一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第1期電王戦二番勝負第1局

2016-04-19 19:50:41 | 男性棋戦
9~10日に岩手県平泉町「関山中尊寺」で、初代叡王・山崎隆之八段とPONANZAの第1期電王戦二番勝負第1局が行われた。その将棋を振り返ってみよう。
まず個人的見解を述べれば、将棋ソフトの棋力は、すでにプロ棋士を越えていると思う。これは相手が羽生善治名人でも渡辺明竜王でも同じで、番勝負ならソフトが勝ち越すと信じる。
さて対局者の山崎八段は現在「NHK将棋フォーカス」に準レギュラー出演している。5年前には同枠の将棋講座の講師を務め、テーマは「ちょいワル逆転術」だった。
講座では、山崎八段が劣勢の局面から逆転するさまが鮮やかで、山崎八段は中盤でわるいほうが、むしろ勝率がいいのではと思ったほどだ。ただし現在の将棋ソフト相手に、終盤で逆転は不可能だろう。
一方のPONANZAは最強のソフトで、年々棋力が向上している。山崎八段にはわるいが、「この二番勝負はPONANZAがいかに勝つか」。私の興味はそこにあった。
持ち時間は各8時間で、2日制。山崎八段は初めての経験で、その対局相手が将棋ソフトとは、珍記録になった。
PONANZAの先手で、お互いに飛車先の歩を切った。
ここでPONANZAは▲5八玉!
これは驚いた。ここ、プロなら95%以上の確率で、▲3四飛と歩を取る。しかるにPONANZAは我が道をいった。「将棋ソフトに定跡なし」というべきか。もっともネット解説によると、プロの実戦例は何局かあるらしかった。
以下相居飛車の力戦形になった。ただ勝敗はどうあれ、山崎八段らしい将棋になった。やはり人間が指す以上、その人らしい将棋になったほうが、観戦していても楽しい。
山崎八段、30手目△5五歩。これが序盤の勝負手で、先手はこの地点に大駒が2つ利いているから、どちらかで取られた時には、山崎八段が優勢の順を用意しておかなければならない。
PONANZAは▲5五同飛。以下飛車交換になって、△2五飛まで進んだ。
この局面をどう見るか。
まずは▲8五飛と打ち、次に▲3三角成△同桂▲2五飛△同桂▲2一飛を狙う手が考えられる。
ネット上の解説では、▲3三角成△同桂▲2八歩の進行を挙げていて、これで先手十分とのことだった。
いやしかし、これでよければ先手はラクだ。すなわち山崎八段がでかしていない。これはどういうことなのか? 何か誤算があったのだろうか。
PONANZAは▲3三角成。これを山崎八段が△同金と取ったのに驚いた。ふつうは△同桂と取り、△2五飛にヒモをつけそうなものだ。しかしそこを△同金が、独特の感性を持つ山崎八段らしい。
△3三同金には、何はともあれ▲2八歩だろう。少なくともジョナ研メンバーなら、全員がそう指す。しかるにPONANZAは▲8二歩成! これもまた驚いた。
先手の8三歩は重要な拠点で、将来▲8二銀や▲8五飛~▲8二歩成を見て、簡単には消去したくないところ。そこをいとも簡単に捨てたのがすごい。
後手は△8二同銀の一手だが、しかし後続の手がまったく見えない。
PONANZAは▲6五桂!!! これが大方の意表を衝いた。ここ、▲6六歩が突いてあれば、▲6五桂も考えないことはない。そこを中空に跳んだのがスゴイのだ。
△6五同飛は▲2二歩△2五飛▲2一歩成△2九飛成▲5三桂で先手優勢。「歩ハ2二ニ使イタイノデス」というPONANZAの声が聞こえてくるようではないか。
また△5二歩は▲8五飛と銀取りに打ち、次に▲5三桂不成を見て先手必勝。ここまで読んでの▲8二歩成だったか!
陣形を見れば先手陣は3手しかかけていないのに、妙に固い。対して後手陣は金銀がバラバラで、文字通り収拾がつかない。これは素人目にもPONANZAが優勢に見えた。すなわち、先手必勝である。
ここで山崎八段が40手目を封じた。ニコ生では「△投了」と出てきたが、これはもちろん誤り。とはいえ山崎八段の胸中、似たようなものではなかったか。
2日目は用があって外出したのだが、夕方にネットを繰ったら、山崎八段が投了していた。まあ、そうであろう。
記譜を再生したら、山崎八段が追い上げた雰囲気もあったが、総ずればPONANZAが逃げ切った印象だった。
本局のPONANZAには、棋士の指し手にはない独創性があり、指し手を追っていて楽しかった。
対して山崎八段は終始うつむき加減で、全然勝てる雰囲気がなかった。これでは第2局が思いやられる(もっとも相手はコンピューターだから、見くびられることはないのだが)。
第2局は5月21~22日に滋賀県大津市の比叡山延暦寺で行われる。山崎八段の作戦に注目したい。
コメント
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