一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

あんでるせん・ファーストコンタクト(2)

2020-02-20 00:10:00 | 旅行記・九州編
私は奥さんと思しきママさんにカウンター席を勧められ、座った。
すぐに、男性の2人組が入店した。彼らはテーブル席に座った。
店内を見回すと、出入り口の近くに大きなツリーがあり、天井まで届かんとしている。その下は大テーブルで、7~8人くらい座れそうだ。あとは4人掛けのテーブル席がいくつかあり、窓際のそれはゲーセンのテーブルだった。あれは100円を入れれば遊べるのだろうか。
壁には芸能人を思しきポラロイド写真が何枚か貼られている。なるほど芸能人からも知られた店なのか。
奥の厨房にはママさんと、そしてマスターがいるはずだ。
ママさんが注文を取りに来た。2人組はカレーライスとブレンドコーヒーを頼んだが、私はコーヒーのみとした。504円で、東京料金だ。私としてはこれだけでも十分な出費である。それに、もうお腹自体が一杯だった。
運ばれてきたコーヒーは普通の味だった。男性2人も、黙々とカレーを食べている。なんだかこれじゃあ、普通の喫茶店と変わらない。ここでマジックは行われるのだろうが、とてもそんな感じがしないのだ。
彼らも、この店を超能力マジックと認識しているのだろうか。たんに喫茶店として利用しているんじゃないか? いや違う、私の整理券は3だった。1と2が、この2人組なのだ。
私はコーヒーを飲み終えたが、マジックはまだ準備中である。例の社長は、このお茶の時間が随分長いと言っていた。私は、長い分には一向に構わない。
カウンターの端には、電話番号が記されてあった。そうか、まずは電話予約をしてこの店に来るのが手順だったのだ。知らぬこととはいえ、私は随分危ない橋を渡っていたようだ。
私はボンヤリと今年の旅行を思い出す。9月の沖縄も楽しかったが、槇原敬之が覚醒剤所持で捕まったニュースにはビックリしたな……。
追加の客は入って来ない。7時の回は、毎日あるのだろうか。まさか私たちだけのために、臨時で開いてくれたのだろうか。
そういえば今夜は9時からテレビ朝日の土曜ワイド劇場で、「混浴露天風呂連続殺人」がある。推理の楽しみはどうでもいいが、温泉ギャルのオッパイは観賞したい。
どうなんだろう。マスターのマジックは高が知れているだろうし、もう会計を済ませてどこかの宿に直行し、テレビを観ようか。今からなら温泉シーンにギリギリ間に合うんじゃないか?
いやいや、さすがにそれはない。わざわざここまで来たんだから、マジックを見るのが筋だ。
ようやく会計になり、私は504円をピッタリ払った。そしていよいよ、マジックとなった。男性2人組は、私の左に座った。やはり私が3番目のようだった。しかし客はこれだけである。この3人から、ついに人は増えなかった。
カウンターの前に出てきたのは40代と思しき男性で、丹波哲郎の息子の丹波義隆に似ていた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。マジックで束の間の時間を楽しんでください」
マスターは客が少ないことも意に介さず、マジックを開始した。まず、客からタバコを所望する。2人組がそれを差し出すと、マスターはそれを掌に載せる。そのタバコがクククとせり上がったので驚いた!
それをテーブルに置くと、ピン、とすっ飛んだ。私たちは口あんぐりである。
続けてマスターは、ボルトを取り出した。それにはナットが嵌まっている。マスターはそれをアクリル状の円筒に入れてカウンターに置くと、両手に拳を作り、気を入れた。するとボルトがカタカタ動き、ナットがシュルシュルと外れてしまった。
「うげー!!」
私たちは驚く。
「イメージですよ。ボルトとナットが外れるところをイメージする。結果をイメージするのです。3ヶ月練習すればできるようになります」
マスターが再び気を入れると、今度はボルトにナットが嵌まった。
「……!!」
マスターは千円札を所望すると、それを小さく折り畳み、中空に浮かせてしまった。お札はマスターが作った指の輪をくぐり、自由自在に動く。私たち3人はまたも奇声を発し、絶句する。マスターが「ハウス!」というと、お札がマスターの肩の上に乗った。
はああ……!! いままでこんなマジックは見たことがない。私はこれだけでもう、心を奪われた。
マスターがESPカードを取り出した。「丸、四角、星、十字、波形……世の中のあらゆるものは、これらの組み合わせでできていますね」
マスターはその5種類をカウンターに伏せて置く。その配置を私たちが当てる、という趣向だった。左の2人が3種類をテーブルに乗せる。私が残り2枚を乗せる。マスターが順番に開いていくと、それらはすべて同じ記号だった。
何が驚くって、私たちより先にマスターがカードを置いたということだ。これでは細工のしようがない。
「私は結果から見てますからね」
続いてトランプを取り出した。「トランプは13枚の4種類ですね。これで1年を表しているといいます。13週でひとつの季節。ドラマでも1クールは13週ですね。13×7日で91日、それが四季で364日。それにジョーカーを足して365日。うるう年は……エクストラジョーカーを足して、366日になります」
なんだかこじつけのようだが、私たちはウンウンと頷いてしまう。そしてここでもマスターは鮮やかなマジックを繰り出していった。
いくつか終えたあと、マスターが52枚のカードを拡げ、私に好きなカードをイメージさせた。
「♠の7です」
「ここから取ってください」
私が任意の1枚を取ると、それは♠の7だった!
「驚くのはここからですよ」
マスターが残りのカードを開くと、それは全部白だった!!
「エエーーーーッ!!」
「あなたがこの場所の♠の7を取ることが分かっていましたからね。ほかの数字はもう必要ないんです」
「……!!」
私は、とんでもない場に来たのではないか? 混浴露天風呂を回避して本当によかったと、私は胸をなで下ろした。
(つづく)
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