加藤桃子女王は△1五歩。1手遅く見えるが、攻めるならここしかない。すなわち室谷由紀女流二段が優勢だ。
室谷女流二段は1筋の香をつりあげて▲2五桂~▲3三桂成とさらに駒得し、ついに金銀比が7対1になった。
午後4時15分になり、解説が再び広瀬章人八段と高浜愛子女流2級に交代する。
広瀬八段「私は立ち合いなのでまた行かなければならないんですが、15分くらいは解説できると思います。
難しい局面ですが、先手が駒得していますからねえ。そのセオリーはこの将棋でも生きていると思います」
△3三同玉に筋は▲4四銀だが、△同玉▲4二竜△3五玉ではっきりしない。
そこで室谷女流二段は▲1六香としたが、これではその前の歩の連打が無意味になってしまった。ただ、冷静に軌道修正するのもまた、強者の強さである。
▲3六歩と玉の懐を拡げつつ、角出を見せる。ここで広瀬八段は△2五桂を指摘する。先手の▲3七玉を防ぎつつ△1七香成以下を見た手で、こうなればむしろ後手を持ちたい気がする。ではいままでの形勢判断は何だったのか。
しかし加藤女王は△1八飛。室谷女流二段はよろこんで?▲3七玉。これは再び室谷女流二段がよくなったのではないか?
4時45分、予定を15分くらいオーバーして、広瀬八段が退室。再び瀬川五段が解説担当となった。
「皆さまにおわびをしなければなりません」
と瀬川五段。「さっきは第2局の展望を言ったんですが、控室に戻ったら難しいということになってまして、参りました」
これはいやな情報である。「とはいうものの、やはり形勢判断のひとつは駒の損得なんですね。先手が駒得していて、盤面を制圧していますからねえ。正確に指せば、先手が残していると思います」
「駒得は裏切らないって言いますものねえ」
と、これは高浜女流2級。
うーむ。この局面、アマ同士なら間違いなく先手が勝つ。しかし後手もいやらしく迫っており、逆転の筋があっちこっちにある。このあたりの加藤女王の指し方はさすがだ。
今日は7時から日本テレビで「踊る!さんま御殿!!春の3時間スペシャル」があるが、私はまたもビデオ予約をしてこなかった。このまま熱戦が続くと、冒頭からの視聴は微妙である。
私は再びコーヒーを飲む。数手進んで、室谷女流二段は▲4五香。ビシッという音が、テレビから聞こえてくるようだった。
さらに▲4二香成から▲5三銀が、瀬川五段も見落としていた好手順。後手の馬を殺して、先手が着々と勝ちに近づいているように見える。
瀬川五段が私たちに、両対局者のどちらを応援しているか聞く。私たちは「またか」と苦笑する。
結果は書かないが、さっきと同じである。関西から来た将棋ファンもいたようである。
馬を取って室谷女流二段がいいはずだが、先手には存外遊び駒が多い。いや遊び駒とは言わぬが、その性能をすべて発揮していない駒が多すぎる。
対して後手には、遊び駒が1枚もない。後手の守りは△4二歩1枚なのだが、これが絶妙にいい働きをしている。
しかし雰囲気は室谷女流二段勝ちだ。▲4四桂△3三玉。ここで客席から「▲1五角」の声が出る。遊んでいた角が飛びだしての王手は気持ちがいいが、瀬川五段は、「自玉のスソが空くから」と、あまり乗り気でない。
室谷女流二段は▲1五角と出た。これは吉なのか凶なのか。加藤女王は△2四銀とハジく。室谷女流二段▲1一角。連続王手は味消しの気もするが、持ち駒を使わせようの意だろうか。
時刻は5時を過ぎている。
高浜女流2級「これはチェスクロック使用ですから、両者1分将棋に入っているはずです」
加藤女王△2二桂。これを▲同角成△同玉▲4二竜はわずかに詰まない。
室谷女流二段、どうするかと見ていると、▲4八角と引いた。「反省しましたね」と瀬川五段。▲2四角と突撃したら負けてしまうからだが、秒読みの中、後手を引く▲4八角はなかなか指せないものだ。さっきの▲1六香同様、室谷女流二段は落ち着いている。
加藤女王は妖しく△6四香と打つ。玉の6筋遁走を防いだものだが、秒に追われた感がなくもない。
ここでFuj氏なら、120%▲7四飛成とする。いや私もそう指す。そして次に▲6三竜~▲6四竜と左辺を一掃してしまえば、先手に負けはない。瀬川五段も▲7四飛成を推奨した。
ところが室谷女流二段は▲7一飛成! 場内が一瞬静まり返ったが、瀬川五段「あっ、こっちのほうがいいですね」にドッときた。すなわち、これで室谷女流二段勝ちという宣託だ。
「これは第2局ですか」
という場内の雰囲気を知らぬ加藤女王△3七香。うん? 後手玉は詰めろでなかったのか? ▲3一竜には△4三玉で詰まない。△4二歩の防波堤がここでも利いているのだ。後手玉のぬるぬる加減は駒落ちの上手のようで、私も大野八一雄七段との指導対局などで何度も経験している。室谷女流二段に錯覚があったか。
しかし反省しているヒマはない。△3七香は△3八飛成以下の詰めろなので、室谷女流二段は受ける一手。ハッシと▲2九銀と引いた。飛車取りの逆先だ。
「これはトン死しました」
すぐに瀬川五段が、散文的につぶやいた。
(17日につづく)
室谷女流二段は1筋の香をつりあげて▲2五桂~▲3三桂成とさらに駒得し、ついに金銀比が7対1になった。
午後4時15分になり、解説が再び広瀬章人八段と高浜愛子女流2級に交代する。
広瀬八段「私は立ち合いなのでまた行かなければならないんですが、15分くらいは解説できると思います。
難しい局面ですが、先手が駒得していますからねえ。そのセオリーはこの将棋でも生きていると思います」
△3三同玉に筋は▲4四銀だが、△同玉▲4二竜△3五玉ではっきりしない。
そこで室谷女流二段は▲1六香としたが、これではその前の歩の連打が無意味になってしまった。ただ、冷静に軌道修正するのもまた、強者の強さである。
▲3六歩と玉の懐を拡げつつ、角出を見せる。ここで広瀬八段は△2五桂を指摘する。先手の▲3七玉を防ぎつつ△1七香成以下を見た手で、こうなればむしろ後手を持ちたい気がする。ではいままでの形勢判断は何だったのか。
しかし加藤女王は△1八飛。室谷女流二段はよろこんで?▲3七玉。これは再び室谷女流二段がよくなったのではないか?
4時45分、予定を15分くらいオーバーして、広瀬八段が退室。再び瀬川五段が解説担当となった。
「皆さまにおわびをしなければなりません」
と瀬川五段。「さっきは第2局の展望を言ったんですが、控室に戻ったら難しいということになってまして、参りました」
これはいやな情報である。「とはいうものの、やはり形勢判断のひとつは駒の損得なんですね。先手が駒得していて、盤面を制圧していますからねえ。正確に指せば、先手が残していると思います」
「駒得は裏切らないって言いますものねえ」
と、これは高浜女流2級。
うーむ。この局面、アマ同士なら間違いなく先手が勝つ。しかし後手もいやらしく迫っており、逆転の筋があっちこっちにある。このあたりの加藤女王の指し方はさすがだ。
今日は7時から日本テレビで「踊る!さんま御殿!!春の3時間スペシャル」があるが、私はまたもビデオ予約をしてこなかった。このまま熱戦が続くと、冒頭からの視聴は微妙である。
私は再びコーヒーを飲む。数手進んで、室谷女流二段は▲4五香。ビシッという音が、テレビから聞こえてくるようだった。
さらに▲4二香成から▲5三銀が、瀬川五段も見落としていた好手順。後手の馬を殺して、先手が着々と勝ちに近づいているように見える。
瀬川五段が私たちに、両対局者のどちらを応援しているか聞く。私たちは「またか」と苦笑する。
結果は書かないが、さっきと同じである。関西から来た将棋ファンもいたようである。
馬を取って室谷女流二段がいいはずだが、先手には存外遊び駒が多い。いや遊び駒とは言わぬが、その性能をすべて発揮していない駒が多すぎる。
対して後手には、遊び駒が1枚もない。後手の守りは△4二歩1枚なのだが、これが絶妙にいい働きをしている。
しかし雰囲気は室谷女流二段勝ちだ。▲4四桂△3三玉。ここで客席から「▲1五角」の声が出る。遊んでいた角が飛びだしての王手は気持ちがいいが、瀬川五段は、「自玉のスソが空くから」と、あまり乗り気でない。
室谷女流二段は▲1五角と出た。これは吉なのか凶なのか。加藤女王は△2四銀とハジく。室谷女流二段▲1一角。連続王手は味消しの気もするが、持ち駒を使わせようの意だろうか。
時刻は5時を過ぎている。
高浜女流2級「これはチェスクロック使用ですから、両者1分将棋に入っているはずです」
加藤女王△2二桂。これを▲同角成△同玉▲4二竜はわずかに詰まない。
室谷女流二段、どうするかと見ていると、▲4八角と引いた。「反省しましたね」と瀬川五段。▲2四角と突撃したら負けてしまうからだが、秒読みの中、後手を引く▲4八角はなかなか指せないものだ。さっきの▲1六香同様、室谷女流二段は落ち着いている。
加藤女王は妖しく△6四香と打つ。玉の6筋遁走を防いだものだが、秒に追われた感がなくもない。
ここでFuj氏なら、120%▲7四飛成とする。いや私もそう指す。そして次に▲6三竜~▲6四竜と左辺を一掃してしまえば、先手に負けはない。瀬川五段も▲7四飛成を推奨した。
ところが室谷女流二段は▲7一飛成! 場内が一瞬静まり返ったが、瀬川五段「あっ、こっちのほうがいいですね」にドッときた。すなわち、これで室谷女流二段勝ちという宣託だ。
「これは第2局ですか」
という場内の雰囲気を知らぬ加藤女王△3七香。うん? 後手玉は詰めろでなかったのか? ▲3一竜には△4三玉で詰まない。△4二歩の防波堤がここでも利いているのだ。後手玉のぬるぬる加減は駒落ちの上手のようで、私も大野八一雄七段との指導対局などで何度も経験している。室谷女流二段に錯覚があったか。
しかし反省しているヒマはない。△3七香は△3八飛成以下の詰めろなので、室谷女流二段は受ける一手。ハッシと▲2九銀と引いた。飛車取りの逆先だ。
「これはトン死しました」
すぐに瀬川五段が、散文的につぶやいた。
(17日につづく)