一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

あんでるせん・ファーストコンタクト(3)

2020-02-21 00:07:40 | 旅行記・九州編
マスターはマジックも凄いが、話術が巧みだ。普通の単語を使っているのに話し方と間が絶妙で、私たちは驚きの中にも笑いを交えるのだ。
ただ、マスターの本質はマジメ人間の気がした。ふだんも禁欲的な生活を送っているのではなかろうか。
「ヒトは過去には戻れませんね。30代の人が40代になった。あの頃は若かったナーって思う。40代の人が50代になる。40代は若かったと思います。50代の人が60代になる。やっぱり50代は若かったと思います。いつまで経っても、あの頃は若かったと思う。この繰り返しですね。でも過去をどうこう考えても、人は過去には戻れませんね。
……過去に戻れる方法が、ひとつだけありますよ。
いま30代の人が、10年先の40代のことを思い浮かべる。そこから10年過去に戻ってきたと考えれば、10年間大儲けですね。そう思ったら、これからの10年間で何をすべきか。うかうかしてられませんね」
なるほど、私はいま30代だが、10年先もいまの会社に勤めているとは思えない。まさかと思うがオヤジの仕事を継いでいるのだろうか。
でも家の仕事に就いたら性質上、もう結婚は無理だ。となればいまから結婚相手を探さねばならないが、候補がまるっきりいない。
角館の美女にはもう会えそうもないし、寝屋川市の真知子さんとも数年間連絡を取っていない。足柄市の夏子さんも同様だ。夏子さんは癒し系で私が押せば何とかなったかもしれないが、肝心なところで私は怖気づいた。要するに、連絡を取らなくなった。
しかしこれから毎度こんな感じだと、いよいよ私は生涯独身になってしまう……。
次はサイコロである。平たいグラスと、大きめのサイコロを出す。
マスターは私にサイコロを渡し、「何を出します?」
「3」
「じゃあ振ってください」
私が振ると、3は真横にあった。「3が出ましたね。
上から見る必要はありません。横から見れば3です」
「ハハハ」
「世の中、なんでもいい方にいい方に考えないといけません。
倦怠期の夫婦でも、お互いイヤになる時がありますね。こういう時旦那さんは、奥さんを隣の住人だと思えばいいのです。
その奥さんがわざわざ夕食まで用意してくれて、お風呂も沸かしてくれる。それでもう帰るのかと思ったら、床まで敷いて、横で寝てくれる。
辛くなったら子供をごらん。仲がいい時にできた子よ、ってね」
マスター、笑いの中にためになる話をぶちこんでくる。「風邪になっても、治りますように、はいけません。それは願望が入っていますから。もう治った、と完了形にしなければいけません。
自動車でも、フロントガラスに御守りを大量にぶら下げている人がいますね。あれは事故をイメージして、事故を起こしますよ、と言っているようなものです」
なるほど、そういうものかと思う。「さ、ではあなたが好きな数字を出しましょう。もちろんあなたが振ります」
「じゃあ5で」
「何回連続で?」
「2回」
「それじゃ少ないですね。せっかくだからもっと多く」
「じゃあ5回で」
それで振り始めると、5ばかりが出た。振っている時は、もちろん私も念じている。そして5回連続5が出たときは、大してギャラリーもいないのに、なぜかホッとした気持ちになった。でもマスターが念を送っていたのは言うまでもない。次に振った時は、違う目が出た。
次にマスターは、マッチ箱と爪楊枝を取り出した。「この楊枝で、このマッチ箱を刺してください」
私は言われるままにやる。楊枝がブスッと刺さり、そのまま沈めると、楊枝は貫通した。そのまま下から楊枝を抜く。
「驚くのはこの次です」
マスターがマッチ箱を開けると、そこにはマッチ箱大の金属が入っていた。ということは、私の楊枝が金属を貫通させてしまったということか!?
「あなたが、マッチ箱の中身は空だとイメージしていたので、これができたのです。イメージすること、これが大事です」
私は口をあんぐりするばかりである。
金属が入ったマッチ箱に私は再び楊枝を通すことを試みたが、もちろん通らなかった。
「今度は写真を撮りましょう」
マスターがポラロイドカメラを出した。マスターがトランプを切り、私に数字のほうを見せる。私は♡の3を選んだ。そのままマスターが私を、カメラで撮った。
1分で写真が浮かんできたが、私の頭上に、♡の3と、マスターの指の一部が映っていた。
「あなたが見た映像をそのまま映し込みましたよ」
そしてその上方には、かわいい女性が映っていた。「オバケならぬオマケですね。一緒に映りこんじゃった」
「ええー」
「かわいいコだね。たぶん高校の同級生でしょう。クラスにいなかった?」
私は高3の時だけ共学クラスだったが、見覚えはない。「廊下や街ですれ違っても、無意識に記憶に残すことはありますよ」
写真にはマスターがサインをしてくれた。名前は何とお読みするのだろう。
ところで、私はさっきからかなりマジックに絡んでいる。私はここに来るまで、マスターのマジックを粛々と観賞するだけだと思っていた。しかしそうではないのだ。もし観客がもっと多かったら、私はこんなに絡めないに違いない。これは、7時の回にずれたことが怪我の功名だったのではないか?
「ヒトはシチュエーションによって、考えることが違いますね。ある旅館で、宿泊の男性がポンポンと手を叩く。池の鯉は餌が貰えるかと思って近づいてくる。電線のカラスはビックリして逃げてゆく。仲居さんは用があるかと思って飛んでくる」
マスターが伝票を破った。
「では、ここにあなたの名前、ご両親の名前、生年月日を書いてください」
私は渡された伝票に、それらを書く。もちろんマスターに見えないように、である。それを小さく畳んで、ワイングラスに入れた。
「お父さんは、これなんと読むのかな。お母さんは、ミヨちゃん」
2人とも当てられ、私は驚いた。そんなことまで分かるのか!
マスターは電卓を取り出す。数字板に紙片で目隠しをすると、マスターは最も左の彼に「5ケタの好きな数字を押してください」と言った。そして左の彼にも、私にも同じことを言った。私は「12345」と打つ。
2周目に入り、「4ケタの好きな数字を足して」「3ケタの数字を引いて」と続く。私には、2ケタを指示された。私は「12」と打つ。いったい、何が起こるのだろう。
ここでマスターの指示があり、私が紙片を取ると、5ケタの数字が点灯しており、それが私の生年月日だった!!
「ええええーーーーーッ!!」
左の2人組は、なぜ私が驚いているのか分からない。
もちろん私の名前も当てられた。い、いまのもマジックだというのか!?
だが私がどの数字を押すか、マスターに分かるわけがない。そもそも生年月日自体を知らないのだ。何が、どうなっているのだ!?
私は混乱するばかりだった。
(つづく)
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