(6月25日のつづき)
有人切符売り場の窓口を見ると、「えちてつサポーターズクラブ」の案内があった。年会費1,000円で、購入すると普通切符が1割引になり、提携飲食店での割引が受けられる。LPSAファンクラブMinervaみたいなものだ。
年中利用している人にはありがたい特典だが、私は1日乗車券を利用しているし、もうここら辺で食事を摂ることもないから、恩恵は受けない。寄付するようなものだ。
しかも有効期限を見ると、いつ入会しても3月31日までとなっていた。これではいま買っても、3か月しか有効期間がない。余談ながらMinervaは、入会後丸1年、有効期間を保証してくれる。
しかし私は、早急に千円札を入手する必要に迫られている。私は、「えちてつを応援するんだ…」と自分に言い聞かせ、入会することにした。
壱万円札を差し出して、待望のお釣りをもらう。あれは20代のころ、旅先で同じような状況になり、私はキオスクのような土産物屋で両替を求めた。
店のおばちゃんは「今回だけだよ」と不愉快そうに替えてくれたが、本来は手数料を取られるところ。そのときのツケが、20年以上の時を経て回ってきたのだ。
さっきの4人組が待合室に入ってきた。彼女らはさっきから挙動不審の私を見て、どう思っているだろう。鉄道マニアは怖い、ぐらい感じているかもしれない。
隅のテレビでは「あまちゃん」の総集編が放映されていた。私も彼女らといっしょに、何とはなしに観る。
晴子が上京するためにタクシーに乗るのだが、この運ちゃんは彼女を有名人と認識したようである。彼がこの後の展開の鍵を握る感じだ…。
総集編は面白いところの詰め合わせだから面白いのは当たり前だが、これは最後まで観たくなるツクリだ。なるほど視聴率がいいわけだと思った。
余談ながら、「あまちゃん」でブレイクしたのは能年玲奈ではなく、有村架純だと思う。あれだけかわいらしい芸能人は、10年にひとりしか出ない。
私のほうは、バスの乗車時間が来た。私(たち)は後ろ髪を引かれる思いで、永平寺行きのバスに乗った。
と、バスが定刻より1分早く発車してしまった。乗客は私たちしかいないとフンでのものだが、珍しいことではある。
タイム12分で永平寺門前着。私は千円札を使い、410円を払う。まったく、これからいくらでも小銭が入るのに、あの旅行貯金は返すがえすも重大な手順前後だった。
さて、永平寺である。日本のお寺では、清水寺と並んで知名度がある古刹だと思う。時々テレビで特集が組まれるが、とにかく修行が厳しい。朝4時に起きるとか、食事中は私語厳禁とか、入浴は週に○回とか、煩悩の塊の私には、別世界の話である。
修行体験もあるが、私にはあり得ない話である。譬えが卑近で恐縮だが、刑務所のほうが、よほどラクだと思う。
正門参道を歩き、通用門をくぐる。まず、入口にて御朱印をお願いする。御朱印帳を預け、受け取りは帰りのときだ。続いて入場券を買う。500円は、まあそのくらい取るであろう。
廊下を右に曲がると、傘松閣がある。その手前で、お坊様から拝観の際の諸注意を受ける。外の気温のように、気分が引き締まる。傘松閣は畳が150枚以上敷かれている大広間で、天井には何枚もの絵が描かれていた。
ここから順路に従って観光である。先に進んで、右手にある東司(とうす)は御手洗いのこと。さらに進んで左手にあるのは僧堂。文字通り、修行僧の道場である。さらに階段を上るが、目を瞠るのは寺の「造り」だ。日本建築の粋を集めており、釘も極力使っていないと思われる。梁の太さもすごい。古木が醸し出す薫りが心地いい。これを鑑賞するだけで、数時間は経ってしまう感じだ。が、私には時間がない。きょうはこのあと、福井鉄道の乗りつぶしが控えている。結果論だが、2社の1日乗車券を購入したのは余計だった。せめてえちぜん鉄道だけにしておけば、さっきだって手許に400円が残っていたのだが…。
階段を上りきって左折すると、承陽殿(じょうようでん)。永平寺の御開山道元禅師の御真廟(お墓)である。
引き返して、左手にあるのは法堂(はっとう)。寺院の建物のことを伽藍(がらん)といい、永平寺では山門・仏殿・僧堂・庫院(くいん)・東司・浴室・法堂の七つのお堂を「七堂伽藍」と呼んでいる。法堂は七堂伽藍の一番奥にあり、各種法要が行われる。中央には本尊「聖観世音菩薩」を祀っている。その周囲は金細工できらびやかだ。
年の瀬であるが、ふつうに参拝客がいる。さすがに永平寺の知名度は高い。
ここから引き返し、右手に仏殿、左手に庫院を見る。そこは台所だ。そしてその突きあたりには、浴室がある。入浴も修行のひとつで、無言の中で行われるのは言うまでもない。
山門がある廊下を通る。ここは表からその威容を眺めたいところだが、敵わない。
東司を左折すると、祠堂殿がある。ここには全国の信者から収められた位牌などが安置されている。
そのまま直進すると、売店に出た。ここはいくらか納めたいところである。「道元禅師からのメッセージ」という、屏風状の小冊子が500円で売られていたので、いただく。
中を見ると、「無常ならざるもの」「どう生きるか」「人生に定年はない」「ひとの価値」など、道元禅師のメッセージが草花の綺麗な写真とともに紹介されている。これは一読の価値がある。
帰りに御朱印帳をいただいた。
「奉拝 平成二十五年十二月三十日 承陽殿 吉祥山永平寺」
大山康晴十五世名人の書を思わせる、丸みのあるやわらかな字で、まさに墨痕鮮やかな御朱印であった。
かなり駆け足の参拝だったが、すっかり心が洗われて、私は永平寺を出る。
ところが帰りのバス停がはっきりしない。行きと帰りでは、バス停が違うのだ。土産物屋のご主人に聞くと、坂を下りたところにあると言われた。
と、ちょうどバスがやってきた。15時33分発の永平寺口行きである。私は慌て気味にバスに駆け寄った。
…あああっ!!
(つづく)
有人切符売り場の窓口を見ると、「えちてつサポーターズクラブ」の案内があった。年会費1,000円で、購入すると普通切符が1割引になり、提携飲食店での割引が受けられる。LPSAファンクラブMinervaみたいなものだ。
年中利用している人にはありがたい特典だが、私は1日乗車券を利用しているし、もうここら辺で食事を摂ることもないから、恩恵は受けない。寄付するようなものだ。
しかも有効期限を見ると、いつ入会しても3月31日までとなっていた。これではいま買っても、3か月しか有効期間がない。余談ながらMinervaは、入会後丸1年、有効期間を保証してくれる。
しかし私は、早急に千円札を入手する必要に迫られている。私は、「えちてつを応援するんだ…」と自分に言い聞かせ、入会することにした。
壱万円札を差し出して、待望のお釣りをもらう。あれは20代のころ、旅先で同じような状況になり、私はキオスクのような土産物屋で両替を求めた。
店のおばちゃんは「今回だけだよ」と不愉快そうに替えてくれたが、本来は手数料を取られるところ。そのときのツケが、20年以上の時を経て回ってきたのだ。
さっきの4人組が待合室に入ってきた。彼女らはさっきから挙動不審の私を見て、どう思っているだろう。鉄道マニアは怖い、ぐらい感じているかもしれない。
隅のテレビでは「あまちゃん」の総集編が放映されていた。私も彼女らといっしょに、何とはなしに観る。
晴子が上京するためにタクシーに乗るのだが、この運ちゃんは彼女を有名人と認識したようである。彼がこの後の展開の鍵を握る感じだ…。
総集編は面白いところの詰め合わせだから面白いのは当たり前だが、これは最後まで観たくなるツクリだ。なるほど視聴率がいいわけだと思った。
余談ながら、「あまちゃん」でブレイクしたのは能年玲奈ではなく、有村架純だと思う。あれだけかわいらしい芸能人は、10年にひとりしか出ない。
私のほうは、バスの乗車時間が来た。私(たち)は後ろ髪を引かれる思いで、永平寺行きのバスに乗った。
と、バスが定刻より1分早く発車してしまった。乗客は私たちしかいないとフンでのものだが、珍しいことではある。
タイム12分で永平寺門前着。私は千円札を使い、410円を払う。まったく、これからいくらでも小銭が入るのに、あの旅行貯金は返すがえすも重大な手順前後だった。
さて、永平寺である。日本のお寺では、清水寺と並んで知名度がある古刹だと思う。時々テレビで特集が組まれるが、とにかく修行が厳しい。朝4時に起きるとか、食事中は私語厳禁とか、入浴は週に○回とか、煩悩の塊の私には、別世界の話である。
修行体験もあるが、私にはあり得ない話である。譬えが卑近で恐縮だが、刑務所のほうが、よほどラクだと思う。
正門参道を歩き、通用門をくぐる。まず、入口にて御朱印をお願いする。御朱印帳を預け、受け取りは帰りのときだ。続いて入場券を買う。500円は、まあそのくらい取るであろう。
廊下を右に曲がると、傘松閣がある。その手前で、お坊様から拝観の際の諸注意を受ける。外の気温のように、気分が引き締まる。傘松閣は畳が150枚以上敷かれている大広間で、天井には何枚もの絵が描かれていた。
ここから順路に従って観光である。先に進んで、右手にある東司(とうす)は御手洗いのこと。さらに進んで左手にあるのは僧堂。文字通り、修行僧の道場である。さらに階段を上るが、目を瞠るのは寺の「造り」だ。日本建築の粋を集めており、釘も極力使っていないと思われる。梁の太さもすごい。古木が醸し出す薫りが心地いい。これを鑑賞するだけで、数時間は経ってしまう感じだ。が、私には時間がない。きょうはこのあと、福井鉄道の乗りつぶしが控えている。結果論だが、2社の1日乗車券を購入したのは余計だった。せめてえちぜん鉄道だけにしておけば、さっきだって手許に400円が残っていたのだが…。
階段を上りきって左折すると、承陽殿(じょうようでん)。永平寺の御開山道元禅師の御真廟(お墓)である。
引き返して、左手にあるのは法堂(はっとう)。寺院の建物のことを伽藍(がらん)といい、永平寺では山門・仏殿・僧堂・庫院(くいん)・東司・浴室・法堂の七つのお堂を「七堂伽藍」と呼んでいる。法堂は七堂伽藍の一番奥にあり、各種法要が行われる。中央には本尊「聖観世音菩薩」を祀っている。その周囲は金細工できらびやかだ。
年の瀬であるが、ふつうに参拝客がいる。さすがに永平寺の知名度は高い。
ここから引き返し、右手に仏殿、左手に庫院を見る。そこは台所だ。そしてその突きあたりには、浴室がある。入浴も修行のひとつで、無言の中で行われるのは言うまでもない。
山門がある廊下を通る。ここは表からその威容を眺めたいところだが、敵わない。
東司を左折すると、祠堂殿がある。ここには全国の信者から収められた位牌などが安置されている。
そのまま直進すると、売店に出た。ここはいくらか納めたいところである。「道元禅師からのメッセージ」という、屏風状の小冊子が500円で売られていたので、いただく。
中を見ると、「無常ならざるもの」「どう生きるか」「人生に定年はない」「ひとの価値」など、道元禅師のメッセージが草花の綺麗な写真とともに紹介されている。これは一読の価値がある。
帰りに御朱印帳をいただいた。
「奉拝 平成二十五年十二月三十日 承陽殿 吉祥山永平寺」
大山康晴十五世名人の書を思わせる、丸みのあるやわらかな字で、まさに墨痕鮮やかな御朱印であった。
かなり駆け足の参拝だったが、すっかり心が洗われて、私は永平寺を出る。
ところが帰りのバス停がはっきりしない。行きと帰りでは、バス停が違うのだ。土産物屋のご主人に聞くと、坂を下りたところにあると言われた。
と、ちょうどバスがやってきた。15時33分発の永平寺口行きである。私は慌て気味にバスに駆け寄った。
…あああっ!!
(つづく)