12日は、加藤桃子女王と室谷由紀女流二段が激突する、マイナビ女子オープン五番勝負第1局。私もそんなにヒマではなかったのだが、何とか半休が取れたので、神奈川県秦野市鶴巻温泉「陣屋」に行けることになった。タイトル戦の現地解説会に出向くのは、我が人生初である。
午前中にスマホを繰ると、マイナビのHPに室谷女流二段の写真が載っていた。だいぶ疲れている感じで、まるで対局の後みたいだ。これで今日1日戦えるのか心配になった。
昼で仕事を上がり、着替えて最寄り駅に向かう。今回は対局者を写真に撮れるかもしれないので、カメラを携行している。でも私の腕で、室内で綺麗に撮れるかどうか…。
陣屋の最寄り駅は鶴巻温泉だがけっこう距離があり、駅到着は13時49分の予定である。解説会は午後1時半開始だが、この遅刻は織り込み済みだ。
新宿で小田急に乗り換える。駅の売店に「週刊将棋」はもうなかった。
電車がやや遅れていて12時41分の急行に間に合ったが、あと数秒早かったら、40分の快速急行に乗れた。
車内でもスマホを繰るが、マイナビのHPからは盤面が反映されない。2ちゃんねるの将棋情報もなぜか繋がらず、本局についてほとんど情報のないまま、現地に赴くことになった。
我が電車は相模大野で12時51分新宿発の快速急行に追いつかれる。ということは、この急行に乗っても意味がなかったのだ。数秒の差が10分の差に拡がってしまったわけだ。
もっとも我が電車が13時49分に鶴巻温泉に着くので、予定通りではあった。
定刻を2分遅れの13時51分、鶴巻温泉着。もし旅先だったらこのあたりの日帰り温泉を楽しむところ。とはいえ半分旅行気分なので、近くの郵便局に立ち寄った。
駅から2分のところにある郵便局は築ウン十年を思わせる味のある建物だった。ただタイミングが悪いというか、ちょうど通帳の切り替えにあたり、やや時間をロスした。
「鶴巻郵便局」、貯金はもちろん412円だった。
線路を越えて駅の反対側(山側)に出る。駅前の案内板に「陣屋」の文字を見つけたが、ちょっと分かりにくい。女流王座戦の担当氏とすれ違った気がしたが、私は右手を行く。
しかし場所が皆目分からず、地元の人に聞いたら、やはり方角を間違えていた。
大きく迂回した形で、2時20分ごろ、陣屋に着いた。
「陣屋」については改めて述べるまでもない。1952年、第1期王将戦の最中に起こった「陣屋事件」の舞台であり、将棋ファンなら一度は訪れておきたい名宿である。
周りは近代的な建物に替わっていたが、ここ陣屋は当時の趣を残していた。タイムスリップしたかのようで、感慨深い。
門の横にある陣太鼓が宿の代名詞で、陣屋事件の顛末を表している。宿の方と思しき人に一礼し、敷地に入る。
解説会場は母屋左手にある離れの「竹河の間」。緊張しつつ屋敷に上がり、2,160円を払って、入室した。
中は和室で、かなりの広さだった。Tod氏がいたので、目礼する。
正面奥に大盤があり、解説は広瀬章人八段、聞き手は高浜愛子女流2級が務めていた。広瀬八段は立会人なので、和服である。
大盤の手前には座布団席が数列あり、さらにその後方から椅子席が数列。最後列の席が空いていたので、座る。いただいた入場券のナンバリングは「63」だった。
大盤の左には大型テレビがあり、対局室の盤が真上から映されていた。さらに右手やや手前にも大型テレビが2台あり、ひとつは同じく盤、もうひとつは両対局者を映していた。
大盤の奥の床の間には、棟方志功の掛け軸が掛けられていた。
Tod氏が来て、「さっき大庭美樹さんと島井ちゃんが来て、少し話したよ」と言う。LPSAの女流棋士も来場可、らしい。ここまで修復するのに、各関係者は相当骨を折ったことだろう。
さて局面。先番室谷女流二段の向かい飛車、という情報は仕入れていた。私の席からではやや見えづらいが、後手の加藤女王が、△8九飛と金取りに下ろしたところだった。室谷女流二段の金は5九、6八にいて、それぞれ一マスずれている。なんでこんなことになったのか。
広瀬八段が局面を戻すが、室谷女流二段が5八の飛車を▲5九飛と引き、△同竜▲同金△8九飛で、現局面になったらしい。ただ広瀬八段によると、▲5九飛を決行する前に、▲5三桂打△5一金右▲4一桂成△同金として、そこで▲5九飛とする手は有力だったという。私も同意見で、なぜに駒得を優先させなかったのかといぶかる。
ふんどし…。由紀のふんどし…。
見てみたかった。
前を見ると、Tag氏やミスター中飛車氏らの後頭部が見える。今日は平日だが、来るべき人が来ているようだ。
室谷女流二段は▲6九飛の自陣飛車。現在桂得ではあるが、ここに飛車を打つようでは室谷女流二段、苦戦ではないか?
2時半になり、解説者が塚田泰明九段と高群佐知子女流三段に交代した。解説会は棋士が交代で担当するのが慣例である。今日の記録係は塚田恵梨花女流2級で、一家総出である。
塚田九段といえば先日の大内延介九段の解説を思い出してしまうが、塚田九段はさわやかな万年青年だ。
また高群女流三段はおっとりしていて、実は私も昔、大ファンだった。
塚田九段の解説はポソポソしていたが軽快で、高群女流三段も聞き惚れている感じ。
塚田「ちょっと、(解説会に)参加してくださいよ」
高群「ああ、すみません」
微笑ましいやりとりだ。
塚田「室谷さんは、以前は攻め一辺倒だったけど、最近は受けが強くなってきましたね」
高群「ずっと攻め将棋の人もいますけどね」
塚田「……。いいんです。私はこれで生きていくんです」
場内、大爆笑であった。
(つづく)
午前中にスマホを繰ると、マイナビのHPに室谷女流二段の写真が載っていた。だいぶ疲れている感じで、まるで対局の後みたいだ。これで今日1日戦えるのか心配になった。
昼で仕事を上がり、着替えて最寄り駅に向かう。今回は対局者を写真に撮れるかもしれないので、カメラを携行している。でも私の腕で、室内で綺麗に撮れるかどうか…。
陣屋の最寄り駅は鶴巻温泉だがけっこう距離があり、駅到着は13時49分の予定である。解説会は午後1時半開始だが、この遅刻は織り込み済みだ。
新宿で小田急に乗り換える。駅の売店に「週刊将棋」はもうなかった。
電車がやや遅れていて12時41分の急行に間に合ったが、あと数秒早かったら、40分の快速急行に乗れた。
車内でもスマホを繰るが、マイナビのHPからは盤面が反映されない。2ちゃんねるの将棋情報もなぜか繋がらず、本局についてほとんど情報のないまま、現地に赴くことになった。
我が電車は相模大野で12時51分新宿発の快速急行に追いつかれる。ということは、この急行に乗っても意味がなかったのだ。数秒の差が10分の差に拡がってしまったわけだ。
もっとも我が電車が13時49分に鶴巻温泉に着くので、予定通りではあった。
定刻を2分遅れの13時51分、鶴巻温泉着。もし旅先だったらこのあたりの日帰り温泉を楽しむところ。とはいえ半分旅行気分なので、近くの郵便局に立ち寄った。
駅から2分のところにある郵便局は築ウン十年を思わせる味のある建物だった。ただタイミングが悪いというか、ちょうど通帳の切り替えにあたり、やや時間をロスした。
「鶴巻郵便局」、貯金はもちろん412円だった。
線路を越えて駅の反対側(山側)に出る。駅前の案内板に「陣屋」の文字を見つけたが、ちょっと分かりにくい。女流王座戦の担当氏とすれ違った気がしたが、私は右手を行く。
しかし場所が皆目分からず、地元の人に聞いたら、やはり方角を間違えていた。
大きく迂回した形で、2時20分ごろ、陣屋に着いた。
「陣屋」については改めて述べるまでもない。1952年、第1期王将戦の最中に起こった「陣屋事件」の舞台であり、将棋ファンなら一度は訪れておきたい名宿である。
周りは近代的な建物に替わっていたが、ここ陣屋は当時の趣を残していた。タイムスリップしたかのようで、感慨深い。
門の横にある陣太鼓が宿の代名詞で、陣屋事件の顛末を表している。宿の方と思しき人に一礼し、敷地に入る。
解説会場は母屋左手にある離れの「竹河の間」。緊張しつつ屋敷に上がり、2,160円を払って、入室した。
中は和室で、かなりの広さだった。Tod氏がいたので、目礼する。
正面奥に大盤があり、解説は広瀬章人八段、聞き手は高浜愛子女流2級が務めていた。広瀬八段は立会人なので、和服である。
大盤の手前には座布団席が数列あり、さらにその後方から椅子席が数列。最後列の席が空いていたので、座る。いただいた入場券のナンバリングは「63」だった。
大盤の左には大型テレビがあり、対局室の盤が真上から映されていた。さらに右手やや手前にも大型テレビが2台あり、ひとつは同じく盤、もうひとつは両対局者を映していた。
大盤の奥の床の間には、棟方志功の掛け軸が掛けられていた。
Tod氏が来て、「さっき大庭美樹さんと島井ちゃんが来て、少し話したよ」と言う。LPSAの女流棋士も来場可、らしい。ここまで修復するのに、各関係者は相当骨を折ったことだろう。
さて局面。先番室谷女流二段の向かい飛車、という情報は仕入れていた。私の席からではやや見えづらいが、後手の加藤女王が、△8九飛と金取りに下ろしたところだった。室谷女流二段の金は5九、6八にいて、それぞれ一マスずれている。なんでこんなことになったのか。
広瀬八段が局面を戻すが、室谷女流二段が5八の飛車を▲5九飛と引き、△同竜▲同金△8九飛で、現局面になったらしい。ただ広瀬八段によると、▲5九飛を決行する前に、▲5三桂打△5一金右▲4一桂成△同金として、そこで▲5九飛とする手は有力だったという。私も同意見で、なぜに駒得を優先させなかったのかといぶかる。
ふんどし…。由紀のふんどし…。
見てみたかった。
前を見ると、Tag氏やミスター中飛車氏らの後頭部が見える。今日は平日だが、来るべき人が来ているようだ。
室谷女流二段は▲6九飛の自陣飛車。現在桂得ではあるが、ここに飛車を打つようでは室谷女流二段、苦戦ではないか?
2時半になり、解説者が塚田泰明九段と高群佐知子女流三段に交代した。解説会は棋士が交代で担当するのが慣例である。今日の記録係は塚田恵梨花女流2級で、一家総出である。
塚田九段といえば先日の大内延介九段の解説を思い出してしまうが、塚田九段はさわやかな万年青年だ。
また高群女流三段はおっとりしていて、実は私も昔、大ファンだった。
塚田九段の解説はポソポソしていたが軽快で、高群女流三段も聞き惚れている感じ。
塚田「ちょっと、(解説会に)参加してくださいよ」
高群「ああ、すみません」
微笑ましいやりとりだ。
塚田「室谷さんは、以前は攻め一辺倒だったけど、最近は受けが強くなってきましたね」
高群「ずっと攻め将棋の人もいますけどね」
塚田「……。いいんです。私はこれで生きていくんです」
場内、大爆笑であった。
(つづく)