一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

鈴木九段の新橋解説会(第76期名人戦第2局・前編)

2018-05-02 00:13:18 | 将棋イベント
第76期名人戦・佐藤天彦名人VS羽生善治竜王の第2局は、4月19日・20日、石川県小松市で行われた。
本局も東京・新橋で大盤解説会があり、私は前回参加せず後悔したので、今回は見る聞くなしにお邪魔するつもりだった。…が、また問題が生じている。すなわち、2日目夕方現在形勢が一方的で、佐藤名人が勝勢なのだ。
夕食休憩に入ったが、再開後名人が1手指したら竜王投了、の雰囲気すらある。第1局は竜王敗勢?の局面から白熱した展開になったが、さすがに本局は佐藤名人の勝ちは揺るがない。
だがそこはそれ、ぐずぐず考えるより、とにかく行動である。私は家を出た。
京浜東北線に乗り新橋に向かっていると、信号故障とかで、電車が数分止まった。私は電車に滅多に乗らないのに、意外とトラブルに遭遇する。運がないのだと思う。
新橋駅のSL広場前に着くと、大盤会場前はものすごい人だかりである。私は2016年秋以来、1年半振りの参加だ。黄昏時の喧騒、広告大画面のCMが懐かしい。しかし簡易客席は席数が多くなり、しかもビッシリ埋まっていた。なんだこれは…?
私が新橋解説会に初めてお邪魔したのは2年前の名人戦だが、こんなに人がいただろうか。
これも藤井聡太効果で、にわか将棋ファンが増えたからかもしれない。
定刻より3分遅れて、関係者が登場した。昨年、解説会の代名詞でもある大内延介九段が長期の旅に出てしまったので、メイン解説は鈴木大介九段(大内九段門下)が務める。
サブ解説は藤森哲也五段。塚田泰明九段門下で、塚田九段は大内九段門下である。つまり藤森五段は大内九段の孫弟子である。
そして進行はおなじみ、藤森奈津子女流四段である。
鈴木九段が、第1局の総括から始める。前回の終盤戦は新橋でも盛り上がったようで、私がここに来なかったことを改めて後悔した。
右斜め前に、ミスター中飛車氏がいる。この時間に新橋に来る余裕があるとは、会社は「働き方改革」を実行しているのであろう。素晴らしい。
解説は第2局に入った。将棋は佐藤名人の先番で、角換わりとなった。予想のひとつに入っていた戦型である。
鈴木九段「△7三銀と、後手が積極的に動きました」
いわゆる早繰り銀だ。
藤森五段「最近流行ってますね」
藤森女流四段「後手で主導権を取りたいってことですね」
羽生竜王、▲6五歩の銀取りに構わず、△7六歩と取り込んでこちらも銀取り(第1図)。

鈴木九段「ここで▲6四歩はどうですか。△7七歩成▲6三歩成△7八と▲6四角(参考1図)。先手は金をボロッと取られますけど、この角が結構強烈ですよね」

飛車の措置によっては、後手玉に即詰みの変化もある。
だがそこは名人戦の1日目なので、佐藤名人も穏やかに▲7六同銀と取った。こうなれば羽生竜王も△7三銀と引く一手。そこで佐藤名人の▲7七角が注目の一手だった。
以下△7二飛▲6六角△7四銀(第2図)に、「▲7五歩は△8四角」(鈴木九段)がある。この辺り、まだ序盤だが、いろいろ狙いが隠されている。

第2図から▲1六歩。鈴木九段は「10年先の500円の手です」と妙な表現で説いた。いわゆる「居飛車側の税金」であろう。
藤森五段もにこやかに相槌ちを打つ。藤森五段は今年4月より奈津子女流四段とともに、蒲田で将棋教室を開いている。今日はアシスタント的位置づけだが、これからいつでも「解説」に回れる。
ここで羽生竜王が△7三角と据えたのが玄妙な一手。角換わりの将棋で、お互い自陣に角を打つのは珍しい。ただ解説陣は、竜王の自陣角には賛同しかねる雰囲気だった。
一応4六歩取りだが、佐藤名人はじっと▲4八金と上がる。
鈴木九段「自分の感覚だと、▲4八金で名人の模様がいいです」
△4六角▲3七桂△6四歩(第3図)。ここで▲4七金と角を取りに行くのは、△6五銀くらいで先手陣は持たないという。

本譜は穏やかに▲6四同歩と取り、△同角▲7七桂△6二飛▲6五歩。
鈴木九段「▲6五歩は大きな手です」
△8二角に▲3五歩! 以下△7五歩▲6七銀△3五歩。ここでじっと▲2六飛(第4図)と浮いた手に、鈴木九段が唸る。「▲3五歩△同歩と突き捨てて▲2六飛。不思議な手順ですね。この3手は佐藤流です」
たしかに、3五歩は後手から突きたいくらいだ。むかし中原誠十六世名人が▲2四歩△同歩と突き捨て▲2六飛と浮いたことはあったが、この手順は私も初めて見た。

△5二金▲3四歩△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2六飛。
ここで羽生竜王は△6四歩と打つ(第5図)。

これに鈴木九段が驚愕した。「この手が波乱を呼んだんじゃないですか。ここは△5四歩(参考2図)でどうですか。なぜこの手を指さなかったのか。ただ△6四歩は羽生竜王らしい手とも言えます。チョー強気です」
▲6四同歩△6五歩。ここで佐藤名人らしい手が出る。▲3三歩成(第6図)と成り捨てたのだ。


鈴木九段「▲3三歩成がおもしろい手です。貴族な手ですね」
藤森五段「エレガントな手ですね」
私ならふつうに▲4四角と切ってしまうところだが、事前に▲3三歩成とすることによって、微妙に後手陣が乱れるようだ。本譜は以下△3三同金▲4四角△同歩▲2二歩となり、名人の二枚換えが確定した。さたに△6六歩▲同銀△7六歩▲6五桂(第7図)。

鈴木九段「▲6五桂で形勢判断が分かれますけど。こうなってみると、先手は居玉がいいですね。左から攻められたら右へ、右から攻められたら左へ、破られた反対に逃げるんです」
△7三桂▲3四歩△3二金▲2一歩成△6五桂(第8図)

「ここで佐藤名人がすごい手を指しました。キレッキレの手です。キレッキレ」
鈴木九段がニコニコしながら言った。
(つづく)
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