一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

平成20年度・女流将棋名局ベスト3

2009-07-10 10:27:34 | ランキング
このブログの訪問者数が、きのう過去最高を記録してしまった。タイトルに騙されて、間違えてここを覗いた人がいたんだろうなぁ。お疲れ様でした。
さてだいぶ時期外れになったが、私が勝手に選んだ「平成20年度・女流将棋名局ベスト3」を記す。

第1位 平成20年11月12日 第19期女流王位戦第5局 石橋幸緒女流王位VS清水市代女流王将
第2位 平成20年12月23日 第19回1DAYトーナメント「フランボワーズカップ」決勝 中井広恵女流六段VS船戸陽子女流二段
第3位 平成20年7月19日 第2期マイナビ女子オープン予選 中倉彰子女流初段VS伊藤明日香女流1級

第1位は言わずと知れた、女流王位決定局。このシリーズは、師弟の枠を超えた意地と意地のぶつかり合いが続き、「これぞ人間と人間との勝負だ!」と、何度も感嘆した。その集大成が、この最終局だった。
この日は日本将棋連盟(千駄ヶ谷)と日本女子プロ将棋協会(駒込)双方で解説会があり、私は駒込へ向かった。
非常階段で3階へ上がり階段の扉を開けると、テレビカメラを持った外人さんがおり、「今日の将棋はそんなに世界的に注目を浴びてるのか?」と訝しく思った。ドアを開けると、さらにたくさんの外人さんがいる。
彼らは、その前の週に天童で行われた「外国人将棋選手権」の関係者だった。女流王位戦が最終局まで持ち越されたため、たまたま日本に滞在中だった彼らが、勉強と取材に訪れたというわけだ。
私はいちばん後ろの席に座ったが、右に植山悦行七段、前に大野八一雄現七段がおり、LPSA棋士もほとんどが出入りして、まことに豪勢な布陣だった。
この将棋は序盤から両者が変則的な力戦に出て、双方一歩も引かない将棋となった。なかでも石橋女流王位の45手目▲6三桂、清水女流王将の52手目△8二金は、手の善悪を越えた1手として、私の脳裏に深く刻み込まれた。
片上大輔現六段の解説は相変わらず小気味よく、ふたりの棋風から次の手を的確に予想。植山七段は、「幸っちゃん何やってんだよ。もう見てらんないよ」とカリカリしたまま。大野七段は、「でもこれ、幸っちゃんがいいよ」と冷静に局面を分析し、三者三様の反応が可笑しかった。
防衛を果たした石橋女流王位だが、翌日写真を見るとワリに冷静で、周りが思っているほど熱くはなかったんだ、と、妙に納得したのを覚えている。

第2位は昨年末に行われた1DAYトーナメント「フランボワーズカップ」決勝戦を選んだ。感動的、という意味では、こちらが1位でもおかしくない。ちなみに「フランボワーズ」はフランス語。英語だと「ラズベリー」になる。ジャムのもとにもなる果実だ。
本局は、LPSA公認棋戦で常勝の中井女流六段に、「新人」の船戸女流二段が挑むという図式だった。序盤で中井女流六段がリードしたが、船戸女流二段も離されず食いつき、終盤は形勢不明の熱戦が続いた。しかし中井女流六段が逃げ切ったかと思った次の瞬間、船戸女流二段に起死回生の一打が出て、船戸女流二段の劇的な優勝となった。
この手を見たとき、私は船戸女流二段のLPSAでの活動がシンクロし、感動で涙が出た。観客の私が泣いたくらいだから、優勝した船戸女流二段も感極まり、瞳から涙がこぼれおちた。その美しい涙がまた、観客のハートを鷲摑みにした。
これには後日談がある。私はあまりの感動に、この観戦記を「将棋ペンクラブ」会報に投稿するつもりだった。ところがそのひとつ前に送った原稿(メール)が、私のパソコン設定のトラブルで編集部に届いておらず、掲載が3ヶ月遅れてしまったのだ。それが今年の3月発行号である。
それならフランボワーズカップの観戦記は、6月発行号に投稿すればいいじゃないか、と言う人もいるだろう。しかしこの号は3月9日に行われた「マイナビ女子オープン挑戦者決定戦」の観戦記を投稿すると決めていた。マイナビ5番勝負が終わってからの9月発行号掲載では意味がないので、この号への投稿は動かし難かったのだ。それが無事掲載の運びとなったのは、以前記したとおりである。
結局、フランボワーズカップの観戦記は、頭の中で構成はできていたものの、文章にはしなかった。まあ、昨年秋も船戸女流二段をテーマにしたエッセイを粘着的に書いていたので、今回は見送りにして正解だったと思う。

第3位はマイナビ女子オープンの、中倉彰子女流初段対伊藤明日香女流1級戦を選んだ。毎コミがあるパレスサイドビルでの一斉公開対局である。
あまり知られていないが、このとき中倉女流初段は妊娠中。LPSA棋士はお揃いのブレザーを着用し臨んだが、中倉女流初段だけ私服だった。
将棋は相穴熊となった。伊藤女流1級は、勝率はあまり高くない。私は正直、この将棋も伊藤女流1級の敗退で終わるだろうと見ていた。しかし伊藤女流1級は見事なさばきで、徐々に優勢を拡大する。だが中倉女流初段も容易に崩れず、大熱戦となった。
そのうち他の将棋は次々と終了し、最後にこの1局だけが残った。必然的に観客の目はこの1局に集中する。対局時計が秒読みを告げる中、一進一退の攻防が続く。しかし伊藤女流1級の優位は動かず、徐々に形勢が開き、やがて大差になった。それでも中倉女流初段は、諦めずに指し続ける。両者の表情は凄絶なものになっていた。勝利への執念に、タイトル戦も予選の1局も関係はない。周りの観客も、ふたりが発する「気」に、圧倒されている。
やがて中倉女流初段が投了。室内は私語・騒音厳禁だったが、私はあまりの感動に、つい拍手をしてしまった。皆さんもそれにつられ、やがてそれは大きな拍手となった。
今回選んだ3局は、実戦を解説付きで鑑賞したものと、公開対局で直に観戦したものだった。終わった将棋をあとで並べるのと、リアルタイムで観戦したものでは、受ける感銘が全然違う、と実感した。
なお、伊藤女流1級は、この勝利も虚しく、残念ながら今年の3月で引退された(引退後に女流初段)。
ちなみに「現役最後の勝利が公開対局」という記録は、大山康晴15世名人(JT杯将棋日本シリーズ)と、伊藤明日香女流初段だけが持っている。
コメント (10)
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