一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

植山の名局・余話

2016-04-29 02:09:05 | 将棋雑記
映画「ちはやふる<下の句>」、本日公開。




   ◇

第7期竜王戦ランキング戦5組準決勝、植山悦行五段と真田圭一五段との一戦は読売新聞将棋欄に掲載されなかったが、深浦康市四段との決勝戦は、武者野勝巳・現七段の筆によって、1994年7月3日から8日まで掲載された。
今回はその観戦記の一部を引用させていただく。

【第1譜】
◇…若手キラー
植山ほど不思議な星の偏りを見せる棋士はいないだろう。なにしろこの若手棋士全盛の将棋界にありながら、新鋭プロにはめっぽう強い。となればこれほど心強い味方はいないのに、さほど勝率の高くないおじさん棋士には、反対にさっぱり勝てないからだ。
(中略)
この「おじさん棋士」は、植山が先輩に愛着を込めて使う呼称。どうやら植山にとって新鋭とおじさんとの分水嶺は自分の年齢にあるようで、「今期の竜王ランキング戦は一回戦から大野六段、小倉五段、加瀬五段、真田五段と一人もおじさん棋士に当たらなかったのが幸いした」と胸を張る。
(後略)

ベテランに弱く若手棋士に強いとは、何となく植山七段らしくて可笑しい。
もう全文を引用したいのだが、もう一箇所だけ引用させていただく。

【第4譜】
◇…意表の勝負手
植山には「みずも」ちゃんという二歳のまな娘がいる。(中略)しかし対局は深夜に及ぶことも多い。そこで郷里の四日市から母を迎え、親子三代で住む家を埼玉に買うことにしたそうだ。植山「ローンも大変だし、頭金をしっかり稼がなきゃあね」と、これは昼休みの会話。
(後略)

棋士だから書ける裏話だ。しかし現在では個人情報保護法云々で、ここまで突っ込んだ話は書けなくなっていると思う。
しかし年月が経って読み返してみると、ニンマリするのはこういう観戦記である。少なくとも、指し手の変化満載のそれより、はるかに彩りがある。
ちょっと局面も見てみよう。

第1図から▲7一銀△7二飛▲6三歩△6一歩▲8四飛△7一飛▲8二飛成(第2図)と進む。

後手の飛車が詰んでいる。深浦四段は「▲7一銀からの一連の構想をうっかりした」とホゾを噛み、植山五段は「してやったり」の表情だった…と観戦記は伝えている。
しかし実際は、形勢は逆だったというから将棋は難しい。植山五段は苦労して飛車を入手したが有効な使い道がなく、対して深浦四段は△1九角成~△2九馬~△6四香(△6三香)など、指したい手がいっぱいある。
実戦もそう進み、終わってみれば、深浦四段の快勝となったのだった。
戻って植山五段の▲7一銀では、じっと▲6二歩と垂らすのがよかったらしい。

勝った深浦四段は決勝トーナメントに進出し、6組優勝の行方尚史四段と対戦するも、敗退する。勝った行方四段はあれよあれよという間に挑戦者決定戦まで勝ち進み、時の羽生善治名人と三番勝負を戦うことになるのである。
勝負事に「たら、れば」を言っても詮無いが、もし5組決勝で植山五段が勝っていたら――。栄誉や賞金云々はもちろんだが、「若手キラー」の植山五段である。行方四段との勝負は、おもしろくなっていたことだろう。
コメント
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