ケイの読書日記

個人が書く書評

柳田邦男・香山リカ 「シンプルに生きる」

2016-10-31 10:27:45 | その他
 二人のビッグネームによる対談集。2011年から2012年にかけ4回にわたって対談したものを単行本にしたらしい。だから、途中で東日本大震災が起きて、その事についても言及している。

 『生きづらい時代を生きなおす方法』というサブタイトルがついている。でも…だったら、いつの時代が『生きやすい時代』なんだよ、と問いたい。
 いつの時代も、その時に生きている人々は「大変だ大変だ、オレたちはなんて大変な時代に生まれたんだろう」って思ってるよね。南方の戦線に送られたわけじゃない、大飢饉で人肉を食べなきゃ死んじゃう訳じゃない、そんな大袈裟に自分を悲劇の主人公にするなよ、と言いたい。


 香山リカさんは、本当に誠実な人だと思う。著書多数、講演もたくさんしているし、コメンテーターとしてTVでもお馴染み、大学で教えているのに臨床を大事にしていて患者さんと向き合っている。
 患者さんが「何のために生きているのか分からない」「息をするのも頑張らないとできない」「今日も1日、心臓を動かさなきゃいけないと思うとウンザリする」など切々と訴えるらしい。
 でも、そんな問いに答えが見つからないのは当然じゃん。
 私だったら「息をするのもつらいのに、よく大学病院の待合室で何時間も待っていられますね」って相手に言ってしまいそう。


 「私なんかダメだ」「生きている価値がない」と患者さんたちは言う。でも、本当に自分がダメで無価値だと思っているのなら、他人から無視されたりイジメられても悲しくなどならないよ。自分はとても優れた人間で、価値があるはずなのに、不当な扱いを受けていると感じるからこそ、怒りを感じたり悲しかったりするんでしょう?
 自己愛が強すぎるんだ。私もそういうタイプの人間だから、よく分かる。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三輪達司 「パキシル」

2016-10-25 13:03:58 | Weblog
 パキシルという抗うつ薬の名前は知っていた。ずいぶん前、山本文緒のエッセイで「うつ病で医者から処方されたパキシルを飲むと、すごく仕事がはかどる」みたいな事が書いてあったから。それに語感が良いよね。「パラソル」とか「ペンシル」を連想して。

 この本は自費出版なのかな? 文章がひどいので、途中で読むのを止めようかとも思ったが、主人公の27歳女性・ななめが、あまりにもダメダメ人間なので、それに引きずられるように読んでしまった。
 「ななめ」はもちろん本名ではなく、世の中をななめに見ているからと自分でつけた。唇にピアスをじゃらじゃら付けているので、一見怖そうに見えるが、本当は気が弱く、バイト先の同僚に強いことを言われても言い返せない。過去にいじめにあって、手首にリストカットの跡がたくさんある。
 自宅で家族と住んでいて生活の心配がないので、バイトをしたりしなかったり。父親から生活費を入れるようにと強く説教されるがしない、というか出来ない。さすがにお小遣いは親からもらえないので、本当にお金に困ると、出会い系サイトで援助交際の相手を見つけようとする。(中高生が援交という言葉を使うのはまだ分かるが、27歳女がエンコーというのは、どうなんだろう?売春と言った方が、正確な表現だと思うけど)
 うまくいく時もあるが、本当に怖い体験をする時もある。

 そんな彼女が、ミシン販売のアルバイトをしている時、職場は違うがイサトという中年男と出会う。彼とギターの話で盛り上がり、ななめはベースギターを買ってギター教室に通う。
 イサトは彼女の才能を認め、2人はバンドを組み、『パキシル』と名付け、あちこちに遠征する。

 ここまで読むと、この小説はロックバンドのサクセスストーリー物なのかと思うが、違うんだよね。支離滅裂なストーリー。
 だいたい、今までなんの楽器もやったことないのに、ベースギターってそんなに簡単に弾けるようになるんだろうか?

 一時は上手くいっていた二人だが、ケンカ別れし、ななめは音楽への興味を無くす。保険のつもりで付き合っていた男と同棲するが、家賃の折半を要求される。彼はななめと結婚する気はないようだ。そんな時、実家に気味の悪い荷物が届き…。

 神さまのように、ななめを守ってくれていたイサトが、ストーカーに徐々に変化していく。ストーカーも最初からストーカーだった訳じゃない。初めは良い人だったんだ。それにしても、このイサトっていう男はよくわからないな。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

藤木稟 「バチカン奇跡調査官①黒の学院」 角川ホラー文庫

2016-10-18 09:59:59 | 藤木稟
 前前々回のブログにアップした「バチカン奇跡調査官」は、シリーズ第4作だったんじゃなかったっけ?
 なんとか記念すべき第1作を読みたいものだと書架をのぞいてみたら…あった! 早速借りる。

 天才科学者・平賀神父と、古文書暗号解読のエキスパート・ロベルト神父の美青年コンビの馴れ初めを読みたいと思ったのが理由だが、別に初対面の場面の記述はなく、少しがっかりした。(ホームズとワトソンの初対面の有名な場面「アフガニスタンに~」みたいな劇的な初対面を期待したのだが)
 それとも、シリーズが進んでいくにつれ、エピソードゼロみたいな形で書かれるんだろうか?


 西暦2000年、修道院と併設する良家の子息ばかりを集めた寄宿舎でおきた『奇跡』を調査するため、現地のアメリカ南部に飛んだ平賀とロベルト。その学校というのが…萩尾望都『トーマの心臓』や竹宮恵子『風と木の詩』そのままの世界なのだ。
 グレーグリーンの神秘的な瞳と長い巻き毛のプラチナブロンドの上級生。寮長をしている彼は、ホワイトプリンスと呼ばれている。彼の取り巻きたち。選ばれたものしか入会できないクラブやお茶会。どこかにユーリやオスカー、ジルベールがいるだろうと思っちゃうよね。
 
 この学校で残虐な殺人が次々と起こり、しかも学校の上層部は「生徒たちが動揺する」といって警察に届けないのだ!!
 バチカンから来た平賀とロベルトは、奇跡の調査だけでなく、この殺人事件にも首を突っ込み、やがてこの学校のとんでもない裏の顔が発覚する。荒唐無稽とも感じるがとても面白い!!

 ストーリーとは関係ないが、気になってしょうがない事が。
 現場は、メキシコとの国境沿いのアメリカ南部にある修道院だが、そこの神父たちはラテン語で話し合っているのだ。世界のどこでも、神父であればラテン語がしゃべれるんだろうか? ラテン語の書物ってどっさり残っているだろうが、ラテン語を話せる人は極端に少ないんじゃ…?  サンピエトロ大聖堂内では話されるだろうが、バチカン市民はイタリア語をしゃべっているんじゃないの?
 だいたい、録音再生できるようになったのは最近の事なんだから、昔の人がどうやって発音していたのか正確には分からないよね。自分ではラテン語を話しているつもりでも、ラテン語じゃない事だってありうる。それとも、他のヨーロッパ言語とさほど変わらず、一種の方言みたいな感覚なのかな?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

岸本葉子 「買い物の九割は失敗です」

2016-10-13 10:33:05 | 岸本葉子
 「小説推理」に連載されている〈買おうかどうか〉シリーズの第4集。あとがきに、買った商品の検証をコメント付き星取表にしてあるが…29商品のうち成功・満足の〇が4つ、その4つのうち買わずにすんだ事への〇が2つだから、本当の成功は2商品だけ。
 ということは…買い物の9割以上が失敗という事になる。
 でも、成功するより失敗した方が、エッセイとして面白いし、だいたい自分が欲しい商品を買って、その体験談がエッセイとしてお金になるんだから、素晴らしい!!!

 ルンバ、ロールスクリーン、クールカーテン、食洗器、シルクのパジャマ、ホットカーペットカバー、バッグ、宅配レンタルDVD、ヨガマット、脚立などなど。

 やはり女性なので、ネット通販で洋服をいろいろ買っているが、あまり成功したものはないようだ。
 意外なのは、岸本さん、気に入らない時、手間をおしまず、せっせと返品しているのだ。ZOZOTOWNで、2回連続、白いシャツを返品している。イメージと合わなかったみたいで。同じサイトで2回連続返品したら、クレーマーと思われるんじゃないかとビクビクしながら。
 この心理ってよく分かる。不良品の交換は原則無料だが、気に入らなかった場合、客側の都合だがら送料は客側というサイトも多いのだ。(もちろんすべて無料というサイトもある)返品にはお金も手間もかかるので、まぁいいか、部屋着にでもしよう、そのまま買うという人が多いと思う。

 私も子供が小さかった頃は、通販をよく利用したが、時間に余裕が出来たら、お店に出掛け手に取って試着してから買うようになった。その方がハズレが少ない。
 通販だと、箱が届いた時ワクワクしながら荷ほどきするという喜びはあるが、だいたい「え!?こんな色だった?」「思ってたより生地が薄い・厚い」「9号だけど大きい・小さい」と文句たらたら。口コミサイトをしっかり確認しても、そうなってしまう。


 それから。
 岸本さんがインテリアに凝るのはよく知っていたが、トイレに鳥かごを吊るすというのが、少し前から流行っていたんですか? もちろん小鳥を飼っている訳じゃない。空っぽの鳥かご。インテリアとして。おしゃれな飲食店のトイレなんかに、吊るしてあるらしい。(私は入ったことないけど)
 ふーーーん。 でも、それって、我が家は空っぽの鳥かごをインテリアとして吊るす事が出来るほど、トイレが広いんですよ、トイレだけじゃない、住居全体がゆったりしているんですよと、人に知らせるためのデモンストレーションのような気もするが…。
 ワンルームマンションには、絶対にあわないよね。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

島田荘司 「新しい15匹のネズミのフライ」

2016-10-07 09:57:04 | 島田荘司
 去年、話題になっていたので、私も読んでみる。なんせ筆者が島田荘司、そしてサブタイトルに「ジョン・H・ワトソンの冒険」と書かれてあるので、評判になるのは当然だろう。
 
 結局、こういう事が書いてある。
 ホームズが解決したはずの「赤毛組合」の事件は、まだ終わっておらず、黒幕は悠々自適なリッチ生活をおくっていた。ホームズの働きで、捕まえられ刑務所に入ったはずの悪人たちは「新しい15匹のネズミのフライ」という言葉を残して脱獄。
 肝心のホームズといえば、コカイン中毒で暴れまわったので精神病院へ押し込められて、まったく使い物にならず、ワトソン一人が孤軍奮闘する。

 前半、ホームズの推理の間違いを、ワトソンが心の中で指摘する場面には、私もそうそう、そういう可能性だってあるよねと喜んでいたが、後半、ホームズが入院し、主役が完全にワトソンになると、とたんに面白くなくなる。ワトソンの恋愛話や、ワトソン大活躍のアクションシーンなど、読みたい人がいるんだろうか?
 最後にちょろっとホームズが登場し、「新しい15匹のネズミのフライ」の謎を解いて、ベイカー街に戻る。コカインの成分は、まだ完全には抜けきっていないようだ。

 しっかしねぇ、他人の創作した超有名キャラクターを、ここまで勝手にぶち壊してもいいんだろうか? もし、誰かが、御手洗を狂人にして、石岡君を勝手に活躍させたら、島田荘司は大いに腹を立てるだろうに。

 でも、皆さん、安心してください。本当のホームズは(コナン・ドイルの書いたホームズは)コカインで廃人になどなっていません。老後は田舎に引っ込み、ミツバチを飼って養蜂家として暮らしています。もちろん、事件には遭遇しますが。

 この小説で唯一読みどころがあるとすれば、それは売れっ子作家と担当編集者の攻防だろうか? 筆者の島田荘司も経験しているだろうが、アイデアに詰まって書けなくなった小説家から、あの手この手を使って原稿を吐き出させようとする戦いは、あっぱれ!!! ホームズ物で人気が出てきたが書けなくなったワトソンから、担当は自分の子供まで使って泣き落としを図る。立派です。
 
 そして島田荘司。どうして最近の作品は、こんなページ数が多いの? 原稿料がたくさん入るから? ページ数と中身が合っているものを書いて欲しい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする