一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第3回 新春CI寄席(5)

2020-02-04 01:25:00 | 落語
永田氏は、仏家シャベルの「鰍沢」で、男の発砲の際、音入れができなかったことを悔やんだ。
「師匠の噺にタイミングを合わせられなくて……失敗しました」
でもハタから見れば鉄砲音がなくても問題はなく、私たちは普通に落語を拝聴していた。
このように、当事者は悔やんでも第三者は全く気にしないケースは、日常生活でもよくある。ただそのくらい、永田氏は気合を入れて臨んでいたということだ。
湯川博士氏と永田氏が居場所を替わった。博士氏は中央でシャベりたいらしい。まあそうであろう。
私が永田氏にライブの出来を褒めると、逆にたいそう感謝された。結果お互い恐縮して、握手ばかりを繰り返す妙な光景である。
かように新年会は盛り上がっているが、博士氏等、しゃべる人は限られているので、永田氏の仕切りで、順番に自己紹介となった。まずは美馬和夫氏から。
「将棋ライターをやっています……」
しかし言ったそばから博士氏らが補足をしていく。
「美馬君は昔は、書いた文章をすぐボクに見せてきてねえ……」
美馬氏は全国区の将棋アマ強豪で、湯川夫妻と私はその実力を知っているが、ほかはピンと来てないのがもどかしい。「昔は文章の終わりに(笑い)とか書いてたんだが、今はだいぶ文章が上達した」
「私はブログに(笑)を使ったことは一度もありません」
と、これは私。だが美馬氏に対抗してどうしようというのだ。こう言われたら美馬氏だって不愉快だろう。
ただこのセリフは本当である。(笑)と書かなくても笑っているな、と思わせるところがブロガーの矜持である。
美馬氏は現在その文章力を買われ、「将棋世界」と「将棋ペン倶楽部」で健筆を振るっている。
ここから時計回りならよかったのだが、Kan氏に行ってしまった。Kan氏は元社会科の先生だ。Kan氏は美馬氏と同学年だったことに驚き、急に親しみが沸いたふうだった。
続くHiw氏とSuwさんは誰もが知る大手旅行会社の元上司と部下である。湯川夫妻の寄席には、観客として欠かせぬ存在である。
恵子さんが言う。
「ある冬の食のイベントの時ね、お蕎麦を提供する係をやったんだけど、400人分作ることになってね、とても手が足りない。そこでHiwさんに頼んだら快く引き受けてくれてね、まあHiwさんが寒い中、黙々と蕎麦を作ってくれて――」
この時の蕎麦を食べたかったと思う。
しかしさっきのKan氏もそうだが、ひとりしゃべるごとに補足が入るので、自己紹介が遅々として進まない。いっぽう私は妙なプレッシャーがかかり、何を言おうか考えてしまう。求職中のエピソードはいくらでもあるのだが、それがどのくらいウケるだろうか。
次は岡松三三さん。
「オオウ! ミミ! ミミ!! ミミーーーーーッ!!!」
と、石畑梅々さんが絶叫する。梅々さん、激しく酒癖が悪い。ようやく静かになったところで、三三さんの言葉を待つ。
「私は恵比寿に住んでいて、空き家が3つあります」
地方にいくと空き家問題があるが、それは東京でも同じことがいえる。私も他人事ではなく、頭が痛い。
続く恵子さんは落語を覚える苦労を話す。博士氏が代弁する。
「オレはあまり落語の稽古はしないんだ。寄席の2、3日前になったらチャッチャッとやるくらいだけど、恵子はよくするんだよ。道を歩いてても、急にしゃべりだす。『まんじゅうなんか嫌いだ!』って叫ぶから、ヨソ様が驚いてこちらを見るわけよ。違う違う、いまのはコイツがしゃべったんだ、って――」
何だか博士氏がしゃべると、みんな落語に聞こえてしまう。
恵子さんは女流アマ名人戦5回優勝の強豪だが、昔は女流棋士の頭数が少なかったから、プロへのスカウトもあったらしい。
「だけどオレが断ったんだ」
と博士氏。以前女流アマ名人戦の決勝で、山田久美という少女に勝って優勝した時、取材陣は恵子さんを撮らず、相手ばかりを撮っていたそうだ。
「優勝したのは私なのに、肩越しにカメラがあるんだから――」
これではプロになっても先が見えていると思い、博士氏の意見を尊重し、プロになるのを見合わせたという。
「その判断は、いまでは間違ってなかったと思う」
と博士氏。博士氏、相当酒は入っているのだが、時々まともなことを言う。
寺川俊篤住職は、今回CI寄席を聞いて、運営その他で学ぶところがいっぱいあったという。ただそれは反面教師の部分が多く、客の目からは何気ないことでも、運営の視点からは修正点があったようだ。
湯川邸へも何度も来ているという俊篤氏、今年の大いちょう寄席も期待したい。
博士氏は飛ばして、Tanさん。彼女と博士氏、参遊亭遊鈴さんが高校の同級生ということは、昨年のこのブログでも述べた。
「博士さんは高校生のころかわいくて人気があってね、あぁ私もケイコなので、恵子さんとは同じ名前です。私も博士さんのことを快く思っていたけど、大したもんだと思ったのは、結婚相手を間違えなかったことよ」
一同「??」
「だって恵子さんのような、素晴らしい人を選んだんだもの――」
何だかみんな、いいネタを披露している。
遊鈴さんは小話を披露する。
「じゃあ、節分の小話をやります。
ある家に間男がしのびこんだ。男は女とよろしくやっていたんですが、そこに旦那が帰って来た。二人は慌てて、ああアンタ、ベランダへ逃げて! 家では豆まきが始まった。
『福は内、オレは外』」
みんなゲラゲラ笑う。マジで落語の延長戦である。
小川敦子さんは知る人ぞ知る画家である。
「小川さんの絵を観た時ね、湯川さんが、綺麗な絵だね、って言ったのよ。私も同じ意見だった」
と恵子さん。そこで「将棋ペン倶楽部」の表紙を描いてもらうことになったのだ。
いよいよ永田氏の番だ。永田氏は、また効果音の失敗を懺悔した。
聞けば事前に打ち合わせはやったらしいのだが、シャベルはあんな感じでほとんど聞いてないので、本番では永田氏が、独自のタイミングで音のボタンを押していたらしい。それでシャベルのペースに合わず、失敗した……。
「オレは打ち合わせは、あまり聞いてなかったから。オレは落語で失敗したって、素知らぬ顔で続けちゃうよ」
と博士氏。そういえば今日の噺でも「話は戻りますが――」と、さりげなくリカバリーする場面があった。だが一発勝負の効果音は、それが許されなかったのだ。
そしてついに、私の番が来た。
(つづく)
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