22日は、社団戦の最終日だった。我が将棋ペンクラブは7部赤で、現在8勝4敗の16チーム中6位。昇級は3位までなので、最終戦に3戦全勝しても届かない可能性が高いが、最善を尽くす。
この日は急遽ビデオに録りたい番組ができたのだが、HDDの残量がない。それで、昨年12月24日放送の「ぶらり途中下車2時間スペシャル」を削除したのだが、これが、私の母方の実家(千葉県)の最寄り駅が紹介されている回だったのを思い出した。
しかしもう遅い。私は何をやらかしてしまったのか!
私は大事な勝負の前に、心が折れてしまったのだった。
自宅は11時21分に出たが、駅前から路線バスに乗り、産業貿易センター台東館には、11時52分に着いた。集合は12時だからこれでいいのである。たぶん拙宅はドアトゥードアで、かなり近いほうだと思う。
メンバーを探していると、大野教室のShin氏が来た。Shin氏に会うのも久しぶりである。大野教室1は4部で好成績を収めており、もう昇級が確定しているらしい。第1日目は4戦で28勝0敗の完全勝利で、層の厚さを見せつけた。
Shin氏は大野教室に年間パスポートで通っているそうで、氏は一流企業に勤めていながら、その時間がある。日頃汲々としている私とはエライ状況の違いで、私は落ち込まざるを得なかった。
さて最終戦だから我がメンバーは大集合のはずだが、前回の助っ人、元小学生準名人のNak氏と、アマ棋戦元県代表Sas氏は欠席。藤原親子は1回戦休み。作家のA氏は欠席のよう。社団戦手伝いのKan氏はとても対局ができない状態。よって1回戦は、9人しか集まらなかった。
とりあえず7名をピックアップし、早速対局開始と行きたいが、対局時計が一部届いてないところがあり、開始が遅れている。
やがて対局時計が揃い、開始の前に関係者のお言葉となった。その2人目に浦野真彦八段が登場した。
「私は毎年ここに来るのが楽しみで、1泊2日の旅行の感じで、個人的に参加しています。
私事ですが、棋士生活40年になりました。」
会場から拍手が起きる。「最近では、私が監修をしたんですが、棋士が作った詰将棋の本を出しました。512題から200題を、恐れながら私が厳選しました。斎藤慎太郎も落としました。」
場内、微苦笑である。「下で売っていますから、よろしければどうぞ。私のサインも入っています。
さて、時計の到着が遅れて、対局開始が遅れました。この時、どういう気持ちになるかが重要になります。
なんだよ、とイライラするか。それとも、こんなこともあるかと鷹揚に構えるか。それが結果に影響します。
皆様今日は頑張ってください」
というようなことを述べた。さすがに浦野八段、棋界屈指のエンターテイナーである。
さて1回戦はねこまどタマと。大将は私。以下、山本、アントン、ベルク、山野、Kid、木村晋介会長の各氏である。振ってもらって、私の先手となった。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲4八銀△6二玉▲6六歩△7二玉▲6八玉△8二玉▲7八玉△3二銀▲5八金右△4四歩▲5六歩△5二金左▲9六歩△9二香(第1図)
私の居飛車明示に、後手氏は角交換辞さずの四間飛車。後の逆棒銀を見ており、これが実現すると厄介だ。そこで▲6六歩とした。私定番の軟弱な手だが、案の定後手はのけぞり、一本取ったと思った。
そこから駒組が進み、後手氏は△9二香。穴熊志向で、これはこれで厄介である。
第1図以下の指し手。▲2五歩△3三角▲5七銀△9一玉▲6八銀上△8二銀▲6七銀△7一金▲7五歩△6二金寄▲7六銀△4五歩(第2図)
私は玉頭位取りを志向する。相手がすでに穴熊に潜っているので非効率だが、持久戦にすれば一遍に負けることはない。
後手氏は△4五歩と伸ばしたが、次の手がどうだったか。
第2図以下の指し手。▲6七金△4三銀▲7七角△7二金寄▲8八玉△3五歩▲7八金△5四銀(第3図)
第2図で▲6五歩と決戦する手はあったかもしれない。これなら△4三銀が利かないからだ。
だが私は▲6七金。すかさず後手氏に△4三銀と上がられ、チャンスを逃した。次▲6五歩は幸便に△4四銀と立たれ、先手が面白くない。
△5四銀では△3五歩を継承して△3四銀とくるかと思った。以下2筋からの逆襲は恐い。本譜は方向違いの△5四銀だったので、少し安堵した。
私はもう、行くしかない。
第3図以下の指し手。▲6五歩△7七角成▲同桂△3三角▲2四歩△同歩▲2三角△6四歩▲同歩△6二飛▲6六銀△6四飛▲6五歩△6二飛▲3四角成(第4図)
▲6五歩はこう行くところ。ここで△2二飛は利かされなので後手氏は△7七角成としたが、再度△3三角と打つのではつらい。
私は▲2四歩△同歩と突き捨てて▲2三角。ただ馬を作るだけの手だが、大山康晴十五世名人は、将棋は馬を作るのがいい、と言っている。実際こういうボンヤリした手のほうが、後手氏は悩むのではないか。
数手進んで▲3四角成。所期の目的を達成した。
第4図以下の指し手。△4六歩▲同歩△4二飛▲3五馬△6三銀▲4八飛(途中図)
△6六角▲同金△5七銀(第5図)
△4二飛に▲3五馬。これは馬を作って歩得になった私が有利である。そして次に▲5三馬があるが、以下△4六飛▲6四馬△4九飛成は、先手銀得でも飛車を捌かれるのが不満だ。だが後手側から見たら、この手順は採らないだろうと思った。果たして後手氏は、△6三銀と辛抱した。
私は▲3六馬を考えたが、なんとなくハッキリしない。そこで、働きの弱い飛車を働かせようと▲4八飛(途中図)としたが、着手直後に大悪手に気づいた。それでも私は対局時計のボタンを押さねばならない。
すかさず後手氏は△6六角。以下飛車金両取りがかかり、一遍に優位が吹き飛んだ。
この将棋を負けにするのか! 私は目の前が暗くなった。
(つづく)
この日は急遽ビデオに録りたい番組ができたのだが、HDDの残量がない。それで、昨年12月24日放送の「ぶらり途中下車2時間スペシャル」を削除したのだが、これが、私の母方の実家(千葉県)の最寄り駅が紹介されている回だったのを思い出した。
しかしもう遅い。私は何をやらかしてしまったのか!
私は大事な勝負の前に、心が折れてしまったのだった。
自宅は11時21分に出たが、駅前から路線バスに乗り、産業貿易センター台東館には、11時52分に着いた。集合は12時だからこれでいいのである。たぶん拙宅はドアトゥードアで、かなり近いほうだと思う。
メンバーを探していると、大野教室のShin氏が来た。Shin氏に会うのも久しぶりである。大野教室1は4部で好成績を収めており、もう昇級が確定しているらしい。第1日目は4戦で28勝0敗の完全勝利で、層の厚さを見せつけた。
Shin氏は大野教室に年間パスポートで通っているそうで、氏は一流企業に勤めていながら、その時間がある。日頃汲々としている私とはエライ状況の違いで、私は落ち込まざるを得なかった。
さて最終戦だから我がメンバーは大集合のはずだが、前回の助っ人、元小学生準名人のNak氏と、アマ棋戦元県代表Sas氏は欠席。藤原親子は1回戦休み。作家のA氏は欠席のよう。社団戦手伝いのKan氏はとても対局ができない状態。よって1回戦は、9人しか集まらなかった。
とりあえず7名をピックアップし、早速対局開始と行きたいが、対局時計が一部届いてないところがあり、開始が遅れている。
やがて対局時計が揃い、開始の前に関係者のお言葉となった。その2人目に浦野真彦八段が登場した。
「私は毎年ここに来るのが楽しみで、1泊2日の旅行の感じで、個人的に参加しています。
私事ですが、棋士生活40年になりました。」
会場から拍手が起きる。「最近では、私が監修をしたんですが、棋士が作った詰将棋の本を出しました。512題から200題を、恐れながら私が厳選しました。斎藤慎太郎も落としました。」
場内、微苦笑である。「下で売っていますから、よろしければどうぞ。私のサインも入っています。
さて、時計の到着が遅れて、対局開始が遅れました。この時、どういう気持ちになるかが重要になります。
なんだよ、とイライラするか。それとも、こんなこともあるかと鷹揚に構えるか。それが結果に影響します。
皆様今日は頑張ってください」
というようなことを述べた。さすがに浦野八段、棋界屈指のエンターテイナーである。
さて1回戦はねこまどタマと。大将は私。以下、山本、アントン、ベルク、山野、Kid、木村晋介会長の各氏である。振ってもらって、私の先手となった。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4二飛▲4八銀△6二玉▲6六歩△7二玉▲6八玉△8二玉▲7八玉△3二銀▲5八金右△4四歩▲5六歩△5二金左▲9六歩△9二香(第1図)
私の居飛車明示に、後手氏は角交換辞さずの四間飛車。後の逆棒銀を見ており、これが実現すると厄介だ。そこで▲6六歩とした。私定番の軟弱な手だが、案の定後手はのけぞり、一本取ったと思った。
そこから駒組が進み、後手氏は△9二香。穴熊志向で、これはこれで厄介である。
第1図以下の指し手。▲2五歩△3三角▲5七銀△9一玉▲6八銀上△8二銀▲6七銀△7一金▲7五歩△6二金寄▲7六銀△4五歩(第2図)
私は玉頭位取りを志向する。相手がすでに穴熊に潜っているので非効率だが、持久戦にすれば一遍に負けることはない。
後手氏は△4五歩と伸ばしたが、次の手がどうだったか。
第2図以下の指し手。▲6七金△4三銀▲7七角△7二金寄▲8八玉△3五歩▲7八金△5四銀(第3図)
第2図で▲6五歩と決戦する手はあったかもしれない。これなら△4三銀が利かないからだ。
だが私は▲6七金。すかさず後手氏に△4三銀と上がられ、チャンスを逃した。次▲6五歩は幸便に△4四銀と立たれ、先手が面白くない。
△5四銀では△3五歩を継承して△3四銀とくるかと思った。以下2筋からの逆襲は恐い。本譜は方向違いの△5四銀だったので、少し安堵した。
私はもう、行くしかない。
第3図以下の指し手。▲6五歩△7七角成▲同桂△3三角▲2四歩△同歩▲2三角△6四歩▲同歩△6二飛▲6六銀△6四飛▲6五歩△6二飛▲3四角成(第4図)
▲6五歩はこう行くところ。ここで△2二飛は利かされなので後手氏は△7七角成としたが、再度△3三角と打つのではつらい。
私は▲2四歩△同歩と突き捨てて▲2三角。ただ馬を作るだけの手だが、大山康晴十五世名人は、将棋は馬を作るのがいい、と言っている。実際こういうボンヤリした手のほうが、後手氏は悩むのではないか。
数手進んで▲3四角成。所期の目的を達成した。
第4図以下の指し手。△4六歩▲同歩△4二飛▲3五馬△6三銀▲4八飛(途中図)
△6六角▲同金△5七銀(第5図)
△4二飛に▲3五馬。これは馬を作って歩得になった私が有利である。そして次に▲5三馬があるが、以下△4六飛▲6四馬△4九飛成は、先手銀得でも飛車を捌かれるのが不満だ。だが後手側から見たら、この手順は採らないだろうと思った。果たして後手氏は、△6三銀と辛抱した。
私は▲3六馬を考えたが、なんとなくハッキリしない。そこで、働きの弱い飛車を働かせようと▲4八飛(途中図)としたが、着手直後に大悪手に気づいた。それでも私は対局時計のボタンを押さねばならない。
すかさず後手氏は△6六角。以下飛車金両取りがかかり、一遍に優位が吹き飛んだ。
この将棋を負けにするのか! 私は目の前が暗くなった。
(つづく)