初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4三銀▲5八金右△5四歩▲6八玉(第1図)
私はドア手前の席に座っている。右斜め前の男性は平手、その奥は角落ち、対面の人のは見えなかった。私のここまでの麹町サロンin DISでの成績は、○○●●○●○●●●○○の6勝6敗。もう少し勝っていてもよさそうだが、まあこんなものだろう。ただ大野教室での女流棋士との指導対局では望外の成績を収めており、とにかく船戸陽子女流二段には、この9年間の上達の成果を示すつもりだった。
私は手合いを聞かれず、すぐに開始の挨拶をした。お辞儀をする時、船戸女流二段に頭頂部を見せるハメになったが、これは仕方ない。現実を知ってもらうよりないのだ。
記念すべき初手は▲7六歩。△3四歩▲2六歩に△4四歩。これは振り飛車ではなく、雁木を匂わせている。
▲5八金右に△5四歩。飛車を振るならこのあたりだったので、居飛車が濃厚だ。
第1図以下の指し手。△8四歩▲7八銀△3二金▲7七銀△4一玉▲7八玉△6二銀▲2五歩△1四歩▲3六歩△5三銀▲1六歩△5二金▲4六歩△7四歩(第2図)
私の▲6八玉(二段玉)は上手を挑発したわけではないが、ここで船戸女流二段は△8四歩と、ようやく居飛車を明示した。
▲2五歩には△3三角を読み、それなら引き角にして、角交換を狙うつもりだった。しかし船戸女流二段に△1四歩とされてアテが外れた。さすがに船戸女流二段、この戦型を指し慣れている感じがする。
△5三銀で雁木の完成である。昨今は男性棋戦でも雁木が頻出しているが、船戸女流二段は古くから雁木を愛用していた。時代がようやく船戸女流二段に追いついたということだろう。
△5二金に▲4六歩。これを怠って△4五歩を許しては、上手陣がのびのびしてしまう。
第2図以下の指し手。▲3七銀△7二飛▲6六歩△7五歩▲同歩△同飛▲7六歩△7一飛▲2六銀△6四歩(第3図)
右前の男性戦は、船戸女流二段が飛車を振って相穴熊という、いまの時期に相応しい戦型になっていた。
私は▲3七銀。棒銀から端攻めに出る構想だが、相手が中央から殺到しようという時に、端を攻めていていいのだろうか。
船戸女流二段は「ウーン」と悩ましげな声を出して△7二飛。そして1歩を交換した。
▲7六歩△7一飛に私は▲2六銀だが、疑問手だと思う。ここは何はともあれ▲6七金と上部を厚くすべきだった。
第3図以下の指し手。▲3五歩(第4図)
私は指し手の合間に船戸女流二段をチラチラ見る。横顔しか窺えないが、9年前とあまり変わっていないように思われる。いまは冬だが、何となく春の装いにも思える。さすがLPSAのファッションリーダーである。かすかにいい匂いもして、瞬間、勝負の最中であることを忘れた。
第3図では初志貫徹の▲1五歩が本線だった。しかし△1五同歩▲同銀△同香▲同香△1三歩▲2六香△3三銀▲2四歩△同歩▲同香△同銀▲同飛△2三香(参考A図)は下手不利。そもそも1筋で駒損して、それを2筋で回復しても、下手は何もでかしていない。
よって▲2六香では▲1七香なのだろうが、攻めがダサくて嫌気がさす。
船戸女流二段がこちらを向いた。こういう時は私も指すようにしているので、迷いながら▲3五歩とした。船戸女流二段は(そうでしょうね)という顔をしたが、私は今までの読みが無駄になり、面白くなかった。
第4図以下の指し手。△4五歩▲4七金△4六歩▲同金△6五歩▲同歩△7三桂(第5図)
船戸女流二段は△4五歩。1歩を損するのは面白くないが、こう指さないと角が働かない。
対して私の▲4七金が大悪手。当然▲4五同歩と取るべきだった。1歩をいただきつつ4五に位ができる。下手はこれで不満がないのに、つい突っ張ってしまった。
船戸女流二段は「力強い」とつぶやいたが、これは褒めていない。私も経験があるのだが、相手が疑問手を指した時、あえて褒める時がある。これはそのパターンだと思った。
△4六歩▲同金。本来なら1歩をもらえて位ができるところを、これでは歩交換の上、下手の金がソッポに行ってしまった。
船戸女流二段は△6五歩▲同歩と勢いをつけて、△7三桂。船戸女流二段ペースになってしまった。
対して次の手が意味不明だった。
(つづく)
私はドア手前の席に座っている。右斜め前の男性は平手、その奥は角落ち、対面の人のは見えなかった。私のここまでの麹町サロンin DISでの成績は、○○●●○●○●●●○○の6勝6敗。もう少し勝っていてもよさそうだが、まあこんなものだろう。ただ大野教室での女流棋士との指導対局では望外の成績を収めており、とにかく船戸陽子女流二段には、この9年間の上達の成果を示すつもりだった。
私は手合いを聞かれず、すぐに開始の挨拶をした。お辞儀をする時、船戸女流二段に頭頂部を見せるハメになったが、これは仕方ない。現実を知ってもらうよりないのだ。
記念すべき初手は▲7六歩。△3四歩▲2六歩に△4四歩。これは振り飛車ではなく、雁木を匂わせている。
▲5八金右に△5四歩。飛車を振るならこのあたりだったので、居飛車が濃厚だ。
第1図以下の指し手。△8四歩▲7八銀△3二金▲7七銀△4一玉▲7八玉△6二銀▲2五歩△1四歩▲3六歩△5三銀▲1六歩△5二金▲4六歩△7四歩(第2図)
私の▲6八玉(二段玉)は上手を挑発したわけではないが、ここで船戸女流二段は△8四歩と、ようやく居飛車を明示した。
▲2五歩には△3三角を読み、それなら引き角にして、角交換を狙うつもりだった。しかし船戸女流二段に△1四歩とされてアテが外れた。さすがに船戸女流二段、この戦型を指し慣れている感じがする。
△5三銀で雁木の完成である。昨今は男性棋戦でも雁木が頻出しているが、船戸女流二段は古くから雁木を愛用していた。時代がようやく船戸女流二段に追いついたということだろう。
△5二金に▲4六歩。これを怠って△4五歩を許しては、上手陣がのびのびしてしまう。
第2図以下の指し手。▲3七銀△7二飛▲6六歩△7五歩▲同歩△同飛▲7六歩△7一飛▲2六銀△6四歩(第3図)
右前の男性戦は、船戸女流二段が飛車を振って相穴熊という、いまの時期に相応しい戦型になっていた。
私は▲3七銀。棒銀から端攻めに出る構想だが、相手が中央から殺到しようという時に、端を攻めていていいのだろうか。
船戸女流二段は「ウーン」と悩ましげな声を出して△7二飛。そして1歩を交換した。
▲7六歩△7一飛に私は▲2六銀だが、疑問手だと思う。ここは何はともあれ▲6七金と上部を厚くすべきだった。
第3図以下の指し手。▲3五歩(第4図)
私は指し手の合間に船戸女流二段をチラチラ見る。横顔しか窺えないが、9年前とあまり変わっていないように思われる。いまは冬だが、何となく春の装いにも思える。さすがLPSAのファッションリーダーである。かすかにいい匂いもして、瞬間、勝負の最中であることを忘れた。
第3図では初志貫徹の▲1五歩が本線だった。しかし△1五同歩▲同銀△同香▲同香△1三歩▲2六香△3三銀▲2四歩△同歩▲同香△同銀▲同飛△2三香(参考A図)は下手不利。そもそも1筋で駒損して、それを2筋で回復しても、下手は何もでかしていない。
よって▲2六香では▲1七香なのだろうが、攻めがダサくて嫌気がさす。
船戸女流二段がこちらを向いた。こういう時は私も指すようにしているので、迷いながら▲3五歩とした。船戸女流二段は(そうでしょうね)という顔をしたが、私は今までの読みが無駄になり、面白くなかった。
第4図以下の指し手。△4五歩▲4七金△4六歩▲同金△6五歩▲同歩△7三桂(第5図)
船戸女流二段は△4五歩。1歩を損するのは面白くないが、こう指さないと角が働かない。
対して私の▲4七金が大悪手。当然▲4五同歩と取るべきだった。1歩をいただきつつ4五に位ができる。下手はこれで不満がないのに、つい突っ張ってしまった。
船戸女流二段は「力強い」とつぶやいたが、これは褒めていない。私も経験があるのだが、相手が疑問手を指した時、あえて褒める時がある。これはそのパターンだと思った。
△4六歩▲同金。本来なら1歩をもらえて位ができるところを、これでは歩交換の上、下手の金がソッポに行ってしまった。
船戸女流二段は△6五歩▲同歩と勢いをつけて、△7三桂。船戸女流二段ペースになってしまった。
対して次の手が意味不明だった。
(つづく)