一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

マイナビ女子オープン第3局と、その周辺

2009-07-17 10:26:58 | 将棋イベント
「いやいや、いやいや…」
いまいちばんお会いしたい、憧れの美少女が目の前にいるというのに、私は年甲斐もなくしどろもどろになって、その場から去ろうとした。
「なに逃げようとするのよ一公君、せっかく恵梨子ちゃんを連れてきたんだからさあ」
植山悦行七段は笑いながら、私を引き留める。
「いやいやマズイですよ、ちょっとマズイですよ」
私だって多少の分別はある。私のような者が、才能あふれるピチピチの女子高生と話をしていいのか、という抵抗感はあるのだ。苦笑している山口恵梨子女流1級に、私は動揺するばかり。すると、さらに思いもよらぬ邪魔が入った。
「恵梨子ちゃん、このオジサンはアブナイからね、近づいちゃダメよ!」
藤森奈津子女流三段であった。
この日昼過ぎに、私たちが整理券を受け取るべく会議室の入口に並んでいると、LPSAのメンバーが階段を上ってきた。そのとき私は藤森女流三段に、「一公さん、今日(15日)のブログはいけません!」と、キツイ口調でたしなめられていたのだ。
「ハーレーの美女」の記事がマズかったようだ。最初の数行を読んでイヤな予感がしたのなら読むのを止めりゃいいのに、けっきょく最後まで読んで、「なんなのこれは!」と憤慨した、というところなのだろう。
娘を持つ同じ親として、この変態じみた将棋オタクと清純女流棋士を接触させるわけにはいかないと、慌てて止めに入ったというわけだ。
う~、このオバチャン、余計なことを…とひとりごち、私は船戸陽子女流二段に挨拶をする。相変わらず綺麗だ。今日は華麗、と言うべきか。
「1回戦の『FF対決』を制したら、次は竹部さんと当たる可能性がありますね」
「そうですねー」
「そうしたら去年と同じカードになるでしょう? 去年は残念だったですもんね」
「はい…」
「でも、敗勢なのに玉が端に行ってギリギリ耐える将棋には、感動しました。もし来期も当たったら、今度はリベンジしてください」
私がそう言うと、船戸女流二段は、はい! と力強く返事をしてくれた。
中倉宏美女流二段もいらしたので挨拶をする。
「一公さん、ブログ読みましたよ」
「え? あ、ああ、そうですか!!」
思わぬ言葉に、私は動揺する。やっぱり中倉女流二段は、私のブログをいままでご存知ではなかったのだ。
「最近みんなが『夜のヒロミ』って言うんで、なんのことかなあ、と思って」
「あ、ああ、すみません!!」
「でも、一気に読みました」
……これはたぶん、光栄なことなのだろう。しかしいつからいつまでの記事を読んだのだろう。「夜のナカクラヒロミ」に関する記事だけだろうか。4月1日の記事から順番に読んだとは思えないから、やはり最近の記事が中心だろう。とすると、「ハーレーの美女」も読んだ可能性はある。だとしたら、この大人の態度には感嘆するしかない。さすがにNHK杯将棋トーナメントの司会者を3年間務めただけのことはある。やはり女性はこのくらい懐が深くなくてはいけない。藤森のオバチャンにも、中倉女流二段のこの一言を聞かせたかった。
その後は、中倉女流二段が緒戦でぶつかる上田初美女流二段の得意戦法などを話して、至福の時間を過ごした。和風美人は正面から観賞しても、すこぶる美人だった。
読者に一応断っておくが、私が中倉女流二段と私語を交わしたのは、これが初めてである。
私は金曜サロンで中倉女流二段に何局か教わっているので、いつもくだけた話をしているのだろう、と曲解している方もいると思うが、それは違う。話すときは将棋の感想戦だけで、私語は一切ない。いつかも書いたが、私は金曜サロンへ将棋の鍛錬に訪れているのであって、女流棋士との自由な会話を楽しみに行っているわけではないのだ。だからこの日は中倉女流二段と軽くお話をさせていただけて、とても嬉しかった。
この後、植山七段、大野八一雄七段、R氏、W氏らと合流し、近くの喫茶店に入り、これからの将棋普及について、熱く議論をする。
気がつくと解説会開始の午後3時を1時間以上も過ぎてしまい、私たちは慌て気味に将棋会館へ戻った。
本局の解説は鈴木大介八段と山田久美女流三段。さきほどの抽選会場が解説室となる。観客は30人ぐらいいただろうか。私は将棋会館で、タイトル戦の解説を聞くのは初めてであった。
「懸賞次の1手」があったようで、いまは当選者が棋士の著書をもらっている最中だった。
うっかりしたな、と思う。オジサン棋士と議論を戦わすより、山田女流三段の美貌を拝みにいって、次の1手に挑戦するべきだった。
局面は角香ぐらいの交換で駒得をしている矢内理絵子女王が一目優勢だと思ったが、その後数手進めた局面は差が縮まり、岩根忍女流二段が面白い形勢になっていた。しかし岩根女流二段には、持ち時間の切迫、というもうひとつの敵が忍び寄っていた。
開設の鈴木八段が、将棋を指す上での心の持ちようとか、持ち時間の使い方とか、将棋全般に応用が利く「将棋の勝ち方・盤外戦術的指南」をしてくださり、たいへん参考になった。実戦の変化を詳細に検討するのもいいが、こうした解説のほうが、私は好きだ。
その点鈴木八段は両者をたくみに使い分け、師匠(大内延介九段)譲りの明快な解説には、大いに感心した。むろん山田女流三段も聞き手はお手のもの。観客の聞きたいところを要領よく代弁してくれ、安心して見ていられた。
将棋は息詰まる攻防が続き、1手指した方が有望に見えた。
そんな終盤、岩根女流二段の強烈な追い込みで、矢内玉に即詰みの順が生じた。しかし秒読みの岩根女流二段は、それに気付かなかった。むろん矢内女王も詰みに気付いていないから、その1手前を自信満々で着手したのだろうし、これはたまたま詰みがあった、というにすぎない。
この順を逃してからは、もう岩根女流二段に勝ちはなくなった。以下投げ切れないまま指し継いだが、刀折れ矢尽き、158手目、ついに岩根女流二段が投了した。
激戦だった全3局、岩根女流二段も健闘したが、勝ち切れなかった。終始自分のペースで戦ったこと、矢内女王のが勝因と思う。
岩根女流二段は、挑戦者決定戦のときもそうだったが、序中盤に時間を使いすぎたのではないか。持ち時間は最初から決められている。「終盤に時間がなくって…」は言い訳にならない。
それにしても、2児の母である岩根女流二段が負けて、自分がこんなにヘコむとは思わなかった。もし岩根女流二段が独身だったら、自分がどんな行動をとっていたかと考えると、恐ろしくなる。
勝負が決まったのだからここで帰ってもいいのだが、せっかくだから両雄の姿をもう一度拝見したい。私の横にいた大野七段、R、Wの両氏、うしろにいた植山七段は、とっくに解説室を出ている。しばらくすると、感想戦を中断した対局者が、解説室に現れた。
さすがにおふたりとも疲れ切った表情である。しかし矢内女王は「女王」らしい貫禄を醸し出し、岩根女流二段は人妻なのに、相変わらず愛くるしかった。ああ、2児の母…。
岩根女流二段は、
「自分の弱さが分かった。これからその部分を克服して、また頑張りたい」
というようなことを言った。
矢内女王は、
「3局とも星が逆でもおかしくない将棋ばかりで、防衛は嬉しい」
というようなことを言った。
たしかにしんどい防衛戦だった。矢内女王のこの言葉は、本音だったと思う。負けた岩根女流二段も、出産後でタイトなスケジュールのなか、よく頑張った。しかし厳しい言い方をすれば、いくら内容が良くても、番勝負は勝たなければ意味がない。後年将棋ファンがこの星をみたとき、「岩根女流二段は、しょせん矢内女王の敵ではなかった」と思うだろう。それはさびしいことではないか。
岩根女流二段は捲土重来を期して、またタイトル戦の場に戻ってきてほしい。また矢内女王には、女王防衛の偉業を心から祝福したい。
と、岩根女流二段が私を見て、「あ、あの人…」という顔をした。
…ような気がしたのは、私の錯覚であろう。
こうして、第2期マイナビ女子オープンは終了した。
昨年の7月19日、東京・パレスサイドビルで行われた一斉予選対局の観戦、今年2月、石橋幸緒女流王位の就位式で中村真梨花女流二段に激励したこと、中村女流二段-岩根女流初段の挑戦者決定戦スポンサーになったこと、そしてこの日の組み合わせ抽選会の参加、解説会の拝聴、最後に対局者のおふたりを拝見したこと…振り返れば、長い1年だった。本当にいろいろあったなあと思う。
さまざまな思いが去来し将棋会館を出ると、植山七段が喫煙コーナーで一服しており、私に話しかけてきた。
「一公君なにやってたの! まだ恵梨子ちゃん会館にいて、ついさっきまでボクたち恵梨子ちゃんとおしゃべりしてたんだよ!」
「……」
山口女流1級と私とは、どうも縁がないようだ。
コメント (8)
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