第５図以下の指し手。▲６七玉△６一飛▲３四歩△６五桂▲６六歩△７七桂成▲同角（第６図）
サロンの女性がオレンジジュース（もちろん有料）を２杯持って入ってきた。ひとりは右ナナメ前の対局者、ひとりは船戸陽子女流二段に置かれた。これは男性氏のサービスかもしれない。
第５図は上手に△６五桂▲６六銀△７六飛▲６七玉△６六飛▲同角△同角▲同玉△３九角（参考Ｂ図）の狙いがある。
手順中△７六飛では△７七歩▲６七玉△６六角▲同玉△５七銀の狙いもあり、要するに上手はよりどりみどりだ。
私はこれらの先受けと、７六の地点をケアする意味で、▲６七玉と上がった。
だがいかにもヘンテコな手で、急場しのぎにもならない。今度は船戸女流二段も、呆れて声も出ないふうだった。
△６一飛に▲３四歩くらいしかないのが情けない。せめて▲４六金が５八あたりにいればまだ何とかなるのだが、無理なものはしょうがない。まったく、▲４七金は罪の重い手だった。
△６五桂に▲６六歩しかなく、△７七桂成で駒損しては、ジリ貧確定である。
▲７七同角に、あの手を指されたら投了を考えた。
第６図以下の指し手。△３四銀▲３三歩△同角▲３五歩△４三銀▲４五桂△２二角▲５三桂成△同金▲５七銀△５二金▲３七銀（第７図）
第６図では△６五歩の合わせがある。▲６五同歩は△６六歩で、Ａ▲同角は△同角▲同玉△３九角で上手勝ち。よってＢ▲５八玉と耐えるしかないが、△６五飛と走って上手勝勢である。
そこを船戸女流二段は△３四銀と歩を払った。△６五歩ではあまりにも早く決着がついてしまうので、緩めたのであろう。
しかしそれでもこちらに手がない。▲３三歩～▲３五歩は気が利かないが、これくらいしか手がない。ことに▲３五歩では▲３五銀と捌きたいが、相手に駒を渡すだけである。
銀桂交換後の▲５七銀はやむを得ないが、船戸女流二段の△５二金は渋い。こちらに有効な手がないと見越しているのか、緩めてくれているのか、いずれにしても下手もうダメである。▲３七銀と引く時は情けなかった。
第７図以下の指し手。△４五歩▲４七金△３三角▲３六銀△４六銀▲同銀△同歩▲５七金△５三桂（途中図）
▲７八玉△７五歩▲同歩△７六歩▲８八角△６五歩▲７四歩△６六歩▲６八歩△７一飛▲７五銀（第８図）
△４五歩。▲同金と取りかけたが、△６五歩から十字飛車がある。
▲３六銀には突然△４六銀とかぶせてきた。▲同銀△同歩には▲４七金と守備に近づける。ここで△３三角が意味不明だが、やはり上手の勝勢は動かない。
▲５七金に△５三桂（途中図）が好手。数手後の桂跳ねが、分かっていても防げない。以下は歩で圧迫されて、形にもならなくなってしまった。
▲７五銀（第８図）の次、華麗な決め手があった。
第８図以下の指し手。△７七歩成（投了図）
まで、84手で船戸女流二段の勝ち。
△７七歩成が軽い決め手。▲同桂は△７六歩、▲同角と▲同玉は△６五桂で収拾がつかない。私はここで投了した。
「▲３五歩が…」
と私。
「▲３五銀と行けないですもんね」
と船戸女流二段。第６図から４手後の▲３五歩を言ったものだろうが、私の悔いは仕掛けの▲３五歩だった。あそこは読み通り▲１五歩と行くべきだったか。
感想戦はほとんどなし。序盤の造りが悪すぎて、感想戦のしようがない。久しぶりの指導対局だったのに、ひどい将棋を指してしまったものだ。
あまりにも早く終わったので、「いまのは失敗したということで」と船戸女流二段が王を持ったが、つまり２局目を始めかけたが、私は固辞した。８年４ヶ月前と同じである。敗者は２局目を指すべきではない。
「いえ、私はもうこれで。また勉強して出直して参ります」
私は立ち上がって、そう言った。
「……あ、またお越しください」
私は終始緊張したが、無事に対局が終わって、ホッとした。
サロンを出ると、19時06分。対局開始から40分しか経っていなかった。40分で4,500円じゃ、錦糸町ならぬ巣鴨のピンサロである。私はひとり、ため息をついた。
