きのう、第26回将棋ペンクラブ大賞が発表された。
【観戦記部門】
大賞:
北野新太 第63回NHK杯将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段×三浦弘行九段(NHK将棋講座)
優秀賞:
湯川恵子 第40期女流名人位戦五番勝負第2局 里見香奈女流名人×中村真梨花女流二段(スポーツ報知)
【文芸部門】
大賞:
天野貴元「オール・イン 実録・奨励会三段リーグ」(宝島社)
優秀賞:
森内俊之「覆す力」(小学館)
【技術部門】
大賞:
森信雄「逃れ将棋」(実業之日本社)
優秀賞:
杉本昌隆「杉本流相振りのセンス」(マイナビ)
観戦記部門大賞は、最終選考に残った5作品から選ばれた。
大賞・北野新太氏のNHK杯観戦記は、冒頭の「ベスト8」の考察や中盤の映画の譬えなど、随所に工夫が凝らしてあり、読ませる。ただ、対局後の描写はややくどく、さらっとまとめてほしかった。
湯川恵子さんの観戦記は、女流将棋のレベルの高さを、青野照市九段や佐藤康光九段の証言を用いることで、自然な形でアピールしている。ネットの大平武洋五段の解説も紹介し、多角的に読める観戦記となっている。
観戦記部門は、第一次選考で21本に絞られた。私は第二次選考委員として、優を8、良を10、可を3とした。心情はどれも優にしたいのだが、それをやったら採点にならない。
第二次選考を通過した5本は、私の採点ではいずれも「優」だったが、私が一推しだった観戦記は最終選考に洩れ、ちょっと複雑な気持ちだった。
上の観戦記2本は、秋発行の「将棋ペン倶楽部」に全文が掲載される。
文芸部門大賞は、天野貴元氏。元奨励会員がその半生を描けば、面白くないわけがない。しかも本書には、癌の闘病記まで絡んでいるのだ。だからこそ逆に評価を割り引いて考えなければいけないが、そんな「邪念」も、はしがきを読んだだけで雲散霧消する。
16歳で奨励会三段に昇段した天野少年は、胸にこうつぶやくのだ。
「早くタイトルを取らなくては……」
もう、この一文からすでに面白い。これは本文を大いに期待してしまうではないか。実際本文も面白く、それは読了まで、独特の緊張感をもって続く。もし本書を2時間ドラマ化するとしたら、忍成修吾主演でお願いしたい。ふたりは容貌がそっくりである。
本書に「他人の不幸は蜜の味」的な面白さがあることは否めないが、筆者が現在も逆境にある状況を考え合わせると、襟を正して読みたくなる、10年に一度の名稿である。
「覆す力」の森内俊之竜王は、ここまでの将棋半生を、素直に回想している。なぜタイトル戦の2日目にカレーを食べるのか、など思わずクスリとするエピソードも満載である。
森内竜王は将棋に対しても、羽生善治名人ら棋士に対しても謙虚だ。ただ、永世名人獲得の一局は、森内竜王の熱い思いがひしひしと伝わってきて、大いに共感した。
以上の2冊は、購入しても損はないと思う。
なお将棋ペンクラブ大賞贈呈式は、9月19日(金)18時30分から、東京・四ツ谷の「スクワール麹町」で行われる。会費は男性8,000円、女性6,000円。ちょっと会費が高いが、いろいろお楽しみはある。私も伺う予定である。
【観戦記部門】
大賞:
北野新太 第63回NHK杯将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段×三浦弘行九段(NHK将棋講座)
優秀賞:
湯川恵子 第40期女流名人位戦五番勝負第2局 里見香奈女流名人×中村真梨花女流二段(スポーツ報知)
【文芸部門】
大賞:
天野貴元「オール・イン 実録・奨励会三段リーグ」(宝島社)
優秀賞:
森内俊之「覆す力」(小学館)
【技術部門】
大賞:
森信雄「逃れ将棋」(実業之日本社)
優秀賞:
杉本昌隆「杉本流相振りのセンス」(マイナビ)
観戦記部門大賞は、最終選考に残った5作品から選ばれた。
大賞・北野新太氏のNHK杯観戦記は、冒頭の「ベスト8」の考察や中盤の映画の譬えなど、随所に工夫が凝らしてあり、読ませる。ただ、対局後の描写はややくどく、さらっとまとめてほしかった。
湯川恵子さんの観戦記は、女流将棋のレベルの高さを、青野照市九段や佐藤康光九段の証言を用いることで、自然な形でアピールしている。ネットの大平武洋五段の解説も紹介し、多角的に読める観戦記となっている。
観戦記部門は、第一次選考で21本に絞られた。私は第二次選考委員として、優を8、良を10、可を3とした。心情はどれも優にしたいのだが、それをやったら採点にならない。
第二次選考を通過した5本は、私の採点ではいずれも「優」だったが、私が一推しだった観戦記は最終選考に洩れ、ちょっと複雑な気持ちだった。
上の観戦記2本は、秋発行の「将棋ペン倶楽部」に全文が掲載される。
文芸部門大賞は、天野貴元氏。元奨励会員がその半生を描けば、面白くないわけがない。しかも本書には、癌の闘病記まで絡んでいるのだ。だからこそ逆に評価を割り引いて考えなければいけないが、そんな「邪念」も、はしがきを読んだだけで雲散霧消する。
16歳で奨励会三段に昇段した天野少年は、胸にこうつぶやくのだ。
「早くタイトルを取らなくては……」
もう、この一文からすでに面白い。これは本文を大いに期待してしまうではないか。実際本文も面白く、それは読了まで、独特の緊張感をもって続く。もし本書を2時間ドラマ化するとしたら、忍成修吾主演でお願いしたい。ふたりは容貌がそっくりである。
本書に「他人の不幸は蜜の味」的な面白さがあることは否めないが、筆者が現在も逆境にある状況を考え合わせると、襟を正して読みたくなる、10年に一度の名稿である。
「覆す力」の森内俊之竜王は、ここまでの将棋半生を、素直に回想している。なぜタイトル戦の2日目にカレーを食べるのか、など思わずクスリとするエピソードも満載である。
森内竜王は将棋に対しても、羽生善治名人ら棋士に対しても謙虚だ。ただ、永世名人獲得の一局は、森内竜王の熱い思いがひしひしと伝わってきて、大いに共感した。
以上の2冊は、購入しても損はないと思う。
なお将棋ペンクラブ大賞贈呈式は、9月19日(金)18時30分から、東京・四ツ谷の「スクワール麹町」で行われる。会費は男性8,000円、女性6,000円。ちょっと会費が高いが、いろいろお楽しみはある。私も伺う予定である。