で返済するなら、なおさらだ。でも、家を購入するとか出産などには大きな影響があるだろう。
 それよりも、翔平の実家があまりにも借金慣れしているので怖い。その人たちと義理の親子になる訳だからなあ。知らない間に連帯保証人にされたりして。奨学金返済より、こっちのほうがネックだと私は思うよ。
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三浦しをん 「のっけから失礼します」 集英社

2023-01-10 14:17:04 | 三浦しをん
 三浦しをんの小説も好きだがエッセイはもっと好き!女性誌『BAILA』に2014年6月号から2019年5月号まで連載されたもの。

 しをんさんは1976年東京生まれ。だからこのエッセイには、しをんさん30歳代の終わりから40歳代にかけての日常生活が書かれている。彼女のエッセイには恋愛的要素がほとんどなく、あったとしても彼女の脳内でのことなので、心穏やかに読むことができる。時事ネタもあまりなく、ヨタクのしをんさんが映画やお芝居やコンサートや宝塚を見に行ったり、マンガや本の感想を色々書いている。しをんさん、楽しそう。
 ちょっと意外だったのは、この人、ゲームをあまりやらないんだね。ゲームの事は皆無。ほぼ同世代の津村記久子さんはゲームが好きで、エッセイにも小説にもゲームが出てくるけど。ただ、しをんさんがお気に入りのゲームを見つけちゃったら大変だろうなぁ。生活に支障がでるほど、のめり込むだろうな。だからやらない方が良いかも。

 彼女のエッセイの特徴だけど、家族がよく登場するのだ。父、母、弟。しをんさんは実家から歩いて数分の所に住んでいる。母親がエッセイに登場するのは、女性エッセイストのあるあるだが、弟さんが頻繁に登場するのだ。そう、家族の仲がとても良いのだ。なんせ、エッセイ本の中に、奈良に家族旅行する話があるし、別に住んでいる弟さんが、お母さんに高級ケーキをたくさん買って持って行く話もある。昔からこの弟さん、お友達と一緒に、しをんさんのエッセイに登場する。年齢が近い姉弟らしく、仲が良いんだ。
 そして弟さんは、体を鍛えるのが大好きらしい。お正月に家族で鍋を囲んで食べていたら、弟さんが暑い暑いと服を脱ぎ、その時チラッと見えた腹筋が割れていたらしい。見た目がカッコいい人なんだろう。だから自分では意識してないだろうが、しをんさんは弟さんを自慢したいような気持があるんじゃないかな?
 で、この弟さんも40歳くらいだろうが、独身なのよ。WHY?

 有名小説家を姉に持つ弟って、モテるんじゃないの? 私のカン違い? 群ようこさんのエッセイを読んでる時も、そう思う。群さんのエッセイには弟さんの事はあまり出てこないが、それでもたまに登場する。「ねえ、あの人、有名な小説家の〇〇の弟なんだって。やっぱりちょっと違うよね」なんて噂され、弟さんに近づいてくる女の子っているんじゃないかな? それとも、そういう女の人が多すぎて、かえって煩わしいんだろうか?ちなみに群さんの弟も独身。
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