林泉酔我 一入忘歸 空海
山の木と湧水 それが私をうっとりさせて
一度ここに来てしまえば 帰ることも忘れてしまいます
吉野川沿いを西に少し車を走らせると
今回の名所巡りの私の第一目的地、
徳島県 蓮華山 本楽寺に到着です。
徳島県 本楽寺 石板と掲示板
本楽寺 山門
時間的には、陽が西の山の向こう側に隠れるのは
まだ先のことなのですが
山門の電灯が灯るほど空模様が怪しくなっています。
案の定、ポツポツと雨が降ってきました。
瞬く間にゲリラ豪雨並みの降雨量となり
逃げ込むように客殿の玄関軒下へ。
本楽寺 客殿
軒先から滝のように流れ落ちる雨水を見ながら
「こりゃもう日を改めてまた来るしかないな。」
「いやいや雨が止むことを信じて待つぞ。」
今回は、ここ本楽寺の庭園を観賞することを
私の第一の目的にしていたので
本楽寺拝観後の予定を全部取りやめてでも
雨が止むことに賭けることに。
そんな私達の話し声が聞こえたのか
客殿内から現れた住職の優しいお声がけ。
「どうぞ玄関からおあがり下さい。」
「ちょっと閉じさせてもらいますね。」と
蔀戸(しとみど)が一つ下ろされる度に
客殿内部が暗くなり、私の気持ちも暗くなります。
本楽寺 客殿廊下
「これはやばいなあ。拝観終了時間までこのままかも。」
弱気な気持ちが頭をもたげはしましたが
座して運命に身を委ねることは好まないので
この身に宿る空海伝承の法力を解き放ちます。
「雨雲退散、怨霊退散、太田胃散、マイクタイソン」
するとどうでしょう。
あんなに空を覆っていた雲が
逃げるように去っていくではありませんか。
激しい雨が小降りになるに連れて
閉ざされていた蔀戸が一つ一つ再び開けられて、
本楽時の枯山水庭園の観賞です。
本楽寺 枯山水庭園(鶴亀ノ庭)
吉野川と阿讃山脈(あさんさんみゃく)を借景にした
本楽寺の枯山水庭園(鶴亀ノ庭又は神泉蓬莱の庭)を
作庭したのは、重森三令氏のお弟子さんの斎藤忠一氏。
枯山水庭園と借景の吉野川の距離が近いことで
枯山水庭園と吉野川の景観が完全に一体化している
このような枯山水庭園は、
日本で唯一の石庭とされているようです。
本楽寺 客殿
住職から
「客殿の内部も見てもらって大丈夫ですよ。」
「客殿の内部を撮影してもらって大丈夫ですよ。」
との有難い言葉を頂いたので撮影。
本楽寺 客殿内部
本楽寺の住職は、とても気さくな方で
色々と面白い話を沢山教えて頂いたことは、
何かの機会にご紹介させて頂こうと思っています。
一見、吉野川の河川敷に作庭されているようにも見えますが
本楽寺は、高丸山が吉野川に張り出した高台にあり、
枯山水庭園と吉野川との間には、
徳島線の線路と伊予街道の車道が通っています。
つまり、枯山水庭園と吉野川との間にある
絶妙な高低差と距離が絶景を生み出しています。
あれだけ降っていた雨が嘘のように止んで
雲の隙間から陽が差し、
本楽寺の山門の向こうに虹が出現。
最悪の展開から最高の景観へ。
人間万事塞翁が馬のような展開となりました。
本楽寺 阿弥陀堂(本堂)
あの有名サッカー選手の中田英寿氏が
2020年に本楽寺の枯山水庭園を観賞するために
来訪したらしいんですよね。
今、私が立っている客殿の廊下伝いに奥へと進み
客殿の裏側に回ると、もう一つの庭園があります。
本楽寺 回遊式庭園
天然の岩肌に薄化粧を施したような木々と苔の緑。
枯山水庭園とは趣が違う
むき出した天然の岩肌を活かした回遊式庭園。
茶室 『一二三庵』
本楽寺の住所が123番地であることから
一二三庵(ひふみあん)と名付けられています。
本楽寺 客殿内室
枯山水庭園の裏側の客殿の室内。
客殿の外へと出て本楽寺の境内を歩いて
それぞれの庭園、伽藍を身近で観賞します。
本楽寺 枯山水庭園 鶴石組
本楽寺 枯山水庭園 亀石組
この位置に立っても枯山水庭園と吉野川との間にある
徳島線の線路と伊予街道の車道が視界に入らないんですよね。
本楽寺 阿弥陀堂(本堂)
本楽寺は、天然の要害であったために
戦国時代には、砦として利用されていて
吉野川沿いを進軍してくる軍勢があると
本城であった脇城に狼煙で知らせていたそうです。
本楽寺 客殿
先ほど境内と回遊式庭園を観賞していた
客殿の廊下が見えます。
左側には、枯山水庭園と吉野川。右側には、回遊式庭園。
本楽寺 客殿と茶室『一二三庵』
この石段を登れば、
また違った景観を楽しめたと思いますが
再訪した際の楽しみに残しておくことにします。
龍門瀑と鯉魚石
ほぼ自然の地形を活かした滝石組。
このような石垣も
戦国時代の砦だった名残かも。
本楽寺 天神社と護摩堂
本楽寺 阿弥陀堂(本堂)と吉野川
ここからの景観を観ると
本楽寺と吉野川との高低差が分かります。
阿弥陀堂(本堂)を裏側から見ると
懸造(かけづくり)で建てられているのが分かります。
懸造は、奈良の長谷寺、京都の清水寺、
兵庫県の圓教寺の摩尼殿等でも用いられている建築様式。
崖などの高低差が大きい土地に
垂直材の長い柱の間に水平材貫(ぬき)を組み合わせて
固定した床下の上に建物を立てます。
私にとって最上級の庭園は、庭園を前にして
ぼ―――っと数時間位過ごしたいなと思えるかどうかで、
今回の本楽寺の枯山水庭園もその一つとなりました。
皆様、今回も私の趣味である
名所巡りにお付き合い下さり、ありがとうございました。
次回の名所巡りの際にも
楽しくお付き合い願えれば嬉しく思います。