一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

△▲3二銀の周辺

2018-05-11 00:06:47 | 女流棋戦
この4月から「ルパン三世PART5」が放映されていたのをうっかりした。
日本テレビ系で火曜深夜25時29分から。慌てて録画予約したが、もう6話終わってしまった。
ガックリ…。

   ◇

9日の女流王位戦第1局は、先番里見香奈女流王位の中飛車に、渡部愛女流二段の居飛車左美濃となった。
数手進んで、渡部女流二段は穴熊に潜る。渡部女流二段は居飛車急戦を得意としているが、穴熊も隠れた使い手である。本局は固さより遠さを主張するつもりだろう。
なお渡部女流二段はきものは着ておらず、青系のブラウスに白系のスカートだった。里見女流王位が洋服派なので、それに合わせたのだろう。
さて盤面。中盤は里見女流王位の模様がよかったが、渡部女流二段もついていく。
そこで里見女流王位に疑問手があったのか、気が付けば渡部女流二段が有利になっていた。

迎えた第1図。ここで私の第一感は△6九竜である、▲4六角なら△6五竜と銀を取り、悪い理屈がない。
私はこの時職安を出て、新橋に徒歩で向かっている最中だった。時折スマホで戦況を確認しながら、渡部女流二段ならこの将棋は逃すまいと、楽観的に考えていた。
ところが渡部女流二段は△4四金と桂を食いちぎり、▲同歩に△5六桂打とやった。
この手はちょっと前から狙い筋だったのだが、銀を只取りできそうな現在は状況が変わっている。先に金桂交換の駒損をしてその桂を打っても、トータルでは得をしない。△6九竜から銀得して何が悪いのだと私は訝った。が、終盤は駒の損得よりスピードという。なるほど△6五竜の形は、その竜を活用するのに、また1手かかる。それなら竜を一段目に置き、1手でも早く敵の本丸を目指したほうがよい。
私は渡部女流二段の大局観に感心したのであった。
ところが△5六桂打以下▲4七金直△6八桂成▲4六香△5八角▲5七金と進んだ時、渡部女流二段が△3二銀(第2図)と引いたのでズッコケた。

いままで攻めの姿勢を貫いてきたのに、ここで受けに回るとは呼吸がおかしい。渡部玉の穴熊は固くはないが、遠い。そのアドバンテージを活かして攻め合いにいけば、1手先に相手玉を仕留められたのではないか。
この大事な終盤で「お手伝い」は大きく、里見女流王位はよろこんで▲4三歩成。攻守ところを変えてしまった。
△4三同銀左▲同香成△同銀▲6四銀△4九角成▲4五桂△4四角▲3三桂打△3二銀▲2一桂成△同金▲3三桂打△3七香▲同玉△5九竜(第3図)。

ここでTwitter解説の渡辺正和五段は、▲2一桂成△同銀▲同竜△同玉▲2三香の詰みを指摘した。
▲2三香の詰み、といえば私などは、1979年7月10日に指された第18期十段戦リーグ・▲森安秀光七段VS△米長邦雄九段の一戦を思い出す。あるいは即詰みではなく先後も違うが、1974年10月29日・30日に指された第13期十段戦第1局・▲大山康晴十段VS△中原誠名人の投了図を浮かべた愛棋家もいるだろう。


まあそれはとにかく、即詰みの順が出ては里見女流王位が逃すわけがなく、開幕局は終わった。
里見女流王位は2一の地点でバラす。控室では、「強い勝ち方だね」の声が上がったという。
本局、せっかく渡部女流二段が中盤以降に盛り返したのに、一手の緩手で棒に振った。実にもったいないことだったが、まあいい。今シリーズは勉強と思って、残る対局を頑張ればいいのだ。
里見女流王位は▲2三香とせず、▲3二銀(第4図)と打った。なるほどこれでも詰むのかと思いきや、△3二同玉(第5図)に、渡辺五段や現地大盤解説の屋敷伸之九段は、詰みが見えないという。


まさか不詰みということはあるまいが、男性棋士が揃って言うなら、本当なのか? しかし先手は飛車銀桂を渡してしまった。それなら逆転しているだろう。本当かいな。
果たして里見女流王位は、果てしない長考に沈んでしまった。これは読みに齟齬があったことを意味する。
タイム55分、▲4八金打と受けたが、これは後手玉に詰みがなかった、と白状したようなものだ。しかも受けにさえなっておらず、先手玉に詰みがあるらしい。渡部女流二段は慎重に時間を使い、△4八同馬▲同金△2八銀▲4六玉△6六飛(投了図)まで、華麗に詰ました。

投了以下▲6六同金は、△5六金▲同金△4八竜▲4七金△3七銀不成まで。
ちなみに私なら△6六飛で△4八竜とし、▲4七金打にアオくなっているところ。アマの場合、勝敗は最後まで分からないのだ。
しかし本局、里見女流王位の詰み逃しはなんだったのだろう。私も6年前に稚内の交流対局で、必勝の局面で相手に必至を掛ければ勝ちだったのに、詰ましに行って詰まず、悪夢の逆転負けを喫したことがあった。
まあ私の話はいいのだが、今回のケースはまさにそのアマ的パターンである。
里見女流王位は余裕を持って指していたと思うのだが、急に形勢がよくなったところに△5九竜と金取りに迫られ、意外に心の余裕がなくなっていたのかもしれない。
それにしたって1時間以上も時間を残していたのだ。じっくり詰み筋を読み、もし詰み上がりが見えても読み抜けがないか、何度も確認するのがプロの習性ではあるまいか。▲3二銀△同玉まで決めてから不詰めに気付くなんて、繰り返すが、これじゃ私たちと同じレベルである。里見女流王位、奨励会退会のショックが尾を引いてるんじゃないかと疑うような、信じ難い逆転劇となった。
渡部女流二段は、「勝ちに不思議の勝ちあり」の先勝となった。しかし私はよろこび半分である。これは渡部女流二段本人も同じ気持ちであろう。ただし現実の勝ちは大きく、以後の戦いがずいぶん楽になった。次はスカッと勝ってもらいたいものだ。
一方の里見女流王位は残念だったが、実力は女流棋界でズバ抜けているわけで、この1敗は痛くなかろう。トータルで3つ勝てばいいんでしょ、くらいに思っているだろう。
ともあれ挑戦者先勝で、シリーズはおもしろくなった。第2局以降の展開に注目である。
コメント
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