一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「盤上の向日葵」を観て

2020-02-14 00:30:35 | 将棋雑記
昨年9月にNHK-BSプレミアムで4回に分けて放送された「盤上の向日葵」を、先週観終えた。
これは山形県在住の美人作家・柚月裕子さんの原作で、第30回将棋ペンクラブ大賞・文芸部門優秀賞を受賞している。
私は立場上原作を読んでいたのだが、既読の作品が映像化される時、読者はどんな感慨を抱くのだろう。初読時に抱いたイメージが損なわれずに再現されていることを願うのではなかろうか。
その点、NHKのそれは及第点だった。冒頭、埼玉県の山中から白骨遺体が発見されるが、ここがもう、おのが抱いたイメージとほぼ一緒だった。
以下もこんな感じで心地よい緊張感を持続したまま、物語は完結した。

では、おもな登場人物を評しておく。
主人公・上条桂介は千葉雄大。千葉雄大自身にちょっとなよなよしたイメージがあるが、桂介の持つ孤高の雰囲気がよく出ていた。
真剣師・東明重慶は竹中直人。将棋を指す手つきは中指をツイ、と突きだすもので指し手になっちゃいないが、その開き直りがかえっていい味を出していた。
桂介の実質的育ての親・唐沢光一朗は柄本明。柄本明は最近ますます円熟味が増し、演技をしていなくても演技になってしまう。今回も安定の演技だった。
その妻・美子は檀ふみ。檀ふみは女優生活ウン十年だがいつまでも若々しいので、本作でも老け役をやっているのに、ちっとも高齢に見えなかった。微笑ましい誤算といえようか。
桂介の父親・渋川清彦は見事なグータラぶり。こういう人いるいる感が素晴らしい。
元奨励会三段でこの事件を担当する、婦警の佐野直子は、蓮沸美沙子。辛い過去を内包して現在を生きる難しい役柄を好演していた。
県警の石破刑事はHOUND DOGの大友康平。無頼の刑事役をやらせたら大友康平の右に出る者がなく、今回も期待に違わぬ存在感だった。同じ役柄で別の事件を観たいくらいだ。
ほかにも名脇役多数で、これなら番組の成功は約束されたようなもの。脚本は黒岩勉。時々見る名前で、最近の代表作は「グランメゾン東京」。私見では、話の省略がうまいと思う。今回もいかんなく発揮され、テンポのよい展開に、視聴者は安心して観られた。
以上、いいところばかりなのだが、細かいところでケチを付けるところもあって、全体的に画がくすんでいる。これは平成6年(1994年)が舞台になっていて、さらに桂介の幼年時代も回想されるから、要するにすべてが過去の物語になっている。よって画質に古さを持たせたのだろうが、世間が4K8Kと騒ぎ、NHKもその旗頭にいる中、今回の映像はどうだったのだろう。普通にクリアに見せればよかったのではないか。
劇中では向日葵の箇所だけクッキリ色が出ておりそれを際立たせたかったのだろうが、それはスタッフの考えすぎである。
またタイトル戦を毎局ワイドショーが報じていたが、平成6年当時、あれは絶対にない。ただまあ、演出の一部としてアリといえばアリである。
さらに、佐野直子が奨励会三段を退会したあと、なぜ女流棋士に転向せず、警察官を志望したのかの理由づけが欲しかった。
タイトル戦の最終局では広岡知美女流三段(伊藤かりん)が登場するので、物語の中でも女流棋士という職業は存在していた。疑問をぶつけるのに最適な大友康平もいたわけで、ちょっと残念だったところである。
話のラスト、原作では東京駅の新幹線ホームで終わる。平成6年と平成31年では新幹線車両やホームの形も違い、そこはどうするのかと見ていると、設定を天童駅のホームにした。これはうまい。
しかもラストは「希望を持てる形」にしていた。この放送は日曜日である。ラストが暗くなっては、翌日から働く意欲も失せてしまうというものだ。やはりドラマは、後味がよくなければならない。

映像化に際しては、原作と話が違うと立腹する作家もいるが、この出来なら柚月裕子さんも満足されたのではなかろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする