瀬川晶司五段が、静かに△3八銀と置く。するととくに難しい手順もなく、詰んでしまった。思わぬ展開に、私たちは呆然とするばかりである。
とはいえこの読みはさすがプロで、この程度の手順なら一目らしい。
私たちはテレビに注目するが、百戦練磨の加藤桃子女王が間違えるはずもない。瀬川五段の解説通り進み、その手つきは「勝ちました」という自信があふれていた。
△4八飛成と角を取る。▲同玉の一手に△3九角と打ち、ここで室谷女流二段が投了。私たちは声にならない声を上げた。まさに急転直下の結末である。
高浜愛子女流2級が「さっきは第2局の話をしたやないですか」と瀬川五段に言うが、私たちは口を歪めるしかなかった。
対局室ではしばし感想戦をやっていたが、両者が席を立った。解説場に来てくれるらしい。
これは私のカメラの出番だが、疲れ切った室谷女流二段の顔は撮りたくない気もする。見るのがつらい。
場内に対局者が入室した。加藤女王が晴れやかなのかはいうまでもないが、室谷女流二段も意外に生気を戻していた。
私はカメラを取り出すが、最後列の席からではいかにも遠い。ほかに写真を撮っている人もいるが、フラッシュは焚いていないようだ。解説開始時に「フラッシュ禁止」の注意でもあったのかもしれない。
右にはTod氏が座り、ちょっと席を移動しにくくなってしまった。
加藤女王「室谷さんが粘り強くて、大変でした」
これは意外で、加藤女王のほうがいい粘りを見せたという印象が強い。
瀬川五段が「加藤さんもかなり粘り強かったと思います…」と突っ込んだが、たしかにそれが私たちの実感である。
室谷女流二段も何か言ったが、私はそれを聞くどころではなく、彼女をおずおずと撮影した。
しかしやっぱりここからは遠い。が、2つ前の席がずいぶん空いたので、移動する。
誰かがあらためて、対局者にコメントを求めた。
加藤女王「本局はパワフルに指せたのですが、反省点もありました。第2局もがんばります」
室谷女流二段「陣屋で指せたのは光栄でした。私は終盤でポキッと折れてしまうところがあるのですが、本局は粘り強く指せたと思います。第2局も楽しみです」
以上のコメントを聞いて分かることがある。すなわち、加藤女王は自分が悪い将棋だったと意識しておらず、室谷女流二段の粘りに手を焼いたと感じていた。
また室谷女流二段も、自分が優勢だと感じることはなく、むしろボロ負けをしなかったことを佳しとしていた。
まったく意外なコメントで、両者にこれだけ意識の差があっては、勝敗はおのずと決まってしまう。
とくに室谷女流二段、この気構えでは第2局以降も勝てない。室谷女流二段にはわるいが、今シリーズは加藤女王の3-0で終わるだろう。
私はフラッシュを焚き何枚か撮らせていただいたが、感触はよくない。もっといっぱい撮りたかったが、強い光を立て続けに浴びせるわけにはいかず、シャッターを切る指が鈍った。
両対局者が対局室に戻り、再び瀬川五段の解説となる。しかし先手が最善手を指しても、難しい形勢だったらしい。本局、差がついているようでついていない、不思議な将棋だった。
「本日はありがとうございました」と瀬川五段が締める。しかしその後も瀬川五段が変化を述べ、終わるようで終わらない解説会だ。その姿が、瀬川五段の無念?を物語っていた。
私は初めてのタイトル戦解説会参加だったが、棋士の解説がおもしろく、非日常を味わえて、とても濃密な時間を楽しめた。また陣屋は風情があり、高級旅館のおもてなしに感激するところが多かった。
陣屋の門を出ると、係の方が「ドンッ、ド、ド、ド、ドン」と陣太鼓を鳴らしてくれた。お客の退出時にはこれをやってくれるらしい。
駅まではもうすぐだ。…あっ!!! 色紙を…高浜女流2級の、色紙を忘れた!!
しまったあ! リュックに入れるとシワが入ると思い、表に出していたら案の定忘れてしまった!!
私は急いで引き返す。しかし数メートル走っただけで、息があがってしまった。ダメだこれ、もうダイエットしよう!
竹河の間に戻ると、最後の客、Tod氏が退室せんとしていた。
幸い色紙は、移動前の椅子の下に残っていた。しかしその左の椅子にも色紙が忘れられていた。どうも、忘れ物が伝染したらしい。
うまい具合に高浜女流2級が表にいたので、揮毫の文字を聞く。
「回天、です」
この文字は「天」だったか。人間魚雷を思わせるが、言わんとする意味は分かる。これから高浜女流2級も、ぐんぐん上昇してほしい。
鶴巻温泉駅に戻ると、新宿行きの急行は、17時52分があった。新宿までは約1時間、新宿ではヤボ用もあるので、7時からさんまの番組を観ることはできない。
私は駅のホームでカメラの画像を確認する。と、対局者が「赤目」になっていた。
赤目軽減機能は有効になっていなかったのか? 私はすべての画像を確認したが、残念ながらすべて赤目になっていて、めまいがした。
室谷女流二段を撮れる絶好のチャンスだったのに、何てことだ…。しっかり準備しておくべきだった。
ま、こういうヘマも私らしいというべきか。私は電車に乗ったが、対局で敗れた気分だった。
とはいえこの読みはさすがプロで、この程度の手順なら一目らしい。
私たちはテレビに注目するが、百戦練磨の加藤桃子女王が間違えるはずもない。瀬川五段の解説通り進み、その手つきは「勝ちました」という自信があふれていた。
△4八飛成と角を取る。▲同玉の一手に△3九角と打ち、ここで室谷女流二段が投了。私たちは声にならない声を上げた。まさに急転直下の結末である。
高浜愛子女流2級が「さっきは第2局の話をしたやないですか」と瀬川五段に言うが、私たちは口を歪めるしかなかった。
対局室ではしばし感想戦をやっていたが、両者が席を立った。解説場に来てくれるらしい。
これは私のカメラの出番だが、疲れ切った室谷女流二段の顔は撮りたくない気もする。見るのがつらい。
場内に対局者が入室した。加藤女王が晴れやかなのかはいうまでもないが、室谷女流二段も意外に生気を戻していた。
私はカメラを取り出すが、最後列の席からではいかにも遠い。ほかに写真を撮っている人もいるが、フラッシュは焚いていないようだ。解説開始時に「フラッシュ禁止」の注意でもあったのかもしれない。
右にはTod氏が座り、ちょっと席を移動しにくくなってしまった。
加藤女王「室谷さんが粘り強くて、大変でした」
これは意外で、加藤女王のほうがいい粘りを見せたという印象が強い。
瀬川五段が「加藤さんもかなり粘り強かったと思います…」と突っ込んだが、たしかにそれが私たちの実感である。
室谷女流二段も何か言ったが、私はそれを聞くどころではなく、彼女をおずおずと撮影した。
しかしやっぱりここからは遠い。が、2つ前の席がずいぶん空いたので、移動する。
誰かがあらためて、対局者にコメントを求めた。
加藤女王「本局はパワフルに指せたのですが、反省点もありました。第2局もがんばります」
室谷女流二段「陣屋で指せたのは光栄でした。私は終盤でポキッと折れてしまうところがあるのですが、本局は粘り強く指せたと思います。第2局も楽しみです」
以上のコメントを聞いて分かることがある。すなわち、加藤女王は自分が悪い将棋だったと意識しておらず、室谷女流二段の粘りに手を焼いたと感じていた。
また室谷女流二段も、自分が優勢だと感じることはなく、むしろボロ負けをしなかったことを佳しとしていた。
まったく意外なコメントで、両者にこれだけ意識の差があっては、勝敗はおのずと決まってしまう。
とくに室谷女流二段、この気構えでは第2局以降も勝てない。室谷女流二段にはわるいが、今シリーズは加藤女王の3-0で終わるだろう。
私はフラッシュを焚き何枚か撮らせていただいたが、感触はよくない。もっといっぱい撮りたかったが、強い光を立て続けに浴びせるわけにはいかず、シャッターを切る指が鈍った。
両対局者が対局室に戻り、再び瀬川五段の解説となる。しかし先手が最善手を指しても、難しい形勢だったらしい。本局、差がついているようでついていない、不思議な将棋だった。
「本日はありがとうございました」と瀬川五段が締める。しかしその後も瀬川五段が変化を述べ、終わるようで終わらない解説会だ。その姿が、瀬川五段の無念?を物語っていた。
私は初めてのタイトル戦解説会参加だったが、棋士の解説がおもしろく、非日常を味わえて、とても濃密な時間を楽しめた。また陣屋は風情があり、高級旅館のおもてなしに感激するところが多かった。
陣屋の門を出ると、係の方が「ドンッ、ド、ド、ド、ドン」と陣太鼓を鳴らしてくれた。お客の退出時にはこれをやってくれるらしい。
駅まではもうすぐだ。…あっ!!! 色紙を…高浜女流2級の、色紙を忘れた!!
しまったあ! リュックに入れるとシワが入ると思い、表に出していたら案の定忘れてしまった!!
私は急いで引き返す。しかし数メートル走っただけで、息があがってしまった。ダメだこれ、もうダイエットしよう!
竹河の間に戻ると、最後の客、Tod氏が退室せんとしていた。
幸い色紙は、移動前の椅子の下に残っていた。しかしその左の椅子にも色紙が忘れられていた。どうも、忘れ物が伝染したらしい。
うまい具合に高浜女流2級が表にいたので、揮毫の文字を聞く。
「回天、です」
この文字は「天」だったか。人間魚雷を思わせるが、言わんとする意味は分かる。これから高浜女流2級も、ぐんぐん上昇してほしい。
鶴巻温泉駅に戻ると、新宿行きの急行は、17時52分があった。新宿までは約1時間、新宿ではヤボ用もあるので、7時からさんまの番組を観ることはできない。
私は駅のホームでカメラの画像を確認する。と、対局者が「赤目」になっていた。
赤目軽減機能は有効になっていなかったのか? 私はすべての画像を確認したが、残念ながらすべて赤目になっていて、めまいがした。
室谷女流二段を撮れる絶好のチャンスだったのに、何てことだ…。しっかり準備しておくべきだった。
ま、こういうヘマも私らしいというべきか。私は電車に乗ったが、対局で敗れた気分だった。