日付変わってきょう令和4年3月2日は、里見香奈女流四冠の30歳のお誕生日。おめでとうございます。
その里見女流四冠が生まれた平成4年3月2日、つまりいまからちょうど30年前、将棋史に残る名勝負が繰り広げられた。第50期A級順位戦最終局、谷川浩司竜王VS大山康晴十五世名人戦である。
ここまで谷川竜王は6勝2敗、大山十五世名人は5勝3敗だった。しかし両者の対戦成績はここまで谷川14勝(不戦勝1を含む)、大山5勝。しかも順位戦に限ると谷川竜王の5戦全勝だった。
当時谷川竜王は棋聖、王位、王将を併せ持つ四冠王。かたや大山十五世名人は前年秋にガンの手術を行い、体調は万全ではなかった。将棋関係者は口には出さずとも、谷川竜王が手堅く勝つと見ていた。
将棋は先番大山十五世名人の向かい飛車に、谷川竜王の居飛車穴熊。中盤、谷川竜王の脳裏に5手一組の妙手順が浮かび、それを決行。だが大山十五世名人はさらに3手先を読んでおり、それで先手が優勢になった。
優勢になってからの大山十五世名人は手堅かった。けっして勝ちを急がず、穴熊相手にじっくり指す。そして▲5三歩成△4一角と引かせたところで、大山十五世名人に名手が出た。
▲6七金!(図)である。
図で谷川竜王の狙いは△7七角成のみ。それを防いでしまえば自然に勝ちが転がり込んでくる、という十五世名人の読みだった。
果たして本譜も谷川竜王が暴れてきたが、自然に応接して大山十五世名人の勝ち。68歳の老棋士が、29歳の四冠王に完勝したのだ。
しかも対抗の高橋道雄九段も敗れたことにより、なんと四者プレーオフとなった。68歳でのプレーオフ進出も前代未聞。将棋界は大きく沸いたのだった(詳しくは過去記事「大山の名局・8」を参照されたい)。
ただ、どうであろう。当時、「60歳A級」なら花村元司九段と有吉道夫九段も達成していた。この記録なら、中原誠名人、谷川竜王も達成するのではと見られていた。少なくとも、私はそう思っていた。
ところが中原十六世名人も谷川九段も、60歳を前にA級を降級してしまった。現代の羽生善治九段もそうである。ここに来て、大山十五世名人の偉業が再評価されたのである。
谷川竜王との将棋のあと、大山十五世名人は高橋九段とのプレーオフに臨み必勝の局面を作ったが、3手一組の好手を指し切れず、敗れた。よって谷川竜王戦が、大山十五世名人のA級での最後の勝局となったのだった。
最期まで名局を紡ぎ、名手を披露した大山十五世名人。藤井聡太竜王は68歳になっても、後世の将棋ファンが唸る名局を創ることができるだろうか。あの世で楽しみに待ちたい。
その里見女流四冠が生まれた平成4年3月2日、つまりいまからちょうど30年前、将棋史に残る名勝負が繰り広げられた。第50期A級順位戦最終局、谷川浩司竜王VS大山康晴十五世名人戦である。
ここまで谷川竜王は6勝2敗、大山十五世名人は5勝3敗だった。しかし両者の対戦成績はここまで谷川14勝(不戦勝1を含む)、大山5勝。しかも順位戦に限ると谷川竜王の5戦全勝だった。
当時谷川竜王は棋聖、王位、王将を併せ持つ四冠王。かたや大山十五世名人は前年秋にガンの手術を行い、体調は万全ではなかった。将棋関係者は口には出さずとも、谷川竜王が手堅く勝つと見ていた。
将棋は先番大山十五世名人の向かい飛車に、谷川竜王の居飛車穴熊。中盤、谷川竜王の脳裏に5手一組の妙手順が浮かび、それを決行。だが大山十五世名人はさらに3手先を読んでおり、それで先手が優勢になった。
優勢になってからの大山十五世名人は手堅かった。けっして勝ちを急がず、穴熊相手にじっくり指す。そして▲5三歩成△4一角と引かせたところで、大山十五世名人に名手が出た。
▲6七金!(図)である。
図で谷川竜王の狙いは△7七角成のみ。それを防いでしまえば自然に勝ちが転がり込んでくる、という十五世名人の読みだった。
果たして本譜も谷川竜王が暴れてきたが、自然に応接して大山十五世名人の勝ち。68歳の老棋士が、29歳の四冠王に完勝したのだ。
しかも対抗の高橋道雄九段も敗れたことにより、なんと四者プレーオフとなった。68歳でのプレーオフ進出も前代未聞。将棋界は大きく沸いたのだった(詳しくは過去記事「大山の名局・8」を参照されたい)。
ただ、どうであろう。当時、「60歳A級」なら花村元司九段と有吉道夫九段も達成していた。この記録なら、中原誠名人、谷川竜王も達成するのではと見られていた。少なくとも、私はそう思っていた。
ところが中原十六世名人も谷川九段も、60歳を前にA級を降級してしまった。現代の羽生善治九段もそうである。ここに来て、大山十五世名人の偉業が再評価されたのである。
谷川竜王との将棋のあと、大山十五世名人は高橋九段とのプレーオフに臨み必勝の局面を作ったが、3手一組の好手を指し切れず、敗れた。よって谷川竜王戦が、大山十五世名人のA級での最後の勝局となったのだった。
最期まで名局を紡ぎ、名手を披露した大山十五世名人。藤井聡太竜王は68歳になっても、後世の将棋ファンが唸る名局を創ることができるだろうか。あの世で楽しみに待ちたい。