一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

はじめての愛(後編)

2018-05-05 00:21:48 | 女流棋士の指導対局会

第5図以下の指し手。▲1五金△9五歩▲同歩△4二角▲8七玉△4三金▲8六歩△5四金▲6六角△6四歩▲同歩(第6図)

△1三歩に▲2三金はまったく考えなかった。しかし▲2三歩成はあったかもしれない。私の第一候補は▲1三同金だが、△2四飛▲1四金△3四飛▲2四歩△1三歩…は千日手。ここは穏やかに▲1五金と引いた。
飯野女流初段は一本△9五歩と突き捨て、△4二角。次は△9八歩~△9七歩があるから、私は▲8七玉と受ける。なんだか駒落ちの上手みたいだ。
△4三金にはつらいが、▲8六歩と受けた。しかしこの歩が打てるのは、9筋の突き捨てがあったから。よって△9五歩では、黙って△4二角と引く手もあったと思う。
飯野女流初段は△5四金と繰り出し、△6四歩▲同歩。さて次の手は。

第6図以下の指し手。△6四同角▲6五香△同金▲同銀△3一角▲6四歩△1四香▲9四歩△9二歩▲8五桂△1五香▲同香△2四飛(第7図)

ほかの将棋を見ると、Tag氏はうまく指し、勝勢っぽい。その左の飛車落ちの男性は、勝勢に見えるがウンウン唸っている。
飯野女流初段は△6五歩と打ちかけて△6四同角と取り、かぶりを振った。でもここは△6五歩がイヤだった。以下▲6五同銀△同金▲同桂△6四角となるが、6五桂は8五に跳びたかったので、下手は不満だ。
本譜、私は▲6五香の田楽刺し。△同金▲同銀の瞬間は私の金得で、これで悪いはずがないと思った。
△3一角に▲6四歩は打ちたくなくなかったが、逆に△6二香と打たれる手を嫌った。
このあたりでTod氏が投了した。一抜けではあるが、さすがに平手では厳しかったか。
飯野女流初段△1四香。これで金得が解消されてしまうが、「1五金」が盤上から消えるからいいと思った。
飯野女流初段は△2四飛。意地でも飛車を働かそうという手だ。ここは迷った。

第7図以下の指し手。▲6三香△7一玉(第8図)

第7図は▲6七金か▲7七金と上がりたかった。要するに飛車の横利きを通し、▲9八飛の狙いである。これに飯野女流初段が△2六歩なら明らかに得だが、そこまで悠長な手を指してくれるだろうか。
飯野女流初段がこちら側に体勢を向けた。ここまでが下手の考慮時間のワンセットと心得ているので、私はせかされるように▲6三香と打った。が、これは疑問と承知していた。
すなわち、ふつうに△6二歩で、下手が困るのだ。
以下▲9三歩成△同歩▲同香成△同香▲同桂成△同桂▲同角成△同玉▲9九香△9四歩(参考2図)は下手息切れ。この時飛車の横利きが通っていれば、▲9四同香△同玉▲9八飛で詰む。だからこの前に▲7七金が必要だったのだ。

ところが飯野女流初段は△7一玉。これでは下手の疑問手が通ってしまった。△6二歩なら負け、と下手を信用してくれたのだろうか。私は申し訳ない気分になった。

第8図以下の指し手。▲9三歩成△同歩▲同香成△6二金▲8二金△6一玉▲7二金(途中図)

△7二同玉▲6二香成△同玉▲6三銀△5三玉▲5四銀上(投了図)
まで、99手で一公の勝ち。

第8図から▲9三歩成△同歩▲同香成に△同香は、▲同桂成△同桂▲同角成△8二桂▲9四桂△8一香でどうか。これもむずかしい戦いだが、飯野女流初段はめんどうを避けて△6二金と強く受けた。
飯野女流初段が飛車落ちの男性氏に移り、飯野女流初段が詰ましに行った。あの将棋が逆転?したわけで、指導対局はかくも恐ろしい。
私は▲6二同香成を考えたが、△同玉で上手玉が広い。そこで▲8二金はどうか。以下△6二玉▲7二金(途中図)。さらに数手進め、▲5四銀上△4二玉▲5二金となれば、ピッタリ詰んでいる。
とすれば途中図から△5二玉と逃げるのが正着だが、飯野女流初段はこの詰みを読んでない気がした。
果たして実戦は、飯野女流初段は▲7二金を△同玉と取り、▲5四銀上にハッとした表情を見せ、投了した。

「そっかー。いや、▲6五歩と指されて…。あれは作戦でしたか?」
と飯野女流初段。
「はー、時々指します。△6四歩なら▲6五歩から1歩を交換する狙いで」
「△3五歩も、誘われているような気はしたんですよー」
「あー。まあ、ふつうの三間飛車になったら、それはそれで急戦で行くつもりでした」
「序盤から全然自信がありませんでした」
「それは私も同じです。全然もう。金がソッポにいてましたし、全然全然」
「どこかおかしかったですか」
「いえさすがに先生、さすがの指し回しで、ええ、ええ」
検討すると、第3図からの▲1六金に△5四歩が不急の手で、ここでは△1四飛(参考3図)と歩を取る手があった。

「これは景色が全然違いますね」
と飯野女流初段。
「ああ、ああ、そうですね。これはこっち歩切れになるし、全然ダメですね」
独身女流棋士と対面で会話ができるのは指導対局の醍醐味だが、ほかの対局者はおもしろくなかろう。それで、私も適当なところで感想戦を切り上げた。
この後も対局は続いたが、最後の対局の感想戦が終わったのは、休憩時間終了の午後4時キッカリ。飯野女流初段の誠実な人柄が伝わった。

この後も飯野女流初段と少し話す機会があったのだが、飯野女流初段は晩学ゆえか、自分の将棋に自信がないように思った。
だけど上手にとって6面指しは相当なハンデで、そこを飯野女流初段はノータイム指しの連続で、指し手も急所にいっていた。私の感覚では中村真梨花女流三段や渡部愛女流二段と遜色ない指し回しで、さすがにプロだと唸ったものだった。
ところが飯野女流初段は、プロになったことで満足していたフシがあった。
これは残念である。ファンの欲求は貪欲で、昇段はもちろん、リーグ入りやタイトル戦登場など、際限がないのである。
飯野女流初段のこれからの戦いに期待しています。
コメント
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